表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキル「ゴミ」いや、マジで (書籍化決定)  作者: 新川さとし
第7章 南部編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

430/473

第88話 点描4(籠城)

 同刻 コフ西部  


 二十三区で言えば新宿あたりの位置だが、風景はのんびりした農村地帯だ。その真ん中に、ぽつんと高さ五十メートルほどの山がある。


 自然の山ではない。

 ヨーゼフ家の祖が南西部へ大規模な“切り通し”を造った際、その残土を積み上げて作られた人工の山だ。


 サスティナブル王国のリゾート地と同名の「ハコネ山」と呼ばれているのは……まあ、先祖の趣味らしい。


 だが、今の箱根山に詰める人々は、名前の由来に思いを馳せている余裕など一切なかった。


 見渡せば、敵、敵、敵……


 事前の情報通り「ボルタ将軍は騎馬主体」である。


「思い出すものだのぉ」

「ハッ!」


 最近、意図的とも思えるほどに口調をノンビリさせてきたパール隊長に、反射的に返事をしたギーガスである。


 しかし、いったい何を思い出すというのか?


「もうずいぶん、昔のように感じるものだ。ほら、あれだよ。あの時は無理だと思ったがな」


 ピーンと来た。


 まだ王国だったとき、ギーガスは、ここにいるパールと共に北方騎馬民族と戦った。あの時の総指揮はショウ閣下であった。


 よーく憶えている。兵達も、恐らく、あの時のことを思いだしているのだろう。壁を崩しに来る大軍に、少しも慌てていなかった。


「あの時は、アテナイエー様に、恐れ多くも『(ショウ様を)つれて逃げる』役を仰せつかりましたね。あの時は勝ち目があるなんて少しも思いませんでした」


 しみじみとしているが、現在、置かれている状況は、あの時よりもさらに悪いのだ。


 守るのはターゲット歩兵一千。率いるはパール伯爵。

 攻めるはボルタ将軍率いる騎馬四万。

 

「不思議なものだな。私は、少しも負ける気がせんよ」

「これはしたり。私もでございます」

 

 箱根山は三日で要塞化したとはいえ、堀を掘る暇はなかった。

 

 人工の山に造ったにわか仕立ての城を「四万」で取り囲まれるという、悪夢のような状況である。


 視界の三百六十度すべてが敵で埋め尽くされ、その包囲の厚さは百五十メートルに及ぶ。


 いくら騎馬が城攻めを苦手とするとはいえ、これでは分が悪すぎると、普通なら考えるものだろう。


「ふむ。だんだん面白くなってきたのぉ」


 パールが笑うと、ギーガスがさすがに眉をひそめた。


「本気で面白いと?」

「当たり前だのぉ。四万相手に千で勝つ。こんなに楽しい『土俵』は滅多にない。陛下と共に戦ったあの日のように、今度も勝ちしか見えぬよ」


 ギーガスは呆れもしたが、反面、あの時を思い出すと、確かに自分も勝ち姿しか想像が出来ないことに気付いた。


 城壁越しに、矢を打ち、ルアー攻撃を仕掛ける兵を見ながら二人は会話を続けた。


「ギーガス? ショウ陛下は、我らに『これで頼む』と仰った。つまり、この人数できちんと勝てると考えていらっしゃるのだよ」

「そうですね。ショウ閣下は、これでやれると思ったのです。これで、勝てるのか、などと疑問に思うのは……」

「そうだのぉ。不敬というものだぞ」


 城壁を挟んでの戦闘は始まっている。定石通り、敵は城壁をはがしに来るが、もちろんビクともしない。

 

 とりあえず、勝利は数日、この城を保たせることである。敵を殲滅することでも、領地を奪うことでもない。


 ただ、この地を退かぬことが勝利条件なのだ。


 そして、まず、今日である。


 騎馬が城攻めでは、夜襲など考えられない。


 となると……

 

