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第53話 お忍び旅行 3


 前世の記憶には「下町のガキだった」というものがある。


 駄菓子屋にいくと、いろいろとチープなオモチャも売っていた。


 アホなガキだから、流行るとみんなして同じモノを買って、そして、翌日には飽きる。また2週間くらいして、飽きたのを忘れて同じオモチャのブームが来る。


 そんなことの繰り返しだった。


 だからこそ、オレは今出すべきものに迷わない。騎馬集団を相手にする時の奥の手を!


「出でよ、ロケット弾!」


 びよょよ~ん。


 ふふふ。毎度おなじみ背嚢から取り出したのは昔懐かしい「I屋」の白いクッキー缶。


 「オレの宝」と下手くそな文字で書いてあるフタを開けるとぎっしりと詰まっているのが、ガキの頃に駄菓子屋で買い集めた「ロケット弾」だ。

 

 これは、子どもの頃に捨てられたおもちゃ箱。フタには下手くそな文字で「オレの宝」と書いてある。


 しかも中の「玉」の点がなくて「王」になってる黒歴史w。


「子爵しゃま、なんて書いてあるんですか?」


 さっきオレの背嚢を不思議そうに見ていた女の子がいつの間にか横にいて、キラキラした目で素朴ダイレクトに聞いてきた。彼女には「日本語の文字」がスーパーエキセントリックに見えてるんだろうなぁ。


「あ~ これは古代の特殊な文字でね。この意味を知ってしまうと不幸になる(主にオレが)ということなので、残念ながら教えることはできないんだ」

「しゅごいです。ひしゃく(子爵)しゃまぁ」


 あまりに興奮したのか発音までおぼつかなくなる美幼女をヨシヨシと頭を撫でてあげると、ザワザワの中にある小声が聞こえ来た。


「古代の特殊な文字? となると伝説の秘宝というわけか?」

「子爵のご実家はカーマイン伯爵家。となると伯爵家の秘伝の道具とか」

「確か今年名誉勲章を授与されたのだろう? あれが()()?」


 いや、何が「例の」なのかちっともわからないよ。


『うわぁ、マジ、ハードルが上がってる?』


 だって、中身は大したものじゃない。あくまでも駄菓子屋さんで売ってるオモチャだからね。 


 コイツは十センチほどの長さ。昭和時代の「宇宙ロケット」的な形をしてる。先端分だけが金属製で、後は明るい色のプラスチックでできてる。先端部分のバネ仕掛けの間に「陸上競技のスターターピストルに使う紙火薬」を詰める。


 火薬量なんて0.01グラム以下しかないから「破壊力」はゼロ。一度、ポケットの中で弾けさせちゃったことがあるけど、ビックリしただけで怪我は無かった。


 だけど、コイツの役割は「音」。ほら、運動会の徒競走で使う、あのピストルの音だよ。


 しかも、下町の悪ガキだったオレ達は、当たり前の使い方なんてしない。先端に重りを詰め込んでおいて落下速度を上げてから、火薬玉を二重、三重に入れるのが流行ってたんだ。


 その轟音たるや、すごいんだぜ?


 これは本来は三本セットで売られてたけど、オレのおもちゃ箱には紙火薬と一緒に魔改造したものが大量に詰め込まれてるんだよねー


 これがゴミになったのには訳がある。


 子どもの遊びって、何かがブームになると、熱中するタイプっているよね、特に男子。


 それがオレだ。


 小学校のクラスで何度目かのブームとなった。


 都営アパートに囲まれた公園で盛大にクラスの男子が集まって鳴らしまくって遊んでたんだ。そうしたら、なぜか小学校の先生が自転車で現れて、ただちに学校に連れて行かれた。


 職員室で大目玉を食った上に(死語)、それを知らされた親に1年かけて集めた大量のロケット弾が「おもちゃ箱」ごと捨てられた悲しい記憶だ。


 ふっと頭を上げると30人近い男達がオレをじっと見つめている。


「あ、えっと、説明…… しますね」


 無数の「おう!」と言う真剣な声が応えてくれたんだ。



 

・・・・・・・・・・・


 

 今回の一番危険なタイミング。


 最初の「城門を開ける」瞬間だ。


 城門の上に配置した男達は、ニヤニヤとしては、チラチラと城門の裏側を気にする素振り。中には、わざとらしく「あくび」をしてみせる者もいる。ルへさんに頼んだのは「守備隊の中で最も真面目で不器用な人」を5人用意してもらうこと。


