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スキル「ゴミ」いや、マジで (書籍化決定)  作者: 新川さとし
第7章 南部編

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第50話 スキルレベル・5

『この通路を抜けると右だよね』


 あ、さて、あ、さてっとステップを踏みながら宰相のスタッフルームへやってきた。


 やっと行き方を覚えたよ。


 まだ「伯爵家の息子」の時、王宮を何回訪れても、案内係の後に付いていかないと迷子になりそうだった。


 どこの部屋に行くにしても、どうやって行けばいいのか分からないんだ。何回行ってもダメだった。


 え? 方向音痴?

 

 違うんだよ。


 理由がわかってみれば、迷うのも当然だったんだ。


『可動式の通路にして、毎回、迷路みたいにしていたとはなぁ』


 壁の途中に通路の扉が無数にあって、閉める普通の壁と同じ模様なのがミソ。


 そりゃあ、良く見れば分かるよ。だけど王宮内をキョロキョロするわけにもいかないじゃん。しかも、毎回違う通路を使うって言われていて、案内の人も遠回りをするのが常だから、普通に覚えられるわけがなかったんだよ。


 まあ、エルメス様のように外から回ってくる(外壁をよじ登る)人には意味がないけど、普通の人だと案内が付かない限り無理。


 扉の仕組みを教わった後も、覚えるのが大変だったんだ。


 まあ、どこに行くにも専属のメイドさん達が必ず付いてくれるから迷うことはないけど、自分の「城」だもん自分で覚えるのが大事なんだよ。


 あ、ちなみに皇帝(オレ)であっても、皇帝や宰相の執務室に最短経路で行くのは不可なんだよ。この辺りは秘密漏洩を防ぐためのセオリーらしい。(他にもいくつか「最短不可」の場所がある)


 入り口の皇宮衛士は、オレを見た瞬間、サッと音も無い動きで背筋をピン。カカトを付けて最敬礼。同時に中に「陛下がいらっしゃいました」と声をかけてドアを開けてくれるところまでやってくれた。


 こういう時に気さくさを演じて衛士にオレから声をかけるのは御法度。ただし「なんらかの異常事態がある時は、いつもと同じに見える挨拶をする」ことになっている。


 これは、たとえば人質を取られているなど、なんらかの事情で救出せよと伝えられない場合の暗号として機能しているからなんだ。


 声をかけないのが通常で、何か声をかけてきたら異常事態って判断するわけだ。


 ちなみに、ゼンガクレンが角棒を持って暴れていた時代、警察署に行くとお巡りさんが入り口で棒を持って立っていた。(立っているだけなら今もいます)


 あの時代にお約束があったのは危機管理で有名なS氏の著書に書いてある。時、一定以上の階級の人が通る時、警備している人は「異常なし」的な報告をする約束になっていたらしい。


 異常なしってわざわざ言うとウザイと思うかも知れないけど「異常なしと言う」ってことが大事で、万が一、何も言わなかったら「言えない事情がある」って判断するんだって。


 その場合はさりげなく通過して、事態の把握に努めるのが上司としての責任だって話だった。


 ね? 危機管理として、何重にも侵入者対策が講じられて機能しているのは、宰相であるアレクが優秀って事なんだ。


 といっても、以前のクーデターが起きてしまったのは、本来、守ってもらう側の王子が主犯だったため。王子の立場だと「お約束ごと」を全部知っているだけに、裏をかくことが可能だった。そのせいでゲールの乱の初手が成功しちゃったんだけどね。


