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前世で木材を集めたいたおれが異世界転生したら木材腐朽菌を扱えるようになった

作者: さくらもち

おれの名前はみりん。

たまに大きい額の買い物をしてはもやし生活をしている木材コレクターだ。


「金無いのにまたローズウッドを丸太買いしてしまったぜ!新車買えるくらいの額を突っ込んでしまった…。もうもやしすら買えない…」


流石に半月ほぼ飲まず食わずは身体が保たない。

何だか意識が朦朧とする気がする。


「あぁ…なんかあそこにローズウッドが見える…チューリップウッドが一本…キングウッドが二本…」


ふわりと天地がひっくり返ったような感覚があり、意識が飛んだ。


再び意識が戻った時、そこは知らない空間だった。


「目が覚めましたか?私はローズウッドの神、ダルベルジア。貴方は不幸にも死んでしまったのです」


声がした方を見ると全身にローズウッドを纏った謎の人物がいた。

自分が死んでしまった衝撃よりも自称ローズウッドの神の存在による衝撃の方が大きかった。


「俺の死因は餓死ですか?」


「いいえ、貴方は空腹のあまり意識を失って倒れました。その時に立てかけてあったキングウッドの丸太が倒れて貴方の頭が押しつぶされてしまったのです」


まさか木材による圧死だったとは…


「貴方を押し潰してしまったキングウッドの精霊から何とか別の世界へ転生させてあげて欲しいと頼まれまして。貴方は異世界というものに興味はありますか?」


異世界…

どんな木材があるのだろうか。

ローズウッドはあるのだろうか。


「もちろんあります!」


「それでは話は決まりですね」


神(自称)がそう言った瞬間、突如足元に魔法陣が光り始めた。


「ローズウッドを愛した者よ、そなたに木材腐朽菌の能力を与える。その能力を活かして異世界で生活しなさい」


〜 〜 〜 〜 〜


気がつくと森の中だった。

木材腐朽菌の能力って何だ?

試しにそこにあった倒木に触れてみた。


「平地ヤナギを分解しますか?」


突然脳内にアナウンスが流れた。

能力を使うか否かを問うているのだろうか。


「とりあえず…『はい』っと」


「木材腐朽菌の能力を発動します」


特に目に見えた変化は無い。

腐朽菌ということは中はスカスカになっているのだろうか。

試しに指で押してみるとスポンジのように凹んだ。

しっかり分解されているようだ。

そういえば何だか力が回復したような気がする。

疲れ果てているはずなのに何故だ?


「平地ヤナギを分解してHPとMPが回復しました」


俺の疑問に答えるかのようなタイミングで脳内にアナウンスが流れた。


「木材腐朽菌の能力のレベルが上がりました。大葉桜を分解できるようになりました」


能力を使うとレベルが上がって分解できる木が増えるようだ。

面白い。

いつかはなかなか腐らないローズウッドや世界一重たい木として知られるリグナムバイタなんかもう分解できるようになるのだろうか。


そういえばHPやらMPの数値ってどこで見れるんだ?

こういった世界観だと大概「ステータスオープン」と言えば見れたような…

試してみるか。


「ステータス、オープン」


すると突然手元に画面のようなものが現れて数値以外にも事細かく書いてあった。


「称号は木材使いか…」


獣使いとかならわかるけど木材使いって何だ?


