何度でも
一人部屋で泣いていた。
泣き止まない。
それが怖いようで、救いのようだった。
しばらく経って母が来た。
なにやら急いでいる様子だ。
階段を駆け上がってくる。
「真弓ご飯よ。」
そう言いながら。
いつもの声だった。
私が泣いていることなんて知らないみたいに。
「後で行く。」
そう伝えたが、部屋に入ってきた。
ドアを開けた母と目が合う。
少しの沈黙が流れた。
きっと混乱しているのだろう。
そう思った。
「なんで……泣いてるの?」
やっと出てきた言葉はそれだった。
戸惑いなどいろんな感情が混ざっているような声。
本当に心配されている。
そう感じることが出来た。
やっと涙が治まってきた。
私は、答える。
しっかりしないといけない。
そう思いながら。
「何でもないよ。」
「さあ、ご飯食べようか。」
私は、背伸びして階段を下りる。
母は付いてこなかった。
きっと立ちすくんでいるのだろう。
理由を考えながら。
そうであってほしい。
愛されている。
その実感がほしい。
目には見えないからこそ。
行動で感じたい。
そう思ってしまう。
私も思う。
この感情は重い。
でも、止められない。
濁流のように流れてくる。
私の身体一つじゃ止められない。
せめて二つないと。
ご飯を食べた。
温かい。
愛情を感じる。
多分私のことを思ってくれている。
そう実感できるから、ご飯は好きだ。
特に手作りのご飯が。
でも、最近この愛情に慣れてきてしまった。
罪深いことだ。
愛情を感じれない人もいる。
愛情を与えない人もいる。
昔の事件を思い出す。
母に虐待されて保護された子供の姿が頭に浮かぶ。
治まったはずの涙が流れる。
目の前には父。
ご飯に夢中で気づかない。
気づいてほしい。
そう思った自分を恥じた。
目を制服の袖で拭った。
今気づいたが、制服のままだ。
ご飯を食べたら着替えよう。
部屋には母がいる可能性があるからお風呂場で。
私は、急いで食べた。
その様子に父は目を丸くした。
いつもはダイエットとか言って、ゆっくり食べているから。
母は戻ってこない。
私のことを考えていてほしい。
私は……愛がほしい。
食べ終えて、私はお風呂場に向かう。
私は、母に愛情を返せているのだろうか。
私の愛は……どこに届いているのだろうか。
明日は学校だ。
ため息をはく。
深呼吸をする。
今日のことは忘れよう。
大丈夫。
大丈夫だから泣くな。
何も考えずに寝よう。
明日はきっと良い日になる。
そう思い込む。
何度でも。