8話:異変
ギルドに入り、2人でフィーナさんの所に行くと、ライト達が先に来ていた。
「よ」
「ああ」
片手を上げて挨拶すると、ライトも返してくる。
アリシアもリゼとウルと話し始めた。
「ランクはどうなった?」
「5からだ。アリシアが抜けて安定性が下がるから妥当だな」
「まあ、予想通りだな」
「アルさんとアリシアさん、よろしいですか?」
話していると、フィーナさんに呼ばれる。
「いいぜ」
「大丈夫です」
「お2人のパーティランクは5となりました。こちらをどうぞ」
フィーナさんからランクの照明となるバッジを渡された。
「妥当だな」
アリシアはあんまり直接戦闘は得意じゃ無さそうだし、俺は固定パーティを組むのは初めてだからこんなもんだろう。
「じゃあ、俺達は先に行くよ。」
「ああ、じゃあな。……あ、リゼ!」
ライト達を見送る時にリゼを呼び止めて手招きをする。
「なによ?」
顔を寄せて小声で話す。
「アリシアがいないんだから、チャンスだぞ」
「きゅ、急に呼んだかと思えばなんて事言うのよ!?」
「大チャンスだろ?ここで距離を詰めちまえよ」
「で、でも、そういう雰囲気じゃなさそうだし、ライトだって迷惑なんじゃ……」
「それで足踏みしててもどうしようもないだろ?」
「うぅ……わかったわよ!やればいいんでしょ!?」
「頑張れよ」
背を向けて歩き出すリゼを見送りつつ、ウルに手を振ると肩を落としてため息を吐かれた。
今まで、色々お願いしてたからな。今度ちょっと高めのお菓子を用意しておこう。
「アルさん。リゼさんってもしかしてライトさんの事が……?」
「昔っから、それこそまだ冒険者になってない頃からだな」
村にいた頃に相談を受けて、それから今まで何年もかけてアドバイスを続けてきた。
俺も恋愛事に詳しくないが、前世で見た漫画やアニメで見た事ならば知っていた。だから、その内容からどうすれば良いかを伝えてみたが一度も上手くいかなかった。
あんな事があった後で、それに便乗するのは良くないとは思うが上手く使わせてもらおう。
「俺達も慣らしでクエストに行きたい所だが……」
ここは調査を優先した方が良いか。
「フィーナさん、俺達は森まで調査に行ってくる」
「わかりました。よろしくお願いします」
森の中に入って何度か戦闘を行ったが……おかしい。
まだ森の入口だが、普段見かけるイノシシや鹿、狼やゴブリンがどこにもいない。鳥の鳴き声すら聞こえてこない。
それどころか、中層に出てくるような魔物がこんな所に出てきてしまっている。
もしかしたら、深層の方から何かが……
「あれ……?」
「どうかしたか?」
「いえ、何かが聞こえたような気が……」
耳を澄ましてみると、確かに何かが遠くからこっちに向かってくる声が聞こえてきた。
「構えてろ」
「はい!」
構えて待っていると、茂みから人が飛び出してきた。
「ライト!?」
「アルか!?」
ライト達が他の冒険者に肩を貸しながら走っていた。
「何があった!」
「ワイバーンの群れだ!」
ワイバーンか。面倒なやつまで出てきたな……
「俺がやる!街に急げ!」
「……頼んだ!」
「アリシアも行け」
「アルさんは!?」
「1人で大丈夫だ!」
そう言って茂みに飛び込み、走り続けて抜けると話通りワイバーンの群れがいた。
先頭のワイバーンに向かって腕輪から取り出したグレートメイスで上から頭を叩き潰す。
そのまま氷の魔法石を複数握って前方に投げ、凍ったワイバーンから順にグレートメイスで叩き割る。
「グルァ!」
「おっと」
倒したワイバーンの陰からやってきたワイバーンを後ろに下がりつつ、足元のツタを斬ると横から丸太が飛んできて吹き飛ばした。
「流石に数が多いな」
空高く飛んでいるワイバーンが吐く炎を回避しつつ羽根の皮膜を狙って何本も矢を放って叩き落として首を剣で斬り裂く。
「ガァ!」
横から突進してくるワイバーンを殴ろうと拳を握る。
「《アクアスラスト》!」
「うおっ!?」
後ろから飛んできた水がワイバーンを貫く。
驚いて後ろを見るとアリシアが杖を構えていた。
「おまっ、ライト達と一緒に行けって言ったろ?」
「嫌です!」
「嫌ってお前な……」
「私達はパーティなんです。それなのに1人だけ置いて行ける訳ないじゃないですか!」
「あー……」
それもそうか、パーティを組んだって自覚がまだ薄かったな。要反省だ。
「それじゃあ援護は任せたぞ」
「はい!」
アリシアが来るまでにある程度倒していたからか、戦闘はすぐに終わって俺達はライズへと戻った。
あまり長く探索は出来なかったが、成果としては悪くない。
ワイバーンの群れが出てくる程に森が荒れている事がわかったし、パーティとしてはまだまだだがそれなりには戦える事がわかった。
連携なんかはこれから時間をかけて話し合おう。
ギルドへと戻ると、ウルがテーブル席に座っていた。
「ウル、2人はどうした?」
「怪我した人達が気絶したから、私達が到着した時の話をしてる」
俺とアリシアもすぐ側に腰掛けて、飲み物を注文する。
「そうか。俺達もその時の話を聞かせてもらっても良いか?」
「わかった。私達もアル達と同じように森の調査をお願いされていたから、広い範囲を探索していたの」
「やっぱり弱い魔物や動物はいなかったか?」
「うん、多分みんな隠れたんだと思う。私達が戦ったのも中級の魔物がほとんどだったから。それで戦闘音が聞こえてきて、急いで向かったら他のパーティがいたけどもう消耗してたから、戦おうと思ったんだけど数が多くて庇いながら戦うのが無理だから逃げてた」
特に目新しい情報はないか。
怪我人からは多分ギルド長が聞くだろ。
俺らは今日はやる事がないし、酒でも飲んでゆっくりとさせてもらおうとジョッキを傾け━━
「緊急クエストの発注をします!討伐対象は……レッドドラゴンです!」
「んぶふっ!」
口から吹き出た酒が空を待った。