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姫抱っこで帰った日

 ハワード領にやって来て何ヶ月か過ぎた。

家出した当初は、実家から帰ってこいと催促の手紙が来ていたが、しばらく帰らないとわかったらしく最近は手紙が来ない。来ていた時も内容は毎回同じで、

・とにかく今すぐ王都に帰ってこい。

・若葉のお茶会はどうするんだ。

・お祖父様に迷惑かけるな。

の三点のみ。コピーでもしてあるのか?と疑うレベルで出だしから終わりまでほぼほぼ同じ文言だったので途中から封も切らなかった。

 どうして家出したのか、体は壊してないか?と言うようなこちらを気遣う事は一切書いてなかった。

 ハワード領に着いた翌日には、お祖父様が王都の屋敷に俺がこちらにいて、疲れているみたいだからしばらくこちらで過ごさせると言った内容の手紙を送ってくれたので、王都の警邏担当の騎士の世話になることもないと安堵したものだ。若葉のお茶会も知らない間に終わっていた。

 俺の荷物が異様に少なかったので、お祖母様が

「お洋服はどうしたの?」

と聞くから

「洋服は兄上のお下がりしか持ってませんでしたので、持って来ませんでした。」

と答えたら、眉間にしわが寄り始め、

「僕の物は兄上に頂いた万年筆とお祖父様とお祖母様から頂いたジュエリーだけなんで・・バースデーストーンは売っちゃったんですが、どうしてもこれらの物は大切な宝物なので売ることが出来ませんでした。」

と言った時には真っ赤になって怒っていた。あんなに優しいお祖母様が怒っているのを初めて見てちょっと怖かった。

「なんてこと!エイダンもソフィアさんもノアちゃんに何も贈っていないなんて!誕生日プレゼントもなかったの?信じられないわ!エイダン~そんな風に育てた覚えはないわよ!今度会ったら問い詰めてやるわ。」

そう言ってすぐに仕立屋をよび、お祖母様はウキウキと俺の服を選んでいた。

「あぁ、この年になって孫のお洋服を選べるなんて幸せだわ~ノアちゃん、これなんてどう?」

「僕はこだわりがないので、お祖母様の好きな物で大丈夫ですよ。」

と言ったら益々張り切りだしたので、

「出来たら動きやすいのでお願いします」

と最低条件だけ付けておいた。



 今日はハワード家の私設騎士団に来ている。

ハワード領は王立騎士団が常駐していないので、たまに出てくる魔獣の駆除なども私設の騎士団にお願いしている。ハワード家が雇っているのでお祖父様お祖母様の護衛、街のパトロールが主な仕事だ。王都の屋敷の騎士団も元はこちらの騎士団からの出向という形になっているが、若い騎士たちは王都勤務を好みがちだ。やっぱり若いと華やかな都会に憧れちゃうからね。で、ハワード領にいる騎士はベテランが多い。魔獣相手に剣を振るうのだから、実力のある者も若ければこちらにいるが、王都の騎士たちは都会にいると領にいる者を小馬鹿にしている傾向がある。王都の騎士って護衛くらいしか仕事ないんだけどな。王都に居るってだけで小馬鹿にするのってなんて小者なんだろうね。そんなに王都がいいなら王立の騎士団に入ればいいじゃんって思うんだけど、悲しいかな王立騎士団は騎士のエリート中のエリートなので私設の騎士団位の実力じゃ箸にも棒にもかからないんだって。これハワード領騎士団長のお言葉。騎士団長は俺の剣技の師匠でもあるので俺は大人しくふんふんと話を聞いている。そして、前から疑問だったことを質問する。

「魔獣の駆除ですが、昼間に行ってますよね?夜って魔獣でないんですか?夜の戦闘ってどんなかんじなんですか?」

「ノア坊よ、お前さんまさか夜の魔獣駆除に連れて行けって言ってねえよなぁ?」

「言ってませんよ。俺夜は穏やかに寝たいタイプなんで。でも夜の魔獣駆除ってあるんですか?その言い方だと有るって事か・・・」

「夜行性の魔獣もいるからな。でも夜に領門の外に出て行くやつなんかいねーから夜はほとんど駆除しない。でもな、訓練で行く場合もある。馬が火を怖がるから怖がらない馬を使ったり、火を怖がらない訓練も兼ねて行くときもある。」

「あぁ、人の訓練もあれば馬の訓練もあるんですね。なるほど~ところで今晩おひまですか?」

「・・・・何のお誘いだ?まだ誘うには早いんじゃねーのか?お子様よ~」

ニヤニヤしながらこっちを見る団長。おじさんのこういう冗談マジきつい。ジト目で睨みつつ

「今晩空けておいてくださいね。あぁ、若い騎士も数名お願いします。ちゃんと剣持って来てくださいね。駆除に行く格好でお願いします。」

と言うと慌てて

「おい!夜の駆除に連れて行けってか?まだお前さんには早いぞ!師匠として認められないからな!」

「夜の駆除には連れて行けって言ってないと言いましたよ。さっき。試したいことがあるので・・・では今晩よろしくお願いします。」


 そう言って夜になり、ちょっと不機嫌そうな騎士たちを魔獣の居そうな野原に連れ出した。

「ノア坊よ、こんな所まで連れてきて何する気だ?」

「考えたのですが、松明を持って片手で剣を持つと両手手綱から離さなければなりません。落馬とかしなんですか?」

と言うと、鼻で笑われた。

「騎士団の者はそんなに簡単に落馬しません。たとえ松明を落としても剣を落とす事は絶対にありません。そして夜行性の魔獣は目が光りますからそれを狙って狩れば良いのです。」

「なるほど~勉強になるなぁ。魔獣は目が光るのか。でも人間は?仲間が近くに居てもわかる?」

「月明かりがあります。」

「ふ~ん。月明かりと松明頼みか・・・じゃ、これなんてどうよ。」

そう言ってプロペラの付いた魔導灯を空中に浮かす。ドローンに投光器がついた物と思ってもらえるとわかりやすい。

「これ、風魔法で浮かしてるんだけど。どう?役立ちそう?あっ!なんか居る!駆除駆除!行って!」

完全に人任せだけど魔獣駆除は俺には無理だ。まだ早い。

「すごい!よく見える。俺が狩ってくるぜ!」

感動しながら若手の一番株が嬉々として魔獣を狩りに行った。待っている所からもよく見える。

「ノア坊よ、これは全騎士団に激震が走るぞ」

「使えるって事?」


その晩はもう眠いから帰りたいと何回も言ったのに聞き入れてもらえず、呼び出した騎士連中が訓練でもないのに大喜びで魔獣を駆除し、俺が船をこぎだして風魔法が使えなくなったので仕方なしにお開きとなったらしい。そんなの知らない。だって俺は騎士団長に姫抱っこされて帰宅したらしいから。






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