『ともかく、今は、アレクの悩みを解決するのが先だな』


 対シーランダー作戦に行く前に、やらなきゃいけない事態になっている。


「おげんき~?」


 ワザと明るい声を上げてみせるオレ。


 宰相であるアレックスととスタッフ達は、どよ~んとよどんだ空気が詰まっている。


 彼らは一瞬で正気に戻ってオレを認識した。


「閣下!」


 慌てて立ち上がろうとするスタッフをフォルのお手々を使って「座って」のジェスチャー。


 まあ、このやりとりは恒例なので、スタッフは素直に元のポジションだ。


「悩んでる顔だね~」

「ご存じの通り、この問題は厄介でして」


 アレクの表情が、ここまで冴えないとはと、ちょっと驚いてしまった。


「アレクに解決できない問題なんてないじゃん」

「対応策が見えてきません。もちろん、居住地域や生産地を分散させ、川の水系を分けて流せば軽減はされるのですが、根本的な解決には、とてもとても追いつきません」


 アレックス達が特別チームを作って対応を考えているのが「水」の問題だった。パッと譲られたアレクの横の席に座ると、早速スタッフが基本から説明してくれる。同時にパッと資料も渡された。


 地図に数字が大量に書きこまれ、渡されたグラフは地域別の人口の増加が主に載っている。といっても国勢調査までは手が回らないので、概数なのは仕方ない。


「王都時代から、人口は倍ほどに膨れ上がっているのは確実です」


 活発な経済の動きと技術革新のおかげで、皇都の人口が密集しただけでなく、居住地域が一気に広がってしまった。


 深刻化したのは「ゴミ問題」だった。


 なんだかんだで、この世界はリサイクルがメインだし、生ゴミの堆肥化は徹底されている。


『前世の日本だと一人あたり毎日1キロくらいはゴミを出していたからなぁ』


 リサイクルが徹底されていた江戸時代の下町だと、その半分以下だったらしい。しかも、そのゴミの大部分はトイレ関連になる。


 そんなことを考えていたら、違うスタッフがオズオズと説明してくれた。


「現在の皇都の都市圏に30万人ほど。周辺部を合わせると限り無く100万人に近づいております。その結果、燃やせるゴミ類はまだしも、中小の川の汚染が悪化の一途を辿っています」

「しかも、その水が浄化されないうちに下流で生活用水として使われるわけですから、疫病の発生も時間の問題だと思われます」

「水か」

「はい。飲用どころか生活用水にも適さない状態になりつつあります」

「生活用水とは言っても大都市の下流にある川の水を使うなんてまずいけど仕方ないんだろ? 飲み水が別にあるだけマシかも」

「はい。今のところ飲み水は井戸で細々と供給できていますが、そこに汚染が広がるのも時間の問題です」


 都市化されたヨーロッパで、コレラが深刻な病気になったのも、汚水を流している川の水を生活用水にしていたからだ。


 古代のローマが下水処理を徹底的に設計したのは、時代を超えた叡智としか言いようがないと言われてる。


『異世界人が古代ローマにいたとか?』


 オレがそんな風に考えるたのは、この王都がまさに、同じシカケだったからだ。



『まるで古代のローマみたいに、下水道が完備されていて、はるか下流に流す都市設計ができていたんだもんなぁ』


 サスティナブル王国を建国したという三賢が日本からの転生者だというのを、オレはもう疑ってないけど、どうやらその中に都市に詳しい人がいたんだと思う。


 おかげでオレンジ領も含めて、主な高位貴族の領都も下水道を設置していた。しかも簡単な沈殿式とか、自然石を使った濾過システムを備えた汚水処理場まであるんだ。


 こればかりは先人に感謝しかないんだけど、やはり近代工業がないと高度な処理はできないので、一定量を超えるとどうにもならなくなる。


 テーブルに広げた地図に書きこまれた数字は、地区ごとの人口や適正人口の目安との比較が載っている。


 乖離が激しいものは赤字に記入しているが、どこもかしこも赤字だらけ。


 「最終的には大幅な移住をさせるしかないのでしょう。その前に流入してくる人口を食い止められないかとの議論もしているのですが、下手をすると定住を認められなかった人が近郊でスラム化する恐れもありまして」

 

