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身代わり少女の生存記  作者: K.A.
前日譚:初等部3年
55/88

クロダン、勝利への道

大変申し訳ありませんでした。一日遅れの投稿になります。

どうか嫌いにならず、嫌にならず、引き続きお楽しみください!

 桜も散り、日も長くなってきた五月。

 私たちクロダンの新三年生は、団室としてクロダンにあてがわれた(あるいは不法占拠している)区画の一室で、秘密集会をしていた。

 その内容はというと……。


「それでは!オリダンにおける新ルール追加に、乾杯!」

「「「かんぱーい!」」」

 新しく団長に就任したカイの掛け声で、随分と威勢のいい私たちの声が重なる。その声は人数も人数なので団室上階の社会科準備室に届く勢いである。

 しかし、世は魔の時代。いくら魔王が封印されていようと、魔法を使える子供が年々減っていようと、魔道具は現在も私たちの生活に必要不可欠だ。具体的に言うと、やかましいクソガキが中でどれだけ騒いでも、外に聞こえないようなドアプレート型防音機とかね。ちなみにこれはこの前の三月の、私の本当の誕生日にアルからもらったものだ。かなり高価なものっぽくて、今回の集まりでそうとは知らずにみんなに見せると人によっては非常にドン引きされた。あとでアルは殴る。恋仲疑惑がさらに深まったぞ。気軽な気持ちで友人に高価な贈り物をするな。

 ……閑話休題。

 さて、改めてパーティーだ。総勢四十一名。クロダン三年製によるパーティー。その祝い事というと、乾杯の工場にもあった通りだ。

 今から約一年前。私たちは「オリダンに新ルールを追加させる」というトチ狂った目標を胸に、既存のルールの範囲内、常識の範囲外みたいなところで大暴れした。その成果は語れば長いが、メチャクチャ楽しかったとは言っておこう。

「それで、これが新しいルールブックだ」

 そう言ってカイはある冊子を取り出す。彼はさすが新団長、不規則に起き上がる騒ぎの合間を縫ってした発言は、彼の狙い通り室内に響き渡った。そして差し出された我先にと集まる最終学年のはずの幼児のなんと多いこと。

 そして彼は読み上げた。

「オリジナルダンス。二年生は各々オリジナルで作成したダンスを踊り、その出来を競う」

 カイの声が滔々と響いた。

「オリジナルダンスは基本的に自由なパフォーマンスができることを目標しているが、四つのみルールを設けている。一、ダンスであること。二、危険物を使用しないこと。三、規定の時間以内に収めること。四、他の団の発表中は静かに、指定された場所で待機すること。以上のことを違反した場合は失格とし、評価は零点とする」

「…………」

「……お、おぅ…………」

 カイは読み終わって、皆んなの反応は様々。冊子を覗き込む者、なんとなくぽかんとする者、お菓子に手を伸ばす者。しかしいまいち盛り上がらない。

 そんな中、アンカーは呟いた。

「俺たち、何やってんだろ……」

 いや、めちゃくちゃ楽しかったけどね。楽しかった、けれども。なんというか熱が冷めたというか、歴史でも変えるつもりで、時代でも動かせるような気分で取り組んでいたものだから肩透かしというか、ただただ教師を困らせただけみたいな苦い気持ち。

「…………」

 私たちはお互いがお互いに同じことを考えているのだと気づいて、そそくさと「祝!ルール追加」と書かれた横断幕とその他飾り付けを片付けてしまった。

「まあ、有言実行だったな、カイ!」

「あ、あぁ……」

 リゲルが明るくカイの肩を叩く。カイは微妙そうな顔で頷いた。しかし、それにリゲルは朗らかに言った。

「じゃあ、次はどんな楽しいことをしようか?」

 それを聞いたザニアは少し考えて、外した横断幕の裏側に「新三年生・体育祭秘密会議」と丸文字で書いて吊るした。


ーーーーー


「思ったんだけどさ、そろそろしたくね?優勝」

「……どうしたの、バーナードきゅん。今までも勝てたけど本気出してませんでした、みたいな強者のセリフ!」

 バーナードの言葉に思わずと言ったふうにアンカーが返す。二人、去年からのブラザー制度でブラザー関係にあるため仲が良いみたいだ。少なくとも「きゅん」呼びしているのは初めて聞いたけど。

