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スキル「ゴミ」いや、マジで (書籍化決定)  作者: 新川さとし
第7章 南部編

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第103話 黒でも白と思え

苦労人の副官視点でお届けします。

 

・・・・・・・・・


『あ、肉が落ちるぞ!』 


 ポタリ


 ひとりのパンから挟んだベーコンが落ちた。だが、誰も気にする余裕もなかった。


 ロキソを――いや、自分を見つめていた。


『これも、オレに言えと? お前ら、圧力強すぎ!』


 顔には出さず、静かに尋ねた。


「と、おっしゃいますと?」


 ロキソ閣下は紅茶の入ったマグを一口すすって「何よりの証拠は」と言うだけ。


『くそ、やはり続きはオレか』


 しかし、部下の手前だ。すまして、答えた。


「今回の撤退でございますな? 確かに、帝国が撤退したのは理解不能であります」


 ん? なんだか、いつもの謹厳な閣下に似合わない悪い笑顔だ。


「この状況だぞ? 自分が帝国の司令だとして、撤退を選ぶ愚か者はおるか?」


 シーン


『大将に「愚か者は」と言われて、撤退を選べるわけないだろ! まあ、そりゃ、普通で考えれば撤退なんて絶対にしないけどさ』


 内心の絶叫はさておき、整理してみせるのは自分の仕事。しかし、こうも思っていた。


『オレの役目は、若手に答えさせることだ』


 ゆえに、言うべきセリフは決まっている。

 

「確かに敵には大国ゆえに余裕がある。誰か?」


 そう言いながら、一番年かさの部下をみた。最初の発言者は重要だ。

 

「援軍ですね? 今のところ見つかってませんが、計算上、十万以上は見込めます」

「ふむ。他に?」

「こちらが、出せる援軍は、大王直轄のブラックキャップくらいでしょう」

「しかし、ブラックキャップは5千ほどだぞ」


 反対側の席の者が咎めるように言った。


「まあ、確かに、以前の敗北で受けた打撃は大きすぎたもんな。精鋭だけに回復させるには、まだ時間がかかる」


 これから出せる援軍は、ブラックキャップだけ。十万とは比べるべくもない。


『まあ、それは正しい。こちらは限界だが、あちらには余裕がある』


 朝食会のメンバーは将来、軍を背負う者ばかり。軍人として負けを認めたくなくても、コフ内の情勢は極めて不利だということくらい理解しているはずだ。

 

 わかってるか? と部下の顔を見回した。


『ロキソ閣下はおそらく若い者を育てるおつもりだなのだろう』


 彼らは有能だが経験不足である。顔を見ると、ちょっと頼りない。


『なにしろ、サスティナブルは、こっちの指揮官を真っ先に狙ってきやがる。このままじゃ、大隊は言うに及ばず、小隊指揮官も枯渇する』


 シーランダー王国軍内で、ようやく深刻だと理解された非常事態だ。


『実戦部隊の中堅指揮官が枯渇する、という致命的な現象は、やつらが狙って起こしたんだ』


 かつて大敗したファミリア平原の戦い以来の敵の狙いは、部隊指揮官。


 必ず、真っ先に狙ってくる。


『しかも、シャクに障ることに「有能で、勇敢な小隊指揮官は、毎回、全滅」だ』


 戦場経験を積むはずの指揮官が、戦闘のたびに、猛烈な勢いで欠けていった。昇進して、いずれは一軍を率いていたはずの指揮官が枯渇した。今では、その能力と経験を持つ人間が払底したというに近い。


『大本営にいる参謀クラスこそ健在だが、実戦部隊の指揮官は、もはや…… 引退したロキソ大将をお迎えせざるを得なくなったのが、危機の証拠だよ』


 老将は、現役復帰にあたり「有能な若手をかき集めろ」と条件を出したと聞いた。


 おそらく、この危機をわかっていたのだろう。


『元王族のボルタ殿が率いる軍はともかく、イヴープ殿にロクな指揮官を回せないのも、こっちに寄せてしまったせいだ』


 申し訳ないと思いつつも『イヴープ殿もわかっておられるのだろう』ということは理解していた。


『まあ、イヴープ殿も事務型だけど、優秀な方だ。指揮官が枯渇したのをわかっているからこそ「自分は控えである」と認識して、後方任務を担われたんだろう』


 イヴープ大将の軍は補給・輸送を担当していた。


『それに報いるためにも、いや、シーランダー王国軍の未来のためにも、この朝食会が大切なんだ』


 いわば「士官学校」だ。


 先生であるロキソに、部下たちは自らの見識を示さなくてはならない。

 

