第4話 嘘と真実の間で
放課後の図書室は、まるで時間が止まったみたいだった。
静かで、ひんやりしていて、ページをめくる音だけが響く。
わたしは棚の隙間に隠れてノートを開く。
今日も、転生者たちの行動を記録するために。
「篁さん、ここにいてくれる?」
くくりの声が背後からする。
振り返ると、彼女はいつもより少しだけ疲れた顔をしていた。
戦闘の準備はいつも体力を消耗する。
でも、目はいつものように輝いている。
「もちろん、ここで見てるだけだけどね」
そう答えて、ノートに小さな文字を書き込む。
誰も見えない世界で、わたしは世界を動かすわけじゃない。
ただ、観測して、記録して、少しだけ想像を加えるだけ。
「ねぇ、篁さん……」
くくりが小声で言う。
「私たち、本当に勝てるのかな」
その問いに、わたしは答えない。
勝敗なんて、もうわたしの手には届かない。
でも、観測することはできる。
そして、想像することも。
――彼女が信じる道を進めば、物語は美しくも残酷に変わる。
――でも、その道を選ばなければ、学園は静かに壊れていくかもしれない。
くくりは小さく息をついて、再び資料に目を落とす。
わたしは、ノートに一行追加する。
――今日もまた、誰かの嘘と真実が交差する日。
――観測者として、ただ静かに見守るだけ。
それでも、少しだけ心が揺れる。
神でも、少女でも、観測者でも、感情は簡単には消えない。
だから、今日もわたしはノートを閉じ、ページをめくる。
明日もまた、世界は少しずつ変わるだろう。