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スキル「ゴミ」いや、マジで (書籍化決定)  作者: 新川さとし
第7章 南部編

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第99話 勝ちすぎたのは……

 7月20日


 相変わらずシュモラザルドの花(おみきどっくり)のようにベイクとミュートは、一緒だった。


 朝一番。ベイクが手ずから入れた紅茶を、ミュートは手作りホットサンドイッチを持ってきてくれた。


『ベイクは、やっぱりパンが焼けないのか……』


 本名は「ベイクドサム」だけに、焼きたてのパン屋みたいなのにねぇ。


「美味いね、このサンドイッチ」

「はっ。ベーコンをカリカリに焼くのがコツです」


 それを真面目に答えてくれなくても……


 ベイクが書類を差し出してきた。


「皇都を経由した、西部戦線、および、東部戦線の報告です」


 あれ? いつもみたいに「正直~」って入ってないよ? ベイク、調子が悪いの?


 そんな風に思ってしまうほど、連日、ベイク節に触れてきた対シーランダー王国戦の日々だった。


「嬉しいお知らせだといいんだけどな」


 そんな言葉が出たのはミュートが眉間にタテ筋を入れるのを見たからだ。


『眉間のタテ筋って言えば、無闇と悩み続ける法務大臣のブラスを出すのが、オレの十八番だよ!』


「ミュートの眉間も、ブラス並のタテ筋になりそうだね!」


『あれ? 反応してくれない……』


 ちょっとガッカリ。


『法務大臣となったブラスコッティの眉間のタテ筋ネタは、有名なのになぁ』


 こうなると、つい「押し」てしまうのはボッチを恐れる前世の影響なのかも。


「今じゃハガキ三枚は挟めるくらいに深いタテ筋なのは有名な話だよ?」


 まあ、この世界だとハガキなんてないけどさ。


 案の定、困惑しつつ、眉間を指でのばしているミュート。


 ベイクが一切を無視して言った。


「非常に困ったことが起きています。──勝ちすぎているんです」

「えっと?」


 あっさりと、ネタを流されるのもそうだけど、ベイクがキビキビ喋ると、マジで気持ち悪いんだけど……


 それにしても「困る」と「勝つ」が結びつくなんて聞いたことないよ!


 なんで、困るんだよとツッコむより先に、報告が始まった。


「東部戦線から報告します。さすが(いくさ)巧者です。アンスバッハとマイセンによる指揮が卓越しており、まもなく『隘路交錯地域』を突破するとのこと」

「あそこは、敵がたっぷりと罠を仕掛けていたはずだよね?」


 それなのに、もう「抜ける」ってどういうこと?


「二人は罠を慎重に排除し、予定通りに『攻勢』を見せていました」

「うん。慎重な戦いは彼らの持ち味だもんね。っていうか、慎重派がじっくり戦うはずなのに、なんで、こんな短期間で抜けちゃうわけ?」

「敵が攻めに転じたせいです」

「え? ごめん。よくわからないんだけど。敵が攻勢に出ると、何でこっちが予定以上に侵攻できちゃうわけ?」


 ベイクが一瞬困った顔。横のミュートが眉間の縦ジワをキュキュッと深くして言った。 


「おそらく、敵は負けたフリが許せなくなったのと、罠にかからない戦いぶりが、相当に不満だったのでしょう。シーランダー軍が攻勢に転じたのです」

「あ~ 負けたフリって、ストレスだもんね」


 その意味で、囮作戦専門かよ、って自虐まで入ってるエレファント隊は我慢強いんだよね~


「それで?」


 気を取り直したのかベイクが続けた。


「二人は、敵の攻勢を利用しました。繰りかえし誘い込んでの罠を仕掛けたところ、これが大成功したとあります」

「あ~ ガバイヤとの戦いで、さんざんやったやつだもんね」


 ベイクはコクッと肯いて、報告を続けた。


「その結果、敵が勝手に崩壊しました」

「崩壊?」

「はい。アンスバッハからの報告書には『撤退というよりも崩壊した』とあります。敵の中隊指揮官クラスでも二ケタ捕虜とし、少なくとも3千以上の死者、戦場離脱者を生んだとのこと」

「あら~ 敵の一割じゃん。誰がそこまでやれと……」


 ミュートはオレの言葉を「不満」だと思ったのか、取りなしてきた。


「我が軍は、指揮官を優先して討てというのが第二の習性となりつつあり、その意味で、一定以上勝つと、自動的に大勝に繋がってしまいます」

「痛し痒しか~」


 通信機器が発達してないこの世界だと、戦端を開いた後は「部隊指揮官にお任せ」になりやすい。したがって戦場で下士官クラスがいなくなると「撤退命令すら出せずに壊滅、あるいは逃亡」という現象になる。


