仮病を勧めた日
俺は穏やかに生活したいと思っているし、極力他人のいざこざに巻き込まれたくない。大体の人は俺と同じ考えだと思う。わざわざ災難に自分から首を突っ込まないし、面倒ごとから逃れたいと思う。なのに、厄介ごとは俺の方にやってくる。
前に人気の無いガゼボで青かんしていたカップルがいたが、あれから何度かそういう場面に出くわした。俺はいつも部屋で作ったサンドウィッチをランチに食べているのだが、食べる場所は食堂ではなく、一人で本を読みながら気兼ねなく食べたいので、人気の無い所で食べることが多いのだが、そういう所で遭遇するのだ。もはや俺がのぞきに行ってると相手に思われてもしようが無い位何度も遭遇する。あっちのベストポイントと俺のお一人様ベストポイントが合致してるんだろう。ある意味気が合う者同士だ。
で、青かんカップルだが、とうとう顔を拝ませてもらうことが出来た。安定のモブメガネをかけていてこのときほど良かったと思ったときはない。男の方はなんと第2王子だった。そして、いつもベタベタくっついている貴族の女が相手だった。なるほど、どおりでベタベタしていたわけだ。女の方は男爵の娘ブルックリン・スカイラーという名前だそうだ。
王子×男爵娘そして婚約者の公爵令息・・・王道の三角関係。公爵令息を悪役令息にして婚約破棄からのハッピーエンドって話良く聞くな・・・しかし、まてよ、確か第二王子は後継を作れないから男性と婚約って話しだったのでは?と思い、そして、この三角関係、皆が知っているのか?と思いきってパーシーに
「なあ、第二王子ってブルックリンとかいう男爵の令嬢引き連れて歩いてるけどあれってどう言うこと?」
と聞くと、苦虫を噛み潰したような顔で、
「あーあれね、なんか1年の時からなんだよ。仲の良い友達って言ってるけどさー王子あの子とつるむようになってからどんどん成績落ちてさ、入学当初は最優秀クラスに居たのに、2年は優秀クラス。今年は平均クラスでしょ。なんか良くない感じするよね。婚約者のガルシア公爵令息がさ、ものすごく優秀だから王子がちょっとくらい出来が良くなくても問題なさそうだけどね」
「俺見ちゃったんだけど。二人がいちゃついてるの」
「えーーー!!!マジで?それってやばいじゃん!王家の婚姻って純潔求められるんじゃないの?」
「いや、知らんけど。そうなの?純潔ってもうあれは純潔って感じじゃないぞ。もう穢れも穢れ」
「ノンタン、本当にそれ見たの?見たことばれたらノンタン危険だよ。絶対誰にも言っちゃだめだよ」
「いや、もうお前に言っちゃったし、なんで俺が危険なんだよ。あいつら至る所で青かんやってんぞ。」
「マジで!しかも青かん!ノンタンの口から青かん!とにかく誰にも言っちゃ駄目だからね!」
そう約束させられて黙ってたんだけど、相手は馬鹿なのか隠す気がないのかそれからも何度か見た。もう薬草畑に行く途中の人気の無いガゼボは気持ち悪くて近寄りたくもない。
そんな事があって季節は前期末のテスト期間に入った。モブメガネをかけて図書館で調べ物をしていると
「ちょっと失礼。君が借りている薬草図鑑、今見てないみたいだけど、ちょっと借りても良いかな?」
と声をかけられた。モブメガネをかけているときに声をかけられたのはアルバート以来で、驚いて顔を上げると目の前にリアム・ガルシアが立っていた。どうやら机の上に置いていた本が見たかったらしい。本目当てで声をかけたようだった。図書館の長机の向かいに腰を下ろしたリアムは、
「すこし調べ物をするだけだから今見てないのなら貸してくれないか」
と言う。
「ああ、どうぞ」と言おうとしたら廊下の方が騒がしくなり
「図書館の方へ行ったぞ。早く視察の計画書をもらえ!」
と聞こえたと思ったら、リアムが、チッっと舌打ちをした。
「くそ、来るとき見られたか!失礼、やっぱりいいよ。では」
と去ろうとするので、予備のモブメガネを彼の手元に滑らせて
「かけて!」
と言うと、素直にかけそして俺の顔を見て驚いていた。モブメガネはモブメガネをかけている同士は認識障害が相殺されるので、本来の姿がお互いには見える。彼は今、普通に俺がメガネをかけている顔に見えているはずだ。人差し指を口に押しつけて黙るようにサインを送る。
図書館に入ってきたのはデーヴィットと側近候補の取り巻きであった。勿論ブルックリンの姿もあった。
「居ない!図書館に入ったと思ったのに!おいお前!ここにリアム・ガルシアは来なかったか?」
モブメガネをかけているリアムに聞く第2王子。静かに首を左右に振るリアム。
「くそっ!城下の視察計画書の提出今日までだろう。あれが無いと騎士団の許可が下りん。メイソン、本来お前の仕事だろ。もう間に合わん、今回はお前が計画書を書け!」
「えぇ~しばらく書いてないので無理ですよ。親父にばれますって」
「メイソン様~私今城下で人気のカフェ行きたいですわ~アップルパイが人気なんですって~ガルシア様の計画書って毎回お堅い所ばかりでしょ。デートならもっと楽しいところがいいですわ~」
騒がしく会話していた第2王子ご一行は図書館の司書に注意されて出て行った。
「えーと、あの大丈夫ですか?もしかして仕事押しつけられてます?」
恐る恐る聞くと、フッと笑って
「大丈夫です。私が彼らの仕事をする方が早く終わるので。しかしそろそろ懲らしめようと考えていたところです。見ます?今度殿下が視察される計画書です。これを期日までに騎士団の方に提出しないと騎士団の方で許可が下りないんですよ。」
「なんで騎士団の許可がおりないんですか?」
「王族の城下の視察ですから、この計画書を見て騎士団の方で警備に何人居るか、視察する店の近くに車止めは有るか、歩くならどこに騎士を配置するか計画を練るのです。簡単に視察の計画書なんて書けるものではありません。さて、彼がどんな計画書を作成するのか非常に楽しみです。」
なるほどな・・・でもさっきあの女はっきりデートって言ってたぞ。そのへんは問題ないわけ?
「そのガルシア様が作成した計画書はどうされるのですか?折角作成したのに・・・あ、でもあの令嬢も行くのか・・・あ、あの・・・なんでもありません」
言わなくても良いこと言ってしまいそう~内心慌てていると
「ハワード君は、結構思っていること顔に出ますね。大丈夫です。私の作成した計画書は後日騎士団長に直接提出すれば今までの計画書も本人が作成した物でないとすぐわかるでしょう。彼が作成したら今までの計画書とずいぶん毛色の違う物が出来ると思うので。それにしても、このメガネすばらしいですね。今までもこれを着用して授業を受けてらっしゃったのですか?なるほど、見かけないはずですね。」
そう言ってにっこり微笑んだ。
「だったら、俺が兄上を通じて第1王子殿下に提出しましょうか?あなた、今から倒れたらどうです?」




