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第5話 こうふく

 謁見の間に通されたオレ達。


 人払いをお願いした。代わりにこちらも美少年(笑)とオレ、そしてノインだけが中に入る。ツェーンは、部屋の前で番をすることにした。


 ノインが訝しげにこっちを見てきた。まるで「ホントに、これでいいんだな?」と言いたげ。


「問題ありませんよ」


 ニコッと笑って部屋に入る。


 なんか胡散臭ぇと言いたげなツェーンだったけど、こういう時に何も言わないのが彼の持ち味だ。黙って見送ってくれた。


 偶然とはいえ、ひらめいてしまった「ゴールズ」の旗は、どうやら教会の一部の関係者とかエライ人しか知らないような「秘事」に類するモノだったのは確かだ。


 彼らからしたら「宗教的な奇跡」を演じたことになる。そういう連中が「デブな司祭だから」って理由だけで、宗教的なトップスリーである中央司祭を瞬殺しちゃうアブネー展開を目の当たりにしたわけだ。


 実は、あの時、殺すことまでは考えてなかったんだよ。ただ、あきれたサンダル君だっけ? アイツを投げ飛ばした時の空気は明らかに「ざまあ」だった。


 まあ、どう見ても「破戒僧」を見る視線だった。誰も心配してないほど人望がない。


 となると「宗教的な突破者」だったら、そういう相手に何をするかって考えると「神に代わってお仕置きよ!」って形の誅殺が一番って答えになったんだ。


 事実、抹殺した後、物陰から見ていた部下っぽいヤツも衛兵も誰一人動かなかった。つまり、ヤツらの位置付けは「権力志向の生臭坊主」だから、オレ達の行動は宗教的に正しかったことになる。


 そして、あの場で中央司祭を殺されてしまった以上、オレ達をなんらかの形で認めないと国教務大臣の立場がヤバくなる。

 

 どうせ、やべーやつらなら「宗教的に奇跡を起こした者達」扱いした方が、何万倍もマシっていう計算をしたんだと思う。いざとなったら、こっちになすりつけられるって計算もしたはずだ。


 そう考えると王宮内で謀殺を図る可能性は限りなく低い。そんなことをしたら、さっきの場面を目撃した部下達をなだめるのが大変だし、教会側にも説明がつかなくなるからね。


 武装解除を求めて来たけど及び腰。一応拒否しつつ、槍だけは渡した。これは「儀礼上の妥協」というヤツだ。馬上槍は元々室内戦闘には向かないから、実質的な戦力ダウンはない。


 それに、なんていってもオレの横にはアテナが怠りなく警戒中だ。


 実戦になってからのアテナの剣は冴え渡ってる。以前、オレが勝てたのは、ホント奇跡だった。今のアテナのマジモードだったら、オレは秒殺される自信があるくらいだ。今のゴールズでアテナに勝てる人間なんていないよ。


 そんなアテナは美少年としてオレの横にいるけど、ほっそりしたシルエットのせいか、その「美貌」のためか警戒される様子がまるでない。念のために、もう一度言うけど、ゴールズの中で、一番ヤバいのはアテナだからね? もしも、オレに剣を向けたら、次の瞬間に首チョンパだよ。


 問答無用。


「所有者様に害をなそうとするモノは切る」


 ただ、それだけ。行動原理が明解すぎて、もはや誰にも何も言わせないレベルになっている。


 だから、あらかじめ「王様はなるべくヤッ()ちゃダメだよ」って言い聞かせておいた。さすがに、ここでいきなりは不味いからね。できるだけ、生かしておいた方が後で楽だからさ。


 ま、そうやってオレに半歩遅れてアテナがいる。後ろにいるノインは「肉の盾」にでもなるつもりらしい。


 ツェーンは、きっと扉の向こうで、相手の衛兵と視線を戦わせているはずだ。 


『さて、勝負だよ』


 玉座に座っていたイルデブランド3世の前にツカツカツカと進み出た。


 ただし「臣下の振る舞い」も「王に対する礼」もとらない。真っ直ぐに目を見つめながら進んでいく。


 これでは、王は「対等」とは受け取らない。むしろ「目下扱い」として感じるのが当然のこと。


 あ~ キョドってるw


 戸惑っちゃうよね。わっかるぅ。今まで、こんな無礼なコトされたことないんでしょ?


