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身代わり少女の生存記  作者: K.A.
前日譚:初等部3年
51/88

身代わり少女の生存記

 目が覚めたら悪役令嬢だった。

 いや、ありがち過ぎてツッコミきれんわ。


 さて、皆さんは小説『私の一番星』というネット小説をご存知だろうか。前世の私の一番好きな小説だ。まあそもそも小説をそう多くは読んだことがないので比較対象は教科書くらいなのだが。

 え、知らない?本当に?まあネット小説だとそういうことになるのか。私の死んだ時はまだ三話しか公開されてなかったけど、これから大ヒットして漫画化もしてアニメ化もして実写映画化もしてスマホゲームも出る予定なのに……。

 まあ知らないっていうんならしょうがない。簡単に内容を話そう。

 あらすじは自分の住む領地が大災害に見舞われた時にとんでもなく強い光魔法を覚醒した主人公が、隣の領地の大貴族に養子として迎えられ、貴族しかいない学園に入学する物語。初等部からある学園の高等部からの入学にはなるのだけど、クセの強い生徒や先生に囲まれたり、高慢ちきな令嬢にいじめられたり国の根底を揺るがすような事件に巻き込まれたりする。あとついでに逆ハー築きながら王子様と結婚する。

 まあ、そんなカロリー高めな物語において問題は私がその小説の登場人物に生まれ変わったということだろう。しかも悪役令嬢ボジ。そんな展開百万回読んだぞ(漫画で)。

 このまま登場人物である私の紹介もしておこう。

 悪役令嬢、アジメク・ガクルックス。主人公を養子に迎えたガクルックス家の娘なので義姉にあたる。成績優秀で学園での評価も高い彼女であるが代々宮廷魔法士を輩出している名門ガクルックスにおいて魔法は中の下。そのせいで学校の魔法クラスに入れず父親との相性が悪い。

 そんな中平民である主人公が多大な魔力を持って養子として家に迎え入れられ、高等部に入るまでの数年(主人公は元々平民なので最低限の教育を高等部に入るまで家で受けていた)で家族と打ち解けた様子に憎悪を抱くようになる。

 本来理性的である彼女だったが家での唯一の味方だった兄と、学園に入学してからは婚約者と友人を奪われ、主人公をいじめだす。

 その手口も初めは周りに気づかれないような些細な嫌がらせや彼女の賢さが窺えるような周到で陰湿なものが多いのだが、あるきっかけにより余裕なく主人公を大々的に貶めるようなものに変わり、ついに高等部二年のクリスマスパーティーで火の大魔法をもって主人公に襲いかかり、処刑される。

 とまあ彼女サイドから語ると心が痛くなるような人生なのだがそのことが判明するのは彼女が死んだ後であるしそれまでは彼女の陰湿さや暴言から彼女への作品内外で彼女へのヘイトが集まりまくっていた。まあそんな役割だ。しかも彼女にはどうにも救えない要素があって……。


《ぼーっとしてるみたいだけど大丈夫?》

 目の前で炎がメモ用紙を焼いて、思わず仰け反る。

《あ、驚かせちゃったね。でも大丈夫?寒くない?》

 そう言って視界の半分がマフラーで覆われる。そして残り半分に彼が映る。私は口元が見えないことを利用して目元だけで微笑む。

「ちょっと、眠いかも」

 かわいこぶってそういえば目の前の炎も《そっか、今日朝早かったからね》と変わった。そのまま柔らかい笑みを浮かべ頭を柔らかく撫でられる。


 ぐっ……!(瀕死)


 割とありがちなこの転生。この生まれ変わりにおいて、大問題が目の前に転がっている。

 具体的に言うと目の前の非常に顔のいい青年がそうなのだ。彼の名はレグルス、今世の義理の兄である。例えるならダイナマイト、地雷原、電子レンジに放り込んだ生卵。

 ところで、皆さんはよく言う悪役令嬢転生ものについてどのようなイメージをお持ちだろうか。チートキャラ的な?心を入れ替えて逆ハー築き放題的な?まあ、そうだろう。言ってしまえば彼女たちの断罪は彼女たちの罪によるもの。心を入れ替え(と言うか人格ごと入れ替わっている)臨めば割とイージーモードなイメージがある。いや、私の勝手なイメージだが。

 ただし「アメジク」の場合はその定石は通用しない。これは先ほどの「きっかけ」にも関わるのだが。

 実を言うと彼女「アメジク」は兄である「レグルス」に薬物を盛られたことで理性を失い、主人公をいじめていたのである。


 これはアジメクが処刑された後、ラスボスとして登場したレグルスがシャーロットの亡骸に呪文を唱え始めることで発覚する。

 そこで語られる真実。魔法を使えない孤独とそのせいで鬱々としたものを抱える「アジメク」。そして味方のふりをしていたレグルスこそがアジメクに理性を失わせる「魔力増強剤」を秘密裏に飲ませていたこと。そのせいで感情が爆発し、段々と嫌がらせも大胆なものになった言ったこと。「なんで、なんでそんなこと……!」と瞳を潤ませる主人公、その肩を抱きそして昂る感情を押し殺すように拳を握り締める王子。

