ノア・ハワード⑤
「謁見は昨日で終わりと言われてたんですが・・・まさか今日もあるなんて」
多分昨日もいやいや謁見に来たんだろう。そして今日も急遽謁見が決まり不機嫌なんだろう。
「昨日の魔導塔の爆発があって、今日何事もなくハワード領に帰らせるわけなかろう。して、何故魔導塔が爆発したのか詳細を述べよ。」
「僕が爆発させたわけではありません。外から見てただけです。」
「ノア・ハワードよ。それでそうかとはならんだろう。大広場の絵姿も昨日の謁見の話を思い出せば君が爆発を起こさせたようなもんじゃぞ。あの動く絵姿も気になるし、詳しく話して欲しいものだ。」
ノア・ハワードが深くため息をつき、何を語るのかと皆が息をのんでいると
「わかりました。少し長くなりますがよろしいでしょうか。」
と語り出した。
「ハワード領にちいさな魔道具屋があります。店主は20代後半の腕の良い職人です。彼は元々魔導塔に勤務していたそうです。しかし、彼のお父上が病気になり店を閉めるという話を聞いて魔導塔を退職してハワード領に帰ってきたそうです。僕が初めて会ったときは魔導塔を辞めてすぐだったらしく彼の顔色は優れず、目の下に濃い隈がありました。田舎の魔道具屋で寝る暇も無いくらい忙しいのかと尋ねると、魔導塔の勤務は激務で今までゆっくり寝ることが出来なかったというのです。彼の話によると魔導塔は魔道具の申請に来た者から申請料を受け取るとアラを探したり難癖を付けて追い返しアイデアを模倣して新しい魔道具を作っていたそうです。そして申請がなければ自分たちで新たな魔道具を1ヶ月に何点か作るというノルマがあったそうです。新たな魔道具を作り学会に発表できる段階になると塔主が手柄を横取りすると言った事が多々あり店主は父上が店を閉めるという話を聞いて渡りに船とすぐに魔導塔を辞める決意をしたそうです。しかし、僕にはこの話が本当のことか調べようもありませんでしたので、そう言う話もあるのかもな・・位にしか思ってませんでしたが、しばらくしてハワード領内の街灯の1つが何者かによって盗まれたのです。僕にはすぐに犯人の顔を知ることが出来ました。殿下、こちらをご覧ください。」
そう言ってノア・ハワードがポケットから取り出したのはクルミ大の球体であった。
「こちらは写し玉と呼んでいるものです。これは真ん中に小さなレンズが入っていて24時間写した物を保存できます。24時間経つと消えてしまうので必要な時は別の球体にコピーすることが可能です。」
王は指先のクルミ大の球体をまじまじと見つめながら
「何を言っておるかさっぱりわからん。写し玉?なんじゃそれは」
私も宰相たちも首をひねる。初めての言葉が多すぎる。
「ではここに写し玉を使ってみましょう。」
そう言ったノア・ハワードはおもむろに写し玉を王と私たちにしばらく向けていた。
「何かお話になってください。」
そう言われ、王が
「我はアンドリュー・クリスエバートである」
と述べると「はいオッケーです。」と言って壁に向かって先ほどの写し玉を操作し出した。
壁一面に映る王と私たち。緊張した面持ちの父が
「我はアンドリュー・クリスエバートである」
と言った今見た光景が壁の中にあった。
「これが写し玉です。これで、風景や人物など目で見たままを記録できます。そしてこれを我がハワード領の街灯全てに取り付けてあります。街灯の魔石は一般の赤レベルの魔石ですが、太陽の熱をエネルギーとした節約設定になっております。これを作るのに結構時間も手間も掛かっておりますので、盗まれたときは心底腹が立ちました。そして盗まれた街灯の写し玉を遠隔で操作し、数々の証拠を集めました。逃げ得にはさせません。昨日の大広場の絵姿は緊急だったので音声は入っておりませんが、今日持参した物は惚れ惚れするくらい完璧な証拠となっております。見ますか?」
皆が前のめりになって「見る」と言った。
機嫌が良くなったらしいノア・ハワードは満足そうに微笑み
