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スキル「ゴミ」いや、マジで (書籍化決定)  作者: 新川さとし
第2章 王立学園編

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第24話 格式

この作品はカクヨム様で先行公開中です

 ノーマン様とリンデロン様は、詳細なレクチャーをしてくれた。


 なにしろ、相手にするのはフォルテッシモ家


「難物中の難物賭して有名」


……はい来た。いきなり最難関ダンジョンだよね。


しかも、その理由について二人は異口同音に言った。


「なにしろ、当主が王宮に来ないことで有名でね」


なんじゃそりゃ?


王宮に来ない貴族って、それもう「王宮貴族」じゃなくない?


内心で首をひねっていたら、ノーマン様が淡々と説明を始めた。


「フォルテッシモ家当主、アーサー・フレデリック=アルバートは、ずっと王都住まいだ。領都であるパウラにも豪壮な邸を持ってはいるが、そちらには一切顔を出さない」


(あ、領地放置系ってやつか)


「妻も側室も全員、王都。王宮に姿を見せるのは、我々公爵家との会合か、王との対面が前提の時だけだ」


(あぁ、選民思想系でもあるわけね)


「実務はすべて息子のドルドに任せている。事実上の領主は、彼の方だろう」


(やっぱり面倒しかないヤツじゃん)


リンデロン様も、さらりと追撃する。


「交渉するなら、息子のドルド氏の方が話は早い。父親は……」


 一拍置いた。


「“貴族としてどうあるべきか”だけを判断基準にする男だ」


 ノーマン様が、珍しく渋い顔で頷いた。


「歴史だけが自慢の家柄でな。領都の名が『パウラ』と三文字なのも、王都成立以前から街があったという誇りゆえだ」


(文字数に誇りを持つなよ)


「損得では動かん。美意識だけで決める。だからこそ―― 押すべき場所さえ間違えなければ、アーサーは確実に反応する」


 リンデロン様は、あっさりと断言した。


「ただし、アーサーの“押すべき場所”を見つけるのが、地獄のように難しい」


ですよねー。


しかも、最悪の情報をヘクストンが入れてくれる。


 その息子ドルド氏が――


「つい先日、領地に戻られたそうです」


 ……詰んだ。


「仕方ない」


 オレは深呼吸して、ニッと笑った。


「当たって砕けろだよ。偉そうなオッサン用の、とっておきの作戦を使う」


 こうしてやってきました、フォルテッシモ家・王都邸。


 ノーマン様の忠告に従い、ミィルは連れてきていない。っていうのはさ……


「彼はな、連れてきた侍女を気に入ると、欲しがることがある」


 聞いた瞬間、背筋が凍った。しかも断ると交渉終了。


 ――あって良かった事前情報。


 とはいえ、土産を自分で持つのも失礼にあたる。


 そこで、うちの最年長メイド二人に箱を持ってもらった。事前に王家献上品と同等のガラス瓶を贈っておいたのも効いたらしい。


「お待たせいたしました」


たった二時間で、侯爵家当主との謁見にこぎつけた。


……うん。


子爵としては、異例のスピードだよ。たぶん。


執事たちが一斉に並び、荘重な礼。


その中央から現れたのは――

五十代半ば、脂ギッシュで、正直パッとしないオッサン。


ただし、服だけは異様に金がかかっている。


(あ、これ“本物”だ)


 成金のギラギラじゃない。「金を持っているのが当たり前」な人間の服だ。


 案内された応接室も同じだった。


落ち着いている。

洗練されている。

そしてさりげない場所に、金を掛け放題。


(この部屋だけで、絶対、オレの家三軒分くらいするぞ)


 ここが勝負。


 紅茶の香りが立ちのぼる中、オレは、人生最大の暗記成果を解放する。


「歴史あるフォルテッシモ家の総帥にお目にかかれて光栄です。侯爵閣下――」


ここから一時間。


 リンデロン様、ノーマン様、そしてお館様総動員で作り上げた、超・長文挨拶である。


 途中で、オレの中の「オレ」が何度も確認作業。

(今、何行目だ?)

(まだ三分の一だよな?)

