9話:クエスト【レッドドラゴン撃退】
レッドドラゴン。以前ライト達が討伐したドラゴンの強化種だ。
他のアイスドラゴンやライトニングドラゴンはそれぞれで別の属性だったり特性があるが、レッドドラゴンはわかりやすい強化がされており、ブレスの火力の上昇、飛行時間の延長、体温が高くて氷や水の魔法が効きにくい等がある。
俺は前に一度討伐した事があるが、あれは運良く状況とスキルが噛み合って出来ただけでもう一度討伐しろと言われてできる気がしない。
「にしても、気絶してたはずなのにどうやって起こしたんだ?」
「気付け薬でしょうか?」
「……どれ使ったんだろうな」
気付け薬にも色々と種類があるが、虫を使ったやつは飲みたくないな……。
「さっき領主と警備隊隊長と話を付け、ギルドが討伐する事になった。誰かやりたいやつはいるか?」
シン、とギルド内が静まり返る。
当然だ。態々死にに行くようなクエストを受けたがるやつなんていない。
「討伐までも行かなくても時間稼ぎで良い。その間に領主保有の戦力と警備隊とギルドに残った人間で門を固めて叩く。どうだ」
領主の戦力の警備隊が集まってもなぁ……世間的にはそこら辺の警備隊とかよりもギルドの冒険者の方が腕の立つからなぁ……ブレスの範囲攻撃に呑まれて全滅するだけだろう。
ん?待て、警備隊?という事は副隊長のルークは前線に立つよな。そうなると……
間違いなくカンナに帰って来るとフラグを立てる
↓
果敢に挑んで殺される
↓
カンナだけが残される
↓
Bad End...
熟考を重ねてでた結論に頭を抱える。
ここでやらなきゃならねぇじゃねぇか!つーかあいつら以外でもそういうの間違いなくいるだろ!
ゆ、許せねぇ……!曇らせなんざさせてやんねぇ、なにがなんでもハッピーエンドにしてやるぞ……!
「……俺がやる」
渋々と手を上げると、わかっていたとばかりにギルド長が頷いた。
「俺もお前が適任だと思っていた。頼んだぞ」
やりたくないなぁ、と思っていると机を叩く音が聞こえた。
「ふざけんな!【狩人】にやらせるのかよ!?」
血気盛んな冒険者が叫ぶ。名前は覚えてないが、こんなに俺を毛嫌いしているとなると、ライズに来たばかりか新人の冒険者か?年齢は俺より少し若いくらいかな。
周りが落ち着けと抑えるが、振り払って俺の前までやって来る。
待て待て、喧嘩とか嫌なんだけど。
「あ〜……じゃあ代わりにやるか?」
「くっ……このッ!」
なんで急に拳握ってんの!?代わりにやりたいならそう言えば良いだろ!?
「あ、そういえばランクは?レッドドラゴンなら7は欲しいけど……」
「……パーティで5だ」
「あぁ……」
生返事を返してしまい、どうしようかと思っていると男のパーティがやってきて止めてくれた。
「死ぬつもりかよ!?ここはこの人に任せときゃ良いんだって!」
「で、でも……!」
「でもじゃないって!いいから来い!」
男が連れて行かれ、近くにいた仲間の冒険者に頭を殴られていた。
妙な空気だけが残ってしまった、すごい居心地が悪い。
そこで手を叩く音が聞こえて、そちらを見るとギルド長がいた。
「クエストの決行予定は明日。これから俺達はアルフレッドと話を詰める。他の冒険者は明日に備えて休養と装備の点検をしていろ。解散!」
やりたくないなぁ、とため息を吐いてギルド長の方に向かう。
「あ、あの!私も同行しても良いでしょうか!?」
アリシアが立ち上がって手を上げる。思ったよりも声が出てしまって注目を浴びてしまい、縮こまった。
「……すまないがランクを考えると同行させる訳にはいかん」
「お、お願いします!」
頭を下げられてギルド長が困った様に唸り、俺に目をやる。
「良いんじゃないか。後方支援だけならまだ大丈夫なはずだし、リィルを護衛に付ければ逃げるくらいは出来るだろ。それに、冒険者は自己責任だろ?」
「……良いだろう」
少し遠くのライト達が目に入り、そちらを向くと、任せたとばかりにサムズアップや手を振られた。
信じてくれるのは嬉しいけどもうちょっと心配して?
ギルド長の部屋に入り、森の全体図を3人で囲む。
「レッドドラゴンは現在はゆっくりと移動していて、確認した限りでは深層から中層に出てきた辺りを歩行している」
「歩行?空を飛んでいないのか?」
「ああ。目的は分からんがこちらとしては助かる」
「レッドドラゴンはどんな攻撃をしてくるんですか?」
「基本的には通常種のドラゴンと変わらん。しかし、その全てが強化されていると言っていい。少し前にドラゴンを討伐した時に耐火のアミュレットを使っていたそうだが、今回はもっと増やせ。1つではお守り程度と思っておいた方がいい。」
アリシアが唾を飲み込み、肩に力が入る。
「安心しろ。アルフレッドは一度レッドドラゴンの討伐に成功している」
「そうなんですか!?」
「色々あってな。あの時は運良く上手くいっただけだ。それより、その話は内緒じゃなかったのか?」
「同じパーティならば黙っている事は少ない方がいいだろう」
それは確かにそうだが、先に一言くらいは言ってほしい。
「今回は森への被害を抑える事とレッドドラゴンを逃がさない為に戦闘エリアを結界で覆わせてもらう事になった。戦いづらいだろうが上手くやってくれ」
「レッドドラゴンを閉じ込められるだけの結界を張れるやつなんているのか?」
「レイナに頼むつもりだ」
「もうレイナさんは冒険者じゃないだろ。巻き込むつもりか?」
「俺も本来ならば現役の冒険者だけで解決したかったが、レッドドラゴンを閉じ込めるとなるとやつくらいしか現状出来そうな者がいない」
「……わかったよ。でも安全な方法で頼むぞ」
「それは既にレイナが解決した。契約している魔物を近くに置けば街の中から結界を張れるそうだ。それと結界内もこちらで確認できるようにしてくれると言っていた。昔から優秀だったが、まさかここまで出来るとは思わなかった」
「マジか」
「すごいですね……」
……引退した後のが強いんじゃないか?
いや、ゲームでもそういうのあるしそういうもんなんだろう多分。
「アルフレッド、アリシア、無理はするな。時間稼ぎさえしてくれればこちらの準備が整ってライズで討伐だって可能だ」
「なあ、ギルド長」
「なんだ?」
「レッドドラゴンを討伐したら、当然その後は好きにしていいんだよな?」
「構わん。お前たちが討伐した獲物だ、横取りする気はない」
「よしっ。アリシア、知ってるか?レッドドラゴンの肉ってすげぇ美味いんだぜ?」
「……はい?」
ポカンとした顔で俺を見る。
「討伐したら、持って帰る前に2人でつまみ食いしようって言ってんだよ」
少し固まっていると、不意に吹き出した。
「……ぷっ、あははっ!もう、大事な話しているんですよ?」
コロコロとアリシアが笑う。
実際前に食って美味かったのは間違いないが、少しは肩の力は抜けたかな。
「全く、街の危機が迫っているというのに……まあいい。頼んだぞ」
「ああ」
「行ってきます!」
「クエスト開始は明日だぞ」
「あっ……」
なんとも締まらない形で部屋から出た。