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「ふう」
額に浮き出た冷や汗を拭う。手の平も汗でびっちょりだ。
い、いっとくけどびびってる訳じゃあないぞ。
これはあれだ。武者震いとかそういう類のもんだ。このおれがこの程度の事態にびびるはずがない。
ほら!件の盗賊はおれに気づいてすらいないんだから!イクスの樹バンザイ!
心の中でイクスの樹を讃えながら盗賊へ視線を戻す。ほれ、どうせおまえさんはおれを見つけることすら――
ジー
っという音が聞こえて来そうな程、盗賊はこっちを見つめてきている。
めっちゃ見てる。注視してる凝視してる。と言うか思いっきり目が合っている。
ううん、これはなんとも。
「みっけ!」
「うぉおおおおおおおおおおおお!」
なんと、見つかってしまった。なにが『気配を絶つ』だ。
ものの数秒で見つかったじゃねえか。イクスの樹の特徴とやらも眉唾もんだなおい。
なんて冷静そうに見えるかもしれないが、実際のこの瞬間のおれは恐慌に陥っていた。まさに上を下への大騒ぎ。
隠れてたってのに叫び声はあげるし、危うく枝を踏み外して樹から落ちそうになるし、おまけにくじいた足の痛みなんて忘れていた。
大慌てで腰のポーチをあさり目当てのものを取りだそうとするが、指がうまく動かない。
ポーチからはひっくり返したように中身がこぼれ地面へと落ちていった。
それでもなんとか取り出したのはおれ愛用のパチンコ。
おれの持ち物の中で、現状役に立ちそうな唯一の武器だ。
って言うかたぶん今おれの命はこいつにかかっていると言っても過言じゃない。頼むぜ相棒。
いやもうむしろお願いします。