「あ、で、でもしたい、かも……。優勝。組体操って、競技自体はつまんないから。そういう目標ないと、やる気出ないかも……」

 か細い声で結構なことを言うのはヘゼだ。でも確かに、その気持ちもわかる。一年生の伝統ダンス、二年生のオリダン、そして三年生の組体操。体育祭では各学年が一つずつ、そういった演技の出来栄えを競う競技が設けられている。しかもそれらは他の競技に比べて配点が高く、どの団も力を入れざるおえない。特に三年生の組体操は、最終学年ということでトリを飾る競技であり、一番盛り上がる。それだけでも見たいと、他学年の保護者であっても見にくる人もいるくらいだ。

 しかし教師や生徒にとっては、その盛り上がりは全くの逆。正直一番盛り上がらないのだ。むしろ代々三年生にとっては苦痛でしかない。

 理由は大きく分けて二つ。一つ目は、どの団も同じ動き、流れの演技をすることだ。それは一年生の伝統ダンスも同じであるが、組体操の場合はそれに輪をかけて同一の演技をす。少しのオリジナリティも他の三つの団に比べられ悪目立ちするから、生徒はつまらなさも感じながらも必死に見本通りの動きをする。

 そうして結果的に同じ演技が四回繰り返され、観客は飽きてしまうのである。観客の熱が冷めていく、会場がどこかしらけた雰囲気になる中での演技は正直苦痛である。それどころか最後の団の演技が終わる頃には観客の何割かは席を立っている。これでモチベーションを高く保てというのは難しいだろう。特に組体操は演技時間が長いから、その苦痛も伝統ダンスと比べ物にならない。

 二つ目は採点の仕方だ。採点は教師によるものなのだけど、まあ、なんというかいるのだ。残念なことに、ちょっと嫌な先生が。

 名前はここでは伏せておこう。あまり私自信良い印象を持っていないので今後は彼の悪口大会になると思われるから晒すような真似はしたくない。……いや、いいか。晒そう。サンデュルーク先生だ。サンデュルークの野郎だ。

 まあ、ここまで言っておいて説得力はないかもしれないが、別にその先生がものすごく悪いと言うわけでもない。盛り下がる原因になってて、その現状を良しとしているところは普通に教師としてどうかと思うけど。

 とりあえず事情を話そう。

 まず前提条件として、組体操は危ない。いくら魔法があろうと、それを潤沢に使える貴族の学校だろうと、その認識は同じだ。そのため生徒主体で行われる体育祭練習としては唯一、組体操の練習には教員の監督が必ずつく。それはうちのクロダンも例外なく。各団に一人ずつ。

 そして監督できる教員は別に元から決まっているものではない。生徒が直接監督してほしい教員に交渉しにいくのだ。一応もしもの時に生徒を守れる教員に限られるが、うちほどの学校となると誰も彼も一芸に秀でているので、肉体派から魔法が万能に使える教師まで多くおり誰かを取り合うような展開にはならない。ならないはずである。つまりこれにも例外があるということだ。

 これがサンデュルーク先生。別名指導した団を必ず優勝に導く教師。別名クソ贔屓教師野郎。

 そう、彼は自分の監督した団を必ず優勝に導いてしまうのである。必ず、彼が就任してから例外なく。しかしこれは彼の指導が抜群に良く、その団が急成長するからとかではない。普通に優勝する団を決める際に体育教師である彼がつけた点数に他の教師が便乗して点数をつけるからである。なんたって三年生の組体操はあくびが出るくらい同じ演技なので普通の教員ではその差が分からないので。というかそもそも差がほとんど無い。

 そういうわけで、組体操で目立つには発表順番で一番最初か悪くて二番目になるしかないし、組体操で優勝するには監督教員としてサンデュルーク先生を取るしかない。その二つともを取れなかった生徒がそれでも一定の成果を出すのはひとえに貴族と先輩の意地である。諦めとも言う。