「スキルなんてものがあるのか…。木材加工に木材鑑定に植物鑑定?」


現実世界の能力が引き継がれているのだろうか。

どうやったら生活に役立つのかよくわからないが俺好みのスキルが揃っていた。

召喚可能物の欄に魔力チェーンソーと魔力製材機の文字がうっすらと見えるがまだ使えないようだ。


「木材としてアイテムボックスに保管することもできるのか…せっかくだし分解しつつ木材として使えそうな部位は木材として保管しておくか」


とりあえずどっちに進むか決めようか。

ちょうど良いところに一際背が高い木が生えていた。

てっぺんまで登って四方を確認すると遠くに街らしきものが見えた。

ひとまずその街を目標に進むことにした。

せっかく森の中にいるので木材分解の能力を上げながら進むことにした。


「芯黒スギを分解できるようになりました」

「尾根ヒノキを分解できるようになりました」

「平野ケヤキを分解できるようになりました」

「流血マメノキはまだ分解できません」

「ボンゴシを分解できるようになりました」


木を分解しながら歩いたおかげでずいぶん時間がかかったが、遠くに見えていた街に近づいてきた。


「動くな!」


分解できそうな木を探しながら山道を歩いていると突然怒鳴りつけられた。

敵意はないので両手をあげて声のした方を見てみると、いかにも冒険者といった格好の三人組が木陰から現れた。

剣と盾を持ったガタイのいい男がリーダーで、後ろに控えているローブを纏った細身の男が魔法使い、杖を持っている若い女が僧侶といったところだろうか。


「お前、ここいらで見ない顔だな。何者だ?」


リーダー(仮)が問いかけてきた。


「我が名はみりん!東の果てよりこの地へ来た。木材を研究しながら旅をしている者だ。この辺りに木材が有名な街などはないだろうか」


おれの質問を聞いて3人組が明らかにコイツは相当変わった奴だぞといった困った顔をしている。

おいおい、顔に出てるぞー。


「木材の研究ってのは聞いたことないな。でも、すぐそこの街は木工品が特産品だ。木材のことはよく分からんが一度寄ってみるといいだろう」


これだけ森に囲まれていれば木製品の文化ができそうなものだ。

ちらほらかなり硬そうな広葉樹の切り株があったのも納得だ。


「おお!ありがとうございます!」


思わぬ収穫だ。

早速街へ向かおう。


「あ、あの、街までは距離もありますし、良ければ私たちが送りますよ」


「門番に説明するのにも僕たち地元の人間がいた方が楽だと思いますよ」


道もよく分からないしとてもありがたい話だ。


「そしたら、よろしくお願いします」


提案に乗ることにした。


三人組と出会って歩くこと一時間ほどで街に着いた。

石と木を組み合わせた立派な門をくぐるとそこには木造家屋が立ち並んでいた。


「ようこそ!ここがおれたちの街、リグナムだ」


「私たちの役目はここまでだね。また顔を合わせると思うからその時はよろしくね!」


「この通りの先に見えるのが冒険者ギルドで、その右隣の建物が酒場兼宿泊施設ですよ。今夜はそこに泊まるのがオススメです」


と言うと横の通りへ歩いていった。

親切に説明してくれたおかげで今夜は何とかなりそうだ。

ただ肝心なことを忘れていた。

そう、お金だ。


「すまない!そういえばお金を持ってないんだが、木材を買取してくれる店は知らないか?」


「ギルドに買取窓口があったと思う。おれたち冒険者が使う窓口とは別で裏口にあるはずだ」


リーダーが振り返って答えてくれた。


「ありがとう。助かった。それじゃ、また」


いいってことよといった感じで右手を振りながら横の通りに面した建物に入っていった。


〜 〜 〜 〜 〜


「ギルドの裏口…だったよな。お、ここで良さそうだな」


入り口の横に看板のように置かれた丸太の輪切りに『木材買取窓口』と書いてある。


「いらっしゃいませ。この窓口を担当しているラティフォリアです。買取りする木材はどちらになりますか?」


受付嬢が声をかけてきた。

綺麗なロングヘアーを後ろで縛った美人さんだ。


「あっ、えっと、こちらです」


今までこんな美人と話をする事はなかったせいか、思わずうわずった声が出てしまった。


「綺麗に加工されていますね!皆さんここまで綺麗にしてくれないので助かります!ちょっと待っててくださいね」


と言うと裏に消えていった。

確かに土場に置いてある木材は切り口は裂けているし肌も粗い。

それに比べておれの木材は綺麗に削ってある。

これはかなり評価が高くなるのではないだろうか。


「お待たせしました!状態が良いので通常だと銀貨五枚のところを全部で銀貨五枚と銅貨七枚になります!」


裏口に回るついでに見たギルドの宿泊費が銅貨三枚だったのでしばらくは泊まれそうだ。

財布がないので報酬の入った袋をそのまま財布代わりに使うことにした。


腐朽菌の能力のおかげで空腹感はそれほどないので軽く夕飯を食べてから宿の部屋に向かうことにした。

酒場へ入るとすぐ空いている席に案内された。


「注文が決まったら呼んでくださいね〜」


と言うとひらひらとウェイトレスは接客に戻っていった。

メニューを見てみると板に直接文字が書いてある。

どれも気になるものばかりだ。


「すみませーん!一角鹿の塩焼きと山菜のスープとパンをお願いしまーす」


「はーい」


ほどなくして料理が運ばれてきた。

シンプルな味付けで素材の味が引き立っている。

現代日本の味付けからすると少し物足りない気がするが美味しかった。

美味い飯を食べた後は温泉!

