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2話:ライズ

 


 200年前の勇者が魔王軍を押し返した街、ライズ。

 王都よりは少し離れているものの街はかなり大きく、交易が盛んな街だ。

 警備隊も他の街と比べて力を入れていて、練度も高い。

 ジールと手を繋いで人混みを掻き分けて進む。

 今回は相手がドラゴンだから人がいつもより多いが、ライト達が帰って来た時はある程度の人集りができるのが面倒だ。


「どこら辺ではぐれたんだ?」


「わかんない……」


「わかんないかぁ……」


 どうしようか、多分広場のどこかにはいるだろうが。

 そう考えていると顔の前に妖精が現れた。


「うおっ!?」


「あははっ!驚いちゃった?」


 妖精は俺が驚くと鮮やかな金髪のツインテールを揺らしながらコロコロと笑った。


「なんだ、リィルか……案内してくれるのか?」


「またジールが迷子になったから呼ばれたのよ」


 リィルはレイナさんの契約している中で最古の参の妖精で、レイナさんの魔法の補助やバフを掛けたり、普段は疲れるからと使わないが上位の攻撃魔法まで操れる。

 契約はあらゆる生き物の間で行うことが出来るが、その中でも妖精のような言語が喋れて人と同じように思考できる相手との契約は難易度が高いと言われる。

 妖精ならば美しい容姿に気を取られ、気紛れでイタズラ好きな彼女達に契約を持ちかけて気に入らない、なんか気分が乗らないからと身ぐるみを剥がされる事もよくあると聞く。

 レイナさんは実力行使で正面から魔法でぶつかり合って認められて契約できたらしい。


「最近呼んでくれないから暇だったわ」


「そうそうお前を呼ぶくらいの強敵と出会ってたら命が幾つあっても足らないだろ。」


 レイナさんが怪我をしてからは俺とも契約を結んでいて、重要な場面では助けてもらっている。

 ただ寝ている時に契約を結ばれたから最初出てきた時は困惑してしまった。

 最近はさっきも言ったように呼び出すような強い相手もいなかった呼び出す事がなかったが、それが不満らしい。


「あ!リィル!」


「リィルお姉さんでしょ!もう……」


 妖精一家の長女でもあるリィルは妹達に振り回されている分、素直なジールの事を結構気に入っているみたいで、今も怒っているように見えるが嬉しそうだ。


「あっちよ」


「お、いたな」


「母さ〜ん!」


 石段に腰掛けてこちらに手を振る茶髪のおっとりとした女性、レイナさんを見つけるとジールが走って行き、俺達もその後ろをのんびりと追う。


「いつもごめんなさいね。リィルもありがとうね」


「いいって、いつもの事だし」


「そーそー、レイナと私の仲でしょ?」


 ジールを引き渡すとレイナさんが立ち上がって俺の頭に手を伸ばしてくる。それを一歩下がって避けると寂しそうに眉を下げた。


「俺ももう子供じゃないって何度も言ってるだろ」


「子供じゃなくっても可愛い弟分だって、私も何度も言ったわよね?」


 下がった分を詰められる。転けないか心配になって手を取って支えるとその間に撫でられた。それがどうにもこそばゆくって顔を横に向ける。


「……満足した?俺はギルドに戻るから」


「今日もうちの宿に泊まる?」


「そのつもり」


「じゃあいつもの部屋を準備しておくわね」


「ん、わかった」


 ここで別れようとするとリィルが目の前に来て、にっこりと笑顔を浮かべて両手を前に出した。


「……抜け目ないな」


 腰の袋から砂糖菓子の入った小包を取り出して渡すと、早速中身を見始める。

 少しして顔を上げる。


「ね?」


「妹達のも含めて足りてるだろ?」


「久し振りに会った弟が冷たくてお姉さん悲しいわ……」


 リィルがわかりやすく泣き真似をする。

 弟だと思ってるなら遠慮くらいしてほしい。


「わかったわかった。これでいいか?」


 腰の袋から今度はハチミツで出来たアメを取り出して渡す。リィルの大好物だ。


「えぇ、それで良いわ」


 上機嫌になって俺の頭を小さな手でポンポンと叩いた。


「……じゃ、今度こそ戻るからな」





 レイナさん達が帰って行くのを見届けてからギルドに戻ると、ウルが駆け寄ってきた。


「頑張った」


 ウルが帽子を外すとぴょんと猫耳が飛び出して、頭をこちらに押し付けてきた。


「はいはい」


 頭に手を置いてぐりぐりと撫でるとむふーっと満足そうに息を吐いた。

 この子は猫の獣人だ。

 この世界の種族は大きく分けると、人間や獣人と魔族がいる。人間は俺たち。獣人はウルみたいに猫や犬のような動物の要素が入った種族。そして魔族は魔王のような存在だ。

 エルフやドワーフもいるが、まあよくある創作通り、エルフは魔法や弓に優れ、物静かなやつが多いが中には変わったやつもそこそこいる。ドワーフは背は小さいが力があり職人が多く、酒飲みで大雑把なのが多い。

