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「む?」
盗賊が飛んでくる赤の実に気づき身構えるが、時すでに遅し。我ながら素晴らしい弾道を描き、完全に顔面直撃コース――
「ほいっ」
直撃の刹那、盗賊の右腕がぴくりと動いたかと思うと、見事に指二本で赤の実をキャッチしていた。
えええええええええええ!
開いた口がふさがらないってのを体験してしまった。初体験だ。
ほんとにふさがらなくて、おれは言葉にならない言葉を発しながら金魚のようにパクパクしていた。いかん、よだれが。
盗賊はと言うと、つまんでいた実をぽいと投げ捨て、再びこちらを凝視している。
今しがた襲撃されたばかりだと言うのに、特に警戒する風でもなくあごなんぞさすりながら溜息なんかついてる。
なんかもういうまでもなく余裕である。
片やよだれを垂らし、片や余裕の溜息。圧倒的敗北感。あぁ泣けてきた。
こいつやべえ……。
なにがすごいって、パチンコから発射された赤の実を潰すことなくつまんで止める、その動体視力と反射神経。
まず常人には無理な芸当だ。
こいつなら夏場にぷんぷんうざったい蚊もあっという間に殲滅してくれそうだが、今その蚊の立場にいるのはおれである。
せ、殲滅されてしまう。
蚊のようにぷーんと飛んで逃げる術も持たないおれは、まさに絶対絶命であった。
ちくしょう、こんなことならじじいの言うこと聞いておくべきだった。
しかし、今さら悔やもうが後の祭り。もう腹を括るしかない。
覚悟を決めたおれは半狂乱で赤の実を連射し始めた。
やけとも言う。やけくそとも言う。
「下手な鉄砲数うちゃあたる!」