美尋勇者(3)
隣の部屋から流れる歌声を聴きながら、アディーとシェラナはお茶を飲んでいた。
「マスター、長くないって嘘ですよね?」
「いやぁ・・・李琴本人も望んでたことだしなぁ」
一曲が終わると同時に新しいお茶をカップに注ぐ。
「・・・子守唄って逆効果じゃないですか?」
「・・・・・・」
「・・・美尋?」
「そうさ~良い子だ寝んね・・・て李琴!?気がついたの!?」
美尋が歌い始めてから約2時間、その一人カラオケに終止符が打たれた。
「よかったぁ・・・よかったぁ・・・」
「ずっと看病してくれてたんだ・・・ありがとう美尋」
ガチャリと音がすると、アディーとシェラナが部屋に入ってきた。
「じゃ、ニホンに帰ろうか二人とも」
アディーの言葉に、その二人はビックリした。
「え!?そんな友達の家感覚で帰れるんですか!?」
「そりゃ・・・二人の願いも叶ったことだし、て説明してなかったか」
「・・・願い?」
「美尋は誰かの力になりたい、ここに来る人で一番多いパターンだ。李琴は・・・」
言いかけたところで李琴が言わんとすることに気づきアディーを止める。
「分かった、分かった。どうせこっちの世界のことは忘れる仕様だしな、シェラナ」
「さようなら、みなさん!」
「え、あ、ありがとうございまし・・・た?」
シェラナが手を振ると同時に、ニホン人摘出マシンと呼ばれていた機械から手が生え二人を引っ張って飲み込んでしまった。
美尋はいつものベッドで目を覚ました。
もちろん、昨日のことは何も覚えていない。
制服に着替え、顔を洗い、朝食を取る。いつも通りの朝である。
「ねぇお母さ・・・え!?」
ただ一つ、声が著しく変化していたが・・・
場所は変わって異世界。
「ねぇマスター」
「どうした?」
「結局李琴さんの願い事って何でしたっけ?」
「ただの風邪だけどものすごく心配されたい、だ」
「いいんですかね・・・」
「あのマイクだってただの変声機だしなぁ」
「・・・・・・」
「今回ファンタジーも何もありませんでしたね、私ニホンのゲーム好きなのに」
「ゲームは一日一時間までな」
「ぶー」
彼らは[異世界案内人]
異世界にやってきたニホン人の願いを異世界なりに叶え、
時には嘘もつかなくてはいけない職である。