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第2話 壁は作られる

 聖地を護る人達は、マヌス枢機卿の直弟子とも言うべき第6教区の司教様だったフェス導師を長と仰いでいた。


 フェス導師は信仰に厳しい態度で臨み、誰よりも自分自身に厳しい人だ。小柄で痩せているが、その声は常に威厳に満ち、その目は全てを見通すかのように澄んでいる。 


 この人こそ、マヌス枢機卿が、出立前に「ローディング」の意向を漏らした数少ない弟子だった。話を聞いて即座に「シードを守る人々のために必要とされたのだ」と考えを巡らしたフェスは「ローディング」に参加する権利を投げ捨てて、聖地へと直行したのである。


 聖地に籠もっていた人々にとって、これほどにありがたい話は無く、誰もがフェスが通ると跪いて祈った。


 今のシードには千人ほどの男達とわずかばかりの女性がいた。女性達は、もともとは夫婦で聖地巡礼に訪れた近隣の人間が多い。途中、いろいろな理由で夫を亡くした結果、この地に残ることになった。


 グレーヌ教の教えでは、夫がいる女性の貞淑は守られるべきだが、基本は「産めよ増やせよ」である。


 よって、女性達は大人気である。


 明日が見えない男達にとって、女性と一時過ごす心地よさは現世での唯一の拠り所になるのだろう。フェス導師は、そのことについては何も言わなかった。


 ただ、女性達が祈りを捧げるときに、優しい目で立ち合っていることで、男達は自分たちの行いが神の教えに反してないと安堵できたのだという。


 男達は聖地防衛部隊を志願した人間だ。もともとアマンダ王国の兵士達が中心となる。それだけに武器の扱いに長けている。しかも「命に替えても守り抜く」決意は何者にも負けない。


 ひとたび戦いとなれば、信徒同士に階級はなくても、指揮する人間が必要となる。もともと騎馬隊の中隊長であったガヤが自然と指揮官となっていた。ガヤはフェス導師に敬意を払い、フェス導師は戦いについては口を出さない。良い関係ができていた。


 フェス導師は防衛戦に口を挟まない代わりに人々と3度のミサを捧げる。


 その度に強い口調で言い聞かせている。


「聖地を守って死ね。グレーヌの神は、お前の行いをご覧になっているぞ」と。


 天国への最短距離だという言葉が繰り返され、防衛隊の戦士達は戦って死ぬことを望んだ。


 死を覚悟するどころか「死を望む兵士」など、相手にとっては脅威だ。


 周辺を取り囲む敵は、次第に攻撃をしてこなくなった。だが、シードの周りに即席の壁を作って立てこもった千人ほどの男達は、次第に飢えに苦しむことになる。


 そこに抜け目のない行商人がやって来るようになった。持ってくるのは少量だが、ちゃんと芋を買えた。だが、一人分の食料が銅貨30枚もする。一家が一ヶ月食べていける金額だ。


「王国の包囲を抜けて持ってくるのです。食料と言えども貴重品。高いと思ったら買わなくてけっこうです」


 サウザンドのあたりのナマリを持った抜け目のない商人は、そう言って売り惜しんだ。


 確かに周辺を囲むサスティナブル王国の兵達は攻撃こそしていない。だが、虎視眈々とスキを伺っているのは間違いない。食料調達のために、うっかり森に入った人間は戻ってこなかったのが証拠となる。


 背に腹は代えられない。フェス導師を始め、人々は持ってきたなけなしのカネを使い、道具も、そして馬をも売り払った。


 夜、こっそりと忍んでくる行商人から買うしか食料が手に入らないのだ。


 売れるものは全て売り払った。だが、もう金がない。水だって井戸を掘ってはみたが簡単にはいかない。森から流れてくる小川の水は、おそらく上流側に駐屯している敵が使っているせいだろう。毎日、少しずつ汚れていった。時に汚物すら浮かんでいるまでになっている。


 もはや沸かして呑んでも異臭を感じるほどだ。


 行商人は水も売っているが、体調の悪いものに優先して回すくらいしか方法がない。金がなかった。


 そこにウワサが流れた。


「木を一本持ってきたら小銀貨になるらしい」


 そんな馬鹿な話は無い。その辺に生えている何の変哲も無い木だ。確かに労力がかかるとはいえ銀貨一枚あれば、一家5人が2年は食べていける。業突く張りの行商人から、もっと食料を買える。