「ある程度は予想はしてたけど、そこまで?」

「はい。敵の兵力を想定以上に減らしてしまいました」

「あ~ その分、必要とする食糧は減るよね」


 東部戦線は「膠着状態」にもって行くのが理想だった。三万の兵力を東端に貼り付けさせて、補給の負荷を掛け続けさせる狙いだ。


「兵が減った上に、本国から近くなればなるほど、敵は補給が楽になるわけか」


 ミュートは沈黙で肯定し、ベイクが次の報告をはじめた。


「西部戦線は予定通りと言いたいところですが」

「ソラたちは無事帰還したんだろ?」

 

 帰還の第一報は既に聞いている。


「詳細がわかりました。ソラが覚醒してしまったらしいです」

「ん?」

「報告を読むと、今すぐピーコック隊にスカウトしたくなる手腕ですよ」


 うちの「特殊部隊」とも言うべきピーコック隊にスカウトしたくなるって?


「でもさ、どっちかというと、ソラって正統的な武闘派だったよね?」

 

 王立学園時代、最長謹慎記録を持っていた伝説の問題児(ヒーロー)。イジメをした十数人の先輩たちを、一人で片っ端からノシてしまったという武勇伝持ち。


 妻のメロディーに言わせると「とっても優しい従兄」ってことだけど、その実態は大きく違う。部下の先頭を切って敵に突っ込んで、時には自分だけでも突撃しかねない「超々武闘派」だよね?


 ベイクは、苦笑いを浮かべた。珍しい。


「マイセンの薫陶よろしく、不正規(ゲリラ)戦のプロとして目覚めたようです」


 “マイセンを教育係にしたの、陛下ですよね?”


 という目を向けてくる。


「いや、ほら、初めてはいろいろと不安になるだろうからさ」


 言い訳を聞く気はないらしい。書類を取り出すミュート。


 あの、オレ、皇帝なんだけどな。


「陛下を心から尊敬しておりますが、まず、お聞きください」

「はい」


 まあ、正座しろと言われないだけいーか。


 ペラリと書類をめくったミュートは、立て続けに各地の焼却した穀倉の数字を読み上げた。


「……以上を合計すると『西辺境地』と呼ばれる地域にあった食糧の少なくとも40パーセント以上が焼却できたと思われます」

「マジ?」


 いや、そんなのありえないでしょ。嫌がらせ程度に、二つ三つの穀倉を襲ったら逃げてくるはずだったのに。


「でもさ、焼け残りもあったりして?」

「計算に入れてあります。ですから『少なくとも』と付言いたしました」

「あ、そ、そうなんだ」

「略奪済みの食糧は自軍消費のほか、住民に再配布したそうです」

「それは…… 予定の範囲だね」

「なにしろ、敵の穀倉の九割以上を焼くか略奪したんです。彼の地の税収の推定9割に相当します。確かに『作戦通り』ですが、成功しすぎました。食糧が想定以上に減ったんです」

「ソウデスヨネー」


 作戦通り、って言葉が、これほど冷たい響きに聞こえるって、あんまりない気がするなぁ。


 そこにミュートが割り込んできた。


「細かいご報告ですが、西部の漁村から船乗りをスカウトまでしています」

「そのココロは?」

「焼却予定だった船団を使い、住民まるごと拉致──いえ、救出し、現在はオウシュウ各地の船だまりで点検中。これは戦力的にはプラスです。しかし、十数の漁村が空になったと」

「来た人たちは?」

「移住してきた者は4千を越えます。ロースターによれば、オウシュウの好景気、人材不足の折り、新村建設などを含め、受け入れ状態は極めて順調だそうです」

「想定外でも、悪いことじゃない…… だけど」

「はい。だけど、です。略奪した食料は地元に配布したにせよ、食糧を生産するべき住人を4千規模で喪い、十数の廃村。四割以上の生産食料焼失」


 凄まじい戦果だよね。


 うーんと唸るしかない。


 ん? ベイク、何を言おうとしてる?


「以上のことから、問題、ともうしますか、ご提案があります」


 勝ちすぎて問題? 何を提案するつもりだよ……


南部編が100話になって、しかもまだ終わらないという……

もう少しお付き合いください


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