どうもこの街には温泉が沸いているようで、宿の一階には大浴場があった。

入る以外に選択肢はない!


「はー、疲れたー…やっぱ温泉はいいなぁ」


湯船に体を沈めるとこのまま寝てしまいそうだ。

うっかり寝てしまうと溺死してしまいそうなのでさっさと切り上げて部屋に向かった。

ベッドに身を投げ込むと一気に眠気が襲ってきた。

明日以降はどうやって生活していこうか…

そんなことを考えているとすぐ意識が遠のいた。


〜 〜 〜 〜 〜


「本当に異世界に来たんだな…」


翌朝、見慣れぬ天井を眺めてそんなことを呟いた。

酒場で朝飯を食べて買取窓口へ向かう。


「おはようございます。朝早いんですね。」


ラティフォリアさんが少し眠たそうな声で話しかけてきた。

窓口が開く八時ちょうどに来たのはまずかっただろうか。

周りにはまだ誰もいない。


「身体がこの時間には仕事を始めないと落ち着かないんですよ」


「働き者ですね。今日はどの仕事にしますか?」


「今日は西の森の植林地区で建築用のトウヒにしときます」


「承りました。お気をつけていってらっしゃいませ!」


軽く雑談をしてから現場へ向かう。


〜 〜 〜 〜 〜


朝一番で窓口で仕事を受け、現場で仕事をしてから窓口へ戻り、温泉に入り宿で寝る。

この生活を続けてもう一年になる。

そろそろ家を買えるくらいに資金が貯まった。

そして窓口に来るのはオッサン連中ばかりだからか、歳の近いラティフォリアさんとはかなり仲良くなった。

たまに雑談していると、早く付き合っちゃえよとヤジを飛ばされるようになっていた。


「今日も怪我なく安全に。いってらっしゃい!」


「気をつけて仕事するよ。いってきます」


いつも通り軽く話をしてから現場へ向かった。

その道中だった。


「貴方の顔が気に入りましたわ。ついてきなさい」


すれ違った馬車から突然声をかけられ、連れ去られた。

一瞬の出来事で何が起きたのか理解するまで時間がかかった。


「あ、あの…おれはいつ解放していただけるのでしょうか…」


早く帰ってラティフォリアさんと雑談がしたい。

そして同業のオッサン連中と酒を呑みながらどうでもいい話で盛り上がりたい。

そう思った矢先、首筋に冷たい感覚がした。

下を見ると剣先が首筋に触れていた。


「お嬢に意見をするな。二度と口を聞けない体にしてやろうか」


サントスが冷たい目で見下していた。


「サントス、およしなさい。私が気に入った顔に傷つけてはダメよ」


「わかりました」


サントスですら敬語を使うこの女は一体何者なんだ。


「私はパーフェロー。マチェリウム家の令嬢ですわ。こう見えて勇者ですのよ。こっちはサントス、あっちはパープル。二人とも優秀な戦力ですのよ」


おれの心を読んだかのタイミングで自己紹介が始まった。

マチェリウム家のパーフェローか…

勇者に選ばれたがその自分勝手な振る舞いで国民からの評価は最低だと聞いたことがある。

これはおれの人生詰んだかもしれないな。


〜 〜 〜 〜 〜


勇者パーティーに強制的に組み込まれたものの、メンバーのおれに対する扱いはとても酷いものだった。

雑用として無理難題を強いられ、足手纏いだと常日頃から文句を言われ続け、支払われる賃金は報酬全体の一割以下だった。

逃げようとしたり逆らえば命の危険に晒される。

感情を殺して言いなりになるしか道はなかった。

一年近く経ったある日、国から直々に討伐依頼が舞い込んできた。


「次の仕事はアルダーウッド大森林に突如現れた魔物の討伐ですって。どうして私なんかがこんなことを引き受けなければならないのかしら」


パーフェローは憂鬱げに依頼内容を見ている。


「お嬢、足手纏いを連れていては任務に支障が出かねません」


ここぞとばかりにサントスが提言した。


「そうね。なんだか顔もやつれて血色も悪いですし、もう要りませんわね」


何なんだそれは。

そんなあっさり切り捨てるのかよ。


「だそうだ。明日の昼には出発する。それまでにさっさと荷物まとめて出ていきな」


と言うなりパープルに首根っこを掴まれて荷物と共に外へ放り出された。

冷たい雨に打たれていると、心の奥底で燻っていた復讐心が一気に燃え上がってきた。


「こんなことが許されてたまるか…!」


ギルドからの情報によると魔物が居座っている周辺は木々が枯れて元々いた生き物は逃げ去り、死んだ森になっているそうだ。

枯れ木の森…

これなら魔物共々まとめて処理することができるのではないだろうか!

