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身代わり少女の生存記  作者: K.A.
前日譚:初等部1年
22/88

ズルしないためのズルい根回し

「あー、分かったよ。まあ、その時聞いて良いと思ったクラスに投票します!不正はしません!」

「ゼータどう?」

「アウトですね。別に音楽祭の順位とかどうでもいい、大人しく一番にされておいてくれよって思ってます」

「最低……」

「だー!ずるいじゃんかキャス家出すのはさー!」



「やっぱり便利だな。ゼータの能力」

「うん。ボクもそう思う。まあ、あんまり魔力量が多い人は使えないけどね」

 彼の特別魔法は心を読む。代々同じ能力を受け継いできたそうだ。私は名前を聞いてもピンとこなかったが、アルはすぐにわかったようで「あの……」みたいな反応をしていた。でも正直私とアルの知識の差がありすぎてどの程度有名なのかがわからないけど。ただ彼のファミリーネームの「キャス」を出せば先生たちもわかったので、彼自身か彼の家かは有名っぽい。

 そうしてアルは手を替え品を替え先生たちを説得し、ゼータには最終的にどう思っているかを聞いてもらうことで、その場限りの返答ではないかと確認する。最強の布陣が整っていた。え?私が何をやってるかって?何もやってませんが???


「じゃ、次はここだな」

 私たちの教員訪問も後半戦に入った頃、一つの教室にたどり着いた。

 魔法教室だ。

 ここからはゼータの能力は使える可能性は低い。なぜなら彼の能力は魔法に長け、警戒心の高い彼には通用する可能性が低いからだ。しかしアルはゼータにこれまで通り一緒に入るように促す。

 そして交渉は始まった。


「失礼します」

「来たな」

 そう言って出迎えたのはアルキオネ・スバル先生。彼はまるで魔王のように顔を歪ませて私たちを出迎えた。

「その話はいらん。帰れ」

 そして強火力で迎え撃たれた。私とゼータは顔を見合わせた。

「もしかして、他の先生から話聞いてますか?」

「ああ。まあそれもある。教員同士は話が広まるのが早いぞ。これからも注意しろ」

 まあ、多少は話が広まり、教員側の警戒心が強くなることは予想していた。しかし時間が経っているとはいえ他の棟から離れている魔法クラスのある棟にまで話が広がっていたとは。もうこれまでのようなカウンターなどは通じなくなったと思われる。

「それとあともう一つ。お前ら普通クラスAクラスの担任って誰だと思ってるんだ。普通にあのホームルームやってた教室にいただろ」

「………………あー!」

「あ」

 まじで忘れていたので顔を見合わせた。そんな私たちにゼータは引いたような顔をした。し、仕方ないじゃん!ほとんど喋んないし!

 まあ、事実確認は済んだので話を続けることにした。

「と言うわけで、お願いしますよ」

「断る。未来永劫、説得に応じることはない」

 頑固なお人である。ゼータの能力は使えていないみたいだが、残念ながら事実であるのだろう。あまりにも取りつく島もないというか、攻略の難しさに、その後も何度か説得を試みたアルもとうとう諦めた。

「じゃあ、帰ります」

「さっさと帰れ」

 生徒に言う言葉ではない。まあ先生の態度は置いておいて。


 ドアを閉めた直後、アルはおもむろに立ち止まった。

「…………」

「アル?どうかした?」

「あ、いや、さっきの先生との会話を思い出していた。いや、気のせいかもしれないが、なんか僕の説得の返しに、不自然に先生の名前が入っていた気がして」

「先生の名前?」

「あぁ。『その説明だとエルナト先生くらいしか落とせん』とか、『プリマ先生ならその言い方なら頷かん』とか」

「……めっちゃ、指導だね」

「僕もそう思う」

「……もしかして、やたらと説得はいらないとか言ってたのって、元々ボクたちの味方だから?しかもそれがバレないようにわざわざ周りくどい言い方をしてたって事?」

「多分そう」

「回りくどいな……」

 その後の説得は、それまでのものよりも数倍のスピードで進むことができた。

 そして全ての先生の元を回ったところで、ゼータとはそこでお別れだ。

「ありがとう、ゼータ」

「こっちこそ。というか、ボクたちが勝てるようにって動いただけだからね。優勝はボクたちDクラスがいただくよ」

「いやいや。優勝はAクラスだからな」

「そうとは限らない。だってボクたちには歌姫がいるからね」

「歌姫……?」

「うん、そう。じゃ、またねー!」

 そう手を振って離れる彼。私たちには「歌姫」と言う謎のワードだけが残った。




「音楽祭について説明します。今回私たちが演奏するのは『双つの悪魔』って曲です。パーティーでそこそこ聞くような曲よ。多分題名を聞いたことがなくても聞けばわかると思うわ。これをピアノ、バイオリンなどが弾ける人はその演奏、歌唱パートの歌唱、ダンスの三つに分かれて行おうと思っています。事前に聞いた希望から分けましたのでご確認ください」

