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第37話 野外演習を終えて

本作品はカクヨム様で先行公開中です。

 野外演習は、現地解散が原則だ。


 一日早く終わったので明日から4日間が「帰宅日」にあたる休日となった。


 早く帰れた者はその分、ゆっくり休める。もちろん学園からも乗合の馬車(ステージ・コーチ)が出されるが、とってもナイスな乗り心地だけに、馬に乗れる者は、できる限り馬を使おうとする。


 そりゃそうだよね。


 高位貴族の子弟は護衛を兼ねた出迎えと一緒に馬で帰宅するため、3日目の夕食は家族と共にするのが普通であるし、婚約者がいれば同席するものだ。


 ドーンは邸が近づくにつれて顔を上げるのが嫌になった。愛馬・ハンターも主人の気持ちを汲むように足取りがゆっくりとしたものとなる。


 跡取り、つまりは次期当主が王立学園の将軍を務めた「野外演習」からの帰宅である。


 邸の外門からは騎士団が勢揃いして出迎え、内門には家族が勢揃いして出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ」


 弟妹たちの幼い出迎えには、変わらぬ尊敬が込められている。そこにホッと心を和ませつつも、鈴を転がすような美しい声で「お帰りなさいませ。ドーン様」と聞こえた。


 言われた方に顔を向けるのを一瞬躊躇してしまう。


 だが、そうも言ってられない。


「ただいま。ビー」

「お疲れ様でした」


 美しい笑顔で出迎えてくれるのは婚約者のビードウシエであった。


「聞きましたわ。勇敢に戦われたそうですね。さすがドーン様です」


 心からの笑顔で褒めてくれるが、ズタズタに破れた自覚と、それを恥じるだけの心を持っているドーンにとっては皮肉にしか聞こえない。とはいえ、負けた八つ当たりを婚約者にするなんてもってのほか。騎士道精神に反することだぞと自分を律する程度には、大人である。


「いや、相手が優秀すぎました。残念です」

「勝敗あるは武人の宿命であると伺っております。でも、漏れ伝わってきた評判を伺いますと、さすがドーン様。お振る舞いが、とても勇敢なものであったとのこと。とても嬉しゅうございますわ」

「ハハハ、いや、まいりましたよ。とはいえご婦人の前に出るにはいささか汚れております。着替えてから改めて」

「はい。お待ちしておりますわ? あ、あの」

「はい?」


 そっと近づいたビードウシエは「武人は戦場から戻ると、あの、そのぉ、私もきちんと教育を受けましてございます。もしも……でしたら、まだ晩餐まで時間もありますので、私は控えますが」と頬を赤らめての小声だ。


 つまりは、専属メイドに発散するなら待ってます、という婚約者として最高に気を遣った発言だ。


 確かに、それは優しい心遣いなのだろう。シュモーラー家のシツケを受けて育っただけに一歳年上のビードウシエの物言いはいつも優しい。


 しかし、いくら専属メイドでも、この気分を女性にぶつけるのは、いかがなものであろうかと、目一杯見栄を張るのも貴族のプライドなのである。


「それは嬉しいですが、色々と反省もございますので、できればディナーの後に、あなたとゆっくりとお話ししたいです」

「はい。ドーン様。ゆっくりいたしましょう」


 恥じらいを浮かべている表情は、さすがに名家のご令嬢だけはある。


 しかし、いつもなら心奪われる笑顔にもドーンの心は溶かされない。


「では、後ほど」


 失礼とも、冷たいともとられぬように注意しながら、けれども目一杯のスピードで部屋に一直線である。


 それから2時間。


 ゆっくりと風呂に入り、髪一筋まで丹精を込めた手入れを受けて、少しだけ気持ちを入れ替えディナーの席である。


 今日は嫡男として「お館様からの公式接待」であるため、席は対面。


 普段なら晴れがましい扱いではあるが、今日だけは針のむしろに思える席だ。


 しかも家令に案内されて席に着くのは、一番最後である。


 既に席についていらっしゃるお館様が笑顔で頷いてから着席。


「みなの者。本日は、ドーンが王立学園の野外演習から北軍の将軍という重責を見事に務めてきた祝いの場である、心して我が嫡男の活躍を祝おうではないか」


 パチパチパチパチパチ


 家族と婚約者からの温かい拍手と、心からの笑顔。


『や、やめてくれ、余計に惨めになるではないか!』


「後ほど、本人が詳細は語るであろうが、簡単に顛末を述べると、確かに北軍の敗北という形となったが、ドーンは将軍の身でありながら、最後は見事に敵陣地にごく僅かな手勢だけで切り込むことに成功したという。まさに猛将と呼んでも差し支えない働きであったそうである。その時、相手陣内には70名以上が待ち構えていたとのことである。後ほど、その時の心境は、ぜひとも本人から語って欲しいものであるが、最終的な決着が付いた際、自ら敵将を追いかけ、なおかつ北軍で唯一、最後まで生き残って戦ったという、まさに獅子奮迅の働きと言えよう。ふむ。今宵は、本人が語りたいこともあろう。私からは以上である。しかしこれだけは言っておくべきだな。さすが我が嫡男である。大義(大儀)であった!」


