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身代わり少女の生存記  作者: K.A.
前日譚:初等部3年
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世にも綺麗な

「へぇ。結局俺たちに自分の課題任して何してたんだと思えば、優雅にお茶してた上に呑気に迷子になってたんだ」

「ま、まあ落ち着いてよリゲル。アジメクがお茶したのは王妃様に誘われてだし、迷子になったのもさ、ほら……」

 ベガがそこで言葉を止め、カペラと顔を見合わせた。な、何?スピカは二人の視線の意図を掴みかけてたじろぐ。

「え、ほらって何?」

「あー、うん。アジメクちゃんだもんね」

「え、カペラちゃんも?え?何?」

「はぁ……もう中等部になるんだからさ……。まあアジメクだからしょうがないとは思うけど」

「リゲル???」

「アジメク」

「な、何?」

 アルに短く呼びかけられる。その声に顔を向けると、彼はそっと私の肩に手を置いた。

「それが、信用と実績だ」

 私はそっと目を逸らし、手元をいじいじとするしかなかった。

 言うほど方向音痴ではないと思うのだけど。ここ二年半、それ相応の認識を築いていたらしい。


 閑話休題。嘘、私への説教はその後も少し長引いたけど、それもようやく収まって。

「で、とりあえずかける魔法は決まったんだっけ?」

「……?あ、うん」

 ベガがのんびりと言った。「かける」と言う言葉は普段魔法に触れない人間の言葉である。普段私たちは魔法をまるで他の道具と同じように「使う」と言うので。「かける」と言う言葉は言ってしまえば、魔法に関する絵本にしか出てこない言葉だ。だから咄嗟に返答が遅くなったとも言える。

 そんなものだからどこか新鮮な気持ちで頷くと、ベガはなんだか不思議そうな顔をしながら「なら、早く準備しよ」と言った。

 準備、と言っても、ほとんどの材料は私が王妃とお茶会をしているうちに友人たちが準備してくれていた。持つべきは優秀で権力もコネもある友人である。入手する手立てすら分からないような材料がなんだかよく分からないが厳重な保存方法でそこらに転がっている。

 しかも場所も王城内の一室をお借りできた。いたせり尽せり。むしろ明日から私が

彼らに尽くさなければいけない気がする。

「えっと、まずはコイドルの草……。あ、これだよね?」

「あぁ。合ってる。アジメク」

「何?」

 アルは改めて私の目を見て言った。

「がんばれ」

「うん!」

 これは、私の課題だ。ここまで手伝ってくれて今更のような気がするが、率先して薬草に手をつけ始めた私にアルを始めとした面々は一歩下がって私を眺め出した。カペラちゃんなんかお茶を淹れ始める。

 がんばれ、がんばろう。


 植物の成長促進。言ってしまえばものの時間を進める行為、もしくは老化を進める行為。結構慎重にしなければ術者、つまりは私自身の老化すら招きかねない。

 まあ、そんな事故は万が一にも起きないけど。対象に使った魔法がそのまま自分に跳ね返ってくるのを予防する装置がある。

 それが杖だ。滅多なことでは使わないけど、こういう「万が一」がある儀式では必ず使用が推奨される。しかしそれを使うことで「使う側」と「使われる側」がはっきりと示され、万が一跳ね返ってきても杖による区分けによって術者に行き着く前に消え失せる。

「へえ、魔法使いっぽい!」

 私が懐から杖を取り出すと、カペラちゃんが楽しそうに声を上げた。私も、というか私たちも杖を授業で初めて使った時はワクワクしたものだ。杖を使って軽くその場を清潔にすると、次に魔法陣を描き出す。これにもカペラちゃんはキラキラした歓声を上げた。魔法師見習いの身としてこれ以上ないくらいの反応である。

 魔法陣は「緑の手」のそれを参考に。こう書き出してみると、しみじみ効果的な陣であることが分かる。先人の知恵を使わせて貰っている気分だ。まあ「緑の手」の民は王都を追放されているだけで途絶えてはいないだろうけど。

 それにしても、先代の王が倒されてからもうすぐ七年くらいだ。そろそろ王都追放を解かれてもいいはずだけど。

(……だめだ、集中が切れてきている)

 頭を振ってよそ事を追い出す。目が合ったアルが、咎めるように眉を顰めたので、集中できていないのがバレたのだろう。分かっていると伝えるように笑うと、彼は肩をすくめた。

 魔法陣は自分でも言うのもなんだが、かなり綺麗に描けた。私は時間を止める特別魔法を最大限活かすため、時間を止めている間に戦力を補給できないかと魔法陣の勉強に特に力を入れている。クラスでもかなり得意な方だ。軽く魔法を通して火花と共に魔力が隅々まで平等に行き着くのを確認した。魔力溜まりは事故の元だ。

「……よし」

 次に、と言うか次でほぼ終わりである。ここにある大量の材料を煮詰めて変化させて混ぜ合わせる。言ってしまえば料理みたいなものだ。ただしこれは料理と違って数グラムのズレも許されない作業。

 ま、材料的に危険なことはないけど失敗してもあまりの材料はほとんどないだろう。二度目はない。

 私は気合を入れ直し、手順がまとめられた本を手に取った。



「すっごい、集中してるね」

 カペラの淹れたお茶を啜りながら、ベガは言った。他の面々も黙って頷く。アジメクはまるで聞こえていないみたいに、いや多分本当に聞こえてないのだろう、全くもって反応をしなかった。