 すぐ隣の人間が勢いよく続いた。


「敵が有利なのは橋頭堡をコフ内に築いていることです」


 敵地に、補給や本部機能を持たせるために確保した場所を「橋頭堡」と呼ぶが、侵攻作戦では、これを確保するのが基本だ。


「ほう、それはどういうことだね?」


 続けて説明するよう促した。指名された部下は顔を紅潮させた。


「敵はアラモ山に作った砦から、コフ内の陣地まで補給経路を確保しています。しかも、ここで収奪した食糧は、年を越しても問題ないレベルまで蓄えているはずです」


 ロキソも満足げな表情を見せて肯いた。


「よろしい。他には?」


 隣の若手を指名した。


「はい! この地に、敵が増援を出してきた場合、跳ね返せるだけの地形的優位を持つ場所は存在しません。このイグナツ家も含めて、三伯爵家の城館は平城です」


 

 その若手の「平城だから防衛に不向きだ」という指摘は正しい。ロキソ大将も含め、一転して苦虫をかみつぶしたような顔でウンウンと肯いている。


 実は、シーランダー王国の増援部隊は、この点に驚き呆れ、作戦の立案に困った経緯があるからだ。


 若手は、さらに勢い込んだ。


「三伯爵家が長年いがみ合い、機をうかがっては攻撃し合っている、という話でした。しかし、全て平城で防御機能は極めて脆弱です」


 防御拠点とするなら山城のはず。ところが、三伯爵家の城館は全て平地にあった。


『いがみ合っているのに、平城かって話だが、まあ、それは後の話だ』


 問題は、平城で数万の攻撃を防ぐのは不可能だということ。よって、ボルタ軍を始め、コフ派遣軍は互いに連携して城外に布陣するしかなかった。


 そこでロキソが笑いと共に声を入れた。


「ハハハ、あのボルタですら、会戦しかないというほどじゃったなぁ」


 大王の下に集結したロキソも、イヴープも「会戦に持ちこんでの逆転」に賭けると言う点で一致していた。


 全員が、引きつった笑顔で一緒に笑うしかない。


 ロキソは、ヒゲを撫でつけると、再度問うた。


「この状況で、敵が撤退するとしたら、予測できない不利が生じた時だけじゃ。それはなんだね?」


 さっき空気を読まずに発言した若手は、名誉挽回とばかりに勢い込んで発言した。


「予定していた増援が得られないか、敵の最高指揮官が倒れた場合です」

 

 他の者からの「またかよ」という視線はあったが、閣下は鷹揚に頷いた。


「皇帝が倒れたという情報はない。となると──予定していた増援が得られなかった。だから撤退した。そう考えるのが自然だ……わかるな?」


『さすがに優秀だな。どうやら理解したらしい』


 全員が頭に描いたのは敵の意図。


【ボルタの裏切りが敵の戦略として組み込まれていた】


『お~、みんな完全に食事の手が止まったな…… って、閣下はいつの間に!』


 ベーコンエッグサンドは、最後のひと口となっていた。


 ゆっくりと口に入れてからヒゲに付いたソースをナプキンで拭った。


 部下たちを見回して言った。


「大王はボルタの裏切りをないことになさった。大所高所に立って『白』だとご判断されたのだ。けれども、裏切り者に素知らぬふりをした組織は危うい。そうだな?」


 全員が肯くしかない。


「我々は、時に諫言(かんげん)する勇気を持たねばならぬ」

 

 コクン


「しかし、軍人は王の誤りを正すことよりも、王のご決断が正しいものであったことを証明するのが本務である。ゆめ、それを忘れてはならんぞ」


『これだと、若手に伝わらないかも』


 チラッと危惧して、思い切って言葉を挟んだ。


「閣下、恐れながら、この場は未熟者が多いゆえ」


 それ以上は、差し出がましい。言葉を控えた。


「ふむ。そうじゃな。わかりやすく言おう。ボルタは裏切り者――黒だ」


 あらためて「ボルタの裏切り」を明言したことに、全員がシーンとなった。


「しかし、大王が白とご決断された以上、我々は、それを前提にして作戦を立てるんじゃぞ?」


 ここの相づちは自分の役割だ。


「閣下、それは?」

「裏切られても致命傷にならないような作戦を用意する。それが用兵家となる諸君の使命だということじゃ」


 わかるなと、穏やかな目線で一同を見渡すと、全員が、起立して敬礼をしたのである。


 朝食会の一幕であった。


応援メッセージでも「ウチワの疑心を煽るのはどうなの?」というご指摘を、昨日のうちにいただきました。さすが、この作品の読者様は鋭いと思いました。

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