 いくぶん短めであったのは、やはり敗北しているからであろう。だが、ドーンの予想していた態度とは180度違う上機嫌さに、唖然とするばかり。


 そして弟妹たちからも花束を受け取って拍手。ビードウシエからも刺繍を入りのハンカチを受け取ってから、頬にキスを受けての抱擁シーンで、またしても家族からの暖かい拍手。そしてビードウシエの幸せいっぱいではにかんだ微笑み。


 これではまるで、本当に活躍してきたみたいではないか。


 戸惑いつつも「獅子奮迅の働き」を、これでもかと演じてみせられるのも貴族の「たしなみ(アルテ)」なのであった。




・・・・・・・・・・・


 小さな泉を前に、演習場の管理人達は唖然としていた。

 

「どうすんべ?」

「とりあえず、水を掻き出すかぁ」

「よりによって泉を汚すとはなぁ」

「伯爵様からの差し入れもあったし、まぁ、坊ちゃま方のするこったぁ。しょうがなかんべぇよ」


 水を手桶で汲み出すのは相当に力仕事だろう。時間は掛かるとはいえ、たいした量ではない。半日もあれば泉一つをカラにするぐらいはできるだろう。


 気長にやれば良いと、誰もが思った。

 

「貴族様ぁ、やることがわけがわからんねぇ」

「ほん、だよぉ」


 あのさ、一人が気が付いた。


「ひょっとして、ここに溜まったのって塩だろ? これを乾かして売れれば、小遣いに…… いや、これだけあれば、一ヶ月は家族の夕飯に肉をつけられるんじゃねぇの?」

「確かに、だな、よぉし。やんべか、家族のため」

「山分けだからな」

「他の泉もそうなんだろ?」

「なんだかなぁ、三日月池だけは、雨が降るまで放っておいた方が良いというお言葉が付いてたらしい」

「オレ、今朝、近くに行ってきたけどな、強烈だったぞ」

「強烈?」

「あぁ。すっげぇニオイだぁ。ありゃなあ、数年は使えなくなるな。オレの経験だとよぉ」

「伯爵様からは7月の終わりに一雨来れば治まるとのお言葉も来てるけど」

「ははは、無理無理。一度行ってみな。あれが雨で何とかなるんなら、番屋のトイレで顔が洗えるってモンよ。ぜってぇ、むりだよ。お貴族様は掃除なんてことを知らねぇだけだ」

「しかし、カーマイン家と言やぁ、今や王国でも一番景気が良いって話じゃねぇか。今回のお志だって、相当だぜ? そういう伯爵様が適当なこってぇ、言うかねぇ」

「よし、じゃあ、賭けるか!」

「乗った!」

「オレも乗る」

「乗らいでか」

 

 カーマイン家を信じる方に賭けた男は若手2人。無理と思ったのは年寄り連中を中心に11人。信じがたいことではあったが「好景気のカーマイン家」の評判に賭けた男達は、それから二週間、タダ酒を飲めることになったのである。


・・・・・・・・・・・


 王都内某ホテル。某男爵の借り上げ部屋。


 見事な刺繍文字の入った布を顔に掛けて寝そべった少年サムが、うわごとのように小さな声を上げている。


「メリディアーニ様 メリディアーニさま メリディアーニさまぁ メリディちゃん メリちゃん メリ~た~ん」


 心ゆくまで堪能した少年は、ムクりと身を起こした。「布」を丁寧に折りたたんで袋に入れ、カバンの一番奥へとしまった。


「あと半年くらいは、大丈夫そうだな」


 そして、切り替えた頭で明日からのことを考えている。


「もうゴンドラ様もミガッテ様からも許されそうにはないよなぁ。どうしようか」


 サムの実家は男爵家である。


 自家が親貴族の支配領域にあるなら別だが、南部と西部の小領主地域において、多くの下級貴族達は形式上独立している。だから実家の「親貴族」をどうするかは、常に頭を悩ませる問題だ。


