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身代わり少女の生存記  作者: K.A.
前日譚:初等部1年
21/88

音楽祭、始動

 さて、こんなふうに平和な日々を過ごしていた私たちだが、実は初等部の大きな行事は体育祭の他にあともう一つある。


 十一月一日。今から一ヶ月と少し経った頃にある音楽祭だ。

 しかしながら、この行事は体育祭に比べると実に不人気。

 それはクラス・学年混合、魔法禁止の公平極まりない体育祭とは対照的に、クラス対抗、魔法もなんでも使用可能という、なんとも身分や魔法での殴り合いが行われそうなシステム。

 つまり毎回身分の高いAクラスが、魔法の使える高位貴族が所属するAクラスが優勝する。その後の順位もきっちりアルファベット順である。なんてつまらない。

 その事実は入学当時ならばともかく音楽祭の近付く十月には一年生にも周知の事実とされていた。そうなるともうつまらなくて仕方がない。何をしても負けると分かっている下のクラスも、何をしても勝てると分かっている上のクラスも。

「そんな音楽祭を私は変えたいと思ったんですわ!」

 普通Aクラスのホームルーム。壇上でそう話す子は音楽祭実行委員の一員であるミラ・シェリアクさんである。彼女は肩を怒らせて言った。

「私たちAクラスは正直、何もしなくても勝てると思われますの」

 そ、それは流石に言い過ぎでは……?私は教室の片隅でそう思ったが、周りのみんなは同意するようにうなづくものだから空気を読んで口をつぐんだ。ミラさんは悔しげに自らの胸元を掴んだ。

「何もしなくても。ちょっと歌いさえすれば勝てますわ。多少ミスしても、次のクラスが素晴らしい演奏をしたとしても勝てます。三年前はクラスの約半数の生徒が音楽祭に来なくて残りの人間で少し歌っただけのクラスが優勝したという噂もあります」

 う、うわぁ……。ごめん言い過ぎではなかった。確かにこれはやる気をなくすのも無理はない。

「だからきっと、十一月にはこの教室に優勝の盾があることでしょう。しかし私、悔しくって仕方がないんです。だってそれは、私たちの実力ではないと言われているみたいで。むしろ一生懸命やったとしてもまるで地位や魔法の力で賞を買ったように思われるなんて。そんなの、我慢できません!」

 ミラ嬢はその丁寧な口調と可愛らしい外見と似合わず結構男らしく拳を握り突き出した。そしてクラスを扇動するように声を張り上げた。

「必ずや!音楽の力のみで、他クラスと圧倒的な差をつけ優勝してやりましょう!正真正銘私たちが一番!もう親の力とは言わせませんわ!」

「「「「おーー!」」」」

 さすが高位貴族の子息の集まりというべきか、今回に限らずこれまでの鬱憤も兼ねているようだ。ちなみについこの前まで孤児院にいて貴族とは関わりのない人間であるのであまり同感はできずに少しで遅れて一緒に拳を突き上げた。

「お、おー……」


「そっかー。今年の一のAはそっちなんだね」

 時は放課後、クローバーの団室。クラスの盛り上がりようをその場に居合わせた先輩に話すと、カラ先輩は笑ってカップに口付けた

 クローバーの団室。四つの団に設けられた一室はスペードからクローバーに一室ずつ設けられており、学内中に点在している。その団室は団にとってはもはや城と言ってもよく、その場所さえも団員と団の担当の先生のみしか知らないという徹底ぶり。

 そのため他の団室は見たことがないが、クロダンの団室は第三校舎(教員の研究室の多くと三年生の学習室がある)の半地下。中庭の隅に入り口がある。隠密性は何かの財宝を隠していると疑うレベル。

 その中は、まあエンタメのクローバーというべきか、一切の大人の目を振り切ったおぼっちゃまお嬢様の集いというべきか。まあ一部巣となっているところもあるが大体楽しげな建物である。

 当然、用のない一年生は通う通う。授業の早く終わった日、宿題をやりにくるは単純に遊びにくるわ。先輩と良好な関係を築いているクロダンならではの使い方であるが、その日もダラダラと宿題をしたり遊んだしていて、話の流れから音楽祭の話になったのである。

 それにしても、意味深な話し方だ。同様に気になったのか、リゲルが聞いた。

「そっちってどういう意味ですか?」

「ああ、うーん。多分やる気を削いじゃう話になると思うけど……」

「え、気になりますよー」

「あ、そうだよね、そうなるよね。私が言い始めたのにね。えーと、うーん……私が教えたって言わないでね」

 思ったよりも重要な話だったみたいだ。カラ先輩は周りを気にしつつ話し出した。


「音楽祭って割とつまんないっていうか、その、Aクラスの子いる中でいうものじゃないけどさ、まあ出来レースみたいなもんじゃん?だからさ、分かれるんだよね、大体。どうせ勝つって練習も何もしなくなるAクラスか、皆みたいに実力でって奮起するAクラスか。二年からは大体後者だからね、毎年、一年はどっちになるのかなって上の学年の人で予想したりするんだよね。それでそっちかって思ったの」

