物事の始まり2
「母さん!いつから聞いて、いや、いつから見てたの?」
「ん?最初からよ?気づいてなかったの?」
まったく気づきませんでした、はい。
「おい、このねーちゃん誰だ?」
悪夜が話の腰を折られて不機嫌そうに母さんに指をさす。
馬鹿だなぁ、そんなことを母さんにしたら……
「ぃだぁ!」
指を逆方向に折り曲げられて当たり前なのに。
かなり痛い。
「ヒィッ」
見ているだけの天月までもが悲鳴をあげる躊躇なさが、さすがというべきか、やはりというか。
「私への言葉遣いじゃなかったわ。訂正しなさい」
指の件はがん無視で座った目で悪夜にいう母さん。わが母ながら恐ろしい人だ。
「すいませんでしたっ。僕は悪魔の悪夜というものなのですが、あなた様は一体どなたなのですか?」
涙目で怯えながら言い直す悪夜ににっこり笑いかける母さん。悪夜、憐れなり。
「まあ合格よ。もう一方は?」
「天月といいますっ」
「元気があってよろしい」
天月の怯えて震える声を元気という母さんの鈍さにため息しか出ない。
「つーちゃん、今何か失礼なこと考えてたでしょ」
飛び火した。即答しなければ。
「いえ、何も考えてないよ」
「嘘つき」
前言撤回。めっちゃ鋭っ。こういうときは…
「すみませんでしたっ」
勢いをつけて土下座する僕。母さんはにっこり、その他は僕の行動を見て青ざめている。
「ちょっ、実の息子に土下座させる母親って…」
「しっ。殺されるぞ」
天月の口を押さえる悪夜を母さんは笑ってみる。
「いくら実の息子でも、躾はきっちりとね?」
焦点の合わない眼が二人の恐怖をあおる。
「あの、お名前を教えていただけませんでしょうか?」
勇気を出して言葉を発する悪夜。なかなかの勇者だ。
「うふふ。私は十六夜月夜の実の母親の十六夜闇夜です」
「あなた様が、あの伝説の闇夜様ですか!」
悪夜の態度が急変する。なんだ、伝説って。
「あの魔王様の血族でいらっしゃる侯爵フィンネラル様と同じ顔をしている、先代の役目を見事三時間でこなしたという」
「えっ。あの最強最悪と呼ばれた時代の伝説のお役目の方っ」
なんで天月まで知ってるんだ。
「その上、最近帰って来てもすぐに『闇夜様が私を呼んでいる』と言ってどこかに出かけてしまわれるほどの精神がおかしくなってしまっている現状…」
いったい何があったんだその三時間に!
「あら、フィンネラルなら家にきてパシ…いやお遣いに行ってもらっているわよ?」
『フィンネラル様ー!!』
本音が隠しきれてない母さん。あれ、絶対にわざとだ。
「いやね、向こうに帰れって言ってるんだけど、どうしても昔を忘れられないらしくって…」
「母さん。昔に何をしたの…」
「つーちゃん。調教は大切よ?」
「答えじゃないけど、わかったよ」
「あの~。そろそろ本題に戻りたいんですが…」
これを聞いても本題に戻そうとする悪夜に僕は驚きだ。
まあこのままだと深夜二時は確実に回る。僕としては明日も学校だから、この馬鹿げたことに貴重な睡眠時間を削るには不満を覚える。
「いいわよ、続けて」
母さんの許しを得て話し始める悪夜たち。
「事の始まりは三百年前に遡る…」