 そして、オレは理不尽にも「退屈そうなふりをして、門の下にいるかわい子ちゃんが気になるよってな演技をしろ」って命令してある。


 言われた方は仰天で、意味がわからないだろうけど「子爵として命じる」と宣言して出した指示だ。どれほどひどい命令であっても守るのが義務となる。


 いや~ 大変だよね、貴族相手って。


 しかし、どれほど演技しても、本質が真面目だから、オレの目を盗んで「敵」をチラチラ見ちゃうんだよねw


 くくく、計算通り。


 相手だって、突然、城門が無条件で開いたんだ。当然、様子を見ようとして近づいてくる。


 でもさ、いくら城門が開いても、この雰囲気で「ラッキー」と思って、そのまま侵入してくれるわけがない。明らかにワナだもん。


 その程度のワナも、全く考えないようなバカだとずいぶんと楽なんだけど、北方民族は決してバカではない。そして臆病でもないんだよ。


 幼いときから兄弟同士の苛烈な競争に、過酷な自然や野生動物と対峙する慎重さ、他の部族と伍していくだけの頭が無いとダメ。少なくともそれぞれの部族のリーダーなんてバカではなれない。


 かれらは仲間内での武勇と名誉を重んじるけど、それなりの策略は考えるからね。


 当然、こんなわざとらしいことをしたら「なんらかのワナがあるに決まっている。その証拠に、門の上には、偵察を兼ねた役が、わざと退屈そうにしている」って感じで受け止めるはずだ。

 

 相手が何かを仕掛けてるって思ったら「さあ、どうぞ」ってところには、このタイミングで絶対に入れないんだよなぁ。だって、どんなワナがあるか見極めようとしているのに、ワナが見つからないんだもん。


 だから相手の出方を見守りたくなる。「空城の計」もそうだけどさ、相手がなまじ頭が良いと、計略を仕掛けてきたと「見破った」と思ってくれるわけ。そういう相手が一番計略にはまるんだよね。


「さて、そろそろ次かな?」


 タイミングをつかむのは、対人関係の得意なゼックスの役目。相手の顔色をうかがって気持ちの切り替えを…… いや「気持ちが変わってないこと」をいち早くつかんでもらうわけだ。


「よし、次にかかれ」


 ゼックスのハンドサインで第二段階スタート。


 決死隊のメンバーが大型スーツケースほどの木箱を、いかにも軽そうに見せかけて門の前に2つ置くと、別の人間が出てって板を渡した。置いたらすぐに引っ込むのがお約束。


 2メートル幅の即席の展示台。


 ここで連中に余計なことを考えさせないの大事。


 展示台ができると同時に、邸から集められたナベやカマといった鉄製の生活物資に、イモや麦なんかの食料が山積みされたザルを、バッバッバッと並べたよ。


 この時点で、ヤツらは首を捻るわけだ。しかも、こちらから手出しをするとは思ってない連中だ。


 少しずつ間隔を詰めてくる。


 50メートルを切ったら「男爵」の出番だよ。セリフは簡単に打ち合わせ済み。


「ここに品物を用意しました。そちらの勇者のみが受け取って引き上げなさい。それ以外の者が奪おうとするなら、我々は全力で反撃する。さ、どうぞ」


 それだけを言って貴族式のお辞儀をしたら、パッと引っ込むと同時に、門の陰にいた守備兵が長槍を持って間隔を詰めて並んだ。


 それは、門の内側となる。


 それを見た相手側には笑い声が漏れたよ。いかにもバカにした笑いだ。前世では、いじめをしていた連中がしていたよなぁ。


 でもさ、騎馬民族にとって「馬にも乗らずに門の向こうで構えている」っていうのは、既に無抵抗宣言とか、降参宣言のようなものなんだよ。


 この時点で、連中は、こちらの意図を察知したと確信した瞬間だ。


「こいつら、プライドを保つために貢ぎ物を差し出しやがったな」


 この時点で城門の上で「ニヤニヤ笑いをしてた人達」は、こっそりと目立たないように姿を隠す。 


 自分たちが「勝った」と思っている人達は、想定通りに進行すると必要以上に自信を深めるものなんだよね。


 いくらこちらが「城門の中で槍を構えて」いても、それは無視して良いと勝手に思い込んでしまうんだ。


 それでも連中は慎重だった。


 二騎が先にやってきて「貢ぎ物」を載せた板を支える台に至近距離から矢を数本射てきた。噂に違わぬ速射力だ。


 ヤバっ


 最初は箱の中に隠れてようかなってチラッと思わないでもなかったから、今さらながら慎重に行って良かったと思ったよ。


 あっと言う間に3本を打ち込んだ。


 すかさず、男爵は城門の上から「おお! そのお二方が勇者なのですね。素晴らしい!」と拍手。


 もちろん「誉め称えてくる相手」を自慢の短弓で射てくるわけがない。


「では、お二方を勇者として認めます。どうぞ、全てあなた方だけでお持ちください。そして、こちらの勇者以外にはお引き取り願いましょう」と集団に対して毅然として宣言したんだ。