(噛むな、噛むな、噛むな)


 内心で叫びつつ、どうにか最後まで走り切った。


 ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ


「……という、かくも伝統あるお屋敷にお招きいただけた今日の日を思うと、感謝に堪えません」


 深々と一礼。


――どうだ。


これ以上ないベストバウトだろ。


「ふむ」


侯爵閣下は、あっさり言った。


「思ったより簡単ではあったが」


……え?


「だが、要所は押さえている。なかなか良い挨拶だった」


(よっしゃ!)


そこから先は、侯爵閣下の独壇場だった。


立て板に水。しかも内容がヤバい。


ウチの先々代が集めた美術品。

オレですら見たことのない逸品。

避暑用別荘の執務室に、去年から掛けている絵。


全部、知ってる。


(この人……)


『実は、無茶苦茶、頭が良いぞ』


 しかも、それを「貴族の美意識」一点突破に全振りしてる。


『能力の無駄遣いにも程があるだろ!』


油断は、できなかった。 


「さて」


一通りの賛辞と自慢話が終わったところで、侯爵閣下は紅茶のカップを置き、こちらを見た。


「挨拶は簡単に済ませるとして――今日は、良き話が聞けると聞いたのだが?」


 来た。


 ここからが本番だ。


「はい。実は、少々おもしろいものを手に入れまして。こちらのテーブルに置かせていただいても?」


 軽く視線を送るだけで「許す」と伝えてくるあたり、さすがは大貴族の当主だ。


「開けさせていただく前に、お願いがございます」

「ほう?」

「こちらの侍《()女《()》は下がらせていただきたく。閣下の執《()事《()》殿は、そのままで結構です」


 一瞬、侯爵閣下の、脂ぎった顔が、ほんのわずかに歪んだ。


――気づいたな。


「女性を下がらせる」という意味。


 古今東西、この手の申し出で献上されるものは、大抵ロクでもない。


 中世ヨーロッパで宗教画が流行ったじゃん? そこには神話の世界の女神たちが描かれていた。


 神だの信仰だのは建前で、実際は「裸を合法的に眺めたい」欲望が九割なんだよね。異論は認めるけどさ。


 侯爵閣下は、すました顔で答えた。


「……構わぬ」


 よし、許可が出た。


 侍女たちが下がり、応接室に残ったのは、侯爵と数名の執事、それからオレ。


 よし。


 箱を開く。


 中には、丁寧に額装された絵が、十枚ほど。


「……これは」


 侯爵閣下が、思わず身を乗り出した。


「なんという精密さ! まるで、そのまま切り取ったかのようではないか!」


 ですよねー。


 侯爵が両手で大事そうに抱え込んでいるそれは、週刊誌のグラビアページを切り取り、それなりの額縁に入れただけのものだ。


「しかも……使っている絵の具が、まるでわからん……」


 いや、絵の具じゃないです。


 写真です。


 とは、もちろん言えない。


(目、完全にイッちゃってるな、この人)


 ただし、冷静に見れば、グラビア自体は大したことはない。


 水着が中心。露出も、あくまで「週刊誌レベル」。


 この世界は美女のレベルも、数も日本の比ではない。お貴族様が望めば「本物の美女」がいくらでも手に入る。


でも――


 こうやって「手元に、そのままの煽情的な姿」の絵で自分の手元に置いておくことなんてできないんだろ?


 ま、その気になれば、すぐに「本物」を呼んで、同じポーズはさせられるんだろうけど、それとこれとは別腹なんだよ!


 こう言う風に「煽情的な姿を、そのまま固定して、手元に置く」という行為は、この世界では不可能だ。


だからこそ――


「これは……これは良い」


 侯爵閣下の声が、完全に蕩けている。


 後ろから覗き込んでいる執事たちも、揃いも揃って顔が赤い。


(よし)


『古来より、エラそうな人間ほどスケベに弱い法則』


――大成功だ。


「ふむ。お若いのに、卿はなかなか物のわかる御仁であったか」


 満足げに頷きながら、侯爵閣下は続ける。


「さて……」


 どうやら、いけそうだ。


「お若い、そなたが誠意を見せている以上、年長者は相応に答えてやるのがソフィスティケートたるふるまいであろうな。話を聞こうではないか」


 侯爵は、少しだけ姿勢を正した。


「ありがたき」


 来た! 交渉フェーズ!


