第1話 国境越え
本作品はカクヨム様にて先行公開中です。
かなり先を行ってます。
8月25日
ようやく国境地帯だ。
西部山岳帯の北半分ギリギリの南縁をかすめるように抜けてきた。少人数の騎馬隊だからできる、けっこう無理目なやり方だ。おかげで2週間で着いたのは、上出来。
日本人にとって「国境」って言葉はあんまりイメージがないだろ?
万里の長城じゃあるまいし「全面フェンス」なんて無理だからね。
山とか川なんかで隔てられているところに落ち着くけど、それ以外だと、普通の森や草原なんだよ。
「線」というよりも、帯みたいな感覚に近い。「この辺りはあっちの国かなぁ」みたいに思って、そこに行かないようにしようとする感じだね。逆に国境となっている山なんかだと、山の幸を採りにお互いの民が入り込むのは珍しいことではない。
人々にとっては「どっちの国の土地なのか」よりも「生活」が優先なのは自然なことなんだ。
ただ、移動に便利なところであればあるほど「境界線」は大事になる。だから道が続いている場所にはちゃんと壁や関所があるんだ。
オレ達がきたところも、シードとアマンダ王国とを結ぶ関所に当たる場所だ。
もともとはサスティナブル王国の「西の町」につながる道だったんだよ。婚約者戦争で失った土地のギリまで押し返して、ここに国境線ができた。
サスティナブル王国から見て左には荒野が広がり右は山。どちらも通行が難しい。
だから、国境の検問所と両側数キロにわたって壁がある、いや「あった」はずだったんだけど、今ではすっかり「ただの道路」になってしまっていた。
検問所と壁の残骸みたいなのが、一部黒焦げになって片付けられているよ。
歩いている人達は、我々にまったく興味を示さなかった。千人を超える騎馬隊が横にあるのにだぜ?
誰一人走ることもなく、馬でもなく、ただ前を向いて黙々と歩いていたんだ。
ローディングとは「歩く」ことに意味があるらしい。だから、みんな、ただ歩く。
「ここって国境だったんだよな?」
ホント。普通の道だもんなぁ。
ノインの声は質問ではなくて驚嘆の呻きに近い。
『こんなんじゃ、シードまでの土地を譲るとか譲らないなんて関係ないじゃん』
西に流れていく人達は「ローディング」に合流しようとしているサスティナブル王国の人達だ。シードからの流れができてアマンダ王国へと人の群れは流れていた。
「すさまじいな」
ノインが呟くと「これ、みんなローディングに合流しようとする流れですよ」とブラスコッティが答えた。
一昨日合流したばかり。だいぶボロボロだけど、会えたのはマジでラッキーだった。
エルメス様にいただいた「西部方面防衛指揮権」の書状のおかげと、子爵サマ本人の権威のおかげで、公爵家嫡男がオレの指揮下に入ってくれた。
正直なところ、手をつけかねて、どうしていいか分からず狼狽えていたらしい。でも「とにかく情報収集を」と頑張ってくれていたんで助かった。真面目で優秀な人が仲間だと、ホント助かる。
「お義兄さん、優秀~」って言ったら複雑な顔をされた。けっこうブラコンっぽいのは親しみが持てるよ。
「なんで、みんな、わざわざ向こうへ行くんだ? どうせこっちに来るんだから待ってりゃ良いのに」
ノインが首を捻る。
「枢機卿と一緒に歩かないと意味が無いからですよ」
ブラスコッティが答えた。ちゃんとリサーチ済みってわけだ。
「どのみち、ここで待ってりゃ、ここから一緒に歩けるんじゃネェの? 真面目すぎねぇか?」
「そうだねぇ。みなさん真面目だ。とっても良い傾向です」
オレの言葉を拾ってブラスコッティが聞き返してきた。
「良い傾向?」
「はい。良い傾向ですよ、間違いなく」
ケ ケ ケ
心の中で笑ってしまった。思った通りグレーヌ教徒は真面目だよ。
合理的だろうと不条理だろうと、一定の法則性があるのはありがたい。行動原理を理解すれば予測が可能だから。
この流れは予想通り。ただ、イメージよりも人が数倍多いのと、痩せ細った人々の表情がひどく明るいのが印象的だ。
「見てみないとわからないもんだなぁ」
