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6話:警備隊副隊長×道具屋の娘

 


 抜き足差し足忍び足。

 黒いマントを纏って道を進む。今の俺は前世で言えば忍者、今世で言えば暗殺者になっていると思い込め。

 薄らと街頭が灯された街を歩き、路地裏に入ると目的の人物を見つけて近くの木箱の影に身を隠す。

 もう1人の人物が来るのを今か今かと待ち望んでいると肩に手を置かれた。


「━━ッ!?」


 大声を出してしまいそうになるのを自制して、恐る恐る後ろを振り返る。


「なにしてるんですか?」


 ぽやっとした顔のアリシアが立っていた。

 ああ……ダメかもしれん。

 時間が止まったように感じ、頭が真っ白になる。

 そんな時だった。誰かがやっていくる足音が聞こえて俺の脳はトップスピードで回り始めた。

 まさかこのタイミングで来たのか!?


「アルさん?」


「いいから、隠れてくれ」


 疑問符を浮かべるアリシアを引っ張って隣へとしゃがませて、2人で様子を覗き見る。


「ごめん。待たせた」


「大丈夫。私も今来たところだから」


 先に待っていた女が慌ててきたからか息を切らせた男の背を撫でる。


「あれは……」


「知ってるだろ。警備隊副隊長のルークと道具屋のカンナだ」


「いえ、それは知ってますけど……どうして2人が?それも態々こんな暗い所で」


「見つかりたくないんだろ。あいつ照れ屋だしな」


「照れるような事があるんですか?」


「そりゃあそうだろ、付き合ってるんだから」


「へ?つ、付き合っ……!?」


 大声を出しそうな気がして慌てて手で口を塞ぐ。


「しーっ……気付かれるだろ」


「もご……」


「離すぞ。いいな?」


 コクコクと頷いて手を離す。


「あの、アルさんはどうしてこんな事を?」


「それは……その、趣味?」


「しゅっ……!?」


「だから静かに━━」


「誰かそこにいるのか?」


「「……」」


 互いに自分の口に手を当てる。

 やばい。見つかっただけでもやばいのに、それに聖女が加担していたってバレるのがもっとやばい。


「猫じゃないの?」


「念の為だよ」


「照れ屋なんだから……」


「う、うるさいなっ」


 足音がこっちに近付いてくる。なるべく見つからないように隅っこに寄って体も寄せ合うが、正直無駄だろう。

 こうなったら、強化して屋根まで跳んで振り切るか……?焦るな、他に何かあるはずだ。

 すぐ側まで足音が来た。


『にゃ〜』


「「……」」


 猫?でも今のは……。


「猫……か?全く、紛らわしいな」


「ほら、やっぱり猫じゃない。気にし過ぎなのよ」


「ごめんって……」


 足音が遠のいていく。

 目を下に向けると、俺の胸元に縋るようにしていたアリシアが顔を真っ赤にさせていた。


「変声魔法か。助かった」


「い、いえ……」


 随分とマイナーな魔法を覚えているんだな。ちょっと後で聞いてみよう。

 ほっと息をついて、アリシアを離す。

 さっきみたいな事にならないように俺の発言にも気を付けなければ。

 気を取り直して覗き込むと、2人が抱き合っていた。

 うっっひょおおおお!!きたきたきた!これこれこれだよ!こういうのが見たかったんだ!

 腰の袋から黒パンを取り出して齧り付く。

 今日も他人の恋愛でパンが美味い!本当は米が良いんだが、こっちじゃまだ広まっていないし高いからパンで我慢だ。


「えっと……それは?」


「ん」


 無言で袋から白パンを取り出して渡す。初心者に固くて水分の持っていかれる黒パンは早い。


「……いただきます。はむっ」


 アリシアも気になるのか、目を煌めかせながら2人のイチャつきを眺めている。

 聖女と言っても女の子。こういう恋愛事は好きなんだな。

 手を繋いで見つめ合う2人。

 いけ……いけっ!今だろ!今行けよ!

 俺とアリシアが固唾を呑んで見つめる中、ついにルークが動いた。


「もう、何歳になっても甘えん坊なんだから……副隊長なんでしょ?」


「……いいだろ。」


 ……ハグかぁ。いや、照れ屋のルークからすれば頑張った方だろう。

 横を見るとアリシアも期待していたのか不満そうに手をぶんぶんと振っていた。


「ほら」


「もぐむぐ……」


 白パンを追加で渡してやると、一気に頬張ってしまった。


「ほら、行きましょ?ずっとここにいても誰かに見つかっちゃうわよ」


「ん、そうだな」


 身を離すと2人で手を繋いで歩いて、ある建物へと入って行った。

 ここまでか。流石にこれ以上は俺だって立ち入ろうとは思わない。


「アリシア、帰るぞ」


「えっ!?追い掛けないんですか!?」


「声抑えろって。ほら、2人とももう建物の中に入っただろ」


「建物に入ったら追い掛けられないんですか?」


「いや、だって……なぁ?」


「なんですか?」


「もしかして、本当にわからないのか?」


「わかりませんけど……」


「マジか……」


 この世界、そういう事にも割と寛容で10代で結婚なんかは割とよくある話だが、まさかそういう店を知らないとは……。


「あー……その、なんだ、赤ちゃんの作り方は流石に知ってるよな?」


「そこまで知らないと思われているんですか!?流石に知ってます!」


「……畑からとか鳥が連れて来るんじゃないからな?」


「むー……」


 半目でじとっと見てくる。


「いや、ごめん。コホン……ちょっと耳を貸してくれ」


 ゴニョゴニョと耳元でどういう所かを簡単に説明すると、どんどんと顔を赤らめていき、しまいには涙目になってしまった。


「ま、待て待て、俺が悪かった……悪かったか?いや、うん、悪かったな。ほら、お菓子とか食べたくないか?」


「……パンを食べたので結構です」


「あ、はい」


「帰ったらお話があります」


「はい……」


 先頭を進むアリシアの後ろをトボトボと歩いて着いて行った。





「アルさん」


「はい」


 部屋に戻るとアリシアが椅子に座り、その前に正座をする。


「人の逢引を覗き見するのはよくありません。わかりますよね?」


「はい……」


「ましてや、それを見ながらパンを食べるなんて以ての外です」


「すんません……」


 目線がどんどんと下へ落ちていく。


「私の目を見てください」


「はい……」


 めっちゃ怖い。くそっ、さっきまで自分も楽しんでたくせに!


「なにか?」


「なんでもないですッ!」


「そうですか」


 彼女の碧眼が俺を貫く。


「なのでこれからは私が着いて行って監視させてもらいます」


「……はぁ?」


「良いですね?」


「いや、良くないけど……」


「良いですよね?」


「あの、でも」


「良いって言ってください」


「はい、良いです……」


 そういうとニコリと微笑んだ。




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