 それに対するレグルス。

《それにしても綺麗な状態で死体を手に入れられたのは良かった。万が一スピカが痛い思いをしたらかわいそうだからね》

 主人公サイドで魔法使いが「『降霊の儀』だ……!」と叫ぶ。光り輝く処刑台。

《ふふ、スピカに似合う新鮮で元気な器を用意するのは骨だった。性別、年齢、血液型、彼女に似た容姿。それでも用意した甲斐があった!》

 狂ったように叫ぶレグルスに呼応するように、たった今息を引き取ったはずの彼女が目を覚ます。


「ん……あれ……?お兄ちゃん?」

《うん、スピカ……?》

「え、どうしたの?お兄ちゃん……泣いてる?」


 目を開けた彼女は純粋無垢そのもの。抱き合う兄妹は感動の再会そのもの。王子はたった今目覚めたレグルスの妹に、いじめを始める前の、そして薬を盛られる前の彼女に重ね合わせて低く呻いた。



 とまあ、こんな感じだ。つまりは目の前の美少年ことシスコン狂人は将来死んだ妹を蘇らせるために私を殺すし、私は懐いてたし味方だと思っていた兄が一番の敵だったと言うわけだ。多分作者はアジメクのこと嫌いなんだろうなと思われる展開である。ちなみに本人によると「めっちゃ大好き」らしい。愛が歪んでる……。

 このように多分何をしても死ぬ無理ゲーに転生したわけである。もう正直諦めたいところだが前世も高校生で死んだので出来るだけ生存していきたい所存である。いや出来るだけとか言わず百歳まで生きたい。老衰で死にたい。

 痛い思いも怖い思いもしたくない。

 なので記憶を取り戻して二年と数ヶ月、十一歳の三月に至るまで様々な戦略をとっていたのである。




 まずは一つ目、懐いて情を持ってもらおう作戦。

 それが今である。ベッタリしてる。彼は学園に行っているため時間は限られているものの家にいる時は時間いっぱいひっついている。多分心底うざいと思うけどこの可愛い顔に免じて許してほしい。

 ちなみに収穫はさっぱり。多分私がただの年齢通りの十一歳の少女だったら気づかなかったけど、元女子高生だったからわかる。瞳の奥の奥が冷たい。絶対零度である。それに対して彼の得意魔法は火魔法なのだから魔法というのはよくわからない。

 そして補足しておくと、このようにレグルスと仲良くと言うのが無理だと気がついてもこのように懐いたふりをし続けるのは、単に引っ込みつかなくなっただけだ。機嫌が悪い時は単純に殺気を向けられるため寿命が縮む行いではあるがいきなり兄離れというのもしにくい。まあタイミングは測っているけどね。


 次に二つ目、私の価値をあげよう大作戦。

 これは前世の記憶を思い出した時から続けていることだ。まあ俗に言う俺TUEEEである。

 やっぱり異世界行ったらね。とりあえずやるよね皆。私もしました。電化製品の開発とか、マヨネーズとか。さすが大貴族、できちゃったね。

 そんでそのまま父親(パパと呼んでいる)や各種使用人?職員?も仲間につけた。これは元々のアメジクちゃんが優秀で優しい子だったからすんなりだった。なんか変に心入れ替えるみたいなイベントをこなさなくて良かったし。

 あとちなみに言っておくと、異世界のパパはめちゃチョロでした。みんなも異世界行くなら参考にしてね(ないか)。


 そして三つ目。多分兄のことが片付かないと意味がないにしろ、殺される舞台である学園への入学を頑張って避けた。それはもう駄々を捏ねた。作戦二つ目で周りの好感度上げておかないと無理だった。

 いや、アジメクちゃんは悪役令嬢には珍しく元からいい子だったから私じゃなくてもいけてたかもだけど。

 まあこのように駄々を捏ねまくって学園に通うことは回避したのだった。良かったですマジで。いやアジメクが本編に登場しないことによるバタフライエフェクトで誰かがその枠に収まったらどうしようとは思うわなくはないが、そっちはそっちでなんとかしてくれ。


 こうして日々生存戦略を敷いているわけだけど、それでも兄は怖い。だって彼は私に優しくしてくれる。多分顔がスピカちゃんに似ているから。

 生きている今も彼は私をスピカちゃんの身代わりとして見ている。つまりは殺せば本物になると分かれば躊躇なく彼は私を殺す。だって彼は私を見ていないから。

 この記憶が入る前のアジメクちゃんは、きっと彼が大好きで依存していたに違いない。アジメクちゃんにはあまり話さないお父様と身分差しかない使用人しかいなかったのだ。

 だからこそ、普通の愛を知っている私には、兄からの視線は怖くて仕方がない。


《もうすぐ着くよ》

 外の景色を見ていた彼が言った。私も釣られて外を見ると、名も知らないカラフルな街が視界を彩っていた。

 今日は父に勧められ、兄妹二人で近くの街にショッピングだ。確かに家に商人が来てもらうよりも自分で選びに行きたいと言ったのは私だけど、別に兄と二人きりでとは言ってない。

「楽しみだね。お兄ちゃんと二人なんて久しぶり」

 それでも、相手が死の象徴であるとしても、うざったいぐらいにひっついて媚を売る。自分でも矛盾していると思う。

 突然この世界に生まれ変わって、何が何だか分からなくて。私はそんなに上手に生きられていない。器用に生きていけてない。

 もしも私が物語の主人公だったら、きっとすぐに死亡フラグをやっつけて、気づいたら愛されとかになっていい感じの人と結婚するのに。でも私はきっと脇役だから、描写さえそんなにないと思う。


 それでもこれは、ちっぽけな私のための生存記。

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