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スキル「ゴミ」いや、マジで (書籍化決定)  作者: 新川さとし
第7章 南部編

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第102話 ロキソの朝食会

 副官たちは、ロキソ大将が入ってくるなり一斉に立ち上がり敬礼した。


「諸君、おはよう。座りたまえ」

「失礼します」

 

 当番兵がキビキビと朝食セットを運んでくる。スープにパン、ベーコンエッグ。簡素ながら十分だ。


 ロキソ大将がスープの一口目を口にしたところで、部下も一斉に食べ始めた。ロキソ陣営の朝食会は、いつも通りの静けさと規律に満ちていた。


 この陣営は熟練の指揮官の下、常に、軍として理想的に機能している。


 ロキソが口を開くまでは、フォークの微かな音だけが響く。誰も喋らない。


 ところが、スープを飲み干したロキソは、フォークでベーコンエッグをひょいとパンに挟んだ。


 マナーに反するが、一斉に、全員が同じようにするのもいつものこと。戦場では、マナーより「上官と同じ」が大事なのである。


 ロキソはガブリと一口囓ると、ヒゲに付いたパンくずを払いながら言った。


「大王は、お人好しすぎる」


 あごひげを撫でて副官たちに向かって嘆いて見せる。


「例のみすでれくしょん、でございますな?」


 年配の将校がへつらうように声を落とした。ロキソが嘆くとしたら、あの件しかない。


 ロキソは頷きもせず続けた。


「確かに、ここまで露骨なやり方は珍しい。だが、露骨だから裏切りではないというのもお人好しすぎる」


 ロキソは長年の勘と分析した情報で確信していた。


「ボルタは黒」


 もちろん、緊張感のある陣幕内では、指揮官に異を唱えるものはいない。


 ところが、本営──イグナツ家の城館を借りているその場所──では評価がまるで違った


「ボルタ将軍謀反のウワサは、サスティナブル帝国の陰謀である」


 クルシュナ王が流れを変えた。自ら陣幕を訪れ、一緒に酒を飲んで見せたことで、皆そう信じてしまった。


「これだけあからさまなんだ。敵が仕掛けた離間策に決まってるだろ」


 陰謀を一刀両断。

 その話題で本営は持ちきりだ。


 しかしロキソの長年の勘は、まったく逆を指している。


「ボルタのアレは元王族ゆえよ。自分が正しいと信じているから、隠す必要を感じないだけだ。それが良さでもあるが──限界ということじゃな」

「つまり、大王が騙されていると?」


 若手将校の不用意な言葉に、周囲の空気が一瞬で凍りついた。


 空気を読まない発言をした若手は、ロキソにジロリと睨まれる。


「大王の悪口は許されんぞ」

「も、申し訳ございません! そんなつもりは、ありません」


 フンと一蹴してから、ゆっくりと顔を振るロキソだ。


「大王は、わかった上でボルタを許されたのであろう。すべてを見通したうえで、あえて見逃すおつもりじゃ。それが“お人好しすぎる”という意味だ。そこを間違えるな」


 人々は「ボルタの裏切りは確定している」という見解にもドキリとしたが、大王が「知った上で許したんだ」という指摘には仰天ものであった。


 みんなの視線が集中するのは苦労人の副官である。やむなく「確認」するしかなかった。


「許されたというのは、裏切りを知った上で許されたということでしょうか?」


 ロキソは平然と答えた。


「西辺境地の話は聞いたじゃろ? ボルタの兵は形ばかりに鎧を剥がされただけで解放されておる。剣すら奪われなかったんじゃぞ?」


 それは、各地から集まる話だけに、事実らしい。


「その返礼のように、三千ばかりしかおらぬ敵に差し向けた一万は、ぼーっと見守っているだけじゃった。おかげで彼の地の食糧は9割やられたんだったな?」


 事実である。なぜ、少数の敵を叩かなかったのかと言う点は、いまだに謎である。


「確かに、そんな真似をすれば、我が軍なら軍法会議ものです」


 臆病者は許されない。半分にも満たない敵を野放しにするのは、無能という言葉すらもったいないだろう。


「誰か、鞭打ちなり、縛り首なり、聞いたか?」


 全員が首を振った。少なくとも「指揮官を罪に問うた」という話は伝わってきてない。


「西辺境地を荒らした連中は、全員無事に、我らの防衛線を裏から突破してお帰りになったぞ? しかも、守備隊は全員が殺された。捕虜すら取った形跡がない。ずいぶんと対応が違い過ぎだのぉ」


 将校たちの「常識」がざわつく。


──戦の初動は捕虜が足手まといになるから取らない。

──自国へ戻る際には指揮官を捕らえるのが普通だ。


 互いが顔を見合わせるが、言葉に出すことすらためらってしまう。


「確かに、敵はずいぶんと、()常識なようで」


 心の中のため息を見せずに「合いの手」をいれるのも副官の仕事だ。


「後々、味方になる相手には優しく、敵には厳しく。そう考えれば辻褄は合うわけじゃ」


 はぅ~ 誰となくため息。


 さすが老将である。鮮やかに「ボルタ裏切りの証拠」が上げられていた。


「まあ、そんな行動には別の理由があるのやもしれんがな」


 表情と声色は「ありえん」と告げていた。


「しかし、これは決定的だぞ?」


 次の説明を聞こうとする一同は、もはや食事処ではなくなっている。


 ロキソはトドメを刺してきた。



「朝食会」は、後1話続きます。みんな、食事処じゃなくなっている件。

ロキソ大将はけっして無能ではないんです。だからこそ……


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