 クラスでの練習も進行中である。私たちは着実に練習を重ねていた。


 三つの班に分けた練習。私は歌唱班である。同じく歌唱班であるミラさんを主体としたチームで、今日も練習を行なっていた。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

「もう一周!」

「「「はーい!!」」」

 いや、同じような光景見たな。具体的に言うと体育祭の時とかに。


 そう、我らが歌唱班はまずは筋肉、腹筋・背筋と、全身を鍛えるメニューをいの一番に取り入れている。と言うのも「双つの悪魔」はバリバリのクラシック、オペラに使われていた歌でもあるのでめちゃくちゃ高音や声量が試される曲であるからだ。そのため十数人の私たちでも迫力が出るようにとのメニューなのである。

 めっちゃきつい。特に体育祭での走り込みが少なかったというハトダンの子達が特にバテ気味である。しかし練習は続く。

 筋力トレーニングの後は肺活量のトレーニング。お腹を抑えて息を吸ったり、吐いたり。ホースを使って肺活量を測ったこともある。


「じゃあ、次!腹筋するよー!」

「「「はーい!」」」

 まあ、みんな辛いのだが。それでもついていっている。

 なぜなら指導係にまわったミラ嬢は私たちの何倍も余分に走っているし、筋トレをしていてるからである。

 地獄からは、以上です。




 演奏班の練習は、はっきり言って地獄だった。アル、カペラはここの班だったが、二人して頭を抱えるくらいには地獄だった。

「だから!ここは前の二小節と同じように引けって言ってるんだけど!」

「だからそれが難しいから無理だって言ってんでしょ⁈」

 なぜならみんな経験者、しかもこの場に立候補するくらいに実力がある。みんなこだわりも弾き方もバラバラ。揉めるなと言う方が無理ある。

 しかし、これでもしも、もしも中心人物がいてくれたら変わるのに。

 絶対的な信頼があって、誰もが納得するようなそんな中心人物。若干その枠にアルが収まっていることは百も承知だがアルは自分の弾けるピアノくらいしか楽器を知らないので。

 その後、話し合いの激化。先生を呼ぶかと話し合っているうちに、慌てたように男子生徒がドアをあけ、教室に飛び込んできた。

「遅れてごめん!ミラと今後の練習について話し合ってた」

 そう言うと彼は、手元の黒縁メガネを磨きながら挨拶をした。

「指揮者のアルレシャ。よろしくね」

 白い歯を見せつけて笑う彼を見て、僕はすっかり安心した。きっと彼は指揮者という立場から僕たちを引っ張ってくれる。やっときた指導者だと。

 そしてその一時間後、これまではなんだったのだろうかと考えるくらいには地獄を見た。

「そこ!ワンテンポ遅い、フルートここで入れって言ったよな?ピアノ!音量落とせ!」

 いや、その……喧嘩を止めてとは思ったけど、鬼畜空間にすることは止めたとは言わないぞ?




 ダンス班はベガと俺ーーリゲルが参加した。

 ここは他と違って指導者がいない。振り付けを考える担当はいたけれど、彼女は考えるだけ考えて演奏班に行ってしまった。先行き不安、しかしそうも言ってられないので練習を行う。

「もっとここ揃えた方がいいよね」

「ちょっとここの動きずらしてみない?」

「よし、じゃあ一回やってみよう!」

 ちょ、ちょ、ちょっと待って!

「正反対のこと言ってから行動に移そうとするなよ!それ絶対後で喧嘩になるだろ……」

 この場はダンスという体を動かすのが前提の班。血の気の多いものばかりである。

 それなのに深刻なまとめ役の不足。大分しんどい。疲れてベガを探すと、ちょうどベガもこちらをみていて、鼓舞するようにガッツポーズで応えられた。

 はあ、しんどい。誰でもいいからこの場を納める人、リーダーシップのあるリーダーがいてくれたらいいのに。練習を見ていて、練習開始など言い始めたり、なんとなくこの場を納めることの出来人間。

(まあ、そんな人が都合よく現れるわけがない)

 仕方がないので俺がそれまでの繋ぎ、というか、問題が起きないようにだけ見ておくか。

 リゲルは軽く指示を出しながらリーダーの誕生を心待ちにしていた。


(((リゲルがリーダーになってまとめてくれてよかった!!)))

 ちなみに、ダンス班はもうとっくにリゲルをリーダーと認識しているのだが、それは彼は今後知れることがない。

 まあその思い違いのせいで、これからリゲルは忙しさに地獄を見ることになるのだが、それはこの際おいておく。

 リゲルが王子様を待つが如く、リーダーの誕生を待ちすぎて若干壊れる日まで、あと七日。





「頑張ってるね、Aクラス」

「頑張ってるねぇ」

 クスクスクス。話す内容にしては嘲笑を含んだ言葉。彼女たちは声も潜めずに話した。

「素人が今から頑張ってもねえ。どうせ歌姫には敵わないよ」

「そうだよね。あの人には敵わない」

「一番の演奏をするのは、私たちDクラス!」

 私たちが練習をしている最中、当たり前だが敵クラスも確実に実力を伸ばしていた。

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