 既にこの時点で、勝ったも同然。


 ローディングの民を救うという言葉を信じるしかない以上、かつて100年戦争の時代にジャンヌ・ダルクと出会った、後のフランス王となるシャルル7世の心境も同じだったかも。


 追い詰められた状況のせいで「こいつら、やべーヤツみたいだけど、信じたい」って心理になったのだろう。


 おっと、宮殿の外でバタバタ走り回る気配がしてきた。


 頃合いだ。


「そち等がゴールズと名乗っている者達か」


 王が勇気をふるって声をかけてきたけど、ここはピシャッと行くよ。


「控えよ」


 背筋を伸ばして、目を見つめながらのオレのセリフ。イルデブランド君もビックリだよ。おそらく生まれてこの方、こんな風に上から目線で叱られたことはなかっただろうから。


「な、なんと、無礼な」


 思わず呟いた王の言葉を拾ってあげる。


「無礼とな? この会見の場をなんと心得る?」


 横からシュターテン国教務大臣が「それは、こっちのセリフだ」と呻くような声が聞こえたけど無視。


 大上段からの上から目線で行く。


「そちは、何のつもりだ」

「なっ!」


 懸命に「感情を表情に出さない王族のたしなみ」の限界に挑戦しているイルデブランド君が、それでも声を震えさせている。


 それでは、ここで今回のトドメの言葉。


「これはアマンダ王国の降伏調印をするための場です。敗戦国を統べる者として言葉を慎みなさい」

「こ、こうふくだお?」


 あれ? 国王陛下、なんか、噛んでますよw


「我らは独立部隊・ゴールズ。そして、私はサスティナブル王国子爵、ショウ・ライアン=カーマインである。これ以上、国民を殺したくないなら、この場で降伏なさい。慈悲は与えてあげよう」

「な、な、なななななんな「降伏して、ローディングの民を救うのか、拒否して、アマンダ王国そのものを喪うのか。今、お決めなさい」んだとお!」


 横ではシュターテン国教務大臣が瀕死に近い表情だw


「独立部隊だと言ったのに…… 旗も……」

「我らは、独立して動く部隊である。旗は、さっき正直に言ったように私の思いつき。解釈はそちらのご自由だが、ウソを吐いて騙したことなど、露一滴たりともありませんな」

「こ、これは「あ、人は呼ばない方が良いですよ、誰か来る前に「神の前にフトドキがあった」でお終いなんで。さっきみたいになりたい?」


 さりげな~く、後ろのノインがオレの斜め前に出たとたん、シュターテンさんはビクついたけど、一番危険な人はこっちの「美少年」だからね。


「ここで王が人質になった上に、戦える者がこんなに少ない城でガーネット騎士団1万人を迎え撃てるとでも?」


 話は少し盛っておこう。


「なんだと?」


「敵襲! 敵襲! 騎馬部隊が多数、城門を目指してきて接近してきます」


 タイミング良く「ご注進」が入った。ナイスアシストw


「まず、臣下に命令しなさい。抵抗するなと。降伏が早いほど、ローディングの民が救われます。こうしている間にも彼の地では人が倒れていくでしょうね。それにこの状態で抵抗してもムダなことは、国教務大臣の方がわかっているんじゃないですか?」

「ぐぬぬぬぬ」

「念のために言っておきますけど、この場で降伏するなら国は残します。これは責任を持ってお約束いたします」


 そうしないと、ローディングへの補給がこっちの責任になっちゃうもんね。


「国を残すだと?」

「はい。サスティナブル王国の国土を侵犯した責任は、それなりに取っていただきますが、まずは100万人の命を救うことが優先です。王室は存続。ただし、今後、次の王が即位する時には、こちらの了承が必要です。逆に言えば、それだけです。どうします? メンツをとって降伏しないのも自由。代わりに、この国はゼロになりますが。それともメンツを捨てて民を救いますか? 我々としては、この国を支配するのは面倒なので、王を残したいのはやまやまなのですけどね」

