3話:油断
「どこにいるんでしょう?」
ドラゴン用に持っていた荷物を宿屋に置いて、すぐにライズを出て近くの森に入る。
普段の依頼とは違って急いで見つけないといけないけれど、情報が少なすぎて焦ってしまう。
「さぁ?でも門番の人からその子が向かった方向は聞けたからまだマシよ。」
「やっぱりアルがやった方が良かった。アルなら足跡からの追跡だって上手いのに。あ、ライト、そこに足跡がある」
「えっ?ああ、本当だ。気付かなかった」
森の中でパーティ皆で歩いて探しているとようやく足跡を見つける事が出来たが、これが本当に捜索対象の足跡かどうかの確証がない。
もう日も落ちてきていますし、見つけられればいいんですけれど……。
「あの洞窟じゃないか?」
「あそこって初心者向けの低級ダンジョンじゃない。迷い込んだのかしら?」
「とにかく行ってみよう」
ダンジョンの中に入って少し歩くと、辺りがぼんやりと明るくなって、子供が通路に立っていた。
「あ、いた」
「君!ランク1がこんな所に来ちゃダメだろ?両親も心配していたから早く街に━━━━」
「……ライト?」
子供に話しかけていたライトさんが急に固まったように動かなくなってこちらを向くと、剣を構えてこちらを向く。
「なっ!?ライト、なんのつもり!?」
「待って、様子が……」
子供の後ろから光が発せられると、リゼさんとウルさんの動きも止まって私に向かって弓矢と杖を構える。
「み、皆さん、一体何を……?」
子供の後ろを見ると、コンフュアイと言う大きな目が特徴の二足の魔物がいた。
所謂中級殺し。ある程度慣れてきた冒険者があの大きな目で混乱させられて全滅させられる話を年に数回は聞く。
「そうだ、アミュレットがいつもと違うから……治さなきゃ……!?」
咄嗟に後ろに下がると、さっきまでいた場所にライトさんが剣を振り下ろしていて、後ろの二人も攻撃してくる寸前だった。
「くっ、《プロテクト》!」
防御魔法を唱えた瞬間、水の槍と矢がぶつかり、ほんの少し耐えたが吹き飛ばされてしまう。
助けを呼ぼうにもこんな所じゃ……だめ、今は私しか動けないんだからなんとかしないと!
「《フラッシュ》!」
普段は周囲を明るくするだけの魔法を魔力を多量に注ぎ込み、強烈な光が辺りを包み込むと急いでダンジョンの外に向かう。
「お願い、誰か気付いて……《フラッシュ》!」
ダンジョンの外に出て、空に向かってもう一度魔法を放つ。
これで、近くの誰かが気付いてくれれば……!
「あっ……!?」
足に矢が突き刺さって転ける。
急いで治療しないと!
「あ……」
矢を引き抜くと頭上から影が刺し、振り返るとライトさんが剣を構えていた。
「ら、ライトさん、や、やめっ━━━━」
虚ろな目をしたライトさんがそのまま剣を振り下ろす。
もうダメだと目を瞑った。
「そぉい!」
気の抜ける声と共に凄まじい音が聞こえてきて、目を開くとアルさんがそこに立っていた。
「薬草見っけ」
ライト達からそれ程離れていない所で追いかけるついでにギルド用の薬草を集める。
こういうのが後進の成長に繋がるんだよなぁ。
薬草を探しながらスキルで位置を確認する。
何かを見つけたのか移動していないみたいだ。
「ん、急に移動し始めた?」
妙だとライト達の方に行こうとすると空が強く光った。
その瞬間に足に魔力を回して全速力で光の方に駆ける。木々の間を抜けるとライトがアリシアに向けて剣を振り下ろそうとしていた。
「あんの馬鹿野郎」
なんか油断しやがったな。
ライトに向かって全力で飛んでドロップキックを喰らわせる。
「そぉい!」
森の中に吹き飛んでいくライトを確認しつつ愛用の片刃の剣を抜く。
状況から見て精神に作用する何かを使われたか?
洞窟の方を見れば、ウルとリゼの後ろから目的の子供と一緒にコンフュアイが出てきた。
「こんな所に出てくるのか」
本来はもっと奥の方のはずなんだけど……。
「アルさん、早く逃げて!」
「大丈夫だ」
アリシアの声に反応すると同時に強い光を当てられた。
「そんなっ!」
悲壮感を漂わせるアリシアを他所に、剣逆手に持ち、背中から左手首に着けた腕輪型のアイテムボックスからを弓を取り出し、矢を構えコンフュアイに放つとコンフュアイの目にのすぐ側に突き刺さり、コンフュアイが身悶える。
「……あれ?」
「今のうちに怪我を治しておけよ」
「は、はい!」
種明かしとしては俺はパーティを組んでいないから、アミュレットは全て行動不能系の状態異常を無効化していて、麻痺と混乱と睡眠と魅力とかは効かない。
まあその代わり属性への耐性ないのが玉に瑕だ。
ウルとリゼが杖と弓を構える。操られているから動きがいつもよりずっと緩慢だ。
弓を戻して剣を順手に戻し、左手で腰のポーチから小さな石を取り出して魔力を込めるとウルの方に放る。
「ハッ」
リゼの放った矢を斬り払い、ウルの放った水の奔流は投げた石から弾けるように発生した氷によって侵食され凍りついた。普段ならこうはいかないだろう。
「魔法石……あんなに小さいのにこんなにも威力が……」
「我慢しろよ!」
もう一度弓を取り出して、リゼの右肩に矢を放つ。これで矢は放てないだろう。
「よし、後はライトか」
目を向けると蹴飛ばした方向からライトが戻ってきた。
右手首の腕輪から槍を取り出して石突きをライトに向ける。
「よし来い」
左手のバックラーで受け流しながら突いたり払ったりして姿勢を崩しつつ魔法石をウルの魔法に投げる。一応リゼにも目を向けておく。
しかしまあ、魔法石はレイナさんに作ってもらって安く売ってもらってはいるが、だからと言って高いものは高い。ライトに肩代わりしてもらおう。
「ん?」
リゼがこちらに走る━━━━前に足を引っ掛けて盛大にすっ転んでその先の網に入り吊り上げられた。
「大人しくしてろよ」
そのままウルの方へ駆ける。火球をスライディングでくぐり抜け、勢いそのままに蹴り飛ばして木にぶつかると体が蔦で拘束された。
「後はお前だけだ」
のっそりとライトが草むらから出て来て剣を構え、一歩踏み出した途端にリゼと同じようにすっ転んで先にあった落とし穴に頭から落っこちた。
「終わったぞー、混乱の解除を頼む」
「は、はい!《浄化の光》!」
柔らかな光が辺りを包み、光が消えると暴れていた三人の動きが止まり、子供もその場で崩れるように倒れる。
「お、俺は……?」
「いっ……!?なんで肩に矢が刺さってるの!?というか何これー!?」
「……アル、助けて」
「良かったぁ……」
「わかったわかった。その前に……よっと!」
槍をコンフュアイに向かってぶん投げると眼球を貫いて後ろの木に突き刺さる。
「これで一件落着。帰るぞ」
解決はしたもののコンフュアイがこんな所にいるなんて今まで無かった。何かあるかもしれないし、ギルドに報告しとかないとな。