 と最後にアレク自身が問題をとりまとめてくれた。


 それにしても、とオレは思ってしまう。


『正直、この文明レベルで生活排水と人口の問題をいち早く深刻な政治テーマだって捉えるセンスは非凡だよね。最初は凡人宰相だとか口さがない連中がいたけど』


 さすがメリッサの兄だけに見た目も良い。しかし、 王国時代から見ても飛び抜けた最年少宰相なんだよ? それなのに、宰相としての仕事を着々と進めているいて、この着眼点の鋭さは、まさに天才の仕事としかいいようがない。


 当たり前のことを任せたら当たり前に処理し、飛び抜けた難問も無難に収めてしまうという非凡な能力を持つ「凡人宰相」だ。


 そのアレク……シュメルガー家のとびっきり優秀な長男であるアレックスが持ち出した悩みは、現在の技術水準では解決不能な問題だった。

  

 オレも報告を受けてはいたから、数日前までは悩んでいた。


 しかし、ギリで解決の見通しが立ったから、オレは実に明るい表情をしていたと思う。


「ふふふ。さて、みなさん」


 オレの含み笑いに、何事かを悟ったんだろう。


 全員が一斉に、こちらに視線を向けた。


 わっ、こわっ…… じゃなかった。


「これから話すことは、帝国最高機密ですので、もしもどこかで漏れたら全員が一族抹殺になります(はーと)


 自分でも、怖いことを言っているなって思ったから、語尾で遊んでみたけど、一人も笑ってくれなかった。

 

 ま、そりゃそーか。


「閣下。ということは、例の件をこの者達に公表するおつもりでしょうか?」

 

 念を押してきたアレクは、さすがにオレのスキルのことに勘付いている一人だから、そこは不問で、スタッフに向かって言った。


「実はね、オレには不思議な力があるんだよ」


 えええ! 誰も驚いてくれないんだけど!


「信じない?」

「いえ。そのような者など一人もおりません」

「だって、誰も驚いてくれないし」


 アレクも、スタッフもなぜかぬるーく苦笑いした。


 え? 何が悪いの?


 アレクがなだめるような口調で囁いてきた。


「もちろん詳細には存じまぜんが、閣下の不思議な力について、政策に関わる者として知らぬ者などおりませんので。スタッフ全員が信じております」

「あ、ひょっとして、知らんぷりしてくれてただけ?」


 わぉ!


 優しいスタッフ達が、視線を泳がせてくれているのにいたたまれなくなった。


 ショウ・ライアン・エターナルは、みんなに愛されているこーてー陛下です。



・・・・・参考・・・・・ 



【ショウ・ライアン=エターナル】

オレンジ・ストラトス伯爵 長男

サスティナブル帝国 初代皇帝

ゴールズ首領

「大陸統一を目指す英雄」


レベル  35(UP!)

SP  2256(UP!) 

MP  5172(UP!)

スキル ゴミ レベル5(UP!) 


【称号】

無自覚たらしの勇者・バットマン危機一髪

英雄色を好めよ(「美女が集まる者」「色を好む英雄」から統合・昇格)

若き英雄(「若き軍略家」から昇格)

煽りの達人・奇跡の人

征服者・国を継ぐもの


★☆☆☆☆ ゴミをMPと引き換えにランダムで呼び寄せられる

★★☆☆☆ 見たことのあるゴミを指定して呼び寄せられる

★★★☆☆ 理屈として存在しうるゴミを指定して呼び寄せられる

★★★★☆ ゴミの素材の中から一部分だけを分離して取り寄せられる

★★★★★ あらゆるゴミを原子・分子へと分解して処理できる(←今これ)


特記事項

スキル・コンプリートの特典として★★★★★のスキルは3人までの貸し出しと継承を可能にしました。





今回は、最初っから予定されていた

★★★★★のお話です

ここに「継承」を絡めてあるのも、かなり以前からの設定です。

久しぶりすぎて、アレックスをアレクと書くのかどうか、何度も迷うほどでしたが、この話は、まだ続きます。っていうか、ショウ君は、自分の能力を隠す気も、あまりなさそうだったのに、この驚きぶり。きっと誰も信じないだろうって思っていたみたいです。


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