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何時かに何かをすれば

昼に眠れば

作者: 咲坂 美織

 どうして。


 どうして。


 どうして。


 午前中の授業が終わった昼休み。一人自己嫌悪に襲われる。


 どうしてあんなこと言ってしまったんだろう。


 どうしてあんなことも出来ないんだろう。


 鈍く痛む頭で答えの出ない問答を繰り返す。


 それまでの自分を思い出して嫌になる。何もかもから逃げ出すように顔を伏せた。


 考えれば考えるほど自分が惨めになって、慌てて目を瞑って無理やり思考を遮断する。


 瞼の裏にはあの子の顔。


 授業中、どんなに必死に聞いても、どんなに必死に解いても分からなかったあの問題。


 あの子に聞いたらさらりと答えを教えてくれた。


 お礼を述べる笑顔の裏では悔しさと嫉妬でいっぱいだった。


 悔しくて悔しくて。


 毎日寝る時間を削って必死に勉強した。眠い目をこすりながら必死に努力した。


 なのにどうして追いつけないのだろう。


 閉じた瞼からぽろりと涙がこぼれ落ちた。


 本当は知ってる。


 あの子がすごく努力してること。


 本当は知ってる。


 あたしはあの子が大好きだってこと。


 大好きだからこそ悔しくて悔しくて、余計に自分が惨めになった。


 チャイムが鳴った。


 次は移動教室。


 重い頭を振って立ち上がる。


 本当は億劫だが仕方がない。荷物を抱えて立ち上がる。


 教室を出て、その寒さにぶるりと身体が震えた。


「行くよ」


「ん」


 そこにはあの子がいた。


 伏せっていたあたしを起こさないように、眠っていたあたしの邪魔しないように、廊下に一人佇んであたしを待っていてくれた。


 ほら。やっぱりあたしはこの子が大好きだ。


 だってあたしが笑っているから。だって泣きたい気持ちが吹き飛んだから。


 隣を歩くその子を見上げてじっと見つめていると、その子は不思議そうな顔をして言った。


「どうかした?」


「ううん。別に」


「そう」


 ならいいけど、なんて呟くその子の横顔はとても綺麗で、憧れと共に小さな嫉妬。


 いいな、いいな。


 あたしもこの子みたいになりたいな。


 小さな嫉妬は羨望へと変わり、やがて友愛へと変わっていく。


「……頑張ってね」


「うん。ありがとう」


 今度はそう素直にそう言えた。大好きなこの子には頑張ってほしいから。


 目指すところが違ったって、もっているものが全然違ったって、ずっと隣にいたいから。


 努力しているこの子の支えになりたい。だから頑張るあたしのことも応援してほしいな。


「……ちゃん、大好き!」


「なんだよ、急に。ほら、急がないと授業始まる」


 くすくすと笑って足を速めるあの子を追って。


 あたしの前の何歩も先を行くあの背中を追って。


「待ってよ!」


 追いつかなくてもいい。追いつけなくてもいい。


 頑張って追いかけるから、その少し後ろにいさせてください。その後ろ姿に憧れさせてください。


 ずっとずっと、友達として。







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