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身代わり少女の生存記  作者: K.A.
前日譚:初等部1年
10/88

大魔法使いの規格外授業

 先の魔法学試験。魔法の種類試験でのやらかし、特別魔法の発現。

 非常に、非常にまずいがこう言ったものは成績としていずれ家にバレる。恐る恐る主人に連絡をすると、初日のスピード返信に反して数時間経ってから返信が届いた。


『魔法種類の方はいい。結局はアジメクには全種類使えるようになるのだから。世間にもそのように発表しているしな。ただ特別魔法の方は……考えさせてくれ』

 苦労かけます。


 その晩からずいぶん経って、今日から魔法学の授業だ。担当はご存じスバル先生。普通クラス(数学など進度別授業以外の科目のクラス)の担任でもある。

 そんな記念すべき初授業であるが、今回は特別もう一人高等部の教授を招いて授業を行うらしい。試験時スバル先生の恐ろしさを叩き込まれた魔法学生徒九名は密かに胸を撫で下ろした。あの教師だけでないのならもう一人の先生がきっと場を和ませてくれるだろうと。

 まあそんな甘い想定は、ゲストの先生がとんだ暴君でないという場合に限った話だ。例えばとんだ暴君で、頭のネジが飛んでて、とんでもない魔王未満でない場合に限る。


「お前らは運がいい。この俺様の授業が受けられるんだからな!」

(((すごいキャラ濃い人来た……!)))

 すこぶる機嫌の悪いスバル先生が連れた大魔法使い・シリウスに、生徒たちは頭を抱えるのだった。



「じゃ、配った資料開けー」

 思ったよりも授業は普通だ。配られた資料を見て思う。特別授業ということもあるのか初回の授業であるのに授業の最初から実践的な魔法を使うようだが、難易度も低く十分に行える範疇だろう。

 ペラペラとめくって授業の内容が自分の知識内であることを確認すると、私はホッと息をもらした。いくら魔法の名家ガクルックスで勉強をしたと言っても魔法の知識・教え方はその魔法の師匠によって千差万別。もちろん根っこは同じだが個性や癖というのはでる。私の元からある知識で対応できるのか不安だった。

 いくらそういった事情があろうと、魔法師名家の令嬢「アジメク・ガクルックス」がいきなり落ちこぼれるわけにはいかないので。


「今日はまあ初回の授業ということで魔法の面白さを見せてやろうかと。その他のつまんねえ部分は教科書見れば全部書いてあるし魔法の恐ろしさはこれからの人生で嫌というほど学ぶしな。だから初回は楽しく力一杯魔法を使おう、だ。魔法の基本的な使い方について学んでいこう」

 こっそりスバル先生を伺うと仏頂面を隠しもしないが口は挟まなかった。その内容で合意しているのだろう。

「初回はまず、派手に火魔法の中級魔法でいこうと思う。この前の試験結果から見るに極端に苦手な子はいないみたいだからな。ただこのクラスは魔法は使えても自宅での学習内容はバラバラだろうから簡単な知識は擦り合わせようか」

 シリウス先生は大きな黒板を虚空に浮かべ、ちょうど私の隣、アルをチョークで指し示した。


「おい、オウジサマ?五大魔法は?」

「えっ」

 アルは自身の雑すぎる扱いに声を詰まらせるが、無気力に視線を外そうとするシリウス先生を見て慌てて答える。

「火魔法、水魔法、風魔法、光魔法、闇魔法です」

「はい正解。ま、常識だよな」

 どう考えても国一番の権力を持つ人間の子息に対する声掛けではないが、彼は誰よりも強いため結局誰よりも偉い。アルは面食らったようだが何も言わずに黙り込んだ。

「じゃあそのままオウジサマ、火、水、風に比べて光と闇の使い手は少ない。その原因は?」

「魔法はイメージによってその強度を補強されるので、可視化しやすい火、水、風が使いやすいから、です」

「正解。座っていいぞ」

「は、はい」


 シリウス先生は真新しいチョークを持つと黒板に「火」「水」「風」「光」「闇」と書いた。意外だ。上級の魔法使いになればなるほどなんでも魔法で済ましてしまう傾向があるが、彼は自分の手で文字を書いた。指についただろうチョークの粉をフッと吹く動作は手慣れた物であった。