「国は、本当に残るんだな?」


 シュターテンが声を絞り出してきた。


「だって、あなた方には、やるべきことがあるんですよ? 民を救うんでしょ? アマンダ王国を地図から消しちゃうのは必ずしもサスティナブル王国の国益とならないので。あ、国としての自治もお任せします。相互不可侵だとか、ちょっとだけ条件は付けますけど」

「そうご 不可侵、だと?」


 王の前に刃が届いた敗戦国としては厚遇だよね? 後一押しかな。


「ほら、早く。ガーネット騎士団は脚が速い。もうすぐ戦いが始まってしまいますよ? 臣下には『ローディングの民を救うための特別措置だ』とでも言えばすみます。どうしますか?」


 三秒の沈黙。


 シュターテンが、国王に「やむを得ません」と進言。


 勝った!


「国は、残せるのだな?」

「ガーネット家当主の委任をいただいています、って言うか、その当主がもうすぐ、ここにきますが、その名前に賭けてお約束します。領土は元の大きさになるでしょうけど、王家は存続します」

「わかった…… シュターテン」

「承りました」


 シュターテンは、重々しい戸を開けると叫んだ。


「誰かある! 城門を開けよ! あれは味方じゃ。ローディングを救うために協力していただく味方じゃ。一切の攻撃を禁ずる。全ての武器をしまえ!」


 唖然とする命令が城門に到達するまで、時間はいらなかった。




・・・・・・・・・・・



 講和条約の細々とした文言を詰めるのは後回しにされた。とにかく、ローディングの民を救わないと、イルデブランド国王の決断が台無しになる。


 こっちはこっちで「後始末」が必要だしね。


 講和の条件は、わりとシンプルだった。


 大雑把に言えば、サスティナブル王国はローディングの民を救う補給線の手助けをする。


 代わりに、国王の即位には「ゴールズの長」の同意が必要なこと。婚約者戦争前の国境に戻すこと、そして「降伏の事実」を隠蔽することの3つだ。もちの、ろん、賠償金は別腹ね。


 国王即位の同意が必要になるのって事実上の属国化だ。だけど、認めるのがサスティナブル王国の国王ではなくて「教典の奇跡」を演じた集団の長だ、と言う形なら別。辛うじて教会にも民にも「ローディングの民を救うため」という言い訳ができるということらしい。


 そして、サスティナブル王国への領土割譲と賠償金は「シードまでの土地を割譲させる交換条件だ」と言い張ることで、目くらまし。


 結果的に、我が国としては100年前の国境線までの広大な領土を回復して、そこからシードまでのか細い道をバーターとしたワケだ。ま、ローディングの大災難を考えると、この程度は仕方ないと思う。実際には、ここがアマンダ王国の「お荷物」となるのだから、キッチリと見切った結果だよ。


 賠償金は、年間、白金貨1枚、ただし今後100年間支払い続ける。大国としても決して少ない額ではない。けれども国を傾けるほどでもないのがポイントだ。


 で、これは「ローディングの民への補給線の維持に手を貸す代金を分割で払う」として教会と民には説明されるらしい。


 もちろん、我が国では全部、事実を説明しちゃうけど、ネットがあるわけでもないんだ。それぞれの国で、それぞれに都合良く説明すればいい。まあ、こっちは事実を言えば良いけど、アマンダ王国では、あっちこっちで取り繕わなきゃだし、なによりも凝り固まってる枢機卿達を納得させる必要がある。


 最終的に、少しは手伝うつもりだけど、いや~ 宗教国家はいろいろと大変だなぁ。


 あ、もう一つあった。


 強く乞われて、サスティナブル王国側から渡されるのは「ゴールズの隊旗」だよ。王都の中央教会に「聖なる遺物」として飾られることになるらしい。


 そうでもしないと地方司祭達が収まらないだろう、だってさ。へへへ。それを聞いちゃったら、渡さないわけにはいかないよね。


 生まれて初めて、オレの「絵」が役に立ったみたいだ。


 あ~ 褒めて褒めて褒めて! 