 決死の男達は、変装してシードの周りの木を10人がかりで運んだ。


「おぉ、よくぞ持ってきた。このそばの異教徒達が攻撃してくるのを防ぐには、大量の木が必要じゃ。どんどん持って来い。たんまりと払うぞ」


 敵のバカ下士官は、相手がグレーヌ教徒かどうか、疑いもしなかった。


「これは神が与えてくれたチャンスだ」


 敵は先のことを考えてないに違いない。サスティナブル王国の兵士達が作っている柵は、後々「この柵の中は聖地だ」と認める形になるだろう。


 そして、もうまもなく枢機卿様が現れる。ローディングに付き従う人々が大勢来るに違いない。それまでに食料を買えるだけ買っておこう。まさに、神が与えてくださった好機に間違いない。


 フェスは「神の思し召しに従うように」と指示した。


 そして、まさに神のお導きなのか木を切り出す現場に、敵がやってくることは無かった。攻撃してくる気配もゼロ。むしろ、連中は「壁」作りに熱中している。


 ふと、誰かが「シードを閉じ込めるつもりでは?」と疑問を出した。ガヤも、その危惧は当然だと思った。もしも、ここをグルリと囲んでしまえば、ローディングの民が入れなくなる。


 決死隊をつのって、アマンダ王国側の道路を偵察に行った。


「通り道は、無事なようだ」


 むしろ、通り道を大きく開けて、まるで中の人間を導くかのように両サイドに壁を作っている。


 つまり「取り囲む」つもりはないと言うこと。


 木の値段は、相変わらずの高額。しかも、次第に仲良くなった敵の下士官は「痩せすぎたら木は切れないぞ」と密かに数個の芋まで渡してくるようになった。


 それにしても、これではシードの防衛隊に「柵作りに参加せよ」と言わんばかりでは無いか。しかも莫大な金額が支払われることになる。


 防衛隊の一般の兵士達は金が手に入ることを喜んだが、いったいなぜ、こんなにも高額な値段で引き取るのかがわからない。確かに壁を作るのには有効なのだろうが、こんなにゆるゆるでは、シードに立てこもる人間に金を稼がせるようなもの。


 なぜなのか?


 しかし、フェスはこう言った。


「馬鹿だからだ」


 サスティナブル王国側の指揮官が見誤っていることを見抜いたのだ。


「連中の狙いは食糧のないシードから我々を追い払うつもりだろう。だから、アマンダ王国側にわざと壁を作らないし、途中で横に逸れて食糧調達に行かせないようにしているんだ。そんな相手にいくら金を渡しても、売ってくる相手がいないと思っているんだ。だから、金を払っても惜しくない。カネは喰えないのであるからな」


 むしろ、金を渡すことで、ここで死ぬよりもアマンダ王国に戻って暮らせば贅沢ができるぞ、と言いたいのかもしれない。


「だが、連中は抜け穴になっている商人がいるってことに気付いてない、そこが異教徒どもの愚かなところよ。いや、決死の覚悟をした商人達の見事さと言うべきかもしれない。あのような者達がいたこと。これも、神のお導きに違いない」


 行商人が闇を抜けて食糧届けていた。しかも、商人達は、下使いの者に至るまで、胸に真新しい双葉の入れ墨を入れている。


 お互いに、言葉では確かめることをしなかったし、商人達は「自分たちも信徒だ」と一切名乗らなかった。


 だからこそ、信用できる。にわか信徒であれば、得意げに、信徒だと言ってくるはず。そもそも、彼らは胸の聖痕もわざわざ見せびらかすことなどなかった。偶然、目撃されなければ、わからなかったことだ。

 

 つまり、危険を冒して食糧を運んでくるのは、彼らもまた、密かに支えるためなのだとガヤも信じたのだ。実際、彼らが命がけであるのは確かだ。荷馬車の目立たないところに彼らの仲間と思しき遺体が乗せられているのは珍しいことではなかった。


 ある日、商人に「導師様がお前達と会うことを、お認めになったぞ」と囁いてみたが、彼らは即座に首を振った。


「我々は、商売で参っている次第です。導師様にお目にかかれば、商売を忘れることになるでしょう。そうなると、ここにイモを持ってくる人間がいなくなってしまいます。それがグレーヌの神の思し召しだとは思えません」


