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1話:いつもの日常

 




「フィーナさん、薬草集め終わったぜ」


「ありがとうございます。アルさん。」


 そう呼ばれたのは俺の今世の名前だ。うっかり階段を踏み外して頭を打って死んでしまって、そしてそれから転生して22年、すっかり聞き慣れた名前だ。本名はアルフレッド長いからと仲のいい連中からはアルと呼ばれている。家名は貴族にしかないからこれでフルネームだ。

 生まれた時には前世と違って不便なこの世界でやっていけるか心配になったが、なんだかんだ馴染むもので、今ではこの世界に慣れてしまった。それに魔法が便利過ぎてそこまで不便も感じることがない。


「この時期は駆け出しの冒険者が浅い層の薬草を採り尽くしてしまいますから助かります」


 今は時期的には春。冒険者が1番増える時期であり、1番減る時期でもある。

 原因は自分の力量を勘違いして奥に行ったり、無謀な行動をする事だ。その為にギルドでは初心者向けにある程度薬草や回復薬を蓄えておく必要がある。


「勇者様達が帰ってきたぞー!!」


 ギルドの外から歓声が聞こえてくる。

 その声を聴きながらカウンターにもたれかかってフィーナさんと雑談をする。


「今回はドラゴンだっけ?俺が上位種のレッドドラゴンを討伐した時はこんな歓声なかったのになぁ……」


 これが一般的な冒険者と勇者の違いかぁ。

 勇者はこの世界において重要な役割を持っていた。

 持っていた、とは200年前の勇者が嘘みたいな強さで魔王軍をフルボッコにしたらしく、今ではあまり意味はない。

 本人から聞いたり見せてもらったスキルは発動していればパッシブで効果のある常時治癒に攻撃力の上昇スキルだったり、派手な魔法に派手な剣技、正にゲームや物語の勇者のスキルに相応しいものだった。


「ま、まあまあ、あの時はイレギュラーでほとんどの人は知らないから仕方ありませんよ。でも、私達ギルドの職員はわかってますよ!」


「ははは……」


 一応通常種のドラゴンを倒したって情報は出回ってたはずなんだけどなぁ。


「それにアルさんだって有名じゃないですか」


「勇者とは真逆の意味だけどな」


 その原因は俺の称号にある。

 この世界には所謂ゲームで言うジョブのようなものがあって、世間的には称号と呼ばれている。

 所有者は称号持ちと呼ばれ、【勇者】や【聖女】がそれに該当して俺にもそれと同じで【狩人】という称号を持っているが……まあ、とある理由で嫌われている称号だ。

 ちなみに【勇者】や【聖女】なんかは1人しか生まれないが、その他の例えば【騎士】や【魔法使い】なんて称号は複数人が持っていたりする。とはいえ称号持ちが絶対的に強い訳ではなく、ちょっと変わったスキルや魔法が使える程度だ。ただし、1人しか発現しないスキルは別だ。ほとんど大成するのが約束されている。歴代の勇者や聖女達がそうだって本に書いてあった。

 それなのになぜか【狩人】も俺1人しかいない。資料では200年前は何人もいたと記載されているが条件があるのか?


「そ、それはまあ……で、でもこのギルドで現在ソロランク7はアルさんしかいませんし!」


「普通はパーティ組むからな」


「少なくとも2人パーティは必ず組みますからね。今からでも組みませんか?」


「今はまだ良いよ。そういえば他に完全ソロでやってるのって、あの上澄みの3人以外にいたっけ?」


 思い浮かべるのは昔偶然一緒になって1度だけパーティを組んだやべー奴ら。ギルド全体のトップ3。あいつら全員人間じゃねぇ。

 結局あの時の仕事はほとんど役立たずだったし、精々やった事は飯の準備くらいだ。まさか誰1人料理が出来ないとは……。

 更に言えばあの中の1人は俺よりも少し歳上なくらいだったもんだから余計に凹むわ。


「…………いませんね!」


「大抵最初のうちはソロやってる冒険者も途中から壁にぶつかってパーティ組むからな」


 俺はスキルで悪目立ちした結果、とりあえずソロでできる所までって頑張ってたらここまできてしまった。

 2人で勇者達を眺める。先頭にいる誇らしげな顔を浮かべた赤髪の男が【勇者】ライト。俺の幼馴染で同じ村で隣の家に住んでいた。

 ライトの横にいる、茶髪ポニーテールで弓使いの女が同じく幼馴染で同じ村出身のリゼ。

 二人の後ろで困ったような顔で耳を塞いでいる銀髪碧眼ロングヘアーでいかにも聖女っぽい見た目の女が【聖女】アリシア。

 その横で不機嫌そうにトレードマークのとんがり帽子の横を引っ張って深く被っている青髪のちみっこい女の子が魔法使いのウル。

 そのままフィーナさんと人混みを眺めていると、微かにどこからか泣き声が聞こえてきた。


「この声は……またかぁ」


 フィーナさんと目を合わせて苦笑いを浮かべると声の元へ小走りで向かう。すると人混みから少し離れた所で子供が泣いていた。


「ジール、またはぐれたのか?」


「アル兄ちゃん!」


「レイナさんは?」


「いつの間にかいなくなっちゃった……」


 ジールは俺がここでいつもお世話になっている宿屋の子供だ。この子の両親も昔は冒険者で、父親のハンクさんは剣士、母親のレイナさんは魔法使いだった。

 当時は2人組だってのにこの街屈指のパーティとして有名だったが、クエストの最中でレイナさんが片足を怪我してしまい治療が間に合わず杖を着くようになってから宿屋を開いたのが大体4年前だ。

 勇者パーティが帰ってきたって聞いて人混みに突撃したんだろう。よくある事だ。


「一緒に探してやるから、行くぞ」


 そう言って手を繋いで母親のレイナさんを探し始めた。




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