「え、優勝ってことはサンデュルーク先生に媚び売りに行くの?」

 いやそうな声を上げたのはラーンだ。彼女は一際先生のことを嫌っており、その可愛いお顔中に皺を寄せて言った。

「あー、でもそれ以外に勝てないよねー……」

「ヤダヤダ!私絶対やだ!てか頼みに行くだけじゃなくて指導もされてってなったら練習の期間ずっといるんでしょ?絶対やだ!生理的に無理!」

「まあそうだけど……」

 嗜めつつもベガも苦い顔だ。彼女もかの先生にいい印象は抱いていないみたいだ。

「え?別に普通にいい先生じゃないか?面白いし」

「は?正気?」

 意外そうにリゲルが声を上げる。というか女子の勢いに少し不憫に思ったのだろう。しかしその言葉に女子全員の顔が歪む。少なくとも私も嫌いに一票。

「マジで、『ナイ』よ。デリカシーないし、うるさいし。女子にちょっと甘いのもマジでキモい。何?ロリコンってやつ?」

「ラーン?そこまで言わなくてもいいなじゃないか?」

「リゲルだって何かにつけて使われてるじゃん。イジられたりとかもさ。あれまじでおもんないから。嫌なら嫌って言いなよ」

「いやそんなのお前たちだって俺のこと荷物持ちにしたり揶揄ったりするじゃん」

「私たちはいいの!リゲルはクロダンのでしょ⁉︎あの教師にいいように使われるほど安い男じゃないでしょ⁉︎」

「え、褒めてんの?」


「……デレてるのか怒ってるのかよく分かんなくなってきたな」

「少なくとも横暴ではある」

 多分ラーンも自分が何言ってるかよく分かってない。まあリゲルの雑な扱いはクロダンの仲間として目に余るものがあったし、ラーンはあえて止めない。ラーンの味方にベガが加わったけど、まあ止めない。リゲルには存分に自分を大切にしてもらうとして。

「でもそもそも、あの人をクロダンの監督教師にすることすらできないんじゃない?」

 喧嘩なのか誉め殺しなのかよく分からない喧騒を背後に私がそういうと、他の面々もラーンたちを放置して話し合いに加わる。

「確かに。あいつクロダンのこと嫌いじゃないか?」

「え、そうなの?」

「少なくともあいつがこの学校に就職してからクロダンが組体操で一位だったことはないよ」

「まじか」

 ……まあ、体育祭で問題を起こしまくるクロダンが体育教師に好かれるわけがない。

 しかしこの現状の中で優勝するとすると、どうするか。また反則技でも使うか?チラリと我らが参謀様アンカーを見ると、彼はいつものお調子者の笑顔でニコニコしていた。そしてこちらの視線に気づいたのかニコーっとする。はいはい可愛い可愛い。

 なんとなくこの笑顔は何考えてるか分からないので声はかけないに限る。

「あ、あの、いい?それなんだけど……」

 そこにスラリと上がったのは、白魚のような細くて綺麗な手。ヘゼだった。さっきといい今といい、引っ込み思案な彼女がこういう場で発言するのは珍しい。自然と後ろの誉め殺し組も含めみんなの視線が集まった。それに恐縮しながらヘゼは声を上げる。

「あ、でも、指導されること自体が嫌ならなんの役にも立たないんだけど、指導自体ならしてあげるよってこの前言われたよ」

「え、ウザウザ先生に?」

 ザニア、気持ちは分かるけどサンデュルーク先生だよ。

「う、うん。サンデュルーク先生にだけど、この前授業終わりに片付けを手伝った時に、まだ担当教員決まってないなら教えてあげるよって」

「へー、珍しいこともあるんだね」

「……ちょっと待って。それ、クロダンって知ってて声かけたの?」

「あー。確かにヘゼちゃんの感じだとハトダンっぽくもあるからね。あのすけべ教師ならありそう」

「あそこは毎年女性教師しか監督教員にしてないでしょ。さすがにそれに割り込もうとかはないんじゃない?そこらへんどう?ヘゼちゃん」

 ……女子たちの悪い意味での信頼がすごいが、別にサンデュルーク先生はあからさまに女子にセクハラしたりする先生でないとここに記しておく。むしろそんなことあったら保護者の権力がすごすぎるこの学校にはいられないので。

 ただ彼は多分女子の扱いが分からなすぎて、デリカシーのない発言と雑に扱っていい男子との扱いの差から女子に甘くなることがあるだけである。まあつまりは女子から嫌われる要素しかないというだけだが。

 そんなサンデュルーク先生の悪口が止まらない中、その可愛い顔を傾けてヘゼちゃんは言った。


「ハトダンかクロダンかとか、そこまでは言ってないけどそこら辺は大丈夫だと思う。……ちゃんと私自身を教えたいって言われたし、別にお礼も授業後の片付けを今後も手伝ってくれればいいって言ってたから……」


 これはアウト。私たちの妖精ちゃんに何言ってんだ。

「「「「アンカー(くん)!!!!」」」」

 私たちの大声を一手に浴びたアンカーくんはその大きな瞳を冷たく歪ませて言った。

「なるほどなるほど。……じゃああんた、生徒会に入れ」

 次はどんな奇策を思いついたのか。彼は軽やかにそう言って、お行儀悪く一点を指さした。一点というか、具体的には。


「え……私が、生徒会?」

 私、スピカ改め「アジメク・ガクルックス」に向けて。

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