もう限界だった日
俺は壁に向かって胸ポケットの万年筆を操作する。
人気の無い道を歩く音と、前方に見えてくるガゼボ。
「へえ、こんな所にもガゼボがあるのですね。」
リアム・ガルシアの声がする。ガゼボに近づくと男女のが抱き合いながら組んずほぐれつ・・・パンパンと音がする。
「さあ、行きますよ」
「さあ、行きますよ?何に言ってんの?俺も行くの?無理無理無理無理・・・」
心の中で思っているだけだと思っていたら声に出ていたらしい。
青かんカップルに近づく俺たち。
「ここで何をしているのです?」
下半身丸出しの第二王子、胸もあらわな男爵令嬢
「きゃあ!見ないで!辞めて!」
「何だこれは!早く消せ!」
壁の前に立ち動く絵姿を見せまいとする二人。そこで、すぐ絵姿を消し
「だから、ここでははばかれると申しましたのに・・・」
絵姿を見て、呆然とするガルシア公爵令親子と王妃、側近候補親子と男爵。
「十分な証拠だね。だからノアに見られた時点でディーの勝ち目はないって言ったのに・・・」
第一王子が呆れている。王妃が心労で倒れそう。第一王子が王妃を支えている。
「これは、何が何でも外に出させるわけにはいかない。どうか契約書にサインをしてもらえないだろうか。ノア・ハワード伯爵令息・・・」
宰相が懇願してきた。
「では、僕がこれから発言する内容等不敬罪に適応しないと約束してくださるなら、サインしてもいいですよ。幸い証拠はこれしかありませんし、この万年筆を1日第一王子殿下にお貸しします。そうすれば明日には証拠も消滅しますし。どうでしょう?約束してもらえます?あ、解体しないでくださいよ。爆発するかもしれませんので。」
「かまわん。それくらいでサインしてくれるなら多少の暴言許そう。あと、爆発は勘弁して欲しい。丁重に扱うと約束する。」
アンドリュー王がそう言ったので、にっこり微笑み俺は第二王子の前に立った。
「あなた、先ほど我慢しているのは自分だけだとおっしゃいましたが、ガルシア公爵令息がひとつも我慢をしていないと思っているのですか?ガルシア公爵令息が何でも無いような顔で勉学や剣技、お妃教育をすんなりこなしているおっしゃいましたが、本当は裏で努力しているのかもしれないとか思わなかったんですか?ちゃんと婚約者の様子を見てたんですか?生身の人間ですよ?あなたに弱い部分を見せなかっただけではないですか?更にあなたが本来しなければならない公務も最近はガルシア公爵令息がしていたというではありませんか。顔に出さずに何も言わなかったとしても、心の中まで何も感じないということはありません。先ほどからあなたは自分の事ばかりです。不貞関係の謝罪もなければ、業務怠慢の謝罪もありません。人としてどうかと思いますがね。僕だったらあなたの婚約者なんてごめんです。相手があなたを望んで婚約していると思ってるんですか?どこからその自信がくるのでしょう。」
一気にまくし立てると、顔を真っ赤にして
「なっ!何だ貴様!お前には関係ないだろ!」
「そうですわ!不敬ですわよ!」
第二王子と男爵令嬢が怒りだした。
「先ほど不敬罪には問わないとお約束頂いたのを忘れたのですか。頭悪いですね。確かに僕には関係ありません。関係無いけど胸くそが悪いですねあなたたち。それから、男爵令嬢、先ほどから僕になれなれしく話すのは辞めてください。僕は伯爵令息であなたは男爵令嬢なんです。男爵では言葉遣いの教育をなされないのですか?学園じゃないんですから場に応じた対応をしてください。あなたは婚約者のいる相手に手を出しましたそれも公爵家の婚約者です。王家と公爵家の間に勝手に入ってただで済むとは思ってませんよね。多額の慰謝料公爵家に払わないといけないでしょうね。それから、あなたが使ってた薬品エグいやつですから、王家相手に使用したとなると大問題です。