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スキル「ゴミ」いや、マジで (書籍化決定)  作者: 新川さとし
第7章 南部編

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第97話 虫も鳴かぬ夜

対サスティナブル警備詰め所 9号拠点


 輪番で立つ歩哨も、夏の暑さがしのげる分「不寝番」の方が楽だ。


 年配のベテラン兵は、コンビを組んだ若手を半ばからかうように言った。


「半月だ。こんな晩はデートにピッタリだろ、ガラン?」


 ガランと呼ばれた若者は、なかなかのイケメンだ。普段でも何かと「オンナの子と遊んだ話」をネタにされる。


「夏は虫が出るんで、あんまり」


 ぶっきらぼうな返事だが、これは若いガランが正しい。夜の歩哨は「耳」が命だ。ぺちゃくちゃとおしゃべりをしてはならない。


「なんだよ。ずいぶんと真面目だな」


 無愛想な返事に閉口したベテラン兵は取り繕うように言った。


「適当に喋ってねぇと、眠くなっちまうだろ。な? こんな静かな晩だ。少しくらい喋っても罰は当たらねぇさ」


 ガランは、見向きもしない。ますますベテランはムキになった。


「平地の方ではサスティナブルの連中が暴れているらしいが、ヤツらは海に行ったらしいぜ? だから、ようやくオレたちも交代できるつー話じゃん」


 隊長から「間もなく、交代が来るだろう」という話が出たのは夕食の時だ。


 一同は大喜び。その高揚をベテラン兵は引きずっているのだろう。


「長かったな、2ヶ月だぜ? いつもの倍だ。こんなに長く山ん中にいたのは、十年以上もやってるけど初めてだ」


 本来、サスティナブル帝国軍との国境にある「詰め所勤務」は1ヶ月交替が原則だ。


「メシだって、食い延ばしに、食い延ばして来たからな。あ~ 早くシャバに戻ってかあちゃんの作ったシチューが食いたいぜ」


 そこまで言って、ベテラン兵はムッとした。


 ガランがまるっきり無視しているのだ。暗闇の一点を、見定めるように凝視している。


「よせよせ。どうせ見えねぇし。敵だって、わざわざ山の中まで来やしねぇって。それよりも、村でおめぇがモテた話でも——」


 若い新兵が村娘とよろしくやった話は、ベテランにとって良いサカナだった。「自慢話を聞かせろ」と言うのも、一応は若い者を立てているつもりなのだ。


 この種の、勘違いしたオッサンの気配りで、世の若者がどれだけ苦労しているかは、世界がどこであれ同じなのである。


 しかし、ベテラン兵の「気遣い」は、またもや無視されてしまった。とうとうベテラン兵は切れた。 


 「おい! てめぇ、オレが下手に出てると思って!」

「シッ!」

「ん? なんだ?」

「……静かだ」

「夜の山ん中だ。静かに決まってるだろうが!」

「静かすぎる。フクロウも鳴かなきゃ、虫が一匹も鳴いてない。何かヘンだ」

「ん? そりゃ、おめぇ、そんなことだってあるかもしんねぇじゃん」

「点火しましょう」

「ん? おぃおぃ。かがり火用の薪だって、揃えるのは大変なんだぞ」

「しかし」

「なんか、見たって言うのか?」

「いえ。何も」

「あのな、補給も限られてるんだ、点火するんだってまずこいつがないと——」


 足元のツボをパッと持ち上げた。中には小さなローソクが灯っている。


 ガランはあわてて「そんな!」とツボを奪い取ろうとした。下に置こうとしたのだ。夜は、小さな火でも、遠くから目印になってしまう。


「ばぁか。だから、誰もいやしな——ひっ……」

「……っふ」


 二人の首に二本ずつ、矢が突き立っていた。


 即死ではないが、ノドを貫かれて声が出ない。


『敵襲!』


 声にならぬ声で叫ぼうとし、叫べぬまでも、手元の槍を取り上げようとした。


 ガランの背中に突き立ったのは短剣である。


 ドサッと倒れる身体を受け止めた影は、静かにその場に横たえると、見届けるまでもなく、詰め所へ向かって走っていった。


 その後を追いかける数十人。


 一切の声も出さぬまま、詰め所の兵に即席で作ったハシゴをかけてスルスルとよじ登っていく。


 それは、9号拠点が備えていた全ての歩哨場において、繰り返された作業であった。


 詰め所の壁の中は、随所に灯りがついていた。


 よって、侵入者たちは5分と経たぬうちに発見されたのだ。


「てきしゅ、ぐぎゃぁあ」


 敵襲と皆まで言わせずに切り捨てたのはソラである。


 最初に切り捨てられた兵の声が響くより早く、周囲の兵がざわついた。


「おい、今の声……?」

「見張りにガランもいたよな?」


 詰め所内のあちこちで、兵が武器を取って立ち上がる。その動きは、揃っているようでまるで揃っていない。


「と、とにかく外の歩哨と連絡を取るんだ」

「無理だ、合図塔の灯りが落ちてる!」

「は? まさか敵が、うわっ」


 言い終える前に、また一人の喉が裂けた。


「ひっ……!敵、侵入——」


 叫んだ兵の背中に、影が落ちる。

 その影が刀を抜き取る音の方が、叫びよりも先に響いた。


「こ、こっちだ! こっちに回れ!」

「馬鹿! 勝手に散るな、固まれ! 固――」


 号令を出そうとした隊長格の男が、矢で胸を撃ち抜かれ、灯台のように崩れ落ちた。ここでも「命令を出す人間を優先して狙え」が徹底されている。


 おかげで、辛うじて武器を手にできた兵も混乱のまま。


 隊列も何もない。


「なんでだ……見張りが……全部……?」

「こんなの、夜襲の速度じゃ……!」

「や、やめろ! こっちに来るなぁあ!」


 兵たちが次々に倒れていく音が、狭い詰め所いっぱいに散らばっていった。


 そして、その頃には既に、詰め所にいた100人以上もの兵の大半は声を上げる間もなく殺されていたのである。


・・・・・・・・・


「よーし。どうやら、完璧だったな」

「はい。我々の所の歩哨が、一番、敏感だったようですね」

「そうだな。虫が鳴いてないことでバレかけるだなんて。笑いごとじゃねぇ」


 さすがにあの時は肝が冷えた。


「ま、おかげで火を取り出してくれましたからね」


 副官の言葉に肩をヒョイッとすくめたソラは言った。


「ああ、あの目印がなきゃ、声を出されてた可能性はあったな」

「いち早く、隊長が走ったのもすごかったですね」

「まあ、矢を放った以上、自動的に戦闘開始だからな」


 たまたま、敵が「夜の歩哨中にローソクを取り出す」という間抜けなことをしてくれたおかげで、矢を使えたのは幸運。しかしそれを活かしたのも大事なコトだったのだ。


「さて、朝まで兵を休ませよ。念のため歩哨は立てるが」

「はい。くれぐれも火は持たせませんので」


 くくくっと副官が小さく笑う。


「ま、そうだな。跳ね橋も確保できたみてぇだし。朝イチで、動き出す。食事は橋を渡ってからだ」

「はっ! 朝食は、我が祖国で摂る!」

「あぁ。そうありたいもんだぜ」


 7月15日。


 シーランダー王国が「西辺境地」と呼ぶ領域を存分にかく乱したソラたちは、無事に帰還したのであった。



とりあえず、ソラが帰還。この状態でコフ盆地の中は、まだモメています。

ところで覚えていらっしゃいます? ソラたちが、最初の方で捕虜を解放した話。

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