 この中で獣人は扱いが悪く。この街ではないが、人として扱われない事がある。酷い所では奴隷として扱われる程だ。各国で獣人の立場を上げようと努力はしているが、見えない所では虐げられている。実は奴隷を商人から解放する依頼なんかもあったりするが難易度が高く、最低でもランク6以上が対象だ。仮にランクが高くともやられる事だってある。


「ウルさんの水魔法のお陰で余裕を持って戦えました」


「まあ、それもあるけど炎耐性のアミュレットも効果的だったわね」


 アリシア達が首に下げたり胸元に止めているアミュレットに目を向ける。小さな赤い石の付いたアミュレットは炎を吐くドラゴン相手には覿面だろう。それにウルの得意な水魔法が絡めば大して苦でもなかっただろう。

 服を引っ張って不満を露にするウルの頭を撫でてあげ、腰の袋からお菓子を取り出して渡した。今回は飴だ。

 早速ウルが中身を取り出して口に入れると頬を緩めた。

 俺とウルの関係は勇者パーティよりも長い。最初の出会いは森で行き倒れている所を拾った時でそれから俺がライトのパーティに押し付けた。

 初めのうちは一緒にパーティを組もうと言い続けていたが面倒なのに絡まれてウルに被害がいくのが嫌だったから別に理由を付けて諦めてもらった。


「アル!」


 諸々の手続きを終えたライトが合流してきた。


「どうだ!俺達もドラゴンを討伐出来るようになったぞ!」


「そうみたいだな」


「次の目標はお前と同じソロランク7だ。待ってろよ!」


「パーティランク7なんだから同じでいいだろ?」


「いいやパーティとソロだと難易度が段違いだからな。俺も負けていられないな!」


 ランクには2種類あって、ソロは個人戦闘力のランクでパーティはパーティの総合力をギルドが査定して決まる。

 ランクが強さの目安になるとはいえ、相性によっては自分よりも下のランクの魔物にやられるなんて事があるから、討伐対象を図鑑などで調べて自分で判断する必要がある。

 それにしてもライトは何かにつけて俺と張り合おうとする。俺がなりたかった勇者に選ばれたんだからそれで満足してほしい。

 こっちはライトが勇者だと判明した日から一週間くらいは寝込んでたんだぞ。


「はいはい……」


 げんなりしているとフィーナさんが慌てた様子で駆け寄ってきた。


「はぁ、はぁ……ふぅ、緊急のクエストがあるのですが、よろしいですか?」


「何があったんだ?」


「ランク1の子供が昨日からクエストから帰って来ないと。依頼主はその子の両親からです」


「ランク1が?」


 ランク1の街から出るクエストと言えば、精々が薬草等の植物の採取くらいだ。更に言えばその植物も大抵が森の入口から少し入った程度の所にある為、子供でも慣れてしまえば一時間程度で終わるクエストのはずだ。

 それが帰って来ないのであれば……狼や豬系のモンスターに偶然出会ったか。もしくは完全なイレギュラーがあった可能性がある。


「わかった。そのクエストを受ける」


「わかりました!では手続きの方はこちらでやっておきますので今すぐクエストに向かって━━━━「待った!」ひゃっ!?」


 突然のライトの大声にフィーナさんが驚き、ライトを見ると顔に「俺がやりたい」と書いてあった。


「皆さんは先程クエストから帰ってきたばかりです。ギルドとしても了承しかねるのですが……」


「そこをなんとか!」


 ライトが両手を合わせて頭を下げる。


「うぅ……わ、わかりました。今回だけですからね!」


「ありがとう!」


 勢いに負けたフィーナさんからの視線を受けてライトの肩に手を置く。


「強引過ぎるぞ。フィーナさん驚いてたろ。というか他のメンバーに話も聞かずに受けるなよ」


「悪い!えー……それでなんだけど、だめか?」


 恐る恐る振り返るとアリシア以外の二人がまたかと呆れていて、アリシアも苦笑いを浮かべていた。


「じゃあすぐに行きましょ。こういうのは早い方が良いわ」


「ああ、じゃあ行ってくる!」


 こっちに手を振りながらギルドを出るライトを見送る。


「アルさん、すみませんが……」


「わかってるって、もうスキルで追跡出来てるから距離開けて追い掛ける事にするから、薬草集めに行ったって事にしておいてくれ」


「わかりました。アルさんも気をつけてください」


 軽く手を振ってギルドを出て後を追い掛ける。少し嫌な予感がする。





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