やるなら早いほうがいい。

明け方を待って早速森に向かった。


森に行ってやる事はただ一つ。

不朽菌の能力で枯れ木を倒れる寸前まで腐らせる事だ。

パープルは風魔法の使い手だ。

今回の討伐でもお得意の竜巻の魔法を使うだろう。

魔法の威力は強大だ。

腐った枯れ木は魔法に負けて竜巻に巻き込まれ、周囲のものを傷つけるだろう。


先回りしてある程度の木を分解し終わった頃、パーフェローのパーティーがやってきた。

少し離れたところから様子を伺っていると、早速竜巻魔法を起動させた。

それも過去最大規模の強さでだった。

おれの予想通り周囲の木々が粉々になって竜巻に巻き込まれていった。

しばらくして魔法が収束した。

魔物は粉々になった木の破片が全身に刺さって息絶えていた。

勇者パーティーは朽木の下敷きになってピクリとも動かない。

これで復讐は果たした。

ひとまず街に戻ることにした。


「この橋も踏んだら抜け落ちるようにしておくか」


もし仮に生存していて街に戻るにはこの橋を渡る必要がある。

ここで橋から落ちて行方不明になってもらった方が助かる。

さっさと街に戻ると次は勇者パーティーの拠点の屋敷を分解することにした。

確か莫大な額の借金をして建てたんだとか。

しかも借金を踏み倒そうとしていた。

こんなクズは消えるべきだ。


復讐を終えたおれはリグナムの街に帰ることにした。

ここからリグナムまで一ヶ月はかかる。

行商人の馬車に頼み込んで同行させてもらうことになった。


馬車に揺られながら転生してから今までに起きたことを思い返していた。

幸せだった日々。

突然身勝手な理由でどん底に突き落とされた日。

感情を殺して生きた絶望の日々。

おれは復讐のために手を汚してしまった。

ラティフォリアさんと会う資格は無いのではないだろうか。

リグナムに帰るべきではないのだろうか。

そんなことを考えているとあっという間に一ヶ月は過ぎ、リグナムの街に着いた。


「クヨクヨ悩んでいても仕方ない」


ひとまず温泉に入ってからラティフォリアさんのところへ向かうことにした。

買取窓口へ続く扉を開ける手が重かった。

扉を開け、一歩中へ入る。


「いらっしゃ…」


窓口の方を見ると、ラティフォリアさんは信じられないものを見たといった顔をしていた。


「生きてる…!生きてる!生きて帰ってきた!」


窓口から飛び出て抱きしめられた。


「なんで突然いなくなっちゃうの?どれだけ私が心配したと思ってるの!」


おれのことを強く抱きしめ、泣きながら溜め込んでいた想いを吐き出された。


騒ぎを聞きつけてオッサン連中もやってきた。

彼らに、ラティフォリアさんが必死になって捜索隊を手配しても見つからなかったこと、現場の人たちからの反対を押し切って自らの足で山へ向かったこと、他の街まで足を運んだことなどを話してくれた。


「お前さんが帰ってこなかったあの日以降、嬢ちゃんの表情はいつも曇っていてよ」


「嬢ちゃんは相当お前さんのことが好きだったんだぞ」


と好き勝手に言っている。


「おっちゃん達は黙っててぇ…」


自分の行動が次々と暴露されていくのは恥ずかしかったようだ。


「ありがとう。無事に生きて戻ってきたよ」


「責任とって。私の感情をここまでめちゃくちゃにした責任とって…!」


涙で溢れた上目遣いでそんなこと言われたら返答に困るじゃないか。

ギルドに預けてある額はそれなりにあったはずだ。

家一軒くらい買えるだろう。


「ラティフォリアさん、おれと結婚してください」


「はい、よろこんで!」


シンと静まった窓口に彼女の声が響いた。

直後、わっと盛り上がった。


「皆んな!酒持って来い!」

「こんなめでたい日は飲むに限る!」


オッサン連中がバタバタと宴の準備を始めた。


「なんでおっちゃん達が盛り上がってるのさ!」


「そうだそうだ!主役はおれたちだぞ!」


宴会は明け方まで続いた。

翌日から二人の家の建設が始まり、末長く幸せに暮らしましたとさ。

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