ヤバいやつ(ガチ)
カペラちゃんの婚約者。婚約者、婚約者である。結婚の約束と書いて婚約者。いくら恋愛脳のカペラちゃんの恋愛の絡まない結婚であろうと結婚は結婚。一般的には好いたもの同士が行う儀式である。私たちとて、気にならないわけがない!
私とベガは学園が再開してすぐ、調査を開始することにした。
彼女曰く。
「え?お相手?アルビレオ家のご子息だよ。あ、そうそう。現宰相、その次男の。あ、うんクラスにいるよね、その子その子。え?どんな子かって?まあ無愛想だけど優秀な人だと思うよ。うん、自分にも他人にも厳しいって感じ。え?なんで私じゃダメなのって?ふふっ、カペラちゃんと結婚したら後継産めないでしょ。え?妾さん?」
リゲル曰く。
「え?カノープスがどんなやつかって?え?カノープスって誰か?お前らが聞いたんだろ。調べる人のファーストネームくらい知っておけよ。……まあ真面目なやつだよ。成績もいいし、まあガリ勉って感じではあるけど楽しそうに本抱えてるから勉強が単純に好きなんかな。俺には理解できないけど。って、ベガも同じ様なもんじゃねえか。まあ知ってるのはそんなもんかな。ファーストネームすら知らなかったお前らには敵わないけど俺もほとんど話したことないただのクラスメイトだからな。アルとはよく話してるみたいだからそっち聞きにいけば?」
アル曰く。
「カノープス?僕がよく話すからって?リゲルに聞いたのか?……え?どんな人かって?えーと、まあ、えー……。現宰相の子息で、成績が優秀で、えーっと。え?そんなこと知ってる?何か褒めるなり貶すなりしてくれって?いや本人隣にいるのにそんなこと言いにくいだろ。……え?顔知らなかった?あ、そうなの……こいつがそうだよ」
本人曰く。
「は?それ本人に聞くんですか?初対面で自己紹介強請る人なかなかいないでしょう。というかなんですかいきなり。ああ、君たちはあの鈍臭女といつも一緒にいましたね。その関係ですか?……は?鈍臭女が誰かって?だから、カペラですよ。カペラ・アダーラ。私の婚約者。その話をしたいんじゃないんですか?」
…………。
「あ、あれ?アジメクちゃんとベガちゃん?もう調査ってのは終わったの?え、どうしたのそんな怖い顔して。え?え?どうしたの?あんなやつやめて私にしとけよ?ベガちゃん私の貸した恋愛小説読んでくれたの?同性同士で遺伝子を混ぜて子供を作る魔術?絶対禁術だから探しちゃダメだよアジメクちゃん」
結論。
「あんな男にカペラちゃんはやらん」
「「いや待て待て待て」」
完璧な調査結果を昼に一緒になったアルとリゲルに報告すると、二人して焦ったように引き止めた。
「落ち着け。滅多なこと言うなよ。ほらパンでも食べて」
「ほらベガも。ピーマンも食べろ」
物理的に口を塞いでくる。大きめのパンを口に含まされた私と悪魔(ベガ談)を口に含んだベガは促されるままに大人しくなった。ベガは大人しくなるついでに苦味にやられてぐったりしたけど。そんな私たちにリゲルは偉そうに説明してくれた。
「たく、ガクルックス令嬢とポルックス家令嬢が結託してアダーラ家とアルビレオ家の婚約を破断にする予定なんて聞く人が聞いたらとんでもないスキャンダルだから!ていうか戦略結婚なんてどうせみんなそんなもんだから!」
「もぐもぐもぐもぐ」
「もぐもぐもぐ」
「それに破断になって困るのはカペラの方だからな。あの家は今男子がいないしカペラが家を取り仕切れるとは正直思えない。次男でも優秀なカノープスをっていうのは自然な話、普通に良縁なんだよ」
「もぐもぐもぐ」
「もぐもぐもぐもぐ」
「それにこの縁談は二つの家の不仲説を否定する意味もあるから。まあ割と真実だからどこまで効果があるかはしれないけど。まあ二人の意思が反映されないのは可哀想なことではあるけど貴族として仕方ないだろ。というわけだから暴走するのをやめろ。なあアル?」
「あ。あー、うん。そうだねー」
「もぐもぐ」
「もぐもぐもぐゴックン。……それはそれとしてカペラ泣かしたらあのハゲ締める」
「話聞いてなかったな?」
「あのいかにも禿げやすそうな金髪はだよね。狙い目」
「俺も金髪なんだよな」
察しの良いアルは自らの頭を抑えた。いや頭を抱えた?
まあ、私たちもカペラちゃんに迷惑をかけたいわけではない。というか貴族の令嬢たるもの家の事情での結婚なんて当たり前、だからこそ貴族は恋とは外でするものであるという意識が強いし、子供さえ作らなければ最近はそれも咎められなくなった。
でも、結婚相手が最悪となると話は違う。
「だから、君とこうやって呑気に食事をしている暇はないんですが」
「すみません……。でもお父様からもアルビレオ様と親交を深める様にと言われていますし」
「はぁ。またアダーラ家当主からの命令ですか。まあいいですけど。くだらないことに時間を割くほど暇ではないのでもう行きます」
「あ、待ってくださいアルビレオ様!」
「あ、うーん。俺が悪かった。俺が悪かったからどうかその拳を納めてくれ」
「は?」
「悪かったから!ちょっと我慢して!」
上記が「あ、ごめん。今日はアルビレオ様と一緒に食事するように言われててー」と言ったカペラちゃんの後を四人でこっそり尾けて聞いた会話である。
万死。ハゲのなんて禿げさせたい頭か。カペラちゃんのなんて健気なことか。ハゲを見ると無性にぶっ飛ばしたくなるし心拍数も上がる血圧も多分上がってる。これって恋?