「できれば、閣下の領地で余った芋と麦をお売りいただければと、ただ、それのみ…… いえ、あと一つございます」


 あろうことか、侯爵閣下がくすりと笑った。


「わかっておるぞ。ふふふ。長年美術は愛好しておるが、その私でも見たことのないものを見せてくれた。これだけのものを用意したからには、余った食料を売ってほしい、というのは、まあ、本題ではなかろう?」


 どうやら、話が通るらしい。やりぃい、っていうか、もう一つもお願いしていいっぽい。


これは前座にして、最重要。我が領のピンチを救うには、ここの麦と芋が必要なんだよ。


 侯爵閣下の顔を見ながら、話を続けた。


「……そして、もう一つ。子どもたちの件でございます」


「ほう?」


「孤児、ならびに、仕事にあぶれている者がおりましたら、我が領に引き取りたく」


 侯爵は、ふむ、と唸った。


「妙な趣味を持っているのだな。深くは追求せぬが……」


 嫌な予感がした。


「跡取りだけは、作ることを勧めておくぞ」


 違う!! そっちじゃない!!


「い、いえ、めっそうもない。もちろん女の子も同じだけ望みますが、やはりメインは男の子ですので」


 侯爵閣下が訝しげな顔になった。ヤバい、ちゃんと説明しないと、孤児の女の子目当てだって思われちゃうじゃん。


 慌てて付け足した。


「年頃の男の子たちがそ《()の《()気《()》になれば、たいそう美味しゅうございますから」


……。


………。


…………あ。


侯爵閣下の目が、完全に“気の毒なものを見る目になっていた。


「その年で、そ《()ち《()ら《()》か……」


そっと、諭すような声。


「すでに妻と妃がいると聞いておる。大人として咎めはせぬが、趣味はほどほどにしておくのだぞ、カーマイン卿」


 違――――う!!!!!


 全力で否定したい。

 だが、ここで否定すれば、「善意の忠告」を踏みにじることになる。


……詰みである。


「ご忠言、ありがたく」


 オレは、そう答えるしかなかった。


「ふむ。とはいえ、そんなことで良いのであれば、息子には伝えておこう。委細は、そっちでやると良い。本日のそちの貢ぎ物は実に褒めてつかわそうぞ。大儀であった」


 つまりは、これで帰れということ。ともかく、狙いは達成できたということだ。侯爵閣下からも一筆いただいたし、これをつけておねだりすれば、余った芋も麦も根こそぎいただけるはず。


 輸送手段は、いつものようにブロンクス君に丸投げで良いはず。まあフォルテッシモ家とは、ライン川の支流でつながっているから、大部分で船輸送が使えるはずだ。何とかなるはずだ。


 これで片目が開いた感じだね。


 ホッとしたよ。


 そしてオレは、上機嫌の侯爵閣下の笑顔と《《喪った尊厳》》が土産になっちゃったけど、ともかく気を取り直してバネッサとクリスに抱きしめてもらうのを楽しみに帰宅したんだ。

 

「それにしても、あの誤解は無いよなぁ。確かに子ども達は要求したけどさ。違うんだぜ? オレは女の子が好きなの! それも、同い年の子くらいの子!」


 馬車の中で、一人、こぼしてみたんだよ。


 ……ん? 


 オレはショウ・ライアン=カーマイン 十二歳。


 妻は同級生。側妃は二つ上。ついでに、専属メイドも同い年……


 あれ? あれ? あれれ?


 ウチの妻達って、みんな、前世だとタイーホ案件な件w


 なんか、すみません。


日本では、出版系に対する猥褻物の規制は実に細かいのですが

規制の範囲内なら、ありふれた存在であるという点で、世界でも特異的みたいです。

アメリカは、成人対象であれば一切の規制がありませんが(一部、麻薬系と男女平等に関する表現規制があるらしいですが)、コンビニレベルで、青少年が手を出せる出版物は、無茶苦茶規制が厳しいです。コミケで取り引きされている「高校生でも堂々と買える本」のレベルが、入管で逮捕につながるレベルだそうです。

日本の週刊誌のグラビアページは、実は世界最強という説があります。


※文七元結……江戸自体に成立した古典落語。語るのに約1時間かかります。人情話の中に笑わせる要素を入れ込んであるため、大変難しいネタとされています。雷山亭遊海の弟子で、息子でもある法痴が得意ネタにしていますが、深く追求しないようにお願いします。




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