 そう言って悲しそうに言い残すと、ますます値段が上がり、量が少なくなった芋を売って去って行った。


 

・・・・・・・・・・・


「こちらが、アマンダ王国側の補給系統図になります」

「ほう~」


 ブラスコッティは、あえて「攻撃」をしなかった。代わりに徹底的に「調査」したのだ。


「大元は、この2つの街に集められていますが、おそらくローディングの人々に届ける任務に着いているのは推定3万。各地から食料を集めているのに使われているのが2万」


「ほお〜」


「こちらが推定している兵力です。ほぼ、アマンダ王国の全力動員だと考えられます」

「3日でよくぞ調べた! さすがスコット家の跡継ぎだけはあるな」


 エルメスは、無条件で褒めた。少しばかり弱気だとは思ったが「調査」と言うことに特化して考えれば、下手に手を出されるよりも、こっそりと調べた方がわかりやすく、正確な情報が抜き取れる可能性が高い。


「ローディングとか言うヤツの本隊は、どの程度になっている?」

「現在、主な集団の列は13キロにも伸びています。一度に目視できないので、正確な数はわかりませんが、30万前後かと。後から後から、合流してくる民衆は止まりませんが、日が経つごとに、動けなくなった人達が置き捨てられ、その数が激増しています。アマンダ王国側は、その埋葬にも手を取られている様子です」

  

「ご苦労であった。卿らは非常に良くやってくれた。一休みさせてあげたいところだが、シード周辺の壁作りは手が足りないそうだ。そちらを手伝ってもらえないかね?」


 国軍総司令の重臣でありながら、若者に掛ける言葉はあくまでも穏やかだ。


 最前線ではあっても「戦闘」が皆無な現場への配置転換。それは婉曲な「後方送り」ではあるが、決して貶めるのではなく敬意を持っての言葉だ。


 そして、ブラスコッティも若さゆえの反発よりも、部下達の疲弊しきった様子をよくわかっていた。思えば「撤退」を決めた日から3週間以上も、粘り強い仕事をしてきたのだ。皮肉なことに、壮絶で過酷な1年半の任務よりも、この3週間で上げた成果がどれだけ重いものであるのか、ブラスコッティ自身が一番よくわかっている。


「ありがとうございます。新任務に邁進いたします」

「よかろう。それでは、シード周囲の防壁作りへの協力を命じる。ガーネット家の部隊がそこにいる。指揮官はツヴァイが指令を、副指令がアハトとなっておる。そちらに、この書面を持って行きたまえ」

「ありがとうございます」


 ブラスコッティが下がった後、アインスを始め、ガーネット騎士団の幹部が自然と集まってきた。


「民にはできる限り手をつけるな。我々の敵はあくまでも敵の兵士だ。見つけた食料は焼き払え。敵一人の命よりも、一かごの芋の方が重要だと徹底しろ」 

「他には?」

「今回は、全員が正規の戦闘服を着用のこと。あくまでも騎士団らしく振る舞い、徹底的に敵の補給線を叩く」


 ナゴから連れてきたエルメス率いる直属の騎馬隊は千人隊を3つ。これをアマンダ王国の奥側から順にエルメス自身、アインス、ドライの3人が率いる。


 これで3日間、暴れる手はずだ。


「こちらの前進補給地点はここになる。バッカスが既に着手しておる」

「ええ! バッカニアーズ様が?」

 

 一同は悲鳴のような反応を示す。


 敵地に作り上げる「前進補給地点」は、キッチリ偽装する必要があり、一度見つかれば敵地だけに、すぐさま寄って集って叩かれる危険な任務だ。そこに嫡男を使うというのは、貴族としてはありえない。


「生憎とヤツが適任者でな。向いているやつに仕事をさせるだけのことだ。見つかればこの作戦全体が破綻する。この際、ギリアス家(エルメス家の正式家門名)の問題など些事である」


 嫡男の武術の才はアテナに遠く及ばないが、指揮官としての才と用心深さという点で随一なのだ。隠密行動が必須の作戦においては、下手をするとエルメス以上の手際が期待できる息子だ。