 当然、こういう時の使いっ走りは、連中の中でも下っ端の仕事のはずだ。こちらはそれを知っていて挑発したんだよね。


 そして、それは「負けた奴がやって良いこと」では決してなかった。


 ヤツらのリーダーが激怒。その怒りを少しも隠さずに叫んだんだ。


「襲え! 門を突破しろ!」


 って感じの言葉だったらしい、


 何しろ、連中からしたら「おあつらえ向きに門を開きっぱなし」って形だもんね。貢ぎ物として差し出されたものよりも、もっともっと良いものがたくさんあるのを知っているわけだ。


 門さえ突破すれば、女も人質も好き放題。男爵だったら、身代金もたんまりだ。そんなことを考えたに違いないんだよ。


 40騎近い集団が突撃してくる。


 そして、このタイミングが最重要。合図を出すのを任せたのはツェーン。


 鏡を使って城門前を見極めて、まだ、まだ、まだ、まだ、いまだ!


 城門の腰壁の下に隠れていた守備兵があらん限りのロケット弾を放り投げた。


 それが地面に届くまでに5騎が侵入。すかさずターンして城門を閉じようとしている兵を襲おうとする。


 いつものやり方だ。


 しかし、誰もいなかった。


 それを見たのと同時だった。


 パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン


 聞いたこともないような連続する轟音が辺りに響いた。


 後続部隊の馬は、突然のことに慌てる。馬は、この種の破裂音にはめちゃくちゃ弱い。なにしろ、もともとが草食動物だからね。何かあったら逃げるのは本能だ。まして、馬達が聞いたこともないような破裂音が足元からすれば、咄嗟に「音から逃げようとする」のは当たり前なんだよ。


 馬足が乱れるどころか、みんな竿立ちだ。


 それでも落馬しないのはさすが騎馬民族の技術だよ。


 でも、その状態で弓を操るのは無理だし、お得意の「馬体に隠れて矢をやり過ごす」のも不可能だった。


 すかさず、壁上に姿を現した弓手が、一斉に矢を放つ。


 城門を抜けた5騎は、爆発音から離れている分だけ馬の乱れも小さい。とは言え、すぐにターンするのは無理。ちなみに乗馬技術の最難度の技の一つが「その場でのターン」なんだよ。


 連中は、全員がその程度をやってのける技術を持っている。


 そして、それが付け目だった。


 城門の上に乗っていたロケット弾部隊は、投げた直後に次の行動をしていたからね。


 城門から入った5騎の上空に広がるのは「漁網」だよ。昔、伊豆の海の岩陰で打ち上げられていたヤツだ。あっちこち破れてるけど、別に魚を捕るわけじゃないもん。十分だ。

 

 上から網を被せられてしまえば、いくら彼らの技術でも、網に絡まないように弓やら槍を振り回せるわけがない。


 待ち受けていた守備兵の皆さんがすぐに包囲して、弓矢の餌食。


 瞬時に「ウニ」が5個、完成したよ。


 その裏番組的に、両サイドから駆け寄る力持ち選抜部隊が、城門を一気に閉める。


 もちろん、間断なく、門の外へ、馬が暴れるところを抑え込もうとする敵に対してガンガン矢を放っているよ。


 何しろ止まっている目標に打ち下ろすんだから、当てるのは簡単なんだよ。


 門の外で矢が当たったのは10騎ほど。落馬したのは4騎だけだったのはさすが。だけど、逃げていくときに、さらに2人が落馬したから、合計6騎を始末したことになる。


 侵入してきた5騎と合わせれば11騎で、目標の二桁を達成!