あれは熟年のご婦人が夫にその気になって貰うためのアイテムです。元気のない夫のプライドを傷つけることなくさりげないやり方で夫を元気にする薬品ですから、あんなのを10代の元気いっぱいの殿下に使ったら若い内に役に立たなくなりますからね。結構濃いめで使ってましたよね。僕は何回もあなたたちが青かんしてるところ見てますから。そろそろ殿下のなにが機能しなくなりかけてるんじゃないでしょうか。そうしたらあなたの言ってた癒やしでしたっけ?その役もお役御免でしょうね。あー勃たないから側室いても良いのか・・・居ても出来ないんじゃ要りませんね。」
更に続けるとだんだん顔色が悪くなる第二王子。そりゃそうだろ、やりたい盛りに勃たなくなるって言われてるんだから。
「そ、それは治らないのか?」
「王城の治療室の薬師に回復薬作って貰えばどうです?でも公爵令息がさっき『丁度良いではないですか』って言ってたから作って貰わなくってもいいんじゃないですか?」
「ノアさん!あなた作ってくれないかしら・・・あまりにも息子がかわいそうで・・・わたくしの教育が悪かったのですわ・・・こんな事お願いするのはいけないと思っているのだけど・・・」
今まで黙っていた王妃が口を開いたと思ったらこんな息子の心配をしている。
「作れないこともないですが、・・・僕が作る義理はありませんね。親しくもないですし。それにそれを作るとなると・・・美容液に手がまわらなくなりますけど。それから、教育が悪かったってのは違うと思いますよ。もう15.6歳なんだから自分の責任です。親がいつまでも教育のせいと思う必要なんてありませんよ。物事の善悪の判断なんて十分できる年なんですから。」
「ディー!回復薬は治療室の薬師に頼むか、諦めなさい!」
・・・・現金すぎる。
「それから、側近候補のお二人ですが、どうして王子のそば離れたのでしょう?あなたたちが止めてたらこんなことにならなかったんじゃないでしょうか?」
「殿下が、ガルシア公爵令息と居ると息が詰まるとおっしゃるし、男爵令嬢との仲よくされている姿を見たらお二人を応援したくなりました。」
「駄目でしょう!側近候補なら主が間違った道を歩もうとしたら止めるべきです!あなたたちは王家の婚姻は純潔でなければならないと知っていたのでしょう。その掟を守る事があなたたちの使命だったのではないのですか?あなたたちも業務を押しつけたのでしょう。公爵令息に謝罪したらどうです。どうしてあなたたちは全然謝罪しないのでしょう?悪いという認識がないんですか?それから、もう物も善悪もわかる年頃の子供のために王城に呼び出された親の事を考えたことがありますか?迷惑かけてると自覚してますか。・・・はぁ・・・馬鹿ばっかり・・・もういいです。これくらいで。この部屋に呼ばれてずっとモヤモヤしてたんです。後は勝手にやってください。僕はもう帰りたいです。」
そう言って万年筆で契約書にサインをし、そのまま第一王子に渡した。
「万年筆は私の方からヘンリーに返しておくよ。ヘンリーも君がこの万年筆を今も大事にしてるとわかったら嬉しいだろうからね。あれからずっと熊の事で責められているんだよ。今日はごめんね。弟が迷惑かけたね。」
第一王子は笑ってそう言った。
そのまま部屋を出て行こうとしたら、
「ノア・ハワード伯爵令息!息子の為にありがとう。君に感謝する。それから先日はお見舞いに来てくれたそうだね。使用人たちにまでアップルパイを持ってきてくれたんだね。メイドたちが喜んでいたよ。それもありがとう。今後も息子の友達として、よろしく頼む。」
友達じゃ有りませんけどーー!なんて言えないので、にっこり微笑み
「はい。こちらこそよろしくお願いします。」
と言ってさっさと部屋を出て行った。ガルシア公爵は親子仲が円満そうで良かったと思った。