 ん? なに、みんな、そんなあきれた顔してるの?


「アマンダ王国が降伏……」


 ノインとツェーンが、顔を引き攣らせてる。


「さすが、私の所有者様です」


 美少女の優しい笑顔は、一番のご褒美だよね!




・・・・・・・・・・・



 エルメス様は到着するやいなや、初めから打ち合わせしていたかのように、ごく当たり前の顔をしてアマンダ王国側とのテーブルについた。


 オレの出した案で、あっさりと基本的な合意としてサインをしている。オレの知らないところで、ノーマン様と打ち合わせがあったのか、サスティナブル王国の国王名による「委任状」まで用意している周到さだ。


 さすがぁ。


 かくして、100年ぶりにサスティナブル王国とアマンダ王国の戦争は、いったん片付いたことになった。


 事実上、アマンダ王国側の無条件降伏に近い。


 打ちのめされたイルデブランド君は、フラつきながら退場。


 しばしの休憩。


 そして親子の対面だよ。


 久しぶりのエルメス様は、オレと再会の握手をしながら苦笑いしたんだ。


「誰が、ここまでやれと」


 口を開くなり苦情めいたお言葉だ。


「何とかしろと仰せだったので、一番手っ取り早い解決法を選びました」


 あれ? エルメス様が珍しく硬直した。


 はぁ~ とため息をつくと、俯いてかぶりを振った。いや、中年親父の悩むポーズだけど、何気に絵になるところはすごい。


「普通は相手の国の降伏は『目的』だぞ? どこの世界に、手っ取り早い解決手段ってことで国をまるごと降伏させるヤツがいるんだ」

「そう言われましても。とりあえず、これしか思い浮かばなかったので」


 一瞬、ギラッとこっちに向けた視線が厳しい。


「それはウソだな。他にもあったんだろ?」


 あちゃ~ バレてるか。


「……はい。ただ、これが一番、その後で楽かなぁ~ なんて」

「後がラクって理由で、一国を降伏に追い込んだ奴を初めて見たぞ。しかも我が国の悲願であった国土の回復付きとはな」


 大きく息を吸った後「お前の所有者は、やはり並ではないな」と娘を見る目は優しかった。


「はい! 最高の所有者様です!」


 即答する男装の美少女だ。


「いやいや、これは、何というべきか……」


 そこで表情を一変させたエルメス様は、どーんと、背中を叩いてきた。


「ついでに東と南も、この調子で頼むとするか」


 カッ カッ カッ と笑うエルメス様の目が半分、マジなんだけど、気のせいだよね?


 その間も、アテナは周囲の警戒を怠ってないのがすごい。と言っても、エルメス様がちゃんと警戒しているんだろうけどね。


「とりあえず、講和条約の締結を我が国に報告ですね。さすがに、これはイチ子爵の手に負えません」

「まあ、もうすぐ、子爵でもなくなるんだろうがな」

「昇爵していただけるんですか?」


 父上と同格かよ! なんか、ワクワクしちゃうぞ。


「西の大国をたった数ヶ月で降伏させた漢が伯爵では問題だろう」

「え? 伯爵では問題?」

「細かいことは国に帰ってからだ。まだまだやるコトがあるしな」

「はい。補給線の再構築と、帰国がてらシードに寄って様子を見たいと思います。あっちへの補給が回り始めれば、シュモーラー家の半分くらいは、補給線に回せるでしょうしね」

「幸い、当主のコーナンがナゴに入ったとのことだ。今ごろはハーバルの領都・ハイに向かっているはずだ。そこで、落ち合う形をとろう」

「おー ニアのお父さんと会うのかぁ。なんか緊張します」


 どんな人だろ? 娘をやるんだから、一発殴らせろとか言われたりして…… ヤバッ、マジで緊張しちゃいそうだ。


 あれ? エルメス様のジト目だ。


「一国の王を見下して交渉したそうだな」

「あ、えっと、今後の上下関係…… みたいな? そうしておかないと、カッコがつかないかなぁ、なんて…… あの、不味かったですか?」

「国王を見下した漢が、側妃の父に緊張とは、いやはやなんとも」


 ははは。どんまーい。



 

