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身代わり少女の生存記  作者: K.A.
前日譚:初等部1年
18/88

一転平和に女子会を

「みんなグラスは持った?じゃあ、かんぱーい!」

 私、カペラちゃん、ベガの三人は手にもつリンゴジュースを高らかに掲げた。


 もう夏休みも折り返しの頃、私たち女子三人組はベガの家にお呼ばれしていた。まあそんなに堅苦しいものではない。言ってはなんだが、ただのお泊まり会である。

 そして現在はベッドの上でのパジャマパーティー。もちろん私たちには各自客間が設けられてはいるが、アリスのベッドでも女子三人くらい余裕で眠れるので多分このままみんなで眠ることになるだろう。

「なんか女子だけで話すっていうのも新鮮だね!」

 少し興奮したように話すカペラちゃん。でもその気持ちはわかる。パジャマパーティーなんて初めてだよね。

「カペラはちょっとはしゃぎすぎ。夜は持たないぞー!」

「そんなことないもん!むしろベガちゃんこそ昼間は騒いでいたでしょう。無様に最初に眠るのはそっち!」

 この二人、いつの間にか夜更かしする気満々なのだけど。

「え、そこそこのところで寝ようよ」

 そう言うと二人は顔を見合わせて「あら、いい子ぶってますわねベガさん」「いい子ぶってますわカペラさん」と囁き合う。ちょっと仲間外れにされたようで寂しい。

「せっかくたくさん一緒にいれるのに、早々に寝てしまってはもったいない!夜はこれから!」

「そうだそうだ!というかここで寝たら執事に『今日はみんなで怖い話をするから夜私の部屋おばけ呼び寄せてるかも。適当なところで寝るから見にこなくていいよ』って言っておいたのが無駄になるじゃん」

「そんなこと言ってたの。根回し完璧だね」

 そう褒めると得意げに頷く。こういう遊びをする時に限って謎のやる気を見せるのなんなの?


「じゃ、まあ時間を気にせず話せるってことでいいのかな?」

 結局育ちのいいカペラちゃんがベッド上での飲食に耐えられなかったためコップはローテーブルに置いて話は進む。

「まずは体育祭、お疲れ様」

「本当にね!私あまりに日焼けしてたからメイドが悲鳴あげちゃっった」

「うん、焼けたよね」

 私には特に悲鳴をあげる専属メイドはいないので誤魔化す。まあ気づく二人ではないので心配はいらない。

「私もそんなに焼けていないつもりだったのに当日は一日中外だったし、お風呂で少しピリッとしたー」

「あー、辛いやつだ!」

 カペラちゃんは見た目変わらないように見えたけどこれでも焼けていたらしい。まあ仕方ないとは言える。これで中等部以降はクレームが来るのでもう少し対策をするらしいのだけど。

「それよりもクロダンのダンス!面白かったね!」

「二年生?」

「うん、最後はちょっとかわいそうだったけど先生のモノマネすごい似てた!ステージに上がらされてた先生もいたよね?」

「ああ、アイン先生?」

 アイン先生は一際大柄でノリのいい体育教師だ。誰もあの体格を再現できる人がいなかったのでモノマネする生徒はいなかったのだが、本物を誘ったのか。

「あとハダル先生もいたね。モノマネする生徒と一緒に踊ってた」

 ノリがいいな。

「面白かったね。普段の先輩も愉快な人ばっかりなの?」

 望まれたなら話さないと。エンターテイナーなので。

 私とベガは顔を見合わせ、練習中の日常について話した。


 まず一つ目はアイス休憩時の一コマである。

 休憩時に準備される(顧問が差し入れていたらしい)アイスは、一応ピッタリ人数分用意されている時もあったが箱に何本かで入っている形式の場合はいくつか余ってしまう。いつもは平和的にじゃんけんや譲り合いによって食べる人間が決まっていたが、ある時二年のカラ先輩が言い出したのだ。「運のいい奴ばかりが食べられてずるい」と。三日間連続で三年のマタル先輩が一人勝ちしたことを受けての発言である。