食事だって満足に手に入らなかったのだろう。痩せ細ってボロボロな身なり。でも、希望に満ちた表情に陰りはない、という異様な光景だ。
想像するに、シードに来た人は何をすればいいのか分からなかったんだと思う。遺跡の周りを片付ける人や、掃除するのはすぐ思いつく。もちろん、祈りも捧げたのだろう。でも「これが正しい方法だ」と誰も言ってくれなかった。そこに「ローディング」のウワサだ。
「枢機卿様と一緒に歩く」という単純な行動だし、ローディングは教典にも載っていることだ。
やるべきことがわかると人間は、そこにひかれて行くもの。希望が見えた気になるんだよね。
シードに来て茫然としていた人は、行くべき場所が示された。そりゃ、当然、行くよなぁ。
逆に、今のシードはガランとしているって話だ。残った男達は遺跡を守るために柵まで作って自衛してるらしい。
人の土地に来て「防衛」されちゃったドルイ男爵の立場は無いよ。
集めた情報によれば、シードを領地内に持っていたドルイ男爵領は壊滅に近い打撃を受けた。領主一家を含めて脱出できたのがせめてものこと。現在地は不明だけど、ハーバル子爵家か、シュモーラー家に向かっているんじゃないかって話だ。
シュモーラー家と言えば、本領にあった騎士団が派遣されていたのには驚いた。確かに王都まで情報が届く前に話が伝わったのは当然か。
まあ「最前線の侯爵家」としては、あってほしい対応だけど、正直、嬉しい誤算。しかも騎馬千に兵5千の大部隊だ。
助かるぅ!
国軍総司令からの「西部方面防衛指揮権」の書状がここで生きる。こいつは簡単に言うと「警備命令と警備に関してショウ子爵の指揮下に入ること」ってやつ。
子爵が侯爵家の軍を自由に使うのは不味いけど、一定の目的に対して「現地軍」を指揮するのは国軍総司令の命令でOKなんだよ。
「近隣にはマイサーク男爵領と、騎士爵が住んでるメイ、ミニ、ハムの村が三つ。既に退避の勧告を出していますが、勧告を受ける前に逃げ出しているでしょう」
まあ、普通に逃げるよね。
「連絡は付きました?」
「探してはいるのですが」
かぶりを振った。
「この人達って、どうやって食べてました?」
「どうも、細々とですけどアマンダ王国側から補給があるみたいです」
その話をつかんでくれてたのは、大ラッキーだよ!
「そこに、何かしました?」
「残念ながら、何もできませんでした。下手なことをすると、シードに集まっている人達が暴発する可能性があったので」
いや〜
お義兄さん、マジ優秀だよ。戦略眼をちゃんと持ってて、いち早く着いた自分達が何をすべきか、そして「何をすべきではないか」をちゃんとわかっていらっしゃる。
さすがスコット家の嫡男だよね。って、20歳を褒めるショウ君12歳でーす。
しかも、こっそり聞いたら、ちゃんと教えてくれた。「連絡手段」をお持ちなのがすごい。
たった2週間で王都と往復してくれるらしい。
「じゃ、とっととやっちゃいましょうか。エルメス様ばりの作戦を」
とりあえず王都とエルメス様へのお手紙をたくして、いざ出撃だよ!
「ノイン、これから敵地に入るよ」
「わかりました。強行偵察ですね?」
「いや、ゴールズはアマンダ王国の王都・グラに行くよ」
「我々だけでで、ですか?」
「うん。なるべく相手との戦闘は避けて。王都付近に行くまでは速さが勝負。ただし、やるべきことをやりながらだからね」
「やるべきこと、ですか?」
「ふふふ。名付けて『王都で紅茶が飲みたくなった作戦』開始だよ。じゃあ、号令、よろ!」
「はっ!」
さすがに目を剥いてたけど、サッサとオレが騎乗するとみんながこっちを見てる。
覚悟を決めたのかノインがいつものように叫んだ。
「ゴールズ出動! 目標 アマンダ王国の王都・グラ!」
「「「「「「おぉお!」」」」」」
「全軍、前進! 続け」
時ならぬ雄叫びに、あたりの人はチラリとこちらを見たけど、何も言わなかった。
オレの左は、いつものようにアテナ。やっぱり、びっくりしてるかな? それとも無謀とか言われちゃう?
