私として
待ち合わせ場所は、私の家からほど近いショッピングモールにすることになった。
蓮が「ここにしよう」と言ってきたのだ。
きっと、何かを買いに行きたいのだろう。
服?
あるいは美容品?
そのどれも私は知らない。
蓮の好きなものが分からない。
だから不安だ。
だから怖い。
私は電車に乗ってショッピングモールに向かった。
移動時間は十分ぐらいだ。
早いようで遅いような不思議な時間だった。
電車の速度は一定のはずなのに、私の心は揺れていた。
きっと、不安と緊張が私の時空を歪ませているからだ。
モールに着いた。
心のざわめきは、まだ収まらない。
気持ちが、昂りと不安を行き来する。
手が震えてる。
息が浅くなる。……怖い。
蓮が来なかったら?
私が時間を間違えていて、蓮が帰ってしまったら?
LINEを確認する。
――良かった。
集合十分前だ。
少し安心する。
そして時間になった。
「おーい。真弓~。」
スマホをいじっていると私を呼ぶ声がする。
周りを見渡すと、前会った時よりも少し背の高い蓮が手を振っていた。
いや、高くなったのは蓮の意思かもしれない。
違和感を覚えて、蓮の足下を見る。
そこには私の知らない彼女がいた。
"ハイヒール"だ。
周りの視線にも、高くなった目線にも怯えることなく、彼女は歩く。
周りの視線をすり抜けるように。
コツン、コツン――小さく響くその音が、空気を切り裂くようだった。
私も――こうなりたい。
そう思うには十分だった。
「待った?」
蓮はそう聞いてきた。
私は、首を横に激しく振る。
「十分なんて、人生単位で見たら一瞬ですよ。」
そう言ったら蓮は笑った。
大笑いした。
私もつられて笑ってしまった。
そのぐらいの威力があった。
「じゃあ、行こうか。」
存分に笑い合った後、蓮がそう言って歩きだした。
家族としか来たことないから新鮮だ。
いつも来るときは誰かの息子だった。
でも今は、私としてここに立っている。
夢だったんだよな。
私として、友達とここに来るの。