「その使いやすさ、使いにくさというのは火魔法始めとした三つ、俗に言う自然魔法と、光、闇魔法にも通ずる。順番は書いた通りだ。一番使い手の多いのは火魔法。目で見れる、触れれば熱い、何かを燃やす時に聞こえる燃える時特有の音、焦げた匂い。一番イメージするための材料がある。次に水、ただし水は状態変化することからその形を特定しにくいし温度や質感が変わり、触覚でのイメージも不安定だ。このようにイメージしやすいか否かで魔法の現しやすさに差が出る」

 先生は次いで「イメージしやすさ=現しやすさ」と書き込む。魔法クラスは比較的上位貴族の集まりでもあるためみんな集中して耳を傾けていた。渋い顔をしていたスバル先生も興味深そうに黒板を眺めている。

「つまり得意魔法も遺伝というよりも育った環境によるところが多い。砂漠地帯には水魔法の使い手は雨の多い地域よりも少ないし、親の特別魔法をよく見て育った子供は似た特別魔法を発現しやすい。まあこういう特性があるから先王の時代には魔法が……」

「んん゛!」

 遮るような咳払いが教室の隅から聞こえた。これを受けてシリウス先生も「いや、これはいや、なんでもない」と誤魔化しになっていない誤魔化しをする。

 私はアルを見たがアルも私を見て首を傾げた。彼も心当たりがないようだ。


「とにかく、次のページ!」

 誤魔化すのは諦めたようだ。誰にも追及される前に大きめの声で次ページを捲るよう促される。私は次のページのシンプルな白紙に書かれた言葉に頭を抱えたくなった。

『じゃ、やってみよう!』

 雑だな。


「今日はさっきも言ったように火魔法中級魔法、『ファイアーボール』の生成だ。まあ見ればわかるだろ、これだ」

 シリウス先生が手のひらにボワっと直径十センチ大の火球を生み出す。魔法の難しさはそのイメージのしやすさで左右されるため実演して見せるのは結構有効な手だろう。

「じゃ、やってみて」

 教えがかなり雑すぎるけど。


 とまあやってみてと言われてやってみようと試みるのが正しい生徒像であるだろう。とりあえず手のひらに火を集める。

 思い浮かべるのはロウソクよりも暖炉の火だ。あれからなんか、シャベルかなんかでこうぐっと火だけをひとすくいした感じ。これをギュッと圧縮する。おにぎりみたいに。

「おっ!」

 意外とすんなりできたな。周りを見るとできたのは私と……数人といったところか。まあ中級魔法ではあるが少ないな。隣のアルができていないことには驚いた。

「早いな!」

 アルも私ができていることに驚いたようだ。

「まあね」

 少し誇ってやると彼は悔しそうな顔をした。ふん、ガキだな。

「よし、できたやつこっちに投げろー」

 号令を出してから十秒ほど、思いの外短い時間で締め切られた。シリウス先生の声を受けて言われた通りに勢いつけて投げる。運動神経はないがまあ自分で作ったものなので先生の方まで行くようにすればちゃんと届いた。


「よし、全部来たなー。まあこんなもんか、意外と少ねえな。つまんねえガキどもだ」

 彼は投げられた全てをお手玉のように器用に回す。ちょっと楽しそうだ。

「さて、今、この短い時間で作れたやつと作れなかったやつで分かれたな。この違いわかるか?」

 そこのやつ、と指名されたのは前列の男の子で、ちょっとプライドの高そうな顔を赤くさせた。

「魔力量とか、得意魔法とかですよね。どうにもならないじゃないですか」

 その言い方は大分拗ねていて、最初の授業からうまくいかなかったことを嘆いていた。そんな彼の発言に、先生は意外と優しい顔をした。

「いいや、お前たちの魔力量なら中級魔法は問題なく使えるはずだ。そんな中どこで差が出てんのか。魔法は不思議パワーであると同時に一つの学問だ。探究しろよ、全てには理由がある。というわけでできなかったやつはできたやつに話を聞いてみろ。ちなみにまだ殻の被ったひよこ共だしヒントを出しておくと、これだな」

 先生が指し示したのは「イメージしやすさ=現しやすさ」の文字。イメージ力ってことか?私別に妄想空想が大得意ってわけじゃないんだけど。


「で、どうやってやったんだ?」

「どうって……」

 アルに聞かれて戸惑う。とりあえずもう一度火球を生み出してみる。うん、さっきよりもなんかいい感じだ。なんかまとまり具合とか。私がそれを見つめるようにアルも火球を観察する。

「本当に真ん丸だな」

「まあそう作ったしね」

 ギュッと。アルはずいぶん難しそうな顔をしている。触ってみるかと近づけると彼は大仰に顔を背けた。

「まずそれ、何を燃やしてるんだ?結構広範囲燃やしてるよな」

「何が?」

 燃料のことか?