「アテナ」
「はい」
「いきなり相手の王都に行くなんて言って、どう思った? 止めろって思う?」
「え? なんで?」
本気で不思議そうな顔をされたんで、逆に慌てたけど、男装の美少女は、別段力を入れるわけでも無く、さらっと言葉を続けてきた。
「ボクは所有物だよ? 一緒に行かれるなら、どこに行くんでも同じさ。それにね」
「それに?」
「ひょっとして危ないだなんて思ってるかもしれないけど、大丈夫。所有者様をボクが必ず守るから。どんな所だって行きたいところに行けば良いと思う」
何、その男前な発言。惚れてまうw
もう惚れてるけどね。
オレ達がアマンダ王国に入った後に、2つの仕事を頼んであるよ。
一つは「シード」を囲んで巨大な柵を作ってもらうこと。これはシュモーラー家のみなさんにお願いした。
彼らの「自衛用」の柵よりももっともっと広く。このあたりの森はどのみち禿げさせる予定だから、徹底して木を切り出して延々と繋げていく柵だ。
ちなみに柵はとりあえず10キロ分。イメージは巨大な「定置網」っていうか、前方後円墳型の柵。ただし、アマンダ王国側の入り口を開けておくって感じだね。
一大工事だけど、2日分のMPを全部注ぎ込んで鉄条網もプレゼント。とにかく、これを作ってもらわないと全てが破綻する。2週間の突貫作業だよ。人手が無いなら、ってことで、秘策も囁いておいた。
ギョッとされたけど、豊臣秀吉も使った方法だから大丈夫。
エルメス様の歩兵部隊も到着次第、参加してもらう予定だ。そして、騎士団の皆さんには、ブラスコッティの手伝いをしてもらう。
そうだよ、使うよ~
戦略眼を持った優秀な指揮官をオレが遊ばせるわけないじゃん。
「他にも、絶対にローディングに対しての補給線があるから、国境線から100キロ以内のは全部見つけて、全部潰してください」
ニコッ
笑顔で丸投げw
ドン引きされたけど、一度指揮権を認めちゃった以上、やるしかないもんね。
やり方やら順番はお任せが当然だよ。補給に苦しんだ経験を持ってる分だけ、結果を出してくれるに違いない。遅くとも、3日後にはエルメス様の騎馬も到着するし、本格的にできるはず。
かなり乱暴なやり方だけど、ブラスコッティの集めてくれた情報によれば、すくなくともアマンダ王国の中100キロ程度までは可能なんだ。
あ、プレゼントとして「災害用備蓄乾燥混ぜご飯 1箱50人前」ってのを2千食分と「災害用長期保存クラッカー氷砂糖入り」を4千食分プレゼントしておいた。
納豆と違って、この「混ぜご飯」は万人向けする味だ。ゴールズにとっては定番飯だよ! 美味いし栄養もある。
どっちも持ち運べる食料としては軽いからね。
学校で保健委員をやったときに、期限切れ(寸前)食品の入れ替え作業をしたことがあったのが生きてきたよ。クラッカーは、氷砂糖と一緒に食べるとけっこういける。
あ、お家で食べるときはジャムサンドが合うんで、マジで、今度試してね!
もちろん、それだけじゃなくて、シュモーラー家から補給をするのは命令しておいた。西部方面防衛指揮権が生きてくるんだよ。もちろんタダじゃないから、シュモーラー家だってソンはない。
そこまでお願いしておいて、独立部隊・ゴールズはアマンダ王国をガンガン走るからね!
だって、事実上、サスティナブルの民が自由に入り込んでも、あちらは何にもしてこないんだもん。
だから、オレ達だって入っちゃってもいーよね? 代わりに、ちょっとだけ良いこともしていくからさ。
ふふふ。オレを信じてみない? 悪いよーにはしないからさ。
って、そういうのを信じると、たいていは詐欺師なんだけどねw
ようやく、今回からショウ君無双が始まります。
アテナちゃんは、ずっと男装しています。寝るのも一緒です。ボクっ子美少女なので本来はメガネを掛けさせたいのですが、この世界にはありません。
ゴールズのみなさんは、正しく、ガーネット騎士団の伝統を引き継いでいますので、メンバーは、初めてエルメス様と旅をした時みたいな感じです。
今回は、騎馬隊は全員、馬上槍とロング・ソードを持っています。