 特に大貴族と隣接する場合は「いっそ、支配地域に組み込んでもらった方が良い」かどうかを常に考えている。


 そうすれば、何かあれば借金も頼めるし、治水も土砂崩れも、道路の整備も、みんな親貴族の金で対応してもらえる。騎士団もあるから「警察力」も期待できる。


 大貴族の支配下の方がたいていの場合、治安も経済も安定するものだ。


 メリットも大きいが、一度組み込まれると半永久的に支配されることになり、事実上の家臣扱いだ。領地、領民に関する「決定権」がほぼ無くなるというデメリットは大きい。


 それやこれやで「親への帰属問題」は、下級貴族達の頭を悩ませるのである。


 しかも南部と西部にある小領主地域で比べると、サムの実家がある南部は領地が一般的に狭い。「経済」を考えると、とても切実なのだ。


「もともとロウヒー家とのつながりなんて曾祖父の代からの細々としたものしかなかったんだよね」


 そこにきて、この失敗だ。あまりにもデカい。身内の打ち上げパーティーにも呼んでもらえなかった。


「まぁ、逆に王都のカーマイン伯爵邸で開く『南軍の祝勝会』には大手を振って参加できるんだけどさ」


 ショウの配慮、というか命令に従ったおかげで「将軍の身代わりで囮をした」という功績もあるため、大きな顔もできそうだ。


「とっさに打たせる所をずらせたから、あんまり痛くなかったしね」


 その程度は慣れたものだ。身分が低い者は、低いなりに自衛手段を見つけるものだ。サムは、こう見えても武術は得意で、しかも「避けること」だけなら天才レベルなのだ。


「あの程度なら、後ろを向いてても避けられるから、まあ、あんなもんだよね」


 だから、ドーンに打ちかかられたシーンは大して印象に残ってない。むしろ「ふらふら」の演技を印象付けた分だけ「軍旗」を隠すチャンスを掴めたのだ。


「あー それにしてもパーティーか」


 この手のお祝いのパーティーには子どもの頃から何度も参加している。この辺りの事情は半農半勤の準男爵や、騎士爵とは少しだけ事情が違う。


 頭の中に浮かぶ光景はホストである「ショウ子爵」が妻妃と一緒に登場する姿だ。


 そこまで考えて気が付いた。


「ホスト側は、お祝いする相手とひとりずつ握手を交わすのは珍しくなかったよね。今回だって同じはず。そして、お祝いされる側の人数が多いと一族が分担して握手して回るなんてよくあるぞ」


 そうしたら、当然……


「メリディアーニ様も握手の列に加わってくれるじゃん!」


 バッと立ち上がると、机に向かった。すぐ手紙を書こう。


「この際、カーマイン伯爵の方に寄せちゃった方が良いって、父上に手紙を書いて説得しないと」


 その日、サム君は、袋の中身をクンクンしつつ、徹夜で大部の手紙をしたためたのである。



・・・・・・・・・・・


 休み中は、みんなとイチャイチャ三昧だと思ってたのに、現実は無茶苦茶忙しかった。


「将軍の仕事は帰ってきてからが勝負ですから」


 申し訳なさそうな表情をしつつも、メリッサは一切妥協してくれない。それぞれの実家にお礼の手紙を書くのはもちろん、その日のうちに3軒の「はしご」だよ。


 これは、まあ計算のウチ。


「念のために学園で、先生方に挨拶をしておくべきです。その間に、みなさまへの招待状を出しておきますわ」

「招待状?」

「はい。将軍は配下となったみなさまを祝勝会にご招待する義務《慣習》があるように聞いております。普通にパーティーを開けば良いだけですので、そちらはお任せください」


 うわぁああ。学校の方はまだしも、パーティーは完全に予定外だったよ。しかも、開くとしたら学園生だけに学校が始まる前日の夜には開かなくちゃなんだって。


「明日じゃん! 今から準備して間に合うの?」


 メリッサは当然のように「もちろんです。既に賄い方に(お料理)は準備を命じてありますし、お花や楽団の手配その他も終わっております。あとはショウ様の服と、名場面の絵が完成すれば、準備完了です」


 え? とっくに手配済みだった? いつから準備していたの?


 オレの目に、疑問が浮かんだんだろう。


「もちろん、ショウ様が将軍に任命されてからですわ」


 マジっすか? 負けたらどうするつもりだったの?


「ショウ様が負けるわけがありませんので」


 と、キッパリ。


 信頼が厚すぎて、逆にヤバい気がしてきたよ。


 あ、ところで、聞き捨てならないことを聞いた気がする。


「名場面」って何?


