ツイてない日
学園に通学する事が決まって、俺はずっと欲しかった魔道具を開発した。認識障害を組み込んだかけると、そこに居るのに目立たない、人が風景の一部に見えるメガネだ。人としては認識されるが、存在感が薄く
「え?居たの?いつから?」
と言われる位のメガネで、しかしよく見ると影の薄い印象に残らない感じの顔に見える。印象に残らない影の薄い顔の参考にしたのは、ハワード領で街灯を盗んだ魔導塔に勤務していた男だ。あいつは騎士団が聞き込みしたとき誰も覚えがないと言っていたほど印象に残らない顔であった。しかし、実際はちゃんと宿屋に宿泊し、街の食堂でご飯も食べていたのだ。だから、俺はあいつの顔を参考にそう見えるようにメガネを作った。(今はハワード領で罪を償って真面目に働いている。)
幸い教室での席は自由、授業中あてられることもない。教師は黒板に書いて説明するだけで、課題の提出さえすればいい授業だった。教室の入り口が個人の魔力を確認する魔道具となっていて授業の出欠を教師が確認出来るシステムになっている。授業をサボって教室に来なければ魔力を感知できないので欠席となるため他の生徒に代返をしてもらったりが出来ない。3年からは、教室での授業半分、残りの半分は専攻教科になるため、専攻した教科の研究をしたり、講座を聴きに行ったりできる。専攻して無くても時間があれば講座を聴きに行くことも出来る。また騎士科を専攻すると、戦術を学んだり、実践、訓練、後方支援の講座があったりするらしい。つくづく3年からの編入で良かったと思った。3年からは必須教科は午前中の時間割が組まれるが、午後からは自分の専攻教科や、興味がある教科を自分で選択できるので、自分で時間割を自由に組めるのだ。専攻教科は本当に自由なので、専攻したくなかったら取らなくてもいい。卒業認定テストは必須教科のみなので、将来つく仕事で有利な教科を専攻すると言うだけの話だ。例えば薬草薬学管理資格を取りたいなら薬草科。王城で文官として働きたいならば王城文官科。騎士になりたいならば騎士科。爵位を継ぐならば領地経営科。といった感じだ。しかし専攻したらそこはしっかり期末テストが実施される。
専攻教科を取ってなかったといって、それらに就職できないことはない。貴族ならば『ツテ』『紹介』といったもので十分就職出来るこの世界。貴族にとって就活はチョロすぎるのだ。
折角学園に通うことになったので、俺は薬草科を専攻した。薬草科は薬草を育てたり、効能などを学べるので美容液以外にもなにか作れるかもと思っての専攻だ。ちなみにパーシーは領地経営科を専攻していた。
薬草を育てている畑は騎士科の訓練所の近くにあった。校舎から少し離れた場所だ。今日は薬草の水やり当番だったので、放課後水をやりに畑に向かっていると、途中の人気のないガゼボから声が聞こえた。
あのガゼボに人がいるのを見たことがなかったので、珍しいなと思い通り過ぎようとすると
「あん・・・あっ・・・んんぅ~ん」
と喘ぎ声が聞こえた。
(え?マジかよ。青かんかよ。人来ねーけど全然ってことねーよ)
そう思いチラッと見ると、金色の髪の男とブラウンの髪の女がいちゃついていた。相手に見られたら面倒なことになると知らん顔で通り過ぎさっさと水やりをして帰ろうと急いで水をやっていると
「おい!お前!変な魔力の練り方してんな。なんかやってんだろ!」
と、訓練所に隣接されている建物から出てきた男に声をかけられた。
最初俺に声をかけてるとは思わず、知らん顔で水をやっていたら近くまで来て
「おい!お前に言ってるんだよ!そこのメガネの生徒!」
と怒鳴られたので、びっくりした。風景の一部になるように目立たない人間になるメガネだ。認識されると思ってなかった。
「メガネ取ってみろ!それ魔道具だろ!俺はな、治療師で光魔法使えるから魔力の流れが見えるんだよ。」
確かに、自身に魔道具を使用する時は自分の魔力を使う。
大人しくメガネを取ると、急に本当の自分の姿になる。一重で眠そうな目、高くも低くもない鼻、そばかすの散った茶色の髪の男から銀糸の髪に紫がかった青い瞳で現れた俺に、相手は驚き
「え?お前、ノア・ハワードだろ?なんでここに?」
と聞いた。
何でと言われても、俺、あなたの事なんて知りませんけど。と思い黙ってチラリの見ると
「お前、薬草薬学管理資格の上級取るとき受験資格なしでごねてたじゃねーか。あれから規定改正されてもう受験できるだろ?確か卒業認定資格あるつってたよな?なんで学園にいんだよ。」
「大声で話さないでください。誰かに聞かれたらどうしてくれるんですか?規定が改正される前に編入することを決めて入学金を支払ったので、渋々出席日数の為に通っています。もう日数関係無いですけど。なんでごねてた事知ってるんですか?」
「あーはははは!それでお前学園に居るの?くくくく・・・俺お前がごねてる時事務所で見てたもん。あーそう、それはそれはご苦労さんな事だな。くくく・・・」
腹立つーなんだこいつ。震えながらずっと笑っているこの男、騎士科の訓練で怪我をした生徒の治療を行っている治療師らしい。隣接しているのは治療室。中のドアで街側の治療院と繋がっているらしい。生徒の治療をメインとし、生徒がいないときは町側の治療院の治療師として働いているそうだ。フィン・アルバートと言って28歳だと自己紹介された。
「で、なんでそんな魔道具のメガネかけてんの?途中から編入したから目立っちゃうから?」
まだクスクス笑っている。本当に腹が立つ。
「それもありますけど、俺、声かけられるの面倒なんですよ。顔見ても誰かわからないし。いちいち聞くのも相手にしたら今更でしょ。俺が関わり合いたくないってのもありますけど。」
「なるほどね~でも薬草畑と俺の前ではメガネしなくていいんじゃない?もう顔知っちゃったし。俺目の前で変な魔力の練り方されるのストレスなんだわ。」
折角作った魔道具通称モブメガネ、速効でばれる人間に会うなんて。途中で青かんも見るし、ホント最悪の日だわ。