「ギーガス、まだまだ余裕だな? あと一刻ほどであろう」

「承知しております。まあ、普通は無理ですと言うところです」


 大きな身体で、肩をすくめてみせる姿はユーモラスですらある。


「普通? ワシも、ヌシもそんなガラではあるまい?」

「ふう。わかってはおりますが」


 巨躯をなぜか縮めるようにするギーガスである。


「命令」

「ハッ!」

「城壁を維持。兵にあと一刻、耐えさせよ!」

「城壁を死守させます。何日でも」


 ギーガスはニヤリと復命すると、巨体を揺らして部下に向き直った。


「オラァァ! ファ○ン野郎どもにファッ○食らうかァ! #$%&#$%ッ!? 耳かっぽじって聞けやコラァ!! 一歩も引くなぁぁ!!」

「「「「「「おぉおおおお!!」」」」」」


 パールは、兵達の気迫に満ちた叫びを聞いて、満足げに頷いた。


「うむ、お主もよく通る声だのぉ。私も見習うべきか?」

「ご冗談を。隊長が、あれでは、示しがつきません」


 そんな漫才を山頂で繰り広げつつも、戦場は容赦なく動く。


 兵たちは余裕の表情を浮かべつつも、必死になって城壁上から次々と飛び道具を放っている。


 以前、ショウが北方騎馬民族撃退に用いた「ルアー作戦」だ。


 短縮した二メートル竿に、本物のリールを装備。百グラムの鉛は初速百四十キロ近い速度に達し、十馬身以内の敵には高確率で命中する。


 鎧がなければ即死、あっても骨が折れる。


 しかも、だ。


 ぶつけた重りは糸で回収され、何度でも再利用できる。


 弓の矢切れを待つ戦術が通じないのである。



・・・・・・・・・


「柵を壊せ! 馬で引けぇ!」

「ダメです! 壊れません!」


 兵が悲鳴を上げた。


 通常の簡易柵なら、鈎縄をかけて数頭の馬で引けば壊れる。


 だが、箱根山の城壁は——びくともしなかった。


 彼らは知らぬが、これは工事現場で使う足場だ。鉄製の足場は、お互いに金属クランプで締めている。近代の金属加工技術で全周が一体化された「壁」なのだ。


 馬力で抜けるわけがない。


「な、なんだこの壁は……」

「引いてもビクともしません!」

「これじゃ、逆に壁に繋がれてるみてぇなもんだ!」

「ち、近づくな! また重りが飛んでくるぞ!!」

「うわぁああ!」

「ぎゃぁああ~」

 

 馬が停まれば、すぐに狙われる。


 次々と落馬していった。


 兵の悲鳴が次々と伝播する。


 シーランダー軍には弓騎兵がいない。上から一方的に狙撃され、反撃手段がなかった。


 それに対して、城壁の上から飛んでくる礫は脅威度が高すぎた。


「ウアァッ! 腕がっ!」

「鉄の塊だぞ!? なんでそんなもん投げてくるんだよ!」


 地面に転がる重り。

 

 わずかな隙をついて、また城壁の上から糸がスルスルと引かれ、速やかに回収される。


「……無限だと? 無限に撃てるのか……?」


 ボルタ将軍は、遠くから見るだけでも分かる“異様な光景”に、思わず奥歯を噛みしめた。


 まるで、兵士たちが“高所の釣り人”に狙われているようだった。


「このままでは……士気が持たぬ」


 副官が蒼白になって言う。


「矢を射られているわけでもないのに、近づくたび骨を折られる……」


 ボルタは苦悩を押し殺し、短く命じた。


「……歩兵を出せ。馬では近づけん」


 副官ははっと顔を上げた。


「はっ。歩兵隊、前へ!」


 だが、ボルタ自身は知っていた。

 歩兵を出したところで、この異常な飛び道具には分が悪い。


 すでに太陽は西に傾き始めていた。


 ——時間切れが近い。


少数の敵が籠もる城は、無理な力攻めよりも、搦め手……すなわち補給を断つなり、水を断つなりするのですが「数日保てば良い」という籠城は、攻め手からするとすごく厄介です。なお、ボルタ軍が投入している「騎馬」は4千で、残りは本部や予備隊の歩兵です(騎馬の千は山を越えた西辺境地に派遣中)

なお、新宿区に「箱根山」は実在します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