1、「桃」の名は。
俺だって、正義のヒーローになりたい!
日曜日の朝、俺は毎週の様にテレビに釘付けになっていた。毎年変わるのだが、個性豊かなキャラクター達が悪に対して戦っていく子供向けのアニメが有り、高校生になった今でも欠かさず見ていた。
その後は強くなれるように簡単に筋トレをして、午後は歩いて困っている人を助ける正義の散歩をするのが俺流のルーティンになっていた。然し街は平和で、助けようとしても迷惑がられる事のが多かった。この街にヒーローが必要無いのか、俺がまだまだ未熟なのか。軽く落ち込んでいると電話が鳴る。
「よう『イヌタロウ』 またヒーローごっこか?」
嫌味の電話をして来たのは俺の理解者であり親友の「カヘ」だった。
「もし暇ならウチに来いよ お前が喜びそうなもの見つけてさ」
カへの家かぁパトロールを投げてまでいく必要があるのか一瞬悩むが、親友の好意を無下にするのもヒーロー失格だろとすぐに悩みが決着して、今日のヒーローごっこを終わらせることにした。
「ようこそ!夢と希望の我が屋敷へ!」
そんな大それた屋敷では無い。テンション高いカヘを押し込むように家の中に入って行く。
「んで 見せたいものって何だよ」
「それは…コイツだ!」
「…何この仮面」
「拾った」
「捨てて来なさい!」
わざわざパトロールをやめてまで紹介されたものが道端で拾ったゴミとは。危うくお母さんのように怒鳴るところだった。
「まぁ落ち着きなさいな お前も『イジメを失くす会』に憧れてたろ?」
「イジメ」を失くす会。それはカヘも加入している、虐められた末路に暴走した人を鎮めるヒーローの様な会だ。
憧れては確かにいる。身近な所で活躍しているヒーローに興味が無いわけない。しかしそれは相性の良い能力を持っているからであって、俺には筋力は多少あれど人を助ける力は現状無い。いつかは何かしらの形で人助けをしていきたいとは考えていたけど、怪しい仮面に縋る程落ちぶれていないのだ。
「その仮面を買えば幸運になれますとか言うのかよ?」
「幸運にはなれないけど『力』を得る事は出来る…かもしれない」
「ハッキリしない言い方だな」
カヘから仮面を渡されじっくり観察する。
「間違っても装着するなよ」
「こうか!」
「振りじゃ無いのに!!」
試しに仮面を顔に当ててみた。すると俺の体は光始める。
「なにこれ!?助けてカヘ!?」
カヘは頭を抱えていた。やがて光が収まると、体に色々な違和感を感じる。
「すげぇ…なんかかっこいいな」
カヘは俺を見てそう呟く。さっきまで私服だったのが和服になっていて、刀が3本腰に付いていて頭には鉢巻が巻かれている。そして…
「えっと…これ髪どうなってる?」
「ジャパニーズ!チョンマゲ!」
「チョンマゲぇぇぇ!?」
なんということだ、丁髷だ。
「嫌だ嫌だカッコよくない!」
「イヤめっちゃ似合ってる大丈夫」
「ピンク髪で丁髷とか外出れないよ!!」
俺は生れ付き髪が桃色なんだ。それで丁髷は絶対ダサい。試しにスマホの内カメラで頭を確認してみる。
「…意外と悪くない」
「うわあ急に落ち着くな!」
カヘに突っ込まれつつもキメ顔で写真を撮る俺。そしてその写真をよく見ると、後ろに何か影がある事に気づく。
「うわあオバケ!」
「誰がオバケだ!」
ローブを見に纏って仮面をしている。それのどこにオバケじゃない要素があるのだろうか。
「『メビ』!出かけていたんじゃ?」
「瞑想をしていたらノイズに邪魔されたのだ出かけてなどいない」
なんで瞑想してたのかは置いといて、こんだけ騒いだのは確かに邪魔になるよなと納得してしまう。
「メビ」はカヘの妹。姿を隠している謎の存在だ。
「それで コイツは何者だ?コスプレに目覚めたイヌタロウなどではあるまい」
「コスプレより痛い格好した奴に言われたくねぇよ!?」
「…」
無言でローブの中身を開くメビ。そこには「蛇」が大量に居て、とても気味が悪いのを見せつけられた。
「ごめんなさいキモいの見せつけないで!」
メビにも色々事情があるのだ。俺はコイツの事そんなに好きじゃないし早くどっかに行って欲しいと心の底から願った。助けてカヘ。
「…『桜花モモタロウ』ってのはどうだ!?」
カヘが変な提案し始めた。まさかこの姿の俺の名前か?
「モモタロウ…笑わせるな」
メビがぷるぷる震えだす。もしかして…怒ってる?
「面白い…ぷふ…」
口を抑えてどこかへ行くメビ。
「ありゃ…笑ってるな」
「笑うんだアイツ!?」
「そりゃ笑ったりもするさ!俺の妹だからな!」
事情を加味してあまり突っ込まなかったが、メビは一体何者なのか。一応元人ではあるらしいが、それにしたって化け物になりすぎだろ…。
「まぁ何はともあれ『ワンダー』成功だな」
「ワンダー?」
「ヒーローに置ける『変身』だな」
「嘘…マジ?」
改めて体を見渡す。確かにいつもより力が湧いてくるし、3本の刀も只者ではないオーラを感じる。
「その力を使えば俺たちの助けになるかもしれない これから一緒に手を組まないか?」
色々唐突な展開だったが俺自身としては願ったり叶ったりなわけで。
「理解が追いつかないけど…やってやろうじゃねぇか!」
カヘの手を握り、熱い握手を交わす。カヘの坊主頭も中々決まってるじゃねぇか。
「でさ…これどうやって元に戻れるの?」
「知らん」
部屋を薄寒い風が通り過ぎる。力を得た代償として羞恥を晒す事になるとは。人生って深い。どうしようコレ。




