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身代わり少女の生存記  作者: K.A.
前日譚:初等部1年
7/88

魔法学試験・後編

「危ない!」

 背後から聞こえるアルの声になんだなんだと振り返って、視界いっぱいに広がっていたのは炎だった。その熱は直前まで気が付かなかったのが不思議なくらいで、何かが焦げる匂いも鮮明であった。

 怯える私は咄嗟に体が動かず、ただ周りの動きを見ているだけだった。こっちに向かって魔法の発動を試みているのか手を伸ばすスバル先生、こちらに駆け寄ろうとするアル、一様に怯えた表情を浮かべる生徒たち。

 そして、こちらを見て口元を三日月のように歪ませる侯爵令嬢。

 私はそれらをまるで全てが止まってしまったように見えた。まるで止まっていて、私は咄嗟に避けることも目を閉じることも忘れその光景を目に焼き付け……。


「…………!」


 いつまで経っても、動かない。この異様な光景に私は再び戸惑ってしまった。暑さかそれとも別の理由か、汗が一つ首筋に落ちる。

 しかし、動かない。先生やアルといった人間だけなく炎もゆらりともしない。壁にかけられた時計を見て察した。これは、動きが止まったんじゃない。時間が止まったんだ。

 私の心臓は痛いくらいに鳴っている、汗も止まらない。なのに周りだけ動いていない。私はそろりと羽を動かした。なにもない、なにも変わらない。時間も動き出したりはしなかった。そのまま地上に降りて、炎と距離を取る。なにも起きない。

 これは、特別魔法か。こんな短時間に二つも出ることある?こんなにぽんぽんでるものではないだろう。

 しかし、困った。羽を出せるくらいならともかく時間の停止とは。こんなの目立ちまくってしまうし本物のアジメクが出せるわけがない。こんなの主人に連絡が行ったら大目玉だ。

 ダメだダメだ、これは誤魔化そう。なかったことにしよう。そしたらこのまま時間を戻して……。

 いや待てそしたら私そのまま火炙りじゃん!あんなの大火傷じゃすまないよ!魔法であらかたなんとかなるとは思うけど跡残ったらやだし……そしたら離れたところからまた時間動かす?それ疑われそう。

 まあ、気づかれないくらいの距離を置いて時間戻したらすぐ逃げよう。うん、まあそれが無難。

 私は炎から三十センチぐらいにいたが今は二メートルくらい離れて身構えた。よし、これでいつ時間が戻っても平気!


(…………)

「……戻らないなってこれ、自分で戻すのか!」

 なにぶん初めてのことなのでゴタゴタがあったが、とりあえず「解除!」って叫んでみる。

 と。

「て、えぇえええぇえ!」

 当然のようにその瞬間猛然と襲いかかる炎、とりあえず地上に降りようと高度を下げる私。


「ック!」

 その一瞬ののち、背後の熱さが一瞬で消えて思わず振り返るとわずか五センチのところにある炎が透明なガラスのようなもので遮られていた。その奥で肩で息をするスバル先生。あ、苦労かけます。ありがとうございます。

 つまり一件落着だ。火はすぐに消されるだろうし不意打ちでなければ先生は侯爵令嬢の制圧など簡単だろう。私も無傷、アルも遠くでホッとした顔をしていた。

 そして私も、ほうっと息を吐いた。すっかり安心して、うっかりして羽を消してしまった。

 一応地面から近いところにいたから頭から激突ってのはなかったけど、着地をミスって足首をゴキってして倒れて膝と肘を地面に打ちつけてちょっと頬骨のところを思いっきりぶつけた。

 すごい痛かった。


「手当ては済んだか?」

「はい」

 その後、無様に寝っ転がった私を尻目にスバル先生は指を一つ鳴らすだけで侯爵令嬢を拘束し龍を縮小させ、アルに「元いた場所に戻してきなさい」をさせた。そして宙に浮かんでいた生徒も一人残らず一列に地面に並ばせ、最後に私を保健室まで飛ばした。

 あっという間。さすが魔法クラスを任されただけのことはある。

 その後先生は保健室で休んでいた私に「今回の報告だ」とやって来た。

「それで……その、どうなりました?あの子」

「……あの娘は除籍、学園追放だ」

「!」

 まあ、そうかもしれないとは思っていたが。あの火力で持って他の生徒に襲いかかるなど。私は助かったからいいものの、殺人未遂として立証できてしまうレベルのものだろう。

 しかし学園追放は貴族の令嬢にとって牢屋行きと同じくらい厳しい処分だろう。今後考えられる将来は、実家での幽閉か出家か。彼女の今後を思うと表情は暗くなる。

 もしも私から実家に言ったら、境遇が変わったりはしないだろうか。

「庇おうなどとは思うなよ」

「!」

 私の心などお見通しか、スバル先生は厳しく言った。

「彼女が追放処分になったのはお前への傷害未遂が原因ではない。魔力種類の試験での不正と薬物乱用でだ」

「え?」

 どちらも想定していなかった話だ。なんて?


