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ノアが旅立った日

 このまま家に居ると心が死ぬ。やりたいこともやれず、言いたいことも言えないなんて、耐えられそうにない。居ないものとして扱っているくせに、将来家の駒として政略的な結婚をさせられたりする未来しか見えない。親からの愛情を期待できないと確信したら一刻も早く家から出ることか考えられなかった。

 後日トーマスと街の魔道具屋に行こうと計画していた時に、貴族のお忍び必須アイテムの平民が着ている風の服をトーマスから渡されているの役に立った。早速それに着替え、俺の宝物である兄上にもらった万年筆と祖父母からのジュエリーを鞄に入れそっと家を抜け出した。そしてその足でトーマスの住むアパートメントに向かった。

 突然訪ねてきた俺に、トーマスは驚きつつも部屋に迎え入れてくれた。

「どうしたんですか?突然。おつきの護衛さんはどちらに?」

「いや、俺家出してきたから。これからハワード領に向かおうと思ってる。お祖父様に手紙を送ってあるからこのまま行っても迎え入れてくれるとおもう。」

はあ?っとびっくりしつつも10歳の子供の無謀な家出をなんとか思いとどまらそうと必死になるトーマス。

「何言われてももう決めたから無理。しばらく王都には帰らない。王都で仕事を探してるトーマスさんには無理強いしたくないけど聞いて欲しい。俺は、本当にあなたに家庭教師をして欲しい。そしていろんな魔道具を一緒に考えて欲しい。今は俺からあなたに給金を支払うことはできない。金がないからね。その分はお祖父様に立て替えてもらう。王都を離れたくないならあきらめる。でももしちょっとでも気があったらいつでもいいからハワード領にきてくれない?」

多分無理だと思う。そんなに簡単に大人が今住んでいるところを離れて一緒に来てって言われても。働き口を探してるけど、子供が勝手に言ってるだけで本当に給金がもらえるかどうかもわからない。二人の間にしばらく静かな時間が流れた。トーマスの顔を見ることもなくうつむいて返事を待った。

 「ふ、ふふふ・・・」

トーマスが笑い出し顔を上げると

「いいですよ。行きましょう一緒に、ハワード領へ。でもこのまま僕がノア様を連れて行ったら誘拐を疑われません?そこが大分怖いんですけど・・・」

え?一緒に行ってくれるの?マジで?驚きが隠せないんだけど。あと嬉しさも。

息をゆっくり吐き出して落ち着きを取り戻しこれからの事を考える。

「俺、今罰として部屋から出られない事になってるから、多分しばらく家を出たことに気づかれてないと思う。トーマスさんに迷惑かけられないから別行動でハワード領に入るか・・・トーマスさん、この部屋の荷物の整理とかあるでしょ。俺先に行こうかな。」

俺は時間がとにかく無い。トーマスは後でゆっくり来てくれたらいいかな。と考えていると

「いけません。子供一人でハワード領までなんて危険すぎます。僕も一緒に行きます!荷物のことはハワード領に着いてから、ノア様をお祖父様の家にお届けしてからでも大丈夫です。一旦ハワード領に行ってまた帰ってきます。とにかく急ぎましょう。ハワード領までどれくらいかかります?辻馬車今日の分間に合いますかね?」


 二人で、とりあえず要りそうな物をカバンに詰め、持ってきたバースデーストーンを宝石店で換金した。

トーマスはバースデーストーンを換金する俺を見てものすごく慌てて

「バースデーストーンを換金するなんて!将来結婚するときにお相手に渡す物が無くなってしまいますよ!いけません」

と、うるさかった。

 バースデーストーンは親が生まれた子供に初めて送るプレゼントの宝石。子供の瞳に似た宝石を贈り、将来の伴侶にプロボーズする時に宝石を加工して贈る場合が多い。貴族ならバースデーストーンは生まれてからずっと大切に持っている。

「えーいいじゃん。別に。将来結婚するときは別の宝石使うよ。できたらの話だけど。あんな親からもらった宝石なんか持っていたくもないし。馬車代と宿代に充てた方が役に立つじゃん。これ以外売れるもんなんて持ってないし。絶対に兄上とお祖父様たちからのジュエリーは手放したくない!」

 じゃあ立て替えるとかなんとか言ってたけど、さっさと換金して辻馬車の乗り場に向かいハワード領に旅立った。ハワード領まで1泊2日。無事に着きたいところだ。





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