第100話 勝って兜の
「こちらをご覧ください」
ベイクが頭を下げて、ミュートも続いた。
出してきたモノがなんなのか、一目でわかった。
『作戦計画書!』
二人で考えた作戦なんだろう。
「な~にかな? 今日のお昼のメニューじゃないよね?」
手に取った時には、タイトルが見えていたから、ボケてみた……
「「……」」
笑いが取れなかった。二人は、緊張しながら真面目な顔。
「ニュートーキョー最終侵攻作戦、ねぇ~」
チラッと読むと、作戦概要の欄には「ここまで上手くいったなら、この機を逃さず一気に王都に攻め上った方が、効率が良い」って感じに書いてある。
三年もかけないで、いっきに、ここでヤッちまいましょうという提案だ。
『二人の言い分はわかるんだけどなぁ』
たしかに東部戦線は、思った以上に順調だし、帝国本土に豊富に残された予備戦力を一気に投入することは可能だ。
国軍がいるし、御三家と各侯爵家の戦力をかき集めれば10万規模の動員は難しくない。実際、動員計画書には十二万を今年中に投入する計画となっている。
「確かに、これだけいれば、できそうだよね」
ここで大戦力を追加すれば、会戦で敵の主力を撃滅できるだろうって読みだ。
夏が終わる前にコフ盆地は一気に占領できる。
そうなったら……
国力からすれば、コフに展開してる戦力があちらさんの限界に近いわけで、一気に形勢は傾くだろう。
ここを「関ヶ原」にしちゃえる的な見方は、ある意味で正統派だ。
しかも、緻密な彼らの頭脳は「取り逃がした国王派」の逃げ場所まで想定してある。
「さんざん荒らし回った西辺境地域に、国王以下の敵を追い込んでしまうっていう作戦なわけね」
今回の戦果を巧みに利用しているなぁ。
「はい。今なら、敵を西辺境地域に追い込めば確実に数年で破綻しますデス」
「アンスバッハ・マイセンに東から攻めさせる時も、コフから流れる川を利用して補給が可能です」
食い気味に、説明をしてくる二人だ。
戦争の全体像に目が行くだけに、可能だと思っちゃうんだろうなぁ~ って思えば、叱ることは出来ない。
「あのさ、二人の提案は、妥当だよ。普通なら」
「ダメだと、おっしゃいますです?」
「不可、ですか……」
二人が、心底「そんな~」という目で見てきた。
「クルシュナ王の特別な力は覚えているだろ?」
「はいです。けれども、今回で俯瞰できましたので」
「幻影軍を使われても、勝つ方法を!」
腰をあげかけた二人に、手のひらを見せて「まあ、まあ」と抑えて、冷めかけた紅茶を一口。
「勝てるとは思う。だけど、クルシュナを逃がした上に、人気があるまま民の中に隠れることができちゃうよ?」
「それは、そうですが、このまま軍と共に行動する可能性が高いと思います」
「まあ、可能性は高いっちゃー高いけど、あのヒトって、単独でウチの国に来ちゃうタイプだからね~」
「「……」」
二人とも、困惑の表情。
ほら、子どもがさ「冬休みのお手伝いする~」って言って、おじいちゃんの盆栽に、毎日、水やりしちゃう感じかな?
良いことをしたつもりが、おじいちゃんの涙を見て困り果てる孫の顔。
あ、冬の盆栽は、土が乾いたら水を与えてね? これ、マメな。
と、脳内の誰かにボケをカマしつつ、オレは言ったんだ。
「ボルタ将軍を粛正しない程度には、モノが見えている王様だよ。最悪、民を味方に付けて、あっちこちで、反帝国活動みたいなことでもされると厄介だろ?」
近現代史では、そんな例がザラにあるよ。非正規戦争は、歴史的なトゲとして残りやすいんだよね。
「国ごと滅びてもらうため、ここは撤退する」
「しかし、デス!」
「撤退の大義名分が!」
オレは、ちょっとニンマリする。この二人がわからないってことは、他の人は絶対にわからないはずだもん。
「ふふふ。ないから良いんじゃん」
「「え?」」
「敵はボルタ将軍を粛正しなかった。裏切ってもいない。これが見えていることだろ?」
「はい、デス」
「しかし、裏切らないから…… あ! なるほど」
目を見開いたミュートは、どうやらわかってくれたらしい。
「つまり、ボルタ将軍がいつまでも裏切らないから、アテが外れて撤退、という形を宣伝するわけですね」
オレは人差し指で空中を押すポーズ。
「ピンポーン」
二人は怪訝な顔をした。
「あ、いや、その、正解って意味だ! ミュート、直ちに撤退の準備にかかれ。噂をバラ撒く計画はベイクだ。頼んだぞ!」
「直ちに撤退計画に移ります!」
「ボルタくんに、あることないこと、お話をくっつけますデス」
我々は、撤退準備に取りかかったんだ。
なぜ、クルシュナ王は「ボルタの裏切りのウワサ」が帝国側の陰謀だと見抜いたのでしょうか?
次話は、少しだけ時間をさかのぼって、クルシュナ王のお話です。




