閑話・三年生二者面談
真相回
(あー……めんどくせー……)
こんにちは、この度は団長になりました三年のシータです。シータ先輩とお呼び。
一年生編ではいじられ真面目眼鏡としての出演でしたが今年は団長として団を指揮する立場となり、そしてついには語り部になれたことを誇りに思います。
俺の天下だ……!
さて、今回は閑話。主人公を中心とした物語ではなく今回は三年生を中心とした物語をお送りしたいと思う。あ!次の話に行こうとしないで!確かに飛ばしても物語の内容に全く問題ないけど!
そう、内容に全くかすりもしない。今回は体育祭練習の合間を縫って行われた三年生メンバーと団長である俺の面談の話である。
タイトルはそう、「三年生二者面談」もしくは言葉を選ばず言うならば「面倒で拗らせた格好悪い先輩たち」である。
練習が終わり、各々自主練に移行していく中俺は一人団室に帰る。そこで団室の中でも四畳くらいの一室を陣取ると、ドアに「面談中」のプレートを引っ掛けた。これ、実はドアノブにかけるだけで防音魔法がかかる優れもので、生徒会に申請してレンタルした実は高級品だ。
こんな薄っぺらいのに。割ったらどうしようかとヒヤヒヤしているのは内緒だ。
まあそれは置いておいて。しばらくして聞こえたノックの音にいよいよかと顔をあげる。
そこにいるのは、日頃のひまわりのような笑顔を随分思い詰めた表情で覆い隠した、カラ・アルゲニブだった。
この面談を実施しようと思ったのはブラザー・シスター制度を初めた次の日。思った数倍学年間でギクシャクしていたことからである。
いや、一年生とならまだ分かるけどなんで二年生とも仲良くできてない人いるの?もっと声かけろよグイグイいけよほら、そこ!となって二日目が終わって早々に気づいた。
これやばいな、と。
と言うわけで一人一人話を聞くことにしたのだ。団内を円滑にするのは俺の役目でもあるし。
ただ、今はめっちゃ後悔してる。放っておけばよかったのだ、こんな奴ら。
「団長聞いてー!もうどうしよ!可愛すぎて話せないー!尊すぎ!母性溢れ出るよあんなん!なんで私あの子たち産んでないの⁈」
(…………)
「もう、もうさー。え?あの子達多分まだ五歳とかなの!もしかしたら赤ちゃん!……そうなると私産めるな計算的に。つまり私がママだった?」
(…………勘弁してくれ)
「頑張れば母乳出る気がしてきた……」
「やめてくれ学園での妊娠ネタはまじで洒落にならん」
防音魔法を使っているが。それはそれとして問題にしかならない。
その路線で行くとこのように密室で男女が二人きりなのもだいぶまずいけど。そこはとんでも代表クロダン、修羅場を超えると男女の差異などどうでもよくなるのだ。(人間の種類なんて怒る側と怒られる側である。)
そう、問題とは三年生のコミュニケーション能力であった。あいつら、相手の目を見ると素直にお話しできないタイプなのだ。ふざけるな。
「それで私がちょっと張り切って走り込みして、息切れてたらね。ラーンちゃんがスッと飲み物差し出すの。それでなんて言ったと思う?」
「(……これ何度も聞いたけど)なんて言ったんだ?」
「大丈夫ですか、先輩。でもさすがですねって!いやー頑張ってよかった」
笑顔でピカピカのカラ。くそ、羨ましい限りだ。まあ俺のチームの後輩もとんでもなく可愛いがな!
そしてその笑顔に対して俺は問いかけた。もちろん何度もこの話を聞いているから、聞くまでもなく知っているのだけど。
「よかったな。それで、なんて答えたんだ?」
「…………『当たり前でしょ、ラーンも練習戻りなよ』って」
拗らせてやがる。
カラを宥めすかして部屋から追い出す。まああまり解決はしていないが、少しは吐き出せたようだ。とりあえず彼女は面と向かって上手にお話しできないタイプらしいのでお手紙でも出してみるように提案しておいた。
なんて言ったって今日は本当に残念なことに相談相手が多い。プライバシーもあるので時間を指定して来てもらうようにしたが、もし外に並ばせていたら行列ができていただろう。
そんなわけで、カラが出てった(追い出した)数十秒後、再びその扉が開いた。
「俺は……俺はなんてことを言ってしまうんだ……」
「落ち着けよ、ベゼク。話聞くからさ」
いつも明るくて少しお調子者の気のいい同級生の、こんな顔見たくなかった……!