 そして、大事なのはフュンフがちゃんと役目を果たしてくれたこと。


「君がやるべきことは作戦のカギ。狙うのはただ一騎。号令をかけていた連中の頭目だけは必ず倒してくれ。君にしか頼めない。君が頼りだ」


 元々フュンフは短弓を使えるのは知っていた。しかも三人のリーダー格でとっても責任感が強い。だからこそ「君が頼りだ」と言われると、力を発揮しちゃうんだよね。


 見事に仕事をしてくれていた。


 騎馬民族にとって「群れのリーダー」は全てを決めてくれる大事な頭だ。


 頭を失ってしまえば大混乱。古今東西、指揮官なしの軍隊は抵抗力が極端に落ちるのは戦史が教えてくれること。こうなると、逃げる選択肢しか無くなるのは当然なんだよ。


 後で確かめたら外で倒れた4騎の中に、一際豪華な馬具と衣装を着けていて、あの時、号令をかけた奴がいたのはわかった。


 そして、この瞬間、裏門からコッソリ抜けていたルヘ達騎馬隊が右翼から回り込んできた。「貢ぎ物」のあれこれの時間は、注意をこっちに引きつけておく為もあったんだ。連中は、こちらの奇妙な行動で、注意力が目一杯、ここに集中しちゃったからね。裏門の気配なんて気付いてなかったわけだ。


 そしてルへ達は逃げる敵の最後尾のあたりに集中して攻撃した。おかげで3騎ほど槍と矢でで倒すことに成功したんだ。


 普通なら追いつけるわけがないんだけど、傷を負っている分、動きがとろかったからね。


 ただし「深追い禁止」は最重要命令だ。


 群れからはぐれた数騎を仕留めたら、その場で停止は厳命だよ。だってヤツらが、その気になってターンしてきたら、こっちの騎馬隊なんて、簡単に全滅しちゃうからw


 ちゃんと言いつけを守って、ルへ達は倒すだけ倒すと、すぐに「見守り」体制に変更だよ。


 でも、遠目に見ても全員が胸を張ってる。


 すっごく誇らしげだ。


 だって、ブロック男爵の騎士団は「連中の半分以下の騎馬で勝った」と、今後西部のどこに行っても胸を張れるんだからね。得意満面は当たり前。


「終わったかぁ」


 オレは胸を撫で下ろした。ちゃんと味方の損害は、ゼロに抑え込んだでしょ?


 約束を守れてホッとしたよ。


 初戦が8騎。城門の内で5騎、城門前で4騎に、2騎。そして最後に3騎を倒したんだから、合計で22騎!


 50騎の半分近くを、こちらは無傷で倒してるんだから、これ以上にないほどの大勝利だ!


「これは勝利ですね、男爵様」

「さ、さすが子爵様です」


 最敬礼してくれたよ。


「それよりも、男爵様?」

「あ、それはその、えっと、これは子爵様がなさるべきでは?」

「何をおっしゃいますか。ブロック男爵の騎士団や守備兵の活躍です。貴家の勝利は、当主が締めませんと」


 ニッコリ。ここで出しゃばるのは違うからね。


「そ、それではお言葉に甘えまして」


 一礼してから、ブロック男爵は、そのまま城門の上ですっくと立ち、門内の人々に向かって胸を張った。


「みなのもの! 良くやった! 奴らは巣に帰ったぞ!」


 おおぉおお!


 領民達は嬉しそうだ。勝利の後は、みんな高揚するもんね。


「あの恐るべき騎馬集団を、近来まれに見る壊滅的な打撃を与えて追い返したのである! 我が領の諸君の勇姿はサスティナブル王国中で鳴り響くであろう! 勝利だ! 勝利! 我らの勝利だ! 良くやった! 大勝利だ! そして、この奇跡とも言うべき勝利こそ、こちらにいらっしゃるショウ子爵の知謀とグレーヌの神のご加護のおかげぞ! 大いなる感謝と喜びを!」


 うっぉおおおおおお!


 領民達が心から嬉しそうに、そして胸を張って勝利の雄叫びをあげたんだ。


 一方で、オレはマジで顔色が無くなっていたはずだ。


『今、男爵様、なんか言ってましたよね?』


 アー ボク、ナニモキイテナイヨー

 





この辺りは西部山岳帯の東側のため、アマンダ王国の噂が伝わってくるのはかなり遅くなります。

この時点では「ローディング」の話は、ブロック男爵の領地まで届いていません。

念のため、確認しますが「ブロック男爵一家」はグレーヌ教徒です。そして、領民もグレーヌ教徒が多いです。宗教的な制約が少ないため、信徒になった方がメリットが大きいというのはあるみたいです。


基本的に、グレーヌ教徒の方は、みなさん真面目だし親切です。個人的に付き合うならいい人なんですよー」


 

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