 既にノーヘル副官は、直で呼び出されて絵師のところで話をしているらしい。終わっても副官って楽じゃないんだなぁ。


 でも、どんな場面の絵なんだろう?


 塩を密かにまいてるところ? あ、落とし穴を掘ってるところとか? みんなでニセ軍旗をヒラヒラさせているところとか? あ、あれは実物を飾るんだ? それはいいかも。みんなの刺繍はじっくり見てもらえると良いよね。でも、オレがやった分だけは抜いといてね。


 どうせ実物だったら納豆を出したら…… 嫌がらせかw

 

 ただ「名場面」で絵師さんが下手に創造性を発揮しちゃったら、別の物語になっちゃいそうな件w


 パーティーの方は全面的に任せて、オレは学園に行ったよ。そうしたら、モロに会議中で、これ幸いと「尋問」を受けることになったよ。

 

 オレが登校したと知るやいなや、直ちに会議室に呼ばれた。


 開口一番、ゴシップ校長自らが「数々の規約違反の疑いが持たれている」と正面から言ってきた。


「御三家のご当主様から、色々とお言葉はあったが、学園内では身分など関係ないのだからな。規約違反についてはしっかりと説明してもらうぞ」


 あれ? 身分なんて関係ないんだw


 高位貴族だけ3階ですけど? ついでに、専属メイドありなんですけど?


 ってことを口に出すのは大人げないよね。貴族はソフィスティケート(おすまし屋さん)が勝負さ。


「ゴシップ校長先生からのご指示の通り、指令書で判断しました」

「大事な軍旗をこともあろうに、複数作ったそうだな。そんなものを勝手に作って良いなんてことは聞いたことが無いわ!」

「指令書には、禁止事項に入っていませんでしたが?」

「そんなものは、常識で判断したまえ、常識で!」

「今回は軍事演習ということでしたが、それは間違っておりませんか?」

「当然だ! 軍事演習そのものだぞ! そこでの軍旗と言えば軍の象徴だ。その象徴のニセモノを作るだなんて、もってのほかだろう」

「軍事は常に常識の裏をかくものであると言われておりますが? また、軍隊が軍旗を一つしか持っていってはならないという常識もございません。まして本来の軍旗に似せた副軍旗を持ってはならないなどと、そんな常識はどこにもございません」

「ぐっ、言うに事欠いて似せただと!」

「はい。全く同じ意匠のものも作れましたが、《《常識で判断いたしまして》》、全く同じにならないように、制作者のメッセージと名前をあえて入れております。これで『ニセモノだ』と言われましても困ります」

「それはヘリクツというものだ」

「正しい理屈です」


 ここまで、ノータイムで返答してきたよ。少しでも間を開けると相手が冷静になっちゃうからね。


 ヘリクツだって言う相手は、どのみち正しい理屈なんてわからないんだから「正しい」って強弁しておけば絶対にひっくり返せない。これ、ネットで煽る時の常識ね。


「しかし、君は危険な毒を使ったというではないか」

「毒物は一切、使っておりません」

「しかし、実際、具合が悪くなった者も出ただろう!」

「水を飲んでも具合が悪くなる人も出ますね?」

「水を飲んで死ぬ心配をすることなどないぞ。話が違う」

「しかし、あらゆる大人の死者は、必ず水を飲んだことがありますよ? じゃあ、水は毒物だと仰いますか? 校長先生もお水を飲んだことがある。そして、100年後、先生は生きていらっしゃいますか?」

「それは、違う話だ!」

「同じです。違うというのなら理屈をゴシップ校長先生がお示しください。拝聴いたしましょう。さあ、どうぞ」


 う~ と顔を真っ赤にして黙ってしまった。


 へぇ~ マジで顔を赤くしちゃう人っているんだね。この「理屈を示せ」というのは、先に立証責任を相手に押しつける力業。これをやるとたいていは、相手はそこから立証できなくなって、崩壊するよ。


 で、ここで、もう一押し。


「念のため申し上げますが、使ったものは水に砂糖と塩です。そして、全く同じ材料で作った水を味方にも飲ませております」

「なんだと?」

「ガーレフ先生にもリーガル先生にも、実際に飲んでいただいております。今日、この場に出席なさっていらっしゃいますが、先生方、何か特別な解毒はなさいましたか?」


 二人の先生は、気まずそうな顔をしながらも、ハッキリと顔を振った。


「しかし! 三日月池では明確に毒をまいたとしか思えない状況であったそうだぞ!」

「それについては、恐れながらトライドン侯爵家からお預かりした伝統食の製法を利用いたしました。もしも、あれを『毒』だと仰りたいのでしたら、どうぞ、ライザー侯爵閣下に、その旨をお伝えいただきますよう、お願いいたします。また、毒ではない事を証明するために、今、この場で私が試食してもよろしいですが、先生方はトライドン家の伝統食については?」

