馬車に揺られて2日目
翌早朝辻馬車乗り場に一番乗りでやって来た。なんとか今日中にハワード領に着きたい。あまり時間をかけてゆっくり移動していては人さらいに会うかもという不安があるからだ。こういう時小説では、もれなく誘拐されて奴隷オークションにかけられたり売られたりするんだろう。そして俺は自分で言うのもなんだけど、そこそこ顔は整ってる。性奴隷にさせられたりなんて御免被る。と言うわけで悪い大人がまだまだおねむの早朝行動している。俺天才!と息巻いていたらトーマスに
「小説の読み過ぎでは?治安は悪いと言っても、そんなに頻繁に誘拐なんて起こりませんよ。冒険者の護衛も雇っているんだし、大体人の目もあるでしょう。目撃者の多い犯行は後々あしがつきますよ。」
なんてのんきな事を言うから思わずジト目で見てしまう。
「自分だけは大丈夫なんて考えてないだろうな?常に危険が身近にあるという認識で行動しないと後悔することになるぞ。あぁ姿を消すような魔法できるようにならないかな。魔方陣とか魔道具でそういうのない?」
結局いつもの魔方陣の話と魔道具の話で盛り上がりながら馬車に揺られる。大概おれも油断してるな。今日も今日とて髪を隠すため袋を被っている。俺の家出に気づいた家族が警邏担当の騎士団に俺の特徴を話して見つかるのを避けるためだ。俺の銀糸の髪って中々珍しいのよ。母上も銀糸だけど、母上以外町でも見かけないから相当探すための目印になると思っている。だから、不本意ながらも袋を被っているんだけど、馬車に乗ってる乗客にはチラチラ見られる。なんか変なところがあるんだろうか?
今日の護衛の冒険者は昨日のイケオジとは違い、人の良さそうなどこにでも居そうな顔の大男であった。ニコニコしてるし、ベラベラ話しかけてくるから貴族の子息とばれないように気を張りながら適当に会話をして時間をつぶす。馬やトイレ休憩を挟みながらもどんどんハワード領に近づいている。気を緩めることなくがさつな態度で貴族感を消しながらの馬車の旅。途中羽目を外しすぎてトーマスにガチで叱られた。魔獣が出たからハッとした瞬間にニコニコしていた冒険者の護衛が瞬殺で片付けたから
「やるじゃん、おっさん!」
と言って肩をバシッと叩いて大口を開けて笑っていたら
「ノンタン!おじさんは真面目に仕事してるんだから邪魔しちゃ駄目だろ!大人しく席に座ってなさい!まだ魔獣の息があるからすぐに近寄っちゃ危ないよ。」
全くの正論を述べてきたので、素直に謝りましたよ。それからは大人しく席に着いてお兄ちゃんの言うことをしっかり聞きましたよ。他の客にクスクス笑われたけどね。
そして、夕方になんとかハワード領に着いた。辻馬車乗り場からハワード領の屋敷までは徒歩。
すっかり日も沈んで薄暗くなった頃屋敷の前に着いた。門番に
「ノア・ハワードだけど、お祖父様に会いに来た」
告げ取り次いでもらおうとすると、平民のような格好で汗まみれの怪しげな青年と少年。
「何を言っている?ノア・ハワード?ハワード領主様のお孫様が本日訪問されるとは聞いていない。しかも徒歩で来られるわけ無いだろう。帰れ!帰らないと騎士団の方で捕らえるぞ!」
このままでは屋敷に入れてもらえない。やばい。お祖父様に会えば誤解は解けるんだけどな。
「えー!家出してきたから歩きなんだけど。お祖父様ー!ノアだよ-ノアが来たよーお祖母様~助けて~」
と大声を上げていたら、ハワード私設の騎士団の方がわらわらと数名やって来て大騒ぎになってしまった。そして騎士に護衛されてお祖父様が屋敷から出てきてくれたので手を振って
「お祖父様~ノアだよ~家に入れてよ~」
と叫ぶと
「おぉノア!お前本当に家出してきたのか?とりあえず中に入りなさい。で、そちらの方はどなたじゃ?」
とトーマスの方を見るので
「トーマス・ミラーさんだよ。一緒にハワード領まで来てくれたの。僕の先生で共同研究者だよ。」
「トーマス・ミラーと申します。突然の訪問大変失礼いたします。」
と挨拶して、騎士団の皆さんも警戒を解いてもらってさあ、屋敷の中へと言うところでお祖父様が
「ところでノアよ、なんで袋を被っているんじゃ?お前そんなおどけ者じゃったかの?」
と言った瞬間騎士団の皆さんがクスクス笑い出した。
「えーと、髪色を隠すために被ってきたんですけど、袋ってわかります?ハッと見布製の帽子に見えると思うんですけど。」
「いや、巾着のひもを通すところが思いっきり両耳の上にあるから布製の帽子には見えん。袋を被っているおかしな子供には見える。」
さっと頭から袋を取り両手で顔を覆う事しかできなかった。
「ノア様、耳まで真っ赤ですよ。」
たとえそうであっても今はそっとしておいて欲しかった。




