第一話 雫Side
第1話
「雫ちゃん。」
呼ばれて振り向くと、ランドセルを背負った男の子がいた。逆光で顔は全く見えない。その子がつけている、少し大きい青色の音符のネックレスがとても印象的だ。
「また、明日ね。」
男の子が手を振った。
その途端、ピピピピとアラーム音が鳴り響き私は慌てて飛び起きる。
ー変な夢……。
アラームを止めてからカーテンを開けると綺麗な青空が見えた。
「雫、起きてるー?」
お母さんの声が階下にあるリビングから聞こえてきた。私はまた布団に潜って声を遮断する。
「今日は入学式なんだから、早く起きてー!」
ーそうだ、すっかり忘れてた!
急いで自分のベッドを飛び出した。今日は憧れていた桜美高校の入学式だ。時計をチラリとみるとすでに7時半。
ー集合は9時までだっけ……。
クローゼットを開けて新しいブレザーの制服を取り出して着替える。1年生であることを示す青いリボンを胸元に付けてから、鏡台の前で肩先まである強いくせっ毛のために、結びにくい髪の毛を結ぼうとした。サイドテールにして、水色の飾りがついたゴムを付けようとするも、なかなか上手くまとまらない。もたついていると、ピンポーンとインターフォンのチャイムが鳴った。お母さんがパタパタと玄関へ移動する音が聞こえてくる。
ーもしかして。
私はゴムを置いて階下に降りて玄関に向かう。そこにはお母さんと従姉弟の白木 陸がいた。
「おはようございます、桜さん。」
陸は私のお母さんにお辞儀をして挨拶をする。陸は茶髪で明るい茶色の目をしており、目つきが鋭い容姿だ。見た目は不良にしか見えない。しかし茶髪と明るい茶色の目は遺伝であり別に染めていたりコンタクトをしているわけではない。むしろ品行方正で文武両道とかなりの優等生だ。
「おはよう陸くん。あ、雫もおはよう。」
「おはよう。陸も、おはよう。支度をするからちょっと待ってね。」
そう言って戻ろうとすると陸にー待てーと引き留められた。
「ほら、俺は今日入学式で挨拶をしなきゃいけねぇから。先に行ってるな。」
「そっか……。わかった。また後でね。」
ー1人で行くのは心細いけれど仕方ないか……。
落ち込んでいると、陸に頭を撫でられた。
「そんな心配そうにすんな。後でジュース奢ってやるから。」
「じゃあ炭酸のジュースが欲しい……。」
「わかったわかった。じゃあ、また後でな。」
私はドアの前で陸を見送った。足が速いためあっという間に見えなくなる。リビングに行くと、お母さんがすでに朝ご飯をテーブルに並び終えたところだった。
「いただきます。」
「召し上がれ。慌てて喉に詰まらないようにね。」
そう言ってお母さんは着替えるために部屋に行った。その様子を目で追いながら急いで食べていると、私は喉を詰まらせた。
ーんんっー!!く、くるしい!
慌てて野菜ジュースで流し込む。視線を感じておそるおそる振り向くと、新聞を読んでいたお父さんが呆れ顔でこちらを見ていた。
それから急いで歯を磨き、鏡の前で姿をもう一度確認する。
ーよし、変なところはないみたい。
「行ってきまーす。」
そう言うと私はすぐに家を出た。保護者の集合時間は遅いため私は先に出る。中学の頃とは違う登校に戸惑いつつも、慣れない電車に乗って高校へと向かう。1人で行くのは心配だったけれど、思ったよりも時間がかからなかったのでまだ8時半だ。集合まで30分くらいある。校門をくぐると目の前には大きな校庭があり、その周りにはぐるっとたくさんの桜の木が植えてある。
「綺麗……。」
思わず声をもらした。周りの新入生の人達も感嘆して見惚れている。
ーこんな綺麗な桜、1度見てみたかったんだよね。
私もしばらく見惚れていると、一番奥の一番大きな桜の下に生徒が立っていることに気が付いた。気になって少し近づいてみるとどうやら同じ新入生の男の子みたいだ。胸には青色のネクタイを付けている。その子は、羨ましいくらいのストレートな黒髪にタレ目で、とても優しそうな感じがする。しかし近づくうちにとても背が高いのがわかる。少し驚きつつもそのままゆっくりと近づいていくと私に気がついたのか男の子はパッと振り返った。とても驚いたのか、男の子の肩が跳ね上がる。慌てて謝ろうとしたら、男の子が小さく呟いた。
「雫ちゃん……?」
私の名前を。
書き直しをしました。
表現もストーリーもキャラクターも変更しましたが、前よりも私の中のみんなを上手に伝えられていると思います。
これからもよろしくお願いいたします。