 しかし、世継ぎを作ってない嫡男を最も困難で危険な任務に当てるエルメスの覚悟が並ではないことを一同は改めて思い知り、シーンとなってしまった。


 こういう時はアインスの出番である。


「お館様、今回の任務において、最も困難は、我々にございますな」

「ふむ」


 自分たちの手柄顔をするアインスではない。続く言葉をエルメスは無言のウチに待った。


「オレ達に向かって、お行儀良く、騎士団ぽく戦えだなんて。作戦を考えたヤツには、後で文句を言ってやりますんで」


 補給線を襲うこと自体は正攻法だが、わざわざ「騎士団らしく」と但し書きのついた作戦だ。


 らしくない。


 しかも前進補給地点と言い、千人隊によるかく乱戦法と言い、全ての作戦がある人物を頭に思い描かせていた。


「確かに、困難なことだ! よし、今回は、ひゃっはーと叫びながら突っ込んでいったヤツは全員に酒を驕ることにする。文句はないな?」

「「「「「おう!」」」」」


 そして、その日、ブラスコッティの描いた図面通りの補給ポイントを同時攻撃するガーネット騎士団の姿があったのである。


 もちろん、エルメスは喜々として先頭で突っ込んでいったのは言うまでも無い。


 ひゃっはーは無かったが、代わりに「ちぇすとー」という奇妙な声を上げていたのを、団員達は不思議なモノを見るようにして見守ったのである。



 9月1日。


 サスティナブル王国の補給線遮断作戦が開始されたのである。



・・・・・・・・・・・


 宗教国家であるアマンダ王国であっても、悪人はちゃんと存在する。


 まして「ローディング」に参加しようとする人々はおしなべて大人しい。それを襲う山賊達は、金がなければ、若い娘を狙ってきた。


 善良なる一家9人は、街道に出る直前、20人ほどのゴロつきに通せんぼをされた。


「よーよー 命まで取ろうとは言わねぇぜ? この先の旅もあるんだろ? 食い物は半分で良いぜ。あとは、そこのねーちゃんと、おっと、母親か? けっこう若いな、よし、ふたり置いていけ。後は全員通してやる」

「そ、そんな! お願いします! どうかどうか妻と娘は! お金なら全て差し出しますので」

「おー 金をくれるのか? そりゃ嬉しいね。じゃ、そいつは頂戴してと、サッサと女たちはこっちに来な」

「そんな約束が!」

「ん? お前が勝手に金を出すって言っただけだろ? オレ達は、それで良いなんて一言も言ってねぇ。なあに、産めよ増やせよだ。たっぷりとオレ達の()()()()を仕込んでやるからよ! これで天国に行けるなぁ」


 ぎゃっははと、男が下品な笑い声を立てたときだった。


「グハッ!」


 黒い巨体が男の後ろを駆け抜けた。


「ひゃっほー」


 叫びを上げたのは馬上の男。駆け抜けていったとき、すでにゴロツキの首が切られていた。


 次の瞬間、殺到してくる馬たち。


「な、なんだ、なんだ」

「正義の使者登場」


 自分から「正義」を名乗るというのはあまりにも胡散臭すぎる。


 しかも、駆け抜けていった先頭こそ、アマンダ王国騎士の制服を着ていたが、後に続く連中は、さっきのゴロつきどもよりもさらにひどい格好だ。入れ墨だらけの裸の男が半分近い。辛うじて服を着ている連中も「いかにも」という山賊もどきのスタイルだ。


 武力は圧倒的だった。全員が騎馬でゴロつきどもを瞬殺していく。


 逃げ出したゴロツキもあっと言う間に片付けてしまった。容赦の無い戦闘時間は十分もかからなかったはずだ。


 そして全員を倒した後は、入念に死んでいるかどうかを確かめていた。


「ご無事でしたか?」


 ボロボロになったアマンダ王国の制服を着ていた男が、一家の父親の前で馬から下りた。


 一瞬、今度はこの集団に何を脅し取られるのかと怯えが走る。娘を抱きかかえる母。


 しかし目の前に立った男は、気品すら感じさせる笑顔を見せたのである。


「間に合ったのなら良かった。主のお導きにより、まかり越しました」

「ありがとうございます。おかげで助かりました」


 相手が、少年だということに驚く父親。


「あいにくと、このようなゴロツキが多すぎて、まだまだ仕事が残っています。みなさんをお送りできませんが、この先は、少しばかり掃除して参りました。マヌス枢機卿の御元に着くまで、それほどの困難はないと思います」


 まさか、この人達は、脅してこないつもりだろうか?