 まあ言いがかりも甚だしいが、熱で沸騰した私たちは思った。「確かに」と。

 そのため第一回クロダン腕相撲大会が始まったのだ。腕力ならばいいのかと言う話である。よくはないがそう冷静に判断できる人間はこの熱の中正気を保てたマッチョのみなので大した反論も出なかった。

 まあその発案のカラ先輩は小柄で可愛らしい系の女性だったので一回戦負けだったが。

 そして各々近くの人と勝負を仕掛け、大変盛り上がった。我らが新星カイと二年のアンタレス先輩、そして意外に団長が強かった。あの可愛い見た目と細腕からどんな力が出るのかと思った。まあ結局は団旗(重い)を振り回している副団長の無双だったが。最後の団長対副団長の対戦は手に汗握るものであった。

 そうしてやっと決着がつき、ひと盛り上がりしたところでふとカラ先輩が言った。「アイスは?」

 私たちが我先にとアイスを入れていた袋にたどり着くと、アイスは悲劇、液体だった。しかも棒アイス。私たちは袋に入った木の棒と何か液体との前に膝から崩れ落ちた。

「アイスって飲み物?」「多分メイビーもしかしてそう」を合言葉にどうにかして胃袋に入れた私たちをどうか憐んでほしい。


 この話をしているだけでもカペラちゃんは呼吸が苦しいくらいに笑っていたが次の話に行く。


 二つ目の話。その事件は二年と一年のみの練習中に起こった。その休憩中副団長が顔を洗いに行くとかでメガネを外して体育館を離れた。水道のところにもメガネを置く場所くらいあるのだが、前に落として割ったとかで水道場まで行けないくらいの視力ではないしと近くにいたアンカー(一年)に預けて出て行った。

 哀れ、アンカーはその後先輩たちにメガネを奪われるわけだが。

 最初は良かった。良かった?まあ第232回副団長モノマネ選手権をやっている間は良かった。ちょっと開催回数の多さが気になったが。しかしその後誰が一番かっこよくメガネを外せるか選手権をやっている時に事件は起こった。

「フッ、拙者は風の民。注射くらい余裕だなっ!」

 というベゼク先輩のセリフと共に勢いよく外した拍子に吹っ飛んだのだ。メガネが。

 そのメガネをサッカーを嗜むスカト先輩がより遠くに飛ばし、それに驚いたザニアが近くにいた子の膝裏を蹴っ飛ばし、強烈な膝カックンをお見舞いされたヘゼは偶然メガネの吹っ飛んだその上に尻餅をついた。

「ヒエッ」

 お尻の下で割れる感触がしたのだろう。ヘゼは泣いた。あとヘゼが退いたことでガッツリ割れている耳掛けの部分を目の当たりにしたアンカーも泣きたくなった。俺が先輩から預かってたのに。後ザニアも涙は浮かべないが顔は真っ青。そしてメガネで散々遊んでいた先輩方は焦っていた。

