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特別扱い


 アルビレオ様に連れてきていただいたのは、白を基調とした素敵なお店だった。

 大通りの喧騒が嘘のように感じられるほど落ち着いた店内で、フロアの中央には大きなグリーンが飾られ、明るい雰囲気で統一されている。

 

 私達は店員の(かた)に案内され、奥まった場所にある二人用の席についた。そして、アルビレオ様と注文したお祭り限定メニューを待ち続けること十数分……


「特別メニューお待たせしました。チーズまみれチキングリルでございます~」

 

 目の前には、熱々の鉄板の上に置かれたグリルチキンが運ばれてきた。

 すでに白いクリームチーズソースがかかっており、グツグツとそれだけでも美味しそうなのに……


「わーー!!」


 その上から滝のようなチーズが、チキンの上に惜しげも無くかけられる。チーズでトロトロと覆われたチキンのビジュアルに、私の口からは思わず感嘆の声が漏れ出てしまった。


「すごい……感動です……!」

「良かった。ペルラはチーズが好きかと思ったので」

「ありがとうございます、アルビレオ様。今、私は最高に幸せです……」


 アルビレオ様がおっしゃる通り、私はチーズが大好きだ。昼食にも、よくチーズを挟んだパンや野菜を好んで食べている。

 それをアルビレオ様は覚えていて下さったのだろう。まさか、こんなに素晴らしいチーズ専門店に連れてきていただけるなんて。


「こちらのお店、よくご存知でしたね」

「城下街では有名なチーズのお店なのです。ペルラと行くなら絶対ここだと思いまして……さあ、熱いうちにいただきましょう」

「あっ、そうですね! では……」 


 私はチーズをたっぷりと絡ませ、熱々のチキンをほおばった。食べてみると見た目以上に美味しくて、あっという間に食べ終わってしまいそうだ。

 

 ふと視線を感じて手を止めると、アルビレオ様はまだチキンに手をつけていなかった。夢中になって食べる私を、正面から微笑ましげに見守って下さっている。


「あの……アルビレオ様もいただきませんか? チーズが冷めますよ」

「そうですね。ペルラがあまりにも美味しそうに食べるので、つい手が止まってしまいました」

「は、恥ずかしいですね。私ったら料理に夢中で……」

「いえ。一緒に来ることが出来てよかったなと、そう思っていたところだったのです。最高に幸せです、俺も」


 そう言うと、アルビレオ様はやっとチキンを食べ始める。

 

(アルビレオ様って、なんというか……)

 

 優しくこちらを見つめる眼差しに、ふと我に返ってしまった。 

 時々、アルビレオ様に見つめられると胸がそわそわしてしまう。友人として一緒にいるはずなのに、なんとなく大事にされ過ぎているような気もするのだ。


 友人とは、こんなにも優しくされるものなのだろうか。それとも――やっぱりこの優しさは、私がルイス様の()()であるからなのだろうか。

 

 アルビレオ様は真面目で律儀な人だ。入団直後からお世話になっているというルイス様を慕っており、そのルイス様を助けた私に過剰なまでの恩を感じて下さっている。


 困った時には助けてくれるし、私が不当に軽く扱われた時は、私以上に腹を立てて下さる。

 今日のことも、私と過ごせる『貴重な日』と女性達に言い切って下さった。そのお気持ちが嬉しいと思うのに、正直なところ恐れ多さを感じてしまう自分もいる。


「アルビレオ様、あの……先程はありがとうございます」

「なんのことですか?」

「女性達に、邪魔をしないようにと強く言って下さったではないですか」

「ああ、あのことですね」


 あの時は助かった。彼女達から『彼みたいな人のことを、あなたが独り占めするなんて勿体ない』などと言われ、咄嗟に反論ができなかったのだ。


「確かに、私がアルビレオ様みたいな(かた)を独り占めしていてはいけないと思うところもあったのです。ルイス様を助けたとはいえ、ただそれだけですから」


 押しの強い彼女達のことを迷惑に感じていたのに、頭の片隅では「そうかもしれない」と思ってしまって。あのまま彼女達と一緒にいてはアルビレオ様との時間を譲ってしまったかもしれなかった。 


「やっぱり。あなたはそうなる」

「えっ?」

「彼女達を完全に遠ざけてしまわないと、ペルラのことだから彼女達に遠慮して身を引くだろうと思いました。それだけは嫌だったので……俺は、俺のしたいようにしただけです」


(アルビレオ様の、したいように……)

 アルビレオ様は、本当に私といたくて怒って下さったのか。


「身を引くかもと……よく分かりましたね」

「あなたはルイス隊長のことさえマルグリットに譲ってしまったでしょう。そういうところもペルラの美徳ではありますが……もっとご自分を大切にしてほしいですね」

「自分を大切に?」

「ペルラが自身を軽んじることで、(つら)くなる人間もいるということです。……俺のことですが」


 アルビレオ様はそう言い切ったあと、バツが悪くなったのか無言でチキンを食べ続けた。

 大きな口へ、チキンが次々と運ばれていく。食べるのはとても早いのに、綺麗で、音も立たなくて……


「……すみません。ペルラは悪くないのに、説教くさくなってしまいました。先程のことは忘れてください」

「いえ……」

「――ペルラ、食べないのですか?」

「あっ、食べます。食べますけど……」


 胸がいっぱいになって、思わず食べることを忘れてしまっていた。美味しいチーズ料理の存在も放ったらかしにして、アルビレオ様に見とれてしまった。 

 そのくらい、アルビレオ様からの言葉が嬉しかった。


 こんなの、大事にされ過ぎている。ルイス様の恩人だからと、その特別扱いに甘え過ぎている。

 そう分かっているのに、貰う言葉がすべて嬉しくて、胸の奥がぎゅうっと熱くなって……アルビレオ様との時間を私は手放せそうにない。

 

「そういえばペルラは卵も好きでしょう。卵料理の専門店もあるのですよ。たしかこの近くに――」

「よろしければ、また今度連れて行っていただけませんか?」


 つい気が逸って、言い終わる前に私からお誘いしてしまった。言葉を遮られたアルビレオ様は、驚いたように私を見ている。


「……また、次回があると思ってもよろしいのですか?」

「もちろんです。何度でも御一緒して下さい、アルビレオ様」


 少し前の私なら、恐縮して誘うなんて出来なかったかもしれない。

 でも、目の前のアルビレオ様はこんなにも嬉しそうに笑って下さっている。私は誘ってよかったと、心からそう思えた。

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