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あした世界が終わるセカイ

作者: 明須久

 この病は伝染する。

 そう分かるのにそれほど多くの時間は必要なかった。

 しかしそれが分かった時には、すでに地球上のほとんどの人間がこの病に感染していた。


 突然糸が切れたように苦しむ様子もなく絶命する病。

 潜伏期間は不明。

 いつどこから汚染が始まったのか分からないが、気づいたときにはすでに病は地球全土に広まっていた。

 原因である病の名すら決まる前に、世界は終わろうとしている。


 一部の人たちはその感染症のことをこう呼んだ。

 ――――『終末』と。


 やがて終末は完全に地球全土を覆い尽くし、

 この星は、草木のみが栄える惑星となったかのように思われた。

 だが――生存者はいた。


 一人の少年が廃墟となった街を歩いていた。

 生きている人の気配は全くなく、かわりにあちこちから腐臭が漂っていた。


 彼は気弱な少年だった。

 他人が恐ろしく、人の目を見て話すことなど到底出来ないくらい気弱だった。

 彼には今まで生きてきた中で、誰かと目を合わせた記憶すらなかった。


 当然そんな気弱な彼が死体だらけの廃墟を歩いていけるとは誰も思わないだろう。

 だがそれは違った。

 彼は生きている人間が怖かったのだ。

 死んでいる者たちは彼にとってはただのモノにすぎなかったのである。


 突然彼の視界に白いものがよぎった。

 今や少年に怖いものなどなかった。

 何かが見えたあたりに向かって走り出した少年は、一人の少女の前で足を止めた。


 白い服を着て、白い杖をついた少女だった。

 久しぶりに見る他人にもかかわらず、不思議と少年は恐怖を感じなかった。

 少女はとまどいの表情を浮かべながら顔をあちこちに向け、手探りをするように手を動かした。

 一目見たときから少年は理解していた。少女は目が見えなかった。


 この病は視線を通して感染する。

 目と目が合った瞬間、病が他者へと移るのだ。

 馬鹿な。そんな感染方法があるはずはない。

 だがそういった常識に縛られたため、研究者たちはこの病の正体が分からず死を迎えることになった。

 もちろん少年たちにも病の正体が分かるはずもない。


 だが今、少年は少女の手を取り歩き出そうとしていた。

 この世界には意外と多くの生き残りがいるかもしれない。

 そんなことを話しながら。

 歩いていく少年の顔には生まれて初めて他人とうち解けることで、少しずつ今までにはなかった表情が生まれ始めていた。

 少女と話しながら少年も自分でそれを感じていた。


 その瞬間こそがこの絶望的な世界での希望が生まれた瞬間だった。


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