「いやに静かだな。どうかしたのか?」

 そこに顔を覗かせたのは副団長。彼はまずヘゼを見て、アンカーとザニアを見て、転がっているメガネを見て、最後に塊になって一様に顔を背ける二年生を見た。

「そこに直れ貴様ら!!!一年たちを泣かすな!!!!」

 泣いちゃったの?と離れて練習していたはずの三年生にほっぺを突かれるくらいにはその声が響いた。


「え、一年を泣かしたことを怒ったの?」

 カペラちゃんの意外そうな言葉に私たちは顔を見合わせて頷いた。そうするとカペラちゃんは「すごいなー」と驚いたように言った。

「本当に仲良いんだね、うち先輩すごく厳しいから絶対そんなことないよ」

 ハトダンは思ったよりも上下関係厳しいらしい。あまりに羨ましそうに言うのでベガが愚痴の止まらない口にお菓子を放り込んだ。

「まあ、来年カペラが後輩に優しくしたらきっと仲良しの団になるよ」

「確かに……あー、でも生意気な子いたらキツくあたっちゃうかも」

 なんとも素直な発言だ。私たちは無言でカペラちゃんの頭を撫でくりまわした。



「次何話す?」

 夜更け、もういつも眠る時間になってから一時間は経つが眠気はまだまだ来そうにない。でも一応人が来てもいいように私たちは布団にくるまったまま話していた。少し暑い。

「じゃあ、恋バナは?」

「あ、女子っぽい!」

「でしょー!」

 発案のカペラちゃんは嬉しそうだ。

 とは言っても恋バナか。特に気になっている人はいないし何より私たちは親に結婚相手を決められるのが基本であるので特に言うこともないだろう。

「でも、好みのタイプとかあるでしょ?物語で好きになるタイプが似てたりとか、と言うか理想のタイプ!学園でも目で追っちゃう人とか」

「うーん……」

 それも正直思いつかない。

「ベガはある?」

「うーん、まあ私は騎士の家柄で男性にはたくさん会うけど、そんなこと考えたことなかった。あ、でも確かに、目で追ってしまうのは強い人かな」

「あー、マッチョってこと?」

「いやそれはあまり参考にならないから細身の人が多いな」

「細マッチョ!好みのタイプ判明したね」

 いや今ガッツリ参考にって言ったじゃん。絶対戦い方の見本にしているだけじゃん。


「それで、アジメクちゃんは?」

 恋する乙女は私にもターゲットを変えてきた。これ、何言っても恋愛に結びつけられる気がする。

 しかし物語もそう言う視点で読んだことがないし(そもそも恋愛小説もほとんど読んだことがない)親しい男子もクロダンかアルかだ。どちらもたとえであげるには気まずすぎる。

(他に、好感を抱いている男子……)

「お兄ちゃん……」

「お兄ちゃん?アジメクちゃん兄弟いたっけ?」

「あ、いや……」

 もちろん思い浮かべたのは前世のお兄ちゃんだ。ただ今世ではいない、と思っていたのだが。

 今回の帰宅で知った新事実を誤魔化すように伝える。

「血も繋がってないし養子にもまだ入ってないんだけど、家にいるの。成人したら正式に養子にって話」

「へえー、まあガクルックス家は代々継ぐのは男子のみだったよね。親戚とか?」

「ん、まあそんな感じ」

 よくは知らないけど。

「そうなの、お兄様と……でも血が繋がってないなら結婚もできるよね!婿養子という形でもいいし。むしろ相続時はスムーズ!応援するわ!」

「あ、違う違う!」

 目を輝かせるカペラちゃんの恋愛思考を慌てて止める。

「お兄ちゃんみたいな人ってだけ!むしろ恋愛とか全然考えられないよ。なんかゾワゾワする」

「あら残念。アジメクちゃんの家はそんなものなの?」

「分かる。私も兄がいるしまあまあ好きだけど恋愛対象には天地がひっくり返ってもならないな」

 援護するようにベガが言った。確か彼女は兄が三人ほどいるらしい。カペラちゃんはそんな私たちに一層残念そうにした。

「残念。あ、でも年上が好きってこと?包容力とか?大人っぽさ?」

「あー、そうかも。結構年も離れてるから、余裕?みたいなところもかっこいいと思うよ」

 覚えている前世の兄はまだ学園に入る前くらいの年齢のはずなのに、親がいなかったためかなり早熟だった。

「そっかそっかー」

 恋愛脳バージョンのカペラちゃんはやっと満足したみたいだ。良かった良かった。

 まあ繰り返すようだが貴族の令嬢は自分で結婚する人を決めないので。言うだけだ。この話もきっと各々の心の奥底にしまい込んで、将来は全く理想と違う人と結婚する友人に笑顔で「おめでとう」と言わなければいけない。

「それでカペラは?いないのそういうの」

 ベガが気を抜いているカペラちゃんに尋ねると、カペラちゃんは少しも照れずに「身長の高くて優しくて鍛えてるかっこいい人!」と盛り盛りな答え。そして投げやりに爆弾を投げた。


「でもまあ婚約者もいるし、そんな理想言うだけだけどね!」

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