 

 突然、女の先生が立ち上がった。


「あれはダメぇ! ダメ、ぜったい! あ、あんなものを出す人となんて、二度と会わないんだから。二度と食べたらダメ。人間やめちゃうわ」


 エルメス閣下の姪っ子に当たる女子体育と養護教諭を担当しているネムリッサ先生が両手を口に当てて青い顔。


 永遠の29歳を名乗る先生は、過去によほどヒドい目に遭ったらしい。


 残念だなぁ。納豆を広める機会なのにw


「ゴシップ校長、いかがでしょうか? トライドン家に抗議なさいますか? 毒を広めるなと」

「め、滅相もない! 伝統食に対する認識が間違っていたようだ。関係者にはこの場でお詫びしておく」

「となると、私は毒を使ってない、ということでいいですね?」


 ゴシップ校長は、ぐぬぬぬと歯を食いしばって悔しがってから「しかし!」と叫んだ。


 まだやるの?


「騎士たるもの、ウソを並べるのはいかがなものか! ウソを並べて勝つのは卑怯であろう!」


 わぁ~ 言いがかり、スキですね。さすがゴシップ。


「私がウソを並べました? 全く身に覚えがございません」

「平然と、今、ウソを吐いているではないか!」


 バッと出してきたのは、オレが池の周りに立てた看板の数々だ。


「あ~ 一部は間違いですが、大部分は正しいですよね? まさか戦の最中に、間違ったことを言ったら、それで卑怯なのですか?」

「間違いだと! 言うに事欠いて、じゃあ、これはなんだ! 『泉の水を飲んで死なない人はいない』とあるぞ! ウソではないか!」

「先ほども申しましたが、これがウソだというのなら、あの泉の水を飲んで不死となった方を連れてきてくださらないといけませんね、そうしていただければ、私もそれがウソだと認めます」

「なんだと?」

「飲んだ方は、数百年以内に か な ら ず 死ぬ 。事実ですよね?」


 そこから次々と出してきた立て看板の文言を、片っ端から論破して終わった。


 え? もう、お終い? ゴシップ校長、煽り耐性なさすぎぃ


 と言うセリフを頭の中にしまっておいて、恭しく頭を下げてみせる。


「先生方には、数々のご配慮を賜り、誠に感謝に堪えません。また、規約につきまして、先生方も問題があるという認識に立たれるようでございましたら、微力ながらお手伝いしたいと存じます」

「生徒の分際で、規則に口を出したいとでも言うのかね!」


 あ、校長がまた生き返った?


「いえいえ。口を出したい、とは申しておりませんが、現在の規約のままであるならば、私は勝つためのさらなる手段をいくらでも思いついてございます、と申し上げている次第です」


 そこでいきなり横からガーレフ先生が「まだあるのか!」と叫んだ。


「そうですねぇ。今回使った手を一切使わなくてもできることはたくさんあります。たとえば、中央を隔てる川がありますが、演習場の上流でせき止めてしまうのは、規約上、違反ではないと思います。もちろん、せき止めてしまった水を『いつ』流すのかは、選択権がございますね」

「演習期間中に外部の人間を中に入れるのは違反だ」

「上流ですので、一人も中に入れませんよ?」

「そんなトンチのようなことを!」

「歴史上、戦争は、トンチのような作戦を考えた者が勝利を収めております。この学園は、兵卒ではなく士官、将校を育てるための場であるはず。規約を守りつつ、相手の意表を突く将を褒めるのと潰すのと、どちらがサスティナブル王国のためになりましょう?」


 ノータイムで徹底的に相手の言うことを潰すのがコツだよね。


 ってことで、ゴシップ校長は、その後、しばらく校内で見かけなくなってしまった。高血圧だったのかなぁw


 さて、後はパーティーで、みんなと握手しまくるだけだよ! もちろん、オレを助けてくれたみんなだもん。オレ自身が全員と頑張って握手するよ。


 やっぱり、それがオレの使命だよね!




 ……え? 




  

 

 


 ネットでの「煽り技術」は、けっこう大事ですよね。あ、いえ、他人を煽るのではなくて「あ、この人、これ煽ってきてるな」って察知する能力が磨けるからです。


 ショウ君が「某ちゃんねる」に登場していたら、最強だったかも知れませんね。


最後の改行の後の「え?」

サム君です

なんか、可哀想w

 


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