「魔法師必須の才能だ」

 アルが涼しい顔をして言った。

「才能?集中力が?」

「あぁ。アジメクは、魔法の才能があるよ。僕よりもずっと」

「アジメクが?アルより?」

 リゲルが意外そうに言った。それは大分失礼な物言いだが、なんとなく気持ちは分かる。どうしても、アジメクに関してはこれまで魔法学クラスのテストで大騒ぎしていた印象しかない。むしろ優等生のアルよりも才能豊かだとは思わなかった。

「……才能があるなんて騒ぎじゃない、天才だよ」

 アルは少し間を置いて言った。それは大分悔しそうな声音をしていた。

「宿題を提出日前日まで溜めてるのに?」

 リゲルは意外そうな声音で言った。まあ、多分そういう次元の話ではないことはリゲルもわかっていたと思うけど、それでも先ほどまでリゲルに叱られてシュンとしていた彼女が、アルがここまで言うくらいの才覚の持ち主だとはなんとなく思えなかった。

「アジメクはね、『出来ないかも』って言わないんだ」

「は……」

 アルが静かに言った。そしてアジメクを見て目を細める。まるで今床に座ってあちこちで材料を弄っている彼女が眩しいみたいだ。正直同じ貴族令嬢としてその格好はどうかと思う。

「『難しいかも』『手段が分からない』は言う。でも根本的に、『出来ないことがある』とは思ってないんだ。頑張ればどうにかなるかもって思ってる。そこら辺は、無茶苦茶やらかしてるクロダンでの教育の賜物かな」

 アルはそこで私とリゲルに視線を戻した。まあ、心当たりはある。

「それって、魔法に関係あるの?」

 私は聞いた。アルは「もちろん」と言った。

「魔法はイメージが九割以上だ。どれだけ完成図をイメージできるかが魔法構築に深く関わっている。それにね」

 かちゃん。音が鳴った。視線を向けると、アジメクがカップを床に置いた音が響いたことが分かった。なんとなく彼女の顔は達成感に満ちていて、大方材料を加工し終わったのだろうと分かった。

 私はそれに純粋に驚いた。なぜならこの魔法が、高等部で行うとは言ってもほとんどの生徒は失敗する代物であり、大人の魔法師でも難しい魔法であると調べるうちに知ったからだ。

 そんな彼女を見て、アルはどこか自慢するように言った。

「『できる』って思わなきゃ、やろうとしなきゃ、出来ないんだよ。いくらその人が優秀でも」


 カップの中で、まるで熱を加えていないはずなのにグツグツと煮えたぎる液体。言ってしまえば成長促進剤である。スピカは知らず息を飲んだ。

 やはり一から植物を成長させるのは難しい。直接植物の中に手を突っ込んであっちこっちいじるかのような繊細さが求められる。

 しかしこの魔法液を使い、これを行き渡らせる場所や効能を魔法で調整することで欲しい効果が十分に得られる。こっちの方が現実的だ。

「い、行くよ」

 震える声でアル達に声をかける。彼らも固唾を飲んで見守ってくれる。私は少しずつ、慎重に、しかし液体が室温で固まらないうちに流し込む。規定量を流し込んでカップを置くと、魔力をはじめは植物全体に、その次に蕾がつけばそこに効率的に行き着くように練り上げていく。

「わ、わぁ……」

 カペラちゃんが歓声ともため息とも分からないような声をあげる。しかし気持ちは分かる。開いていく花びらはため息をつきたいほど美しい。

 どこか深海も連想させるほどの深い青。しかし花びらが薄いのだろう、向こう側がぼんやり透けた色は儚い。早送りのように咲かせていっているから余計にだが、奇跡のような花だなと思った。

「なんか、普通に咲かせたかったかも」

 この花がどんどん美しくなっていく様を、毎日見ていきたかった。そう溢すとアルは「それはここまでお前の課題のために付き合った僕たちに言うことか」と私を軽く小突いた。しかし数秒後「気持ちは分かるが」と付け足した。

 それぐらい、綺麗だった。聞くとアルの花もそれは大層美しかったが、それは燃えるような赤だったらしい。与える魔力も違うので、そんなものなのかもしれない。

「ありがとう」

 私はみんなに向かって笑った。みんなも私に向かって笑った。嬉しそうに、やれやれとでも言うように。


 ちなみにその花は魔法で無理矢理咲かせたことは先生にはバレバレで、スバル先生から「提出物は計画的にやりなさい」とお小言を貰いながらも無事にほぼ満点をもらえた。筆記試験も割と自信がある。あとはレポート課題くらいだけど、あれは配点も低いから、特別ドジを踏んでいなければ問題ないだろう。

 こうして私の魔法学クラスの試験は終わった。普通教科のものは十分に残っているが、少し一安心だ。それを当主様に報告すると、随分嬉しそうにしていた。ガクルックスは魔法で栄えてきた家だもんな。

 そうして魔法植物、アダマスは私の寮室の一角で部屋の彩りとして咲き誇っている。半年後、実をつけそして枯れるまで。

 アダマスが生み出すのは「主人の望むもの」。それは結構な波乱を産みながらも私の学園生活に大きな障害として立ち塞がることになるのだが、それはまた先のお話。

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