「えっと……暖炉の火からもらった設定。こう、シャベルとかでグッと」

「え?」

「え?」

 なんか、微妙な顔になったな。

「……じゃあその火をどうしたら燃やし続けられるんだ?」

「え。別に消さなきゃいいじゃん」

「…………」

「……え?」

 アルの顔が一気に渋くなった。コーヒーでも飲んだみたいな。

「……それを、どうやってボール状にするんだ?」

「おにぎりみたいにギュッと」

「ギュッと?」

「うん。こう」

 実演して見せようと炎を両手で覆おうとすると「待て待て待て」と急いで止められる。なんなんだ。

「え、なに?」

「熱いだろ!火傷するぞ」

「えー、しないよ。私が生み出したのに私が火傷するって変じゃん」

「いやだって、火なんだよなこれ」

「まあそうだね」

「……低温の火ってことか?それとも掌に水を張ってんのか?」

「えー……そこまで考えてなかった」

「…………」


「ガクルックス」

 シリウス先生はまだお手玉をしてた。なかなか落ちないな。

「今作ったのもこっちよこせ」

「あ、はい」

 私は言われた通りに先生に向けて投げる。アルはその動作も苦い顔で見ていた。

「さて、大体分かったな」

 先生は生徒を見渡して言う。生徒たちは魔法の使えたキョトンとした顔の生徒と使えなかった苦い顔をした生徒に二分された。

「俺様がお前たちに一ついいことを教えてやろう。一生涯使えるぞこれは」



「魔法ってのは、何も考えてねーバカが一番得意な学問だ」


 すごい悪口じゃないか。こら、納得するなアル。



 とりあえず今できてるやつはそこら辺で遊んでろと言われたのでできた人同士で教室の隅で集うことになった。

 メンバーはBクラスのダリムくん、Cクラスのウレンちゃん、Dクラスのアンカーくん。奇しくも、私を含めてAからDクラスで一人ずつ選抜された形だ。つまりお互い顔見知りがいないと言うことであるのだが。

(さて、どうすればいいのだろう)

 貴族の子息ってすぐ家同士の問題になったりするからな……。つい身構えてしまう私にウレンちゃんが徐に三十センチくらいの火球を出した。

「ヘイパス!」

「お、おう。へいぱすだ」

「はいはいこっち!」

 ウレンちゃんに釣られてボール遊びをし出した残り二人を見て思った。

(…………大丈夫そうだな)

「私も!こっちパス!」






「ガキどもは仲良くなるのが早えな」


 全然貴族向けでない表現を平然と使う教師にアルは密かに汗をかく。なにぶん先ほどから同じクラス、つまりAクラスの高位貴族出身の男子生徒が血管が切れそうになっているのだ。僕は王子だから弁えられるけど他の甘やかされた貴族はそうじゃないだろう。

 まあ暴君こと大魔法使いシリウスはそう言うこと気にしないのだが。

「さて」


「さて、ガキなりにちっちぇえおつむで色々考えてる諸君。残念だがお前らがあいつらみたいに手軽に魔法を出せるようになることは今後ないと考えろ。バカが頭良くなることはあっても頭いい奴がバカになるのはできないからな」

 バカと連呼しすぎではないだろうか。さすがに。

「先生、じゃあどうすればいいんですか?」

 先生の「バカ」発言は流すことにしたのか生徒の一人が手を挙げて発言する。先生は不敵に笑った。

「考えろ。得意だろ」


 先生は先ほどのように「ファイアーボール」を作り出した。

「おい、そこの。これはどうして燃えてるんだと思った?」

 そこの、呼ばわりされたお淑やかそうな少女は自身なさげに答えた。

「……そこにあるものに火をつけたから、ですかね?」

 そう、僕たちは何かを燃やし続けるから燃えていると思った。というかこれまで火魔法を使う時はいつもそう思っている。空気中の、例えば埃とか水素とかそういうのを燃やしているって。

 そうやって習ったし。

「ああ。普通はそうだよな。不思議パワーを信じて炎だけ生み出す人間は異常だ。もしくは純粋でありえないことをありえないまま受け止められる子供じゃないと。普通はそんな現象起こらないんだから。そうやって、自分の常識範囲内で説明できるように無意識にイメージするんだ」