 もしもこれが数少ない音楽祭の楽しみ方だったりしたら泣ける。まあ賭けに使われるよりかいいのだろうか。

「まあ、反転して言えば他のクラスも諦めるか頑張るかって見ものであるよね。あとまあ、雑に纏めちゃえば、そうやって予想大会が開かれるくらいには頑張ろうってクラスも多いってこと!これ本当、一年だけだからね。多少は外面もあるしちゃんとやるけど、やる気とかドキドキとか、全部一年生の時にしかないものばっかり。音楽祭は一年生が一番楽しいからさ、頑張ってね。応援してる」

 さすが、体育祭を一番楽しんだオリジナルダンスの2年生は違う。そして一際声を潜めていった。

「もし本当に楽しみたいんだったら、クラスメイトに親に賄賂を渡させないように言った方がいいよ。去年、私たちの代も頑張る派のAクラスだったんだけど、クラスメイトの親の一人が子供に内緒で賄賂を渡してたらしくて。それがバレてあわや学級崩壊って感じ」

 カラ先輩は本当に乱雑にまとめると話はお終いにして次の話題に移った。そして私たちクロダンAクラスの面々は互いに頷き合った。



 その話を次の日の朝拡散。各々手紙を送ることを決め、私はアルに放課後付き合うように言われた。

 もちろん告白じゃない。


「ねぇ、どこに行くかくらい教えてくれたっていいんじゃない?」

「…………まあ、ここまで来ればいいか」

 連れてこられたのは人が滅多にこない四階への階段の踊り場。シチュエーションだけ見ればそれこそ告白である。

「なんか変なこと考えてるだろ」

「ナンノコトカナ」

 ため息を吐かれた。

「まあ、クラスが盛り上がってる中言いにくいんだけどな。お前、七年前のアラドファル家の事件知ってるか?」

「え?いや、七年前ならまだ生まれてないけど」

「いやそれは嘘だろ。……まあ、知らないだろうな。俺も知らなかった。ちょっと、家にいるゴミに教えてもらっただけだ。多分まともな大人なら子供にこんな内容聞かせないだろうし、クラスのみんなも知らないだろうな」

「家にいるゴミ?」

「そこは気にするな」

 気になるだろ。パワーワードに引っかかる私を置いてアルは話を続けた。

「音楽祭の順位が上のクラスから順に決められるってのは、知ってるだろ?まあ子供に取っちゃあつまらない制度だし傍迷惑な文化だけどさ、これを尊んでるって言うか、ここから外れたらまあよっぽどのことだ、そんなにも劣った生徒なんだと考える大人ももちろんいるわけよ。たかが音楽祭でって俺たちなら思うけどな。そう思う人が一定数いるし、公言して憚らないおじいちゃんもいる」

「……まあ、そうだろうね」

 そこらへんの、親として子供に勝たせてあげたいという以上の思いがあることには気がついていた。だからこその百パーセントの順位固定だ。

「そうなるとどの親も自分の子供に変な言いがかりをつけられるのを恐れてなんとしてでも順位の入れ替えなどあってはなるまいとする。それに対して学内の生徒、そして一部熱血な教師は伝統を変えられるのなら変えたいと思っている。そんなふうな対立を抱えて起こったのがアラドファル家での事件だ。またの名をアラドファル家娘殺し」

「ごろっ……」

「正確には死んでない。殺そうとはされたけどな。七年前にあったんだよ、順位変動。俺たちみたいな初等部一年で。アラドファル家の令嬢のクラスは全員での合唱をしたんだけど、令嬢はピアノ伴奏だった。そしてピアノがミスを続けて結局プライドの高い彼女は演奏を止めてしまい、そして合唱自体も中断。審査員である教師は流石に演奏を中断したクラスを下のクラスよりも高い順位につけるべきでないという結論に達し、彼女たちEクラスを最下位にした。まあFクラスまでだったから幸いというべきか順位変動は一クラスだけだったから教師も生徒もそんな問題視されるなんて思わなかったんだろうね。で、次の休みに彼女がアラドファル家に帰宅、母親に刺された」

「……」

「まあ、結局令嬢は死ななかったし、多少話題になったけど学校を辞めたとか、行き遅れたって話は聞かない。まあ言っちゃなんだけど下位貴族の話だから、多少の醜聞位って感じで。ただまあ、そこから学校側が慎重になるのも頷けないか?」

 同意を求める表情は悲しげだ。どこか諦めるような。しかし私は聞いた。

「…………それで?」

「ん?」

「それで、今から何をするの?」

 正解とでも言うように指を鳴らすと、アルはニヤリと笑った。



「今から行くのは各先生に割り当てられた教科準備室!皆が親に根回ししている間に僕たちは先生の方を攻めよう!方法はなんでもいい。親には文句を言わないようにとでも念書を書かせようが、今こそ時代の切れ目ですとでも言ってみようか、それとも『あなた一人自分の耳に従って審判しても他の審判との合計なんですから結果は変わりませんよ』とでも囁くかそれともシンプルに、権力で殴ってもいい」

「それで私?」

「そう」

 そう、ここにいるのは忘れがちだが第二王子と筆頭公爵家令嬢だ。


「まあ使い方は先生によって適宜変更で。まず話の広まり方として攻めるのは……」

「その話。ボクも入れてくれない?」

 ここは人気のない階段踊り場。二人とも誰もいないことを確認してから話し出したと言うのに。

 いきなり出てきたのは、丸い瞳の特徴的な、大きなマスクで顔をほとんど隠した男の子。

「ボク、役に立つよ」

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