「分かっています。分かっていますの、でも、チームの後輩たちを前にすると平静でいられなくって。ドキドキが止まらなくて……!これが、恋?そうするとなんて罪な女なのでしょう、二人の殿方同時に好いてしまうなんて。お父様になんて言えば……!」
「…………ポリマ、そう断定するのは早いかもしれないからお父上に相談するのは辞めなさい」
「でも!あんなに動悸が止まらなくて、めまいがして、頭が痛くなって、胸が苦しくなって締め付けられるように痛いのです……!」
「まずは病院行け」
「…………」
「シトゥラ、シトゥラ。泣かないで、そんな静かに泣かないで」
「……だって、私。うまく、話せなくて……」
「うん、分かるよ、大丈夫だよ」
「本当は、もっと褒めてあげたいの。どんどん上達してるし、体力もついてきて」
「うんうん」
「褒めて、頭を撫でて、お小遣いをあげて、お母様に相談しておいおいは土地とかもあげたいの」
「うんうん、辞めてあげな」
「あげたいプレゼントで部屋が埋まってきてるのに……!」
「ふーん、辞めてあげて」
「今日は、一緒に、ご飯、食べた」
「へぇ、成長したじゃん。どうだった?」
「いい子だった」
「なに食べたの?」
「なんか、食べ物」
「本当に覚えてないんだな」
「ヘゼちゃんが『それ好きなんですよ』って言ってた」
「会話は覚えていると。まあ会話できてるだけ偉いぞ、スカト」
「お前に、褒められて、も、嬉しくない」
「帰れよ」
さて、とんでもメンバーをあしらいあしらい宥めすかして、本日は残り一人になった。しかしその最後のが最大カロリーであることを俺は知っている。
ノックを三つ。
「いいよ」
ぴょこんと顔を覗かせた、目元を厚い前髪で覆い隠した少年にため息を吐きそうになる。
(なにも悪いことしてませんみたいな顔しやがって……!)
彼、エニフ・イプシロン・ペガススは他の三年と同じく後輩と全くコミュニケーションがうまくいっていない人間の一人だ。しかしそれはそれとして、いちばんの問題は彼にその自覚がないことだろう。
とんでもない天然野郎なのだ。
「…………(今日はシルマくんがいっぱい話しかけてくれて嬉しかった)」
それはお前が話さないから怒鳴られてただけだろ、とは言えずに「良かったな」と返す。本来こう言う奴らのために作った相談室の制度であるのに全く機能していない。
「…………(アジメクちゃんもいっぱい目を見てくれた。……しーちゃん、後輩って可愛いね)」
前半には訂正したいところはあれど後半は同意だ。「まあな、エニくん」と返すと彼は嬉しそうに笑った。
しーちゃん、エニくんと気の抜けそうな呼び方をしていることから分かるように、俺たちは所謂幼馴染というやつで。彼の事情はよく知っていた。
エニくんが後輩には喋らないだろう、その過去もよく知っていた。
彼は、嫉妬深い女神様から「人間と喋らないで」なんて言われてるみたいな男だった。
彼の舌は人よりも大きい。具体的に言うと二、三倍くらい大きい。それが上の歯と下の歯に収まるわけがなく。
エニくんは喋れない。うまく舌を動かせないのは幼少期に克服したけど、その代わりに喋ろうとすると二分の一回の確率で舌を噛んでしまう。
エニくんは頷けない。頷く振動で、四分の一の確率で舌を噛んでしまうから。
そうして若干五歳の時、可愛いけど喋らない、お人形のようなエニくんが出来上がったのだ。それでもその時は今のように全くコミュニケーションが取れないと言うことはなかった。その表情をコロコロ変えることで周りとのコミュニケーションをとっていたのである。
しかしそれも奪われた。原因はその美貌。エニくんの表情で周りが彼の意を汲むようになっていった時から、少しずつ。
「可愛い男の子」が「可愛い可愛い男の子」になって、「町で一番可愛い子」「領内でも話題の可愛い子」「直視できないくらい可愛い子」になる。そして成長につれ「可愛い」よりも「かっこいい」がふさわしくなった時。
彼の周りが時を止めるようになったのだ。
ある日を境に彼の顔を見るだけで時が止まったようにぼうっとする人が出てきた。それも一人や二人でもなく、皆。
俺はその時の止まった町で、彼にいつものように声をかけた時。彼がクシュリと顔を歪めて、とんでもなくかっこいい顔で号泣した日を覚えている。
そうして彼は顔を隠した。学園では前髪という目立たなそうな装備だが、夜会などでは洒落た仮面で。
そんなふうに生活をし出したのが七歳の話。彼は現在十二歳。天然というか対人関係において頭の足りなすぎる言動を繰り返すところはあるけど、大体は善意でできてるので怒れない。そして他の生徒のように手放しに「それを声に出せよー!」とは言えない。
なので俺は仕方がない、彼を信じることにした。そしてその後輩たちも。みんな、悪いやつじゃないから。
まだまだ体育祭練習も序盤。ここで彼らを引き離すと修復が難しくなることはなんとなく感じたから。
だから俺は、次の日相談してきたアジメクに言ったのだ。
「チームの問題は、俺じゃなくブラザーを頼りたまえ」
「大丈夫、エニフはやる時はやる男だ」
全てをエニくんに丸投げする勢いだが、俺は知ってるのだ。
話すときにガスマスクを着けるのは、エニくんが話すたび吐血するのを俺が怖がったから。周りの時が止まったことで事故が起きた時、あいつはなんの躊躇もなく顔面を焼こうとした(泣いて止めた)。
あいつがいい男だってことを、俺が一番知っている。