「では、どうぞ」
と言って打つし玉を操作し始めた。
目の隈の濃い男が何かに手を伸ばす。
『これを持って帰れば塔主様に認めてもらえる!」
場面が切り替わってはしごに登って街道を根元からへし折る男が映る。男たちが何かをのぞき込んで
「これがハワード領にある街灯か?さっさと解体しろ。どんな魔方陣か見てやる。」
魔導塔主の声がする。そして
「なっ!魔方陣が消えたではないかどうなってるんだ。くそっ!もういい何かに使えるかもしれん。その辺に置いておけ!」
乱暴に投げられたようだ。
男の背中が映る。
「なんだ新しい魔道具の申件数が先月より減って居るではないか。お前らちゃんと催促してるんだろうな。めぼしい物はさっさと追い返しアイデアを盗め。つまらんやつはそのまま申請を通して良い。あまり突き返してばかりだとばれるからな。」
その後も同じような内容の話声が続く。そして昨日の謁見の様子らしい物が映る。
左右見慣れた顔が壁際に並んでいる。
「みつけました。」
ノア・ハワードの声がする。ハワード領で街灯を盗んだ男も映っていた。
「最近ハワード領の街灯が1つ盗まれまして、製造番号4の街灯が付け根からバッきりとへし折られて・・・ご存じ有りません?」
「知るわけ無いだろう。いい加減にしろよ。俺たちを盗人扱いするのか?」
「では盗んでいないと?本当に?」
「当たり前だろ!名誉毀損で訴えるぞ。俺たちを盗人扱いしやがって!」
「魔方陣が有ったところに柑橘類の果汁を垂らすと魔方陣が浮かび上がるんです。」
昨日の怒鳴っていた魔導塔の連中の怒った顔が映る。そして場面は切り替わり、
男たちが何かをのぞき込んでオレンジ実を半分にした物を手に持ちキュッと果汁絞って果汁をたらした。
画面は真っ白になり爆発音と共に無数の紙が舞う中
「あぁ!指が!指が!」
塔主の叫び声がする。中庭らしい場面に切り替わり穴の開いた外壁から何か丸い物が飛んできて手で掴む所で動く絵姿は終わった。
「正直に盗んだと言ってもらったら、解体した街灯だけを返してもらうつもりだったのですが、堂々と殿下の御前で嘘をつかれたので冗談を言ってみたら本当にオレンジの果汁を搾ったので驚きました。酸性の液体がかかると爆発するように設計していたのでまぁ、爆発は僕の責任と言われたらあながち間違いではありませんが、盗んだ方が悪いので、僕の方は無罪放免としていただきたいです。写し玉で魔導塔主の不正も確認できましたし、心血注いで開発した魔導灯を盗み壊したあげく魔方陣まで盗もうとするなんて・・・僕は搾取されることがなにより嫌いです。塔主という名声を手に入れながら搾取、搾取、もうお仕置きしても良いなぁと思いまして。子供だましな嘘を教えたら実行して爆発したので塔主とは実力がなくともなれるのですね。これが魔導塔が爆発した原因です。」
なんとも言えない空気になった。
魔導塔主の不正、窃盗が明るみになり、しかも本人の身柄はハワード領の騎士団に拘束されてしまった。魔導塔主の実家は侯爵家で場合によっては今回の窃盗も隠蔽できたかもしれない。爆発も別の魔道具が不具合で爆発したと言われたら捜査の手も入らなかっただろう。しかし今回は大広場にて大勢の人間が塔主の動作を見ている。隠しようがないだろう。
「高位貴族だからといって事件の隠蔽をされたらたまったもんじゃないので。ハワード領では窃盗の罪のみ裁きますが、塔主の不正はそちらでお願いします。」
王城としても、塔主に任命した責任はある。大した実力もないのに侯爵というだけで塔主にまで上り詰めた男だ。いろいろ叩けばほこりが出そうだと宰相は頭を抱えた。
「盗まれた街灯の核となる部分は回収させていただきました。ハワード領を離れてからも証拠集めに頑張ってくれたので。昨日言っていた製造番号4の街灯の核です。」
そう言って見せてもらったこぶし大の球体は【製造番号0004】と刻印されていた。