「ベガは物騒すぎ。と、とりあえず深呼吸しろ?てアルも止めてよ。何笑ってんの?」
「あ。悪い」
リゲルはぼんやりとワンオペ育児ってこういうことかと最近話題の単語を思い浮かべた。安心して欲しい、本物はこんなものではない。
「じゃ、行きますので。そっちの親にはうまく言っておけばいいいのでは?」
「あ、ちょ……」
リゲルが母性を感じている間に目の前の男女は別れてしまっていて、あまりに憐れに引き留めようとするカペラちゃんに思わず女子二人はその間に飛び込んだ。
こちらをチラリと見てから去っていくカノープス・アルビレオに敵意剥き出しで睨む。残念ながらその後こちらを振り返ることはなかった。
数秒後、ドタっと彼が曲がった角の先で聞こえてアルがチラリと私を見ると、私はそっぽを向きながら「転んだんじゃない?」と答えを寄越した。比較的初歩的な靴底の水分を一時的に多くする魔法である。教えたのはシリウス先生。
「えっと……」
戸惑ったように首を傾げるカペラちゃんをベガは思わずきゅっと抱きしめ、私もカペラちゃんを近くのベンチに誘導した。女子会のターンである。
あぶれた男子二人は顔を見合わせ、どうしようかと話したところでアルが言った。
「カノープスの様子を見に行こうぜ。きっと面白い物が見れるぜ」
リゲルはきっとすっ転んでいるだろう彼を思い、こいつ性格悪いなーって思った。
まあ、結局面白いものとは無様に転がるカノープスのことではなかったが。カノープスに追いついた俺ーーリゲルは追いかけたことを後悔していた。
「彼女は天使なんです。その外見の話じゃない。もちろん外見も天使や女神、妖精の様に神秘的で清純な美しさを持っていますが、それだけが彼女の魅力ではもちろんない。彼女はこの世に遣わされた俺の女神。俺のためだけの彼女です」
「何言ってんだ?こいつ」
「聞くなリゲル、長くなるぞ」
「今のナシで」
「あ、貴方はリゲル・メンカル!マイエンジェルの半径二メートル以内に今月34回入った男ですね!カピーのなんなんですか貴方は!」
「きゅ、急にキレるじゃん……友達⁈」
「友達か。婚約者な俺の方が上!そうですよねアル」
「そうだな」
「ちょ、タンマタンマ!」
アルがうんざりしたように頷く。俺は慌ててその襟を持って引き寄せて顔を寄せた。
「あ、あれ何?」
「聞いた通りだろ。アダーラ過激派の成れの果て」
「い、いやさっきと様子違くない?」
「まあそうだ。じゃあ、聞いてみろ」
「え?」
「なんであんな態度取るのか」
「は、はあ」
うんざりしたように言うアルに、これ以上の追求は諦めカノープスに向き直る。
「話を中断してごめん。ただ、いくつか聞いてもいい?」
「え?まあいいですけど。どうしました?」
そう不思議そうに聞くこいつは比較的小柄で敬語を使って話すこともあり、パッと見先ほどカペラ嬢にひどい扱いをしていた人物とは思えない。とりあえず、簡単なことから聞いてみようか。
「えっと、カペラちゃんとは婚約してるんだってね」
「はい。ただ貴方の口からかの天使のファーストネームが吐き出されたことに不快感を覚えましたがまあ本人が許しているのでいいでしょう。私も許します」
「そ、そりゃどうも。それで、えっとカノープスは彼女のことを好きなんだよね?」
「愛してます。お望みならば三日三晩彼女への愛を語れますが?」
「そっかー、遠慮しとく。それでその、なんで彼女に冷たいの?」
「冷たい?ああ、まあ確かに素人が見ればそう見えるのかもしれませんね。彼女の好みに合わせているだけですよ」
「えっと、好み……?」
「無愛想な男です」
「ソッカー」
リゲルはとりあえず気の済むまで質問攻めすると、しばらくして天を仰いだ。こんなことってない。
流石に予想の斜め上すぎる!!!
「で、でも、そんなふうに冷たくして、いくら好みでもカペラちゃん寂しい思いしちゃうんじゃない?」
「これだから素人は、あ、いえ失礼。……しかし大丈夫ですよ。彼女はわかってくれています」
「あ、そうなんだ。以心伝心的な?」
「はい。だからこそ彼女はいつも私との仲を深めようとするのです。いくらなんでも、冷たくする相手に対してそう何度も食事に誘えないでしょう?」
確かに。最後の最後、唯一理解できる意見にリゲルは深い納得をし、その場でカノープスとは分かれた。
そして女子達との合流後、膝から崩れ落ちることになる。
「え?アルビレオ様に話しかける理由?お父様に言われているからだよ」
その横でアジメクが懐かしいと頬を緩ませていたが、なんの話だろう。
『親愛なるパパへ
ことは相談なのですが、生殖関連の魔法書を読みたいのですがそちらの図書館にありますか?あったら送ってください』
返信はすぐに来た。
『性に関することに興味を持つのはまだ早いのでは???』
……なんのことだろう?