「ま、そんなことよりも私はお前の合否を発表しにきた。他のものはもう済んでいるからな。聞かないならいいが」

「あ、き、聞きます」

「よろしい」

 話を変えられて詳しく聞くタイミングを失った。あとでアルにでも聞けるだろうか。

「それでは、アジメク・ガクルックス、貴殿を合格とする」

「はい!」

 まあ想定はしていたが、それでも改めて言われると嬉しいものだ。

「詳しい結果から言う。まずは魔力量、四〇〇五。次に魔素変換能力ーー」

「ちょ、ちょっと待ってください。その、結果を言われても、平均がどれくらいとかどのくらいで合格基準でとか全然わかんないんですけど」

 そう口を挟むと思いっきり睨まれて舌打ちされた。酷い。

「……魔力量、合格基準十。平均はなし。これはその魔法使いが生涯続けて体内の魔力を使用した場合、どれだけの年数使用し続けられるかと言う値だ。魔法の種類は中等魔法で設定されているため本当に使うとなれば多少の前後はするが」

「ね、年?」

「年だ。バカみたいな量しやがって。大魔法使いシリウスもこんなにはないぞ。確か今魔力を電力に変えれないかという試みが進んでいるようだからな、工場が完成したらそこの従業員として推薦してやろう」

 そ、そんなにあるのか……。

「魔素変換能力、SS。あれは本来ラインをじわじわ越えさせるまでの時間を測るものであのラインピッタリになるまで調整するものではないわ馬鹿者。お前だけだぞ一気にラインを超えて出しに来るかと思えば減らしたり増やしたりマゴマゴしやがって。それで結局圧縮させて提出だと?しかもヒビ入っているし。お前みたいに一気にこぼしそうになる奴が数年に一人はいるからギリギリになっても溢れないガラス製のものを何人かに配ったのに。あれ高いんだぞ反省しろ」

「すみません……」

 急に饒舌になるじゃん。というか、あの状態で提出してよかったのか。

「魔力種類、はいいな。一枚目と二枚目で多少五大魔法のバランスが違うのが気になったがまあいいだろう」

 疑わしげな視線に目を背ける。すみません操作しようとして。

「て、一枚目見つかったんですか?」

 こう言う時は話を変えるに限る。そう聞くとスバル先生は再び舌打ちをした。

「例の小娘の袋にあった」

「え?」

「入れ替えられてた、ではないな。お前自分の名前書かなかっただろ。だからあの小娘はお前のボードが入った紙袋に自分の名前を書いて、自分の分にお前の名前を書いた」

「あ……」

 確かに、あの時先生の話を聞いていなかったから、提出方法すら教えてもらったくらいだった。つまり先生の名前を各自紙袋に書くという話も今初めて聞くことだった。

 それに気がついた彼女が自分のと入れ替えたのか。

「本来なら名前なしなんて不合格だがな。自業自得だ。ただ魔力量が格段に高かったからな、もう一度受けさせてみたわけだ。そして小娘はもう一つ仕掛けをしていた。……あの二枚目のボード、硬くなかったか?」

 え?確かに、最初に比べてコンクリートやレンガのように、とても硬かった。まるで私の魔力を拒むみたいに。

「あ……」

「あのボードは最初に誰かが魔力を注入してから三十秒で固まる。元々すり替えるだったのかは知らんが、元々微量に魔力を入れてあったんだろう。それを力任せにぶっ壊しやがって」

「すみません」

 なるほど。壊しまくったのか……私……。

「と言うわけで今からお前の名前は魔法少女・デストロイヤーだ」

「やめてください……て言うか先生冗談とか言うんですね」

「は?」

「へ?」

 ちょ、ちょっと待って……。


「そして最後のはまあ特別魔法を見せたからな。箒だの風魔法だので飛ぶこと自体は簡単にできるが身一つで飛べる術があるのも悪くはないだろう。まあそこまでの加点にはならなかったが」

 あ、よかった。時間を止めたのはバレていないようだ。そこは少しホッとする。


「まあそれで、お前には知る権利があるからな。一応話すが。……誰にも話すなよ」

「え?」

「例の小娘のことだ。不正についてはさっきのボードの件。もう一つ、薬物とは魔力増強剤のことだ。あの最終試験前の休憩中に入手、服用したらしい」

「魔力増強剤?」

「名前の通りだ。普通出回らないからな、知らなくても無理はない。魔力を何倍にも増強させる、違法薬物だ。もちろん魔力量は増えるがその反面副作用として思い込みや妄想が激しくなる、冷静さを失う、攻撃的になる、過激な言動が増えるなどまあ情緒が不安定になりやすい。その状態で魔力だけは増えるから当然犯罪も増える。一昔前にそれが流行ってからは酷かったもんだ。入手経路はわかっていない。誰かにもらったと言っていたが誰なのか顔も名前も関係性も覚えてないときた。自白剤を使えばはっきりするだろうが多分あれは魔法で記憶を消されてるな」

(…………)

 私に火を放つ、理性を失った瞳を思い出す。そんなことが。

「まあ、気にするな。それでも感情をまんま操るものではないし、あいつの心情をお前が気にかけてやる義理はない」

「……はい」

 その、先生の言葉が正しいのはわかってる。しかしどうしても割り切れない自分がいた。


「もう下校時刻になる。しかしその前に正式に合格の書類を渡したい。職員室まで来れるか?」

「あ、はい」

 足首は養護教員の光魔法で歩けるくらいには回復しているし、多少肌が出ているところは目立つが些細な怪我で魔法を使っていると治りにくくなるのでガーゼで隠してそのままってだけで痛いわけではない。すぐにその背についていった。

 その職員室で、友達(願望)のカペラさんがピンチに陥っているとは知らずに。

チートチートォ♪

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