「あの、お金なら、わずかですが……」

「敬虔なる兄弟から、どうして、そのようなものを受け取れましょう」

「あなた方は、まさか」


 その瞬間、一家は神に感謝したのだ。少年は、当たり前のような顔をして説明してくる。


「我々は、敬虔な信徒に対して、神を恐れずに、このような振る舞いをする者を許せなかっただけです。あなた方が感謝してくださるというのであれば、ぜひとも神に捧げられるべきかと」

「あ…… ありがとうございます、ありがとうございます」


 一家全員が感謝の言葉を繰り返し、何かお礼をと言うと「我々はあくまでもしもべです。感謝なら、今日の祈りに入れてください。では、我々は使命がありますので、これにて」


 サッと馬に乗ろうとした少年に、母親が駆け寄った。


「あの! せめてお名前を!」

「ウソは申せませんね。このローディングの秘蹟のために参った、我らは独立部隊・ゴールズ! では、みなさま、道中の無事をお祈りいたします。シーメンティア」


 一瞬だけ、手を地面に置いたのは、略式の礼拝のつもりなのだろうと母親は理解した。


「ありがとうございます。あの、本当に何もありません。せめて、せめて! これだけでも受け取ってください!」

 

 感謝のためになけなしの食料イモを渡そうとする母に対して「この先もまだ旅は長いですよ。ほら、そのお子さんのためにとって置いてあげてください。我々には祈りだけで十分です。どうぞ、良き旅を。ただ、そうだな…… もしも困難なことがあったら、我々を呼ぶようにと兄弟達にお伝え頂ければ何よりです」


 無欲な人達だ。


「ありがとうございます。ゴールズのみなさまにも神の加護がありますように。シーメンティア」


 家族全員が山賊のような「独立部隊・ゴールズ」のために、そして、見てくれは悪いが、これ以上無いほどに優しい守護を遣わしてくれた神に感謝の祈りを捧げたのである。



 9月15日


 組織的な補給はプツンと断たれてしまった。補給線を回復させるために、ガーネット騎士団を何とか発見し、叩こうとしているが、あまりの機動力にどうしても追いつけない。


 できるのは「多数の護衛兵士をつけた少数の荷役」による集団輸送のみになってしまった。しかも相手の騎馬隊が強すぎるため、最低でも輸送隊に3千の騎馬と5千の兵が必要になる。


 しかし、補給基地にした街は全焼させられ、食料を集めるところから兵士が駆け回らざるをえない。効率が悪くなっている分だけ、ますます兵が投入されている。


 国境付近の砦以外、ほとんどが抜け殻のようなあり様になっていた。


 当然、軍が担当してきた治安維持に回す余裕すらなくなっていたのである。


 一方「ローディング」の集団は、脱落者を多数出しながらも、次々と参加してくる人々で、さらに膨れ上がっていった。


 先頭を歩くマヌス枢機卿の頬はこけ、目は落ちくぼんではいても眼光は鋭い。


 いつしか正規の軍から脱走してきた兵を中心として「自警団」も組織され、行く先々の町や村からも「強制的な寄進」が行われるようになった。おかげで、なんとか行動が維持されている。


 街が見える度に全力で襲いかかり、食い尽くし、次の街を目指す。


 崇高なる使命を帯びているはずの「ローディング」は、蝗の集団のようにあっちこちを食い尽くして進むしかなかったのである。


 慢性的に食料も水も足りない。治安維持活動が行われなくなった街では少しだけ「正義」が走り回っているというウワサが伝わるようになったのは、思った以上に早かった。


 フラつく人々の間の「希望の光」としてに、少しずつ少しずつ「正義の使者である、独立部隊・ゴールズ」という声が染み渡り、細々とした補給線を通じて、王国の中枢にも伝わり始めたのである。




 


 




  

「正義の使者」 ぷぷっw とか思いながら、叫んでいるショウ君は、祈りの結びの言葉「シーメンティア」も覚えて、ますます楽しげに任務を果たしています。ショウ君は、助けた一家に対して一切ウソを言ってないところがすごいですね。なお、ショウ君の衣装は、途中で襲った敵兵士のものです。「ローディング」に付随して、自警団を始め「元軍人」が大量に存在しているため、脱走兵に構っている余裕などアマンダ王国にはなくなっています。


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