暗闇に小さな灯① リアム・ガルシア視点
ちょっとだけ悲しそうな笑顔で、私と父を見た後ドアを締めて退席したノア・ハワード伯爵令息。
「彼にはちょっと辛い思いをさせたかな・・・」「そうですね・・・」
アンドリュー王と第一王子のアレクサンダー様がしんみりした顔で話していた。
おずおずと私の前に頭を下げて来た第二王子のデービィット様は、
「その、悪かった。お前に色々押しつけすぎた。不貞も申し訳なかった。」
と、婚約してから初めて謝罪された。側近候補の二人も後ろで頭を下げて
「すみませんでした。」
と謝罪していた。正直どうでも良かった。許す気なんてなかったからだ。今回の件で上手くいけば婚約を解消出来るかと思っていたが、アンドリュー王にうまく丸め込まれてしまった。不貞をしているなんて二人が付き合いだした頃からわかっていた。大体第二王子はいつも詰めが甘いのだ。本人は隠しているつもりだったようだが、全然隠せてなかった。今回二人が青かんをしているところをノア・ハワード伯爵令息は、何度も見たと言っていた。不貞の事実を外部に漏らさない契約書にサインをしてもらったところで、他の生徒に知られていないはずがないのだ。現に、パーシー・ミラー男爵令息は知っている。彼には誓約書にサインをして貰っていない。そのほかに知っているであろう生徒の数など誰も把握できていないのだ。
婚約解消に向けて次の手を考えるか・・・そう考え混んでいたのを見た父が、落ち込んでいると勘違いしたようで、私の肩を抱き寄せ
「リアム、大丈夫かい?大変だったね。それにこれからも負担をかけるね・・・すまない」
と言われたので、
「いえ、大丈夫です。」
いつも通りに返事をした。
私が第二王子と引き合わされたのは5歳の時であった。家柄的に釣り合い、年齢も同じ位なのが私と他の公爵令息だったが、もう一人の方は早々に婚約したい相手がいるとの話だったので、私が選ばれたのだと思う。若葉のお茶会で婚約候補を決めるとの話だが、実際には事前に目星を付けておくものだと婚約が決まったときに思った。殿下と同い年の私は父に何かと王城に連れて行かれ遊び相手をさせられた。少しずつ勉学も学ばされ、立ち振る舞いや、言葉遣いも家で厳しく躾けられた。殿下は少し要領の悪い子供だった。それでも負けん気だけは強く私と張り合い、負けると泣きわめく面倒な子供だった。お互い気が合わないなと感じていたが、10歳の若葉のお茶会の時婚約候補になり、すぐに婚約が決まってしまった。
私は、それまで我が儘を言ったり暴れたりすることがなかったが、この婚約だけは受け入れられず部屋で暴れて泣きわめいた。使用人たちはどうして良いのかわからず誰もが立ち尽くしていた。家令が父と母を呼び部屋に入ってきた両親は、私を抱きしめ
「すまない、リアムには本当に悪いと思っている。リアムが毎日勉強もマナーも頑張っていることを知ってる。デービィット様は少し我が儘なお人だから、リアムのようなしっかりした人でないと婚約者は務まらないんだよ。リアムには大きな負担をかけるけど、わかって欲しい。リアム以外誰も務まらないとても大事な仕事なんだよ。」
そう言って頭を何度も下げるから、大好きな両親の頼みなら仕方が無いと泣きながら
「わかりました。」
と了承した。その日から私は、何を言われても顔に出さないようにした。気持ちを押し殺して過ごすようになった。表情のなくなっていく私を見て両親は心配したが、私なりに精一杯笑って
「大丈夫ですよ」
と答えるしかなかった。もう私はこれからの人生誰も好きになってはいけないんだなぁとぼんやり思った。私の心が真っ暗な闇に包まれていくのを感じていた。
毎日毎日勉学と剣技、お妃教育で忙しい日々が始まった。ほとんど自由な時間はなかった。両親がたまには息抜きをしなさいと言って観劇に誘ってくれる位しか楽しみがなかった。
相変わらず仲が良いとは言えない婚約者は、口を開けば
「なんでお前が婚約者なんだよ・・・もっと愛想の良いやついなかったのか」
と文句ばかりであった。私が望んで婚約者になったと思っているのだろう。勘違いも甚だしいが、相手にしなかった。何を言ったところで、婚約が解消されるわけでもないのだ。早くお前も諦めろと言いたかった。
学園に入学し授業とお妃教育、側近候補二人の仕事の補佐もしていた。その頃はまだ側近候補は自分の仕事を自分でやる気があったので、不備があるところを指摘してフォローする程度だった。
学園が終わると王城でお妃教育という忙しい日々のある日の夕方、お妃教育も終わり帰宅するため廊下を歩いていると、人々が中庭に何かを見ていたので、何かあるのかと私もつられて見た。
中庭には少年と老人がただ魔導塔を見上げて立っているだけであった。しかし、少年の方は美しい銀糸の髪が夕日に照らされてキラキラと光っていた。人々はその美しい少年に見入っていただけであった。
「きっと彼も誰かを自由に好きになれるんだろうな」
そう思っていると、アレクサンダー様の側近候補のヘンリー・ハワード伯爵令息が二人に駆け寄り親しげに話をしていた。会話の内容から彼がノア・ハワードとわかった。ノア・ハワードは若葉のお茶会を病気で欠席し、その後療養の為ハワード領で過ごしていると聞いていた。しかし、今見ている彼は少し痩せているものの、病気で学園に入学出来ないとは思えなかった。そして衝撃の宣言。
「もうすぐ魔導塔が爆発します。」
え!爆発って言った?そこ危ないのでお下がりください。と注意しているが、私はわくわくが抑えきれなかった。爆発って言った!本当に?そんな非日常的な事が起こる?
そして・・・ドカーーーーンと爆発した魔導塔の穴の開いた外壁からハラハラと舞い散る紙吹雪を見て
「なんてきれいなんだろう」
と、思ったと同時に彼が屈託無く大笑いする姿を見て目が離せなかった。彼が学園に来て私の近くにいたら毎日楽しいだろうなと思った。
周りのざわめきを背に自宅に帰る馬車乗り場まで行くと御者に
「何か良いことでもございましたか?今日は嬉しそうにございますね。」
と言われた。どうやら、私は微笑んでいたらしい。