・・・・・・・・・・・



 義父と息子がほのぼのと会話していた、その頃、地獄が生じていた。


 穏やかな表情でマヌス枢機卿がミサを捧げた到着直後と、今とでは壁の中が一変している。


 まるで地獄の釜の底だ。


 到着した時、マヌス枢機卿は、満たされた表情で、痩せこけた身体を横たえると、眠るように神に召された。一説には、歩いていた最後の3日間は、祈る以外口もきかず、何も食べず飲まず。つまりは普通の生者としての機能を一切見せること無く、ただひたすらに歩き、祈ったらしい。


 それを目撃し、生き残ったごくわずかな信徒は、一様に、そう伝えている。


 到着後のミサで、最後の聖句を唱えると、そのまま静かに崩れ落ちるようにして天に召された。


 そう言い伝えられていた。


 しかし、多くの人々にとって、それは「終わり」ではなかったのだ。


 聖地を見、聖者の「殉死」を目撃した熱心な信徒が、それだけで大人しく帰ろうと思うわけがない。


 人々は感謝の祈りを捧げ、シードの地に聖者を埋葬した。


 気付けば、直径3キロあったはずの壁の中は、どこも人、人、人であった。


 食料は届かず水もない。飢えと渇きに苦しんだ人が、引き返そうにも、唯一の出口からは人波が押し寄せて戻ることもできない。


 人々は、飢えの前に「渇き」に苦しんだ。以前は流れ込んでいた小川も、ローディング到着前に流れが封鎖されている。今は分厚い堤防と壁が塞いでいた。


 これだけになっても、人々は地獄の釜の底から戻ろうとはしなかったのだ。正確に言えば、戻ろうとした少数の人々はいた。だが、回廊に後から後から続く人の圧力で戻れない。


 できることは、祈りを捧げながら奇跡を待つことだけ。多くの人が、そのまま息を引き取り、その上に倒れた人が、また息を引き取っていった。


 人々は、静かに力を失い倒れる前に、ほんの一時だけ暴れる力を発揮するときがある。


 痩せ細った人々が「壁の外」を目指して、ワラワラと押し寄せる。2メートルの深さがあった堀はすでに、人によって埋め立てられ、その上に乗った人と、さらにその上に登った人が壁を登ろうとしてくる。


 この圧力に辛うじて耐えられたのは、堤防のようになった土の厚みのおかげだ。


「さすがエルメス様だぜ。この土がなかったら、どうなっていたことか」

「いや、実は、この土盛りは、例の麒麟児の計画だったらしい」

「作ってる時は、こんなの大げさだって思ったけどな」

「もっと高くしても良いくらいだぜ」


 そう言い合いながら、登ってくる人間を、槍で突き崩し続けている兵士だ。


 それは戦いですらない。「作業」の世界だ。


 しかし、怠れば人の波によって、あっと言う間に我が身が危うくなるとわかる作業であった


 武器すら持たず、ただ壁を越えようとする人を、ひたすら突き崩し続ける作業は、ある意味、戦いよりも心を蝕まれる作業には終わりがなかった。


 老いも、若きも、幼きも。次々と現れる。


 その者達を見てしまえば心を取り戻すとできなくなるだろう。なるべく顔を見ないようにしながら、できる限り馬鹿話をしながらの「作業」を続けるだけだった。 


 手を動かさないと、あっと言う間に溢れてくる。そんな感覚が続いていた。


 一度、入ってしまえば、出ることの許されない「定置網」と化したシードは、神を敬う人々を無限に飲み込もうとしていた。




 





 補給線の再開が許されたため、一時的ですが「シードに届く民の増加」という現象が見られました。

 作中に表現するかはわかりませんが、教区枢機卿達は、強制的に呼び集められて、シードの現場を見させられます。そして、この地獄を救うための補給線は、サスティナブル王国の協力が取り付けられたこと。それを成し遂げたのは、この旗を作った「ゴールズ」であると説明されました。その後に、どのように、あるいは何が変わったのかは、後日の話となります。


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