 そのはずが、非常識たちの方がうまく魔法を使えるのだから。

「それは一つの正解だ。と言うか全国魔法協会はその方法を推奨してるから、ここに残ってるやつはこのまま行け。ただあそこで遊んでるバカたちにはぜひあのまま育ってほしい。なぜか分かるか?」

 指名された先ほどの少女は黙って首を振る。

 先生はファイアーボールを両手で握りしめた。炎はさっきシャーロットが出したみたいなヘンテコな炎じゃなくて温度を十分に保っているのか、シューっと言う音と共に煙のようなものが出ている。

「これ、今何してる?」

「……手のひらに水分を集めて、炎に触れてます」

「正解だ。すごい勢いで水魔法を使って、火魔法の熱を打ち消してる。つまり二種類の魔法を使い続けているわけだ。これをあのバカどもは簡単にこなすから全く効率的だ。このようにあいつらは俺たちが必死に作る途中式を全く無視して答えを出せるようなものだ。こっちがそこまでの過程がわからないからって断念することをやってのける。極端に言ってしまえばできないことがない」

 ……段々と先生のいう「バカ」が「天才」に聞こえてくるな。どうにも情けないことに、僕は彼女たちがすごく妬ましいように、羨ましいようになってくる。

「出来るって思い続ければ出来るからな。だからお前たちに頼みたいのはあいつらに『できない』って言ってあげないことだ。お前らと違ってバカだからな。この年までできない『考えて魔法を使う』と言うことを今更できるとは思えない」

 ……いや、羨ましいは気のせいだなこれ。

「それに引き換え俺たち『考えて魔法を使う』魔法士は数式さえできてしまえば見たこともない魔法を作れる。新しい魔法を作るのはいつだって俺たちだ。と言うわけでもう一回やってみろ。コツはよく考えること、そして程々のところで折り合いをつけることだ。『まあこう言うもんなんだろう』ってある程度は考えること。俺たちはよく仕組みをわからないまでも卵を硬く出来るし楽器から色々な音を出せるだろ?」



 さて、別に蛇足かもしれないが。

 こうして、僕たち総勢九名の魔法士の卵たちは無事、中級魔法「ファイアーボール」を取得したのだった。

 ちなみに例のバカと天才の紙一重の上に乗ってる四人は授業時間いっぱい遊び、火球(温度なし)をスバル先生にぶち当てて怒られていた。



『親愛なるお父様

 今日はシリウス先生の授業がありました。そこで友達とボール遊びをしました。結局怒られたけど楽しかったです』


『何がどうしてどうなったのかよくわからないけど、授業は真面目に受けなさい』







「くっそ」

 壁に八つ当たりのように拳を叩きつける。そんな男が人気のない廊下に一人。

 その姿は大魔法使いシリウス。世界のほとんどを手にしたと言われる男が、静かに激しく苦悩していた。


 その髪をかき混ぜてひたすら苛立ったように拳を握りしめる男。その胸中は髪と同じようにクチャグチャだった。

(あれは……あれはスピカだった。間違いなく、間違いなく、俺の大事な一番弟子だった)

 この「サーチ・アイ」は嘘をつかない。生まれてこの方約千年間俺に寄り添っていた。

(でも記憶がなかった。俺の顔を見ても何も考えていなかった。ちゃんと初対面の反応だった。これも「サーチ・アイ」で確認した。つまり前世の記憶がない……?)

 そうなると、もう一つ重要な疑問が湧き上がってくる。


(記憶のなく、体も違う個体に入っているのに。それは果たしてあいつと言えるのか。そんな不完全な彼女をお前の妹だとレグルスに紹介できるのか)


 シリウスは長く生きてきた魔法士ではあったが、その答えを持ち合わせてはいなかった。

 ただ一つ確かなことは、もしもよりによって「サーチ・アイ」を宿す自分が、何も知らないアジメクをスピカであると言い切った時、アジメクは必ず受ける必要のない困難に苛まれるだろうこと。


(正解が、分からない……)


 そんなもの元々ないのかもしれないけど。

ここらで一区切り。次は筆者の好きな体育祭編に移ります!

あ、あの、差し出がましいようであれですが良かったらすぐ下の評価とかブックマークとかしてくれるとその、嬉しいです!小躍りしちゃいます。本当、気が向けばでいいので感想とか……